帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 144
レビュー : 24
  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101297521

作品紹介・あらすじ

家には帰りたくない-47歳の男に連れ回され、沖縄で保護された10歳の少女はそう言った。親子のように振る舞い、時に少女が主導権を握っているかのように見えた二人の間に、一体何があったのか。取材を重ねるにつれ、少女の奔放な言動、男が抱える欺瞞、そして歪んだ真相が明らかになる。孤独に怯え、欲望に翻弄される人間の姿を浮き彫りにするノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • わたしはこの事件をよくおぼえている。つたえられたあらましがあまりに奇妙だったからだ。行方がわからなくなった、というのがたぶん第一報で、つれさられた、との続報がながれたのは、それからすこしあとだとおもう。報道された断片によれば、被害者は小学5年生、祖父母と叔父と暮らす10歳の女児で、加害者はその近所にすむ40代の中年男。女児がかえってこないので、家族が警察に相談し、逃亡、いや誘拐か、があかるみにでたのだけれど、といっても、どうやら交流は以前からのようで、かれらの小旅行は、今回がはじめてでもないらしい。しかも、おとずれた沖縄で、ふたりは親子だといつわり、男がはたらく運転代行業者の寮に住み込んでいた。それまでの逗留先では、少女がみずから宿帳になまえを記していたという。金銭を管理していたのも男ではなく、女児で、那覇行きのチケットを買ったのも彼女だそうだ。男にたいする少女のふるまいは、傍目にかなり傲慢だったともきく。そして一週間の滞在の後、保護された彼女は(家に)「帰りたくない」と訴えた。そのため一時的に少女を児童相談所が預かっているとのこと。一方、男は捕まって、関東の拘置所に移送された。「未成年者略取誘拐」それがかれにかけられた容疑だ。しかし、これは果たしてそんな仰々しい事件なのだろうか__________「帰りたくない 少女沖縄連れ去り事件」は、この風変わりな「誘拐」にやはり疑念をいだいた著者が、拘留中の容疑者、山田敏明と文通をかさね、面会に赴き、公判に通い、また、沖縄にとび、ふたりの足取りをたどって、かれらがそこで邂逅した人々をたずね、謎を解き明かそうとするルポルタージュだ。

    鯉のぼりがゆらめく初夏の住宅街で、著者が老女に声をかける場面から本書ははじまる。彼女は沖縄滞在中、かれらが接触をもったひとりだ。「おばちゃん、わたしのお父さんと寝たいんでしょう」2年まえ、間借りしていた運転代行業者のコンテナで、ふたりと出会った老女は、唐突にそんな言葉をなげつられたという。面食らう彼女に少女は尚も迫った。「おばちゃん、うちのお父さんとセックスしたいんでしょう」さらには女性器の俗称さえ口にしたそうだ。たった10歳なのに、50歳のおばさんみたいになんでもしっているようだった、と老女は述懐する。なかなか衝撃的な序章だ。著者はそれから、かれらがあそびにいったプールや温泉施設、買いものをしたデパートやコンビニ、宿泊先のホテルやゲストハウスにも足をはこび、関係者から事情をきいていく。第4章まではその軌跡と、手紙のやりとりや拘置所への面会でつまびらかにされた山田の半生、被害者の女児、石井めぐ(仮名)とのふしぎな関係が、順をおって記されている。第5章は公判の記録、第6章はめぐの生い立ち、第7章はめぐを棄てて逃げた母、紗恵へのインタビュー、そして第8章が判決、最後に文庫版の追記として「それからのふたり」と題された後日談。解説の角田光代も書いているが、この構成はたいへん巧みで、読者の興味を常にひくよう、好奇心だけを満たしておわり、とはならないよう、かんがえつくされている。親に棄てられ、祖父母と叔父から虐待を受け、沖縄へ逃げた少女と、彼女をすくおうとした独り身の中年男。著者は当初そんな構図をえがいていたのらしい。わたしもまた、そうだった。なにもしらなかったから、うつくしいはなしだとすらおもっていた。

    でも現実はちがう。とてもグロテスクだ。第5章をひらき、よみすすめるうちに、わたしはおもわず「あー」と声をあげてしまう。まだかすかにのこっていた、山田へのちいさな信頼が、がらがらと音をたててくずれていく。やたら饒舌なかれの独白によって、少女とのゆがんだ関係は、とうに露となっていたのだけれど、この期に及んでも、わたしは山田の、一片の良心をしんじたかったのだ。「かわいそうなめぐをすくいたかった」かれは手紙で、著者に幾度となく訴えていたのだから。そういいながら山田はめぐを利用していたし、保護者の立場をわすれ、女としての彼女に執着していたが、それは盲目的な恋心ゆえ、相手の奔放さに引きずられた部分もおおいにある、とかんがえられた。実際かれは、警察や児童相談所を何度もたずね、めぐへの虐待のことを職員や警官、女性市議に相談している。理性と欲望のあいだで、山田はゆれていたのだとおもう。とはいえ、公判以前に山田が告白したかれら、いや、かれの行状はすでにして正気の沙汰じゃない。まごうことなき性的虐待だ。しかし、著者にかたった以上のことはなかった、それが山田のわずかばかりの良心の発露だとおもっていた。でもうらぎられた。こころをいためるふりをしながら、かれはめぐの孤独な境遇、被虐経験につけこみ、弄んだあげく、ひらきなおった。「山田のおじちゃんは大嫌い」「もう二度とあいたくない」少女は警官にそう漏らしたという。「帰りたくない」のは、山田と一緒にいたいからではなかったのだ。そこで著者は問う。ではなぜ、めぐはそんな男についていったのか……。それが本書の主題だ。そこを掘り下げてほしくて、著者は構成を練ったのだろう。

    公判の記録を第5章に、母へのインタビューを第7 章に、もってきたのがすばらしい。読者はおのずとそのことにおもいを馳せる。しかし、それについては山田の弁護人、鈴木さゆりの言葉がすべてかもしれない。「めぐちゃんは他のみんなが騒ぐほどじゃなくて、本当に普通の女の子なんです。特別すれていたり、女を利用してすごい子だと言われちゃうのはかわいそうです。そう言う人がいたら、じゃあ、あなたがその環境で生きてみろと言ってみたい。他の人だったら、耐えられなくてしぼんじゃうと思う。そのきびしい環境の中で、サバイバルしている。必死に生き延びようとしているんです」わたしがこの事件を「よくおぼえている」のは、顛末が腑に落ちない、不可解な点がおおすぎる、というだけはなく、女児に過度な同情をよせていたからだ(結局もとの家へもどらされたとしり、こちらで引き取れないか、などと、一瞬だが夢みたいなことも、かんがえたりした。いや、そうやって、いつものごとく事件を消費したにすぎないのだけれど)と同時に、憧憬と羨望を抱いていたからだ。少女時代、わたしはただ途方にくれていて、逃げたいといくら望んでも、なすすべがなかった。だからめぐの行動力と精神力、それに賢さがまぶしかった。著者も彼女の、そんなところに惹かれたという。切れ長の目と通った鼻筋、つんと尖ったちいさい顎、いわゆる美少女のめぐは、かわいいね、と誉められてもよろこばず「わたしはかわいいとはいわれたくない」そうぴしゃりといいはなち、憮然としていたらしい。将来はモデルになりたいのだそうだ。ぶかぶかのハイヒールを履いて、ウォーキングの練習する彼女のすがたを、事件の数年後、近所の人がみかけている。

    めぐは今年で16歳。追記によれば、彼女はもう故郷にいない。ありったけの知恵と度胸で、人生をサバイブしていた、そしておそらくはいまもしている、よるべなき少女のことをおもうと、泣きたいような笑いたいようなきもちになる。

  • 考えさせられます。

  • 事件に関わる人たちの正論は、再びこのような事を発生させない歯止めとなったのだろうか。読者は完全に否と答えるであろう。誰も悪くないなら、環境のせいか?運が悪かったからなのか。そう結論づけるのもますます解決には程遠い。他人への思いやり、その拡がり。なんとなくそれが第一歩のような。2017.7.1

  • 寂しい半生をすごしてきた男が、虐待を受けたのか家を離れがちな少女と偶然知り合い、一緒にすごすようになる。男が定期的に子どもに会えていれば、こうしたヘンな関係にならなかったのではないか。そう思えてならなかった。著者の粘り強い取材程度には頭が下がる。しかし少女性愛に対しての絶対的な嫌悪感というのは、生理的なものだから仕方がないのかも知れないが、なぜ男性がそう思うようになったのかについては嫌悪感ですませるのではなく突き詰めて欲しかった。よく書けてるしよく取材できてはいるが、その点が残念。

  • 当時10才の少女と47才の男性の起こした誘拐事件。
    誘拐とは言っても、主導権は少女が持っていたという証言もある。
    一体二人に何があり、どういう関係だったのか…
    ただの誘拐事件ではない、もっと別の大きな問題も抱えているのではないかと思わずにはいられない。
    家族とは何か、親子とは何かを深く考えさせられる。

    2016.5.3

  • 368

  • 再読

  • 以前に読んだ。
    私がノンフィクションに引き込まれるきっかけとなった本だ。

    現実にこんな世界があるんだという思いが、
    大きい恐怖として感じられて、しばらく本書の表紙を見るのも怖くなってしまった。

    しかし、あの時の衝撃は忘れられない。
    また買い直そうかなぁーって今思っている。

    死人は出ないし、残虐性も低い事件だ。
    ・・しかし、殺人事件を扱ったようなノンフィクションよりも、
    恐怖感が強かった。

    なんでかなぁ。

  • なにこれ気持ちわるー…

  • 二人の間にピュアな愛情があって欲しい
    どんな形であれ愛があって欲しい
    愛がなくてもこれからの二人が幸せになって欲しい
    せめて、誰か一人でも救われれば……
    と思い読み続けていました
    取材中の河合さんもそのような気持ちだったのでしょう
    これがノンフィクションの醍醐味と言ってしまうと不謹慎ですか
    事実というものは残酷です

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