未見坂 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 347
感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294766

作品紹介・あらすじ

山肌に沿い立ち並ぶ鉄塔の列、かつて移動スーパーだった裏庭のボンネットバス、ゆるやかに見え実は急な未見坂の長い道路…。時の流れのなか、小さな便利と老いの寂しさをともに受けいれながら、尾名川流域で同じ風景を眺めて暮らす住民たちのそれぞれの日常。そこに、肉親との不意の離別に揺れる少年や女性の心情を重ねて映し出す、名作『雪沼とその周辺』に連なる短編小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 雪沼とその周辺の方がどうやら私に実体のない懐かしさをくれる相性の良い「地域」のようで、未見坂という「地域」にはなかなか馴染みきれなかったのだけが残念。とてつもなくぼんやりしていて、イメージしきれないのです。でも、そのぼんやり感も、「随分昔の記憶で思い出せなくて悲しい」感じとも思えて、やっぱりいい。何より、登場人物の言葉として紡がれる言葉がやっぱり美しくて心地よい。好きだなー、好きだなー、とかなりお馬鹿な頭で読んでしまいました。個人的に一番気に入ったのは「苦い手」。好きな一行にペタペタ付箋を貼っていって後から見直してみると、この作品は付箋だらけでした。肥田さんをはじめ、登場人物の素朴さがとても好きです。

  • 雪沼とその周辺という短編集をかなり昔に読んで、なんと美しい田舎の風景を、描くひとなのだろうと、ずっとまたこの人の本が読みたかった。
    久々に読んだ堀江さんの文章は、懐かしかった。男は頑固な職人みたいな人たち、女は器用に生きつつも、自分の立場だけではない、自分を置きたいところに置いてる人たち。
    舞台はなんとなく開発の波に飲まれかけて、バス停やらなにかインフラのための拠点として、自治体や国に目をつけられていて、どことなく、このまま老いていく町を踏み台にしてやろうとしている人たちがうっすら見える。
    こだわりの道具、いつまでも取り入れられない新しい習慣。そういうどこか取り残されつつも、みんなすこしずつ不調があって、なにかが足りない。そういう感じで過ごしている。
    特別起伏がある話というわけではないが、日常のドキュメンタリーを見たような、そういうかんじ。
    時代も、場所もなんかわからんけど、、
    以前雪沼を読んだ時はそうは思わなかったのに、どうしてか、取り残された人たちにいら立ち、なぜ変えようとしないのか、、と思ってしまった。自分はかわったのだなぁ。

  • なんだかじわじわといい。
    いろんなところでいろんな人が毎日を生きている。人物造形と描写が秀逸。でも「リアリティがある」というのとはなんだかちょっと違うような気がする。どこかにいそうな誰かたち。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。〇〇さんという語り口が新鮮で、町内の人を語っているような印象を受ける。「ささやかな」という言葉がぴたりとくる物語。
    メモを書いてるので参照すること。

    -----

    堀江敏幸「未見坂」半分ぐらいまで読んだが、なんともじわじわといい。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。人物造形と描写が秀逸。

    さらに読み進めてますが、さらにじわじわいといいです。「雪沼とその周辺」「いつか王子駅で」も読み返したくなってきました。ストーリーを語るための人物ではなくて、人物を語るためのストーリー。他人の人生を垣間見(覗き見?)するような感じもします。なんといっても静かな語り口がしっくりときます。

  • p.2011/4/25

  • 誰かの不在/の代わりにではなくそこにいてくれる誰か
    「滑走路へ」「戸の池一丁目」「プリン」がすきだった

  • どこかの地方都市、ひっそりとした日常に小さな影はあれど、傍目には気付かないよう我々は暮らしていく。

    夕焼けの中の鉄塔、寂れた商店、走り続ける路線バス。日々の営みか。

  • 短編集

  • なつかしさに浸される。まさに、そんな作品。連作ではないが、それでも繫がる短編集。綺麗な文体が素晴らしい。

  • 同じ短編集でも、先日読んだ北村薫さんのとは対照的な作風だった。

    何が起こるとか、すごい人が出てくるとかいうことはない。
    鮮やかなプロットなど、小説の技で驚かせるようなこともない。

    地方の小さな町に住む人たちの暮らしや、人生の一場面が掬い取られる。
    何気ない描写に、その一瞬だけでなく、その人物たちが送ってきた長い時間が感じられたりする。

    自分自身に同じ体験がなくても、その場の空気や、感覚がわかる気がする。
    そう思わせてしまうところが、この作品のすごいところなのかもしれない。

    例えば。
    親族の集まりで、夫が両親や祖父母ではなく、叔父叔母に似ていると聞かされ、不愉快になる嫁の悠子さん。
    自分が育った集団であれ、誰しも一度は後から加わったメンバーの立場は誰しも体験する。
    親族の物語をただ聞くしかない状況のもどかしさとつながるものではないか、なんて想像する。

    一人での子育てと仕事に疲れた母に、祖母の家へ預けられる少年。
    起きる前と起きた後の様子が異なると混乱を感じる、というあたりも、経験はなくとも何かわかる気がする。

    こういう説得力は、いったいどこから出てくるのだろう。

  • 『雪沼とその周辺』続編。昭和の雰囲気も少し感じさせるような描写が懐かしい。でも前作に比べると、少し寂しい物語が続いていると感じた。『雪沼...』が地域と大人を描いていたのに対し、本作は子どもに纏わる作品が並び、しかもいずれもどこか家庭に欠けているもの(主に家族構成において)があるためだろうか。地域の名前も出てくるけれど、あまり浮き上がってこないのも、子どもを描いているからだろう。大人は地域とつながりを持って生活するけど、子どもは子どもの世界だけで完結しているから。そうでなければ、著者を含め私たちも地域とのつながりが薄れている世界に住んでいるからだろうか。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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