イニュニック 生命―アラスカの原野を旅する (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101295213

作品紹介・あらすじ

氷を抱いたベーリング海峡、112歳のインディアンの長老、原野に横たわるカリブーの骨-壮大な自然の移り変わりと、生きることに必死な野生動物たちの姿、そしてそこに暮らす人々との心の交流を綴る感動の書。アラスカの写真に魅了され、言葉も分らぬその地に単身飛び込んだ著者は、やがて写真家となり、美しい文章と写真を遺した。アラスカのすべてを愛した著者の生命の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 「生命とは一体どこからやってきて、どこへ行ってしまうものなのか。あらゆる生命は目に見えぬ糸でつながりながら、それはひとつの同じ生命体なのだろうか。木も人もそこから生まれでる、その時その時つかの間の表現物に過ぎないのかもしれない。」

    遠いアラスカの森の匂い、カリブーの息遣いや、頭上にひろがる星空と沈黙、薪木がはぜる音。
    それらが彼の温かい眼差しを通して、すぐそばで同じ時を過ごしているような感覚になります。

    ゆったりと移ろいでゆく時間の流れに、心がふっと軽くなりました。

  • まど・みちおさんが
    「私は人間の大人ですが、
     この途方もない宇宙の前では、
     何も知らない小さな子どもです」
    と言葉を遺しておられる。

    星野道夫さんは
    まさに
    そのように思っておられたであろうし
    そのように写真を遺し
    そのように言葉を遺し
    そのように旅に暮らしておられた

    一枚の写真から
    一編のエッセイから
    星野道夫さんの
    メッセージが届いてきます

  • 七つのエッセイが載っていて、特にエスキモーやインディアンの言語についての話題が印象に残った。
    「雪、たくさんの言葉」では、様々な状態の雪を表す言葉が6個挙げられていて、いかにアラスカでの生活と雪が密接に関わっているかが現れている。
    「わしらは自分たちの暮らしのことを、自分たちの言葉で語りたい。英語では、どうしても気持ちをうまく伝えられん。英語の雪はsnowでも、わしらにはたくさんの雪がある。同じ雪でも、さまざまな雪の言葉を使いたいのだ」(エスキモーの老人)

    また、「ブルーベリーの枝を折ってはいけない」中の、ポトラッチ(亡くなった村の長老の御霊送りの祝宴)でのやりとりも印象に残った。
    「若い者も何か話したらどうだ!」(エルダー)
    「僕はエルダーたちが話すのをじっと聴いていた。自分たちの言葉なのに何もわからない。でもじっと聴いていた。何も理解できないけど、その響きを聴いているだけで気持ちがいい……」(若者)

    響きを聴くだけで気持ちがいいと言う若者の言葉には少し救われる気もしたけど、言語が失われていくということは悲しいことだと改めて思った。「自分たちの言葉なのに何もわからない」って悲しすぎる。
    歴史や文化、伝統が断絶してしまうわけで、民族のプライドやアイデンティティに深く関わる事柄だと思う。

    建国の歴史がそもそも原住民の駆逐であるアメリカにとっては、ある意味当たり前のことなのかもしれないけど、こういうことを考えると「アメリカが一番!」みたいな発想には眉をひそめたくなる。

    アメリカの悪口を言いたいわけじゃなくって、一番思ったのは日本語や地元の方言を大事にしたい!ということです。
    最近はともすれば日本語そっちのけでひたすら英語教育となりかねない風潮なのが気になります。

    いつも思うけど、星野道夫さんの文章はいい。「言葉を紡ぐ」という表現がぴったりくる。

  • 言葉が、とぎすまされている。
    シャッターでとらえるような、確実な言葉の運び。
    曖昧さをなくしている。
     
    ボクはアラスカの冬が好きだ。
    生き物たちは、ただ次の春まで存在しつづけるため、
    ひたむきな生の営みをみせてくれる。
    それは自分自身の生物としての生命を振り返らせ、
    生きていることの不思議さ、脆さを語りかけてくる。
    自然と自分との壁が消え、
    一羽の小鳥に元気づけられるのはおかしなことだろうか。

    雪の言葉
    アニュイ 降りしきる雪
    アピ   地面に積もった雪
    クウェリ 木の枝に積もる雪
    ブカック 雪崩をひきおこす雪
    スィクォクトアック 一度溶けて再凍結した雪
    ウプスィック 風にかためられた雪

    森の木こりよ その木だけは残しなさい
    一本の枝にも触れてはなりません
    子供だったころ、その木は私を守ってくれた。
    だからいま、私が守らなければならない。
    ガダシャン 無人小屋

  • ふむ

  • 深い。
    写真を通して色んなものを感じ取ることができます。
    みんな笑ってました、星野さんのカメラに向かって。
    人生に深みと臨場感が増す作品。

  • 清々しい旅のストーリー。
    自分は旅は見聞きするより自分で行きたい派だけど、本で何かを感じたい人には良い作品だと思います。

  • 『長い旅の途上』が好きだったので手を出してみた。こんな考え方ができる人もいるんだな、と良い意味で発見のあった本。

  • 美しかった。
    自然と近しくなりたい。
    大げさでない死、共感。

  • 社会人T、マイナス50度の寒気のアラスカ、オーロラの下での一説だが、温かく心に沁みてしまう。涼しくはならないかもしれない。『僕はアラスカの冬が好きだ。生きものたちは、ただ次の春まで存在し続けるため、ひたむきな生の営みを見せてくれる。それは自分自身の生物としての生命を振り返らせ、生きていくことの不思議さ。脆さを語りかけてくる。自然と自分との壁が消え、一羽の小鳥に元気づけられるのは可笑しなことだろうか』(中略)伝えたい事があるところに言葉が生まれる)

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著者プロフィール

写真家・探検家

「2021年 『星野道夫 約束の川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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