雪沼とその周辺 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294728

作品紹介・あらすじ

小さなレコード店や製函工場で、時代の波に取り残されてなお、使い慣れた旧式の道具たちと血を通わすようにして生きる雪沼の人々。廃業の日、無人のボウリング場にひょっこり現れたカップルに、最後のゲームをプレゼントしようと思い立つ店主を描く佳品「スタンス・ドット」をはじめ、山あいの寂びた町の日々の移ろいのなかに、それぞれの人生の甘苦を映しだす川端賞・谷崎賞受賞の傑作連作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 雪沼の近くに住む人々の出来事を静謐な文章で書いた短編が7つ収録されている。
    個人的には「送り火」が一番響いた。
    どの短編も呆気なく急に終わるので、「これで終わり?」という驚きの感情を抱いてしまった。その呆気なさが、この街に住む人々のなんてことのない日常であるという雰囲気を醸し出している。
    登場人物の感情の起伏が少なく、読んでいて心地良さを感じた。
    話の所々に以前出てきた人物の話も交えられていて、それぞれの人物が身近な所で生活しているのだなと感じた。

  • 「雪沼とその周辺」という、山や畑、昔ながらの商店街のある、やや寂れた田舎風の舞台において、常に三人称で表示される人たちの、派手さは無いけれど、素朴ながらも拘りの感じられる日常の生活を、丁寧、かつ、客観的に表現した味のある文体に惹かれました。

    また、「スタンスドット」での、ボーリングの古いピンの温かさ、「レンガを積む」での拘りのレコードの音響といった、それぞれの音の表現も、文体だけで、さもそう聞こえるかのような、臨場感ある表現が素晴らしく心地良さを感じました。

    更に、それぞれの登場人物の話し方や愛嬌ある行動には、実際に私がその地方に旅行に行って、地元の人たちと会話をしているような温かい感じがあり、大変なことや哀愁もあるのですが、それを含めて、マイペースに日々の生活を送っている姿が仄かに浮かび上がる様を、ありありと感じられて、ついのんびりと物語の世界に浸りたくなる趣があり、好きな世界観です。川端賞と谷崎賞を受賞したのも納得の連作集。

  • 堀江敏幸『雪沼とその周辺』新潮文庫。

    山間の寂れた街を舞台にした連作短編集。7編を収録。

    寂れゆく街、街の住人も老いていく。永遠の命など有り得る訳がなく、人はいつか死を迎える。そんな寂れた街の住人たちの様々な人生を切り取ったような話が並ぶ。内海隆一郎の短編のような風合いもあり、あすなひろしの漫画のような雰囲気もあり、今どきとしては珍しい作風ではなかろうか。

    『スタンス・ドット』。廃業の日、街の小さなボウリング場。廃業まで30分という時にトイレを借りに立ち寄った旅行者のカップルに最後の1ゲームをプレゼントする店主。店主のこれまでの人生が走馬灯のように……

    『イラクサの庭』。田舎でひっそりと西洋料理の教室を営んでいた小留知先生が亡くなる。先生が最後に残した『コリザ』という言葉の意味は……イラクサのスープがあるとは初めて知った。

    『河岸段丘』。小さな製函工場を営む田辺さんが感じた違和感の正体は……

    『送り火』。書道教室に古民家の二階を陽平さんに貸し出した母親と二人暮らしの絹代。母親が亡くなり、陽平と夫婦となった絹代だったが……幸せだけの人生など有り得ない。

    『レンガを積む』。小さなレコード店の店主。時代はコンパクト・ディスク。しかし、レコードの良い音を大切にしたいと店主は古いオーディオにこだわる。

    『ピラニア』。安田さんが経営する定食屋を訪れた信金の相良さん。二人が知り合った経緯は……

    『緩斜面』。小木曾さんの紹介で消火器を扱う会社に世話になることになった香月さん。その小木曾さんが肝硬変で急死する。

    本体価格400円(古本100円)
    ★★★★

  • “雪沼”というところは実在しない。

    作者は、
    在りもしない場所で居もしない人々に起こってもいない出来事を、
    どこにでも在りそうな場所でどこにでも居そうな人々に誰にでも起こりそうな出来事として、でも、少しだけ特別なことを、
    そっと描く……。

    だから、
    どの短篇をとっても、
    「きっと雪沼ではあるんだろうなぁ」と、感じてしまう。
    地味で小さなスキー場、小さなボーリング場に小さな料理教室や書道教室、あるじ自身がおいしいことを追求していない食堂。
    里山の延長線のような地元の山に囲まれ、だいたいが少し知り合いの住む地域。

    「ほんわか」しているわけではない結末の中に占めるものが、一人一人が「生きる」ということの唯一無二を語っているように感じられ、何度も読み返すことになるだろう……。

  • 架空の地方「雪沼」の人々の日常の連作短編集

    若干不思議な事が起こったり、「ここで?」という感じで終わる話もある
    雰囲気としては小川洋子さんに通じるものを感じる


    収録は7遍
    ・スタンス・ドット
    ・イラクサの庭
    ・河岸段丘
    ・送り火
    ・レンガを積む
    ・ピラニア
    ・急斜面

    長年細々と営業していたボウリング場を閉める日の最後
    西洋料理店、料理教室などしつつ亡くなったオーナーの過去
    工場の機械が傾いているような気がする夫
    低身長のレコード店主
    料理があまり上手くない中華料理屋の店主
    旧友と作った凧を、その息子と揚げる約束をする男
    などなど


    何というか、静謐さやノスタルジーを感じる
    田舎の雰囲気、特に山間の寂れた街というのが自分の故郷を想起させられる

    一番好きなのは「スタンス・ドット」かな
    他は期待したほどは来るものがなかったかも
    でも、だからこそ逆説的に訴えかっけてくる何かがある
    不思議だ

  • 柔らかい手触りのするような本だった。
    大きな事件が起きる訳ではないけど、人生が少し動く瞬間を描いた連作短編集。「雪沼」は、以前住んでいた土地や昔訪れたことがある土地を少しずつ重ねたような、寂れ具合もどこか懐かしい町。「スタンズ・ドット」でのボウリングの音の描写が好きだった。

    大学入試で読んだ小説に、十数年ぶりに偶然出会ってびっくり。

  • 初めて読む作家さん
    文章がうつくしく 長編も読んでみたい
    雪沼という地名がすてき

  • 先程読み終えたばかり、そのままの勢いです。

    フランス文学者である堀江敏幸さんの短編集。

    連作の一作目である「スタンス・ドット」の一部分を、
    学校のテストで目にしました。
    「この後、どのように展開していくと考えられるか、考察した上で解説せよ」
    そんな要素があって、自分なりに推察はしました。
    でも、実際どうなるのだろうか。
    この物静かな流れの中、何か大きな展開が、
    待ち受けているとは到底考えられない。
    でも、この抜粋文だけでも味わい深いものがある。
    ならば、ひたすら読み進めて最後の一文に到達したとき、
    何とも言えない感慨を味わえるお話なんだろうな。
    どうしても気になって、購入して読み終えたわけですが。

    期待通りでした。
    池澤さんの解説の通りで、ある意味読者は「ただの傍観者」です。
    登場人物たちは皆、
    あくまで「ただの雪沼の一般人」として生きているだけで、
    物語性を意図して生活しているわけではない。
    その自然さを出そうとして、
    かえって不自然になって失敗する作品もあるけれど、
    この作品は本当に自然で、ありのままの雪沼の人々を描いているよう。
    だけど、その一場面、一場面を切り取って眺めた時、
    不思議と込み上げてくるものがあったり、
    池澤さんの言葉を借りれば「ノスタルジック」な気分になったりする。
    終始淡々としているのが、かえってすごくいいのです。

    どこか廃れた調子を出すのが、本当にお上手。
    個人的な印象としては、それは堀江さんがフランス文学に、
    精通していることに由来しているのではないかしら、、、と。
    フランス文学の訳書って、
    こんな調子に仕上がっているものが多い気がするから。

    何にしても、これから私は堀江さんマニアになります。
    架空の「雪沼」に住みたいです。
    そして、最新作が文庫化するのを心待ちにしています。

  • 雪沼という読者の中で生まれる街の生活を覗く旅
    この本から何か学びを得ようと考える必要はない。
    ゆっくりとそれぞれの物語に心地よさを覚えればいい。今の私の生活から離れた子の街でゆっくり過ごす日々を楽しでほしい

  • 滴り落ちる雨の音さえも聴きとれてしまうような、静かな時が流れる雪沼の町。時代が移ろう中で淘汰されるものもあるけれど、雪沼には人々が手をかけ大切にしてきたものが残っている。そこに生きる人々の手から、じんわりと温もりが伝わるような連作短篇集。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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