櫂 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 55
  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101293080

作品紹介・あらすじ

高知の下町に生れ育った喜和は、十五の歳に渡世人・岩伍に嫁いだ。芸妓紹介業を営み始めた夫は、商売にうちこみ家を顧みない。胸を病む長男と放縦な次男を抱え必死に生きる喜和。やがて岩伍が娘義太夫に生ませた綾子に深い愛をそそぐが…。大正から昭和戦前の高知を舞台に、強さと弱さを併せもつ女の哀切な半生を描き切る。作者自らの生家をモデルに、太宰治賞を受賞した名作。

感想・レビュー・書評

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  • 宮尾登美子さんの自伝的小説。

    高知県で芸妓紹介業を営む岩伍。その夫の仕事受け入れられない妻喜和。
    仕事に打ち込み家庭を顧みない夫、肺病を患う長男と放縦な次男、夫の気ままで雇い入れる人間たちの中で喜和は懸命に生きる。
    そんな中、岩伍が娘義太夫に産ませた赤ん坊の綾子を引き取ることになる。
    いつの間にか綾子に深い愛情を注いで育てるようになり、綾子こそが自分を支える全てとも感じるようになる喜和。

    大正の暮らしと高知のひとびとの生き様が宮尾登美子さんらしい美しい言葉で綴られる。
    言葉ひとつひとつが現在では用いられないものも多く、こういった表現が段々と薄れていっていることを感じさせ、時代の流れをさみしくも思う。
    宮尾登美子さんや有吉佐和子さんの小説を読むときは、辞書は必須だ。
    文章が美しいだけでなく、物語の展開も素晴らしい。
    中だるむこともなく、寧ろ加速するかのように読者を引き込んで離さない。

    時代が時代なので、女性はとにかく忍耐。
    小さい頃は父親に、結婚したら夫に、老いては子に、常に誰かの庇護のもとにあるが逆らうことも出来ない。
    本書での岩伍も現代ならとんだDV夫になるところだが、この時代の妻は実に健気だ。耐える、堪える。
    夫が浮気して、子供が出来たから妻であるお前が育てろと平気で言えてしまう。
    土下座して頼んでくるならまだしも、嫌だと言う喜和を怒鳴り殴り倒す岩伍。
    こんな突っ込みどころ満載な、無理を通して道理を力技で押し込めるようなことがまかり通るという。

    喜和は、なさぬ仲である綾子を大切に育てる。いつの間にか心の支えとなるほどに。
    そして、喜和の人生の波乱はまだまだつづく。
    この物語が、実話があってということにも驚かされる。
    こういう涙を堪え、ひたすら耐え忍んだ女性がたくさんいたのだろう。
    わたしの母親も父親には忍従だったように記憶しているので、少し以前まで女性はそういうものだったのだろう。
    日本は変わった。
    ナントカハラスメントが溢れて、権利権利、平等平等の世の中になった。余りにも女性の権利意識が強すぎて、少々戸惑ってしまうほど。

    こちらの作品は、喜和目線の「櫂」にはじまり、宮尾登美子さん自身でもある綾子目線の「春燈」「朱夏」とつづく。
    まさに劇的に物語が展開するため、本屋さんに駆け込むこと必至。そして売っていなくて泣く。
    「春燈」を入手したら、直ちに読む。

  • 太宰治賞、解説:加賀乙彦

  • 境遇の酷さが読んでて結構辛い

  • 20181001~1004.『春燈』の主人公綾子の育ての親喜和と綾子の父親岩伍との愛憎を描いている。作者の自伝的小説の第一作。土佐の四季と世相の移ろいを流れるような筆致で描いているけど行間から女の情念が湧いて出ているので、ついつい引き込まれてしまう。それは私が妻であり母であるから余計に喜和の心情が推し量れるのかもしれない、と思った。この本を学生の時に読んでいたらまた違った感想を持っただろう。

  • 読み応え充分で久々に真剣に最後まで読みきる。
    大正から昭和の自伝作品で、当時の女性の生き方がリアルに描かれている。従順と忍耐で家庭を守り、でも夫の仕事に軽べつしながらも喜和のできる範囲で支えていたつもりが夫としてはもっと仕事を理解して欲しかったのか徐々に心が離れて支えてくれる女性の方にいく。
    何十年と連れ添って他所で女を作ってもガマン、たくさんの人を連れて居座ってもガマンしていた喜和と最後は別れてしまうけど、夫婦の会話が必要でお互いの心を知ることができていたら少しは違っていたのだろうか❓

    後味は悪いけどもっと読んでみたい作品。

  • しんどい…ここのまま途中で寝たら救いがないと思って最後まで読んだけど、最後の最後に救いがなかった…。ずっとものわかりよく反論もしない喜和が、でも溜め込んだ気持ちを吐き出そうとするとついものの言い方がきつくなって不必要に家族を苛立たせてしまうの、なんか分かるなあぁ。なぜ気持ちを汲んでくれないのだろうと悲しむ喜和さんの気持ちが切ない。
    終盤、綾子が刀持ち出す辺りでスッとしたけど。読者的にも、綾子の存在が救いでした。

    この時代の女の生きざまなんてこんなものだと言われればそうなのかも知れないけど…岩伍ひどすぎる。
    祖母のおばに当たる方が喜和という名前で、日清戦争で夫をなくしてから弟の家に身を寄せて二階で隠居生活をしていたとか、祖母のおばであり養母でもある人は 酒屋に嫁に行ったけど長男生んだら追い出されて実家に出戻っただとか、小さい頃聞いたそんな昔話がリアルに蘇ってきました。

  • 高知の風物の細かい描写がとっても素敵。女性の生き方としては「今どき、こういうのどうよ?」って思うけど、主人公の揺れる気持ちには、微妙に共感する。

  • 長文をうまく扱い大傑作に!

  • 喜和はなぜああも頑なに岩伍の商売を受け入れないのか、何より岩伍の何が良くて一緒になったのか、そこが分かるようでいて自分にはない部分なのでどうにも受け入れ難かった。
    岩伍に対してのことだけでなく、肺病の長男への過剰な甘やかし、次男への伴侶と仕事への口出し、なぜこうも喜和には弁えがないのかと、終始イライラさせられたのが自分でも不思議だ。もっと若いうちに読めばもしかしたら喜和に同情できたかもしれないが、歳を重ねると気の毒な人に情を掛けるのができなくなってくる。
    しかし、この時代。女は教養など身につけず早々と嫁に行き子を為すのみ。どんなことがあってもただひたすら耐えるのが美徳とさえ思われたこの時代、喜和のように生きなければない女は多かったであろう、もっと悲惨な女も作中にはいる。
    血が繋がらなくとも心は繋がる。綾子との関係はこの物語全体で唯一ほっできる部分だった。

  • 喜和にいらいらしっぱなしで、読み切る数百ページ。

    文章から見える日本の景色の美しさには、最初の見開きから夢中。

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著者プロフィール

宮尾 登美子(みやお とみこ)
1926年4月13日 - 2014年12月30日
高知県生まれ。『櫂』で太宰治賞、『寒椿』で女流文学賞、『一絃の琴』で直木賞、『序の舞』で吉川英治文学賞受賞。おもな著作に『陽暉楼』『錦』など。2014年没。
『一絃の琴』『鬼龍院花子の生涯』『天涯の花』など映画・ドラマ化された作品は多い。2005年NHK大河ドラマ『義経』は『宮尾本 平家物語』と『義経』が原作だった。2008年には『天璋院篤姫』が大河ドラマ化されている。

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