朱夏 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (629ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101293097

作品紹介・あらすじ

果してまだ、日本はあるのか…?同郷の土佐から入植した開拓団の子弟教育にあたる夫、生後まもない娘と共に、満州へ渡った綾子は十八歳。わずか数カ月後、この地で敗戦を迎えることになろうとは。昨日までの人間観・価値観はもろくも崩れ去り、一瞬にして暗転する運命、しのび寄る厳寒。苛酷無比、めくるめく五百三十日を熟成の筆で再現、『櫂』『春燈』と連山を組む宮尾文学の最高峰。

感想・レビュー・書評

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  • 『櫂』『春燈』に続く綾子ものである

    17歳で結婚、開拓団と共に教育者の夫と赴任した満州
    渡ってすぐに敗戦を迎えたヒロインは
    「無条件降伏」の日本はとうに無くなっていると思わされ
    ユダヤ人のように流浪の民になって
    帰るところも無い、満州にも留まれない

    どこにも行き場がない上に
    着の身着のまま
    赤ん坊をかかえ
    食料も水も足りなく
    寒さ厳しい、荒涼たる土地
    中国の国民軍と八路軍の争いに巻き込まれ
    命の保証はない過酷な難民生活
    日本人も難民を経験したのだ

    すさまじきこと半端ではないが
    苦労の末、幸運にも生き残って帰国

    作者の経験を昇華させた
    その1年5ヶ月を物語る

    小説は作者の精神の履歴をも表す
    勝気でわがまま、世間知らずのお嬢さんが
    自立してゆく過程が作者の小説神髄だと思う

    読み手としてはそのわがままぶりが
    『櫂』『春燈』までは反発を覚え、わたしはいやだった

    あいかわらず
    この作もそこが嫌味に思うのだが
    (著者はわざとそうしてるのかも?)

    『朱夏』に至って
    戦争時代状況のむごさによって矯められていく描写
    その筆力に圧倒された

    ひるがえってわたしは
    ドキュメンタリーで知る満州開拓団の苦労、悲劇よりも
    強く強く印象付けられる

    今も世界のそちこちでこの苦しみは絶えまなくある

  •  なんというか‥ずしーんと来る小説だ。事実に基づいた私小説なので、こんな地獄のような生活が実際にあったのかと、衝撃から平常心に戻すのにしばらく時間がかかりそうだ。私ももう結構な年齢の上に本好きなので、戦争に関する大抵の知識はあるはずなのだが、満州に渡った人の経験を綴ったものを読んだことがなく、ここまで過酷な日々を送られていたのかと、今更ながら戦争の副産物の恐ろしさを感じた。つらい体験を思い起こしてペンを取るのは、さぞや痛みを伴ったでしょうに、よくぞ書いてくださったと作家さんに感謝し、リスペクトしたのは初めてだ。引いては宮尾作品に導いてくれた林真理子先生にも感謝する。
     喜び勇んでたどり着いた夢の地、満州は土でできた暗く不潔な家で、黄砂や寒さ、飢えとまともに向き合わなければいけない、お嬢様育ちの綾子には耐え難い環境だった。それでも敗戦が知らされるまではまだ人間らしい生活ができた。日本が負けたと同時に満人が立ち上がり、日本人から受けた屈辱を一気に晴らそうと暴挙と化した。広い大地の一角で、日本人同士狭い部屋で片寄せあって外界からの危険に震える日々。満人暴君、野犬、ソ連軍。連れ去られたり、暴行を受けて死んだ人も数知れないでしょう。片手に剃刀を持ち、辱めを受けるくらいなら自決の覚悟。水なし、食料なし、おむつも小水の方だとそのまま乾かして使う。髪を梳くとシラミがパラパラと‥。
     飲馬河から営城子へ、死の危険が去ると、今度は飢えが重くのしかかってくる。そして狭い部屋で同室しなければならない他人との人間関係。気の強い綾子にとっては、文句を口に出さないことはさぞかし苦しいことだったでしょう。衝撃的だったのは、自分達が生き延びる手段として子供を売ってしまう人が少なからずいたこと。でもそれを責められないと思う。誰だってその過酷な環境に立ってみれば、子供をお金に変える誘惑に苛まれたかもしれない。現に綾子自身も、売りはしないが子供を持っていることで保険的な安心感を感じている。
     日本へ引き上げが決まってからも悲喜こもごも。家族によっては残留を余儀なくされている人たちもいるし、病人や老人を生き埋めにして殺してから帰る人たちもいたりと、最後まで残酷がつきまとう。
     よくぞ生きて帰って、このつらい経験を素晴らしい表現力で書き残してくださったとまた改めて感謝する。
     

  • 20190610?-0623『櫂』『春燈』に続く著者の自伝的小説。生後間もない娘とともに夫の赴任先である満州へ渡った綾子は18歳。わずか数か月後に敗戦を迎えるとは思ってもみなかっただろう。難民同様になって故郷に引き揚げるまでのわずか1年半を圧倒的筆致で描いている。しかし、どうにもこの主人公綾子を好きになれない。我儘すぎるし傲慢だしwとはいえこの先綾子がどうなっていくのかは気になるので、次は『仁淀川』ですねー。
    敗戦直前に満州に渡るなんて・・、という感想は、私たちは後から事実を知っているからだ。当時の国民はろくな情報も与えられなかったのだろうな。 

  • 生きる動機は皆違う。
    自分の産んだ子がかけがえのない宝だと思う人もいれば、それさえ手放しても今の飢えから逃げたいと思う人がいたとしても、非難することはできない。
    そういう時代があったんだと思った。

  • 綾子が嫁いだ後、戦争が終わろうとしている最中で満州へ向かうことに。
    綾子が貧困や飢えを経験しながら、徐々に荒んでいく心の様子、どん底の生活の中で見つけた自分の喜びを見つける。
    徐々に大人となっていく綾子の姿がうっすらと写し出されている。

  • どの小説よりもリアルに戦争を感じた。

  • 引揚げの体験が生々しく書かれている。自叙伝的連作を読み通したなかでベスト。

  • あまり面白くなかった。積ん読で終わりにする。

    評判よいのは不思議。小説を読み慣れているのか、こういう小説が好きなのか、とにかく私には苦痛であったので、半分で断念した。その間「花戦さ」を2日で一気読みし、やはり面白い小説は面白いと思わされ、本書を読む気が削がれた。自己鍛錬や忍耐で読むのはやめた。

    文章が長すぎで、資料的にも得るもの少なく読むのが苦痛だった。娯楽的にも楽しめず、読む必要なし。

  • 時間があれば。

  • 櫂・春燈のあの高知の芸妓の世界から一転、
    まさかの満州での終戦からの引き揚げまでという
    「流れる星は生きている」系譜の本になったか、
    というといかに宮尾登美子という作家の人生が激動だったかに他ならない。
    春燈530ページ、朱夏690ぺ―ジを仕事をしているはずの平日、2日で読み切っている恐ろしさよ。

    でも、寝ても覚めても読んでしまった。読ませてしまう本だった。

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著者プロフィール

1926年高知県生まれ。『櫂』で太宰治賞、『寒椿』で女流文学賞、『一絃の琴』で直木賞、『序の舞』で吉川英治文学賞受賞。おもな著作に『陽暉楼』『錦』など。2014年没。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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