卵の緒 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.01
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本棚登録 : 8218
レビュー : 980
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101297729

作品紹介・あらすじ

僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作。家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7's blood」)。優しい気持ちになれる感動の作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 瀬尾まいこ、2作品「卵の緒」「7's blood」。前者は捨て子、後者は異母姉弟。近くにこのような同級生がいても、触れてはいけない琴線。この琴線を瀬尾さんは愛情とともに圧倒的に包み込んだ。「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛してるの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?」「腐ったケーキ、食べるって言ったら食べるの」家族を思うことは血の繋がりとは完全に独立しているものだ。瀬尾さんのその一行一行から涙とともに読み取った。前を向こう!それが一番強いんだ!

  • 『血は争えない』、親子を語る場面などでよく聞く『父母の気質や性向は、何らかの形で子どもに受け継がれていること』という意味をもつ言葉です。この言葉をはじめ、『血筋』『血統』『血を引く』、と人と人の関係を説明するのに『血』はとてもよく登場します。英語では、『Blood will tell.』という言葉に置き換えられるように、世界的にも親子を語る時に『血』は欠かせないものなのかもしれません。それ故に私たちも何かと『血の繋がり』を意識します。幼い頃に、自分は本当にこの家の子どもなのだろうか?という不安に人知れず苛まれた人も多いのではないでしょうか。私もその一人でした。小さい頃から祖母と同じ部屋で寝起きする一方で、妹は父母と同じ部屋で父母に挟まれて寝ていました。私には食べ物の好き嫌いは一切許してもらえなかったのに、妹は好き嫌いし放題などなど。そんなこともあって、自分が生まれた時の話をしつこく聞いたり、小さい頃の写真に自分が父母と写ったものがあるか探したり。そんな幼い身であっても意識してしまう『血』とはなんなのでしょうか。『血』が繋がっていなければ親子とは言えないのでしょうか。親子とは…。

    『僕は捨て子だ』という衝撃的な一言から始まるこの作品。主人公・鈴江育生は『「僕は捨て子なの?」と聞いた時のばあちゃんやじいちゃんのリアクションが怪しい』『そして、驚くことに母さんの僕に対する知識があやふやなのだ』と、自身が母親と血が繋がっていない子ではないのかと思い悩みます。『ついでに言うと、僕の家には父さんがいない。僕の記憶にも、さっぱり残っていない』と、元々記憶の範囲内にはすでに母一人子一人の生活を送ってきた小学三年生の育生。そんな時に担任の青田から聞いた『へその緒はね、お母さんと子どもを繋いでいるものなの』という話に執着します。『ついに長年にわたった僕の捨て子疑惑を明らかにする時がやってきた。へその緒一つで今までのもやもやがすっきりするのだ』と勢いづく育生。でも母・君子がそんな育生の問いに見せてくれたのは卵の殻でした。『育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの』という君子。すっかり言い含められた育生は『この母さんなら卵で僕を産むこともありえるだろう。それに、とにかく母さんは僕をかなり好きなのだ。それでいいことにした』と納得するのでした。

    この本には、書名にもなっている〈卵の緒〉の他にもう一編〈7’s Blood〉という作品も収録されています。分量的にはこの作品の方が長く、こちらも『血』がテーマ。でも、〈卵の緒〉とはある意味真逆、『血の繋がり』のある姉弟が主人公となっています。『七子と七生。父さんがつけた』という姉と弟の名前。でも、『私たちは名前を見れば兄弟だってわかるようになっている。だけど、私と七生は兄弟じゃない。出所が違う。七生は父の愛人の子どもだ』という複雑な思いが渦巻く『血の繋がり』。父親はすでに他界し、七生の母親は刑務所に、そして七子の母親も病床に伏した状態での高三の姉と小五の弟の二人暮らし。『血の繋がり』を意識する二人。でも、それぞれの母親は別に存在し、それぞれの家は別にあると言う微妙な関係性。それ故に、ケンカをしても『本当の姉弟じゃない私たちは、ずれた関係を自然に修復する方法を知らなかった』と七子は悩みます。

    〈卵の緒〉と〈7’s Blood〉の間に関係性はありません。しかし、それぞれが『血の繋がり』とはなんなのかということに違う方向から光を当てていきます。いずれも主人公の少年は小学生という共通点。その言葉、行動に彼らそれぞれの境遇、置かれた立場の中で一所懸命に考えた純粋なまでの思い、気持ちが滲み出ています。それだけに、読み手にはストレートに彼らの心の内が伝わってくる分、いずれの話の読書でも心が大きく動かされるのを感じました。第三者的立場で見れば、両作品とも事象として特別に何か大きなことが起こるわけではありません。でも小さな彼らにとっては、とても大きな変化、彼らの人生を左右するであろう大きな変化にも身を寄せて生きていく他ありません。それ故にそれぞれの結末には、それぞれの冒頭で抱いた『血の繋がり』とは別の『血の繋がり』について考えさせられることになりました。そう簡単にどうこう言えるものではない、それが『血の繋がり』というものなんだなと改めて感じた次第です。

    ところで、この作品では全編に渡って、とても自然に、とてもさりげない日常風景の中の一コマとして、『母さんはにっこり笑って、ハンバーグを口にほうりこんだ』『七生の作る肉じゃが。味がよく染みたジャガイモが口の中でほろりと崩れた』といったような食事の風景がとても印象深く登場します。重いテーマをほっこり感で優しく包んでくれる、とても瀬尾さんらしい、素敵な作品だと思いました。

  • 卵の緒
    母(君子)と息子(育生)は血が繋がっていない。
    捨て子疑惑を持つ育生は、へその緒を見せてと母にせがむ。
    母が見せたのは、卵の殻だった。
    粋で温かい君子が素敵だと思った。本当は実の子ではないと出生の真実を打ち明ける場面。どれほど育生を愛し必要としているか訴える直球の言葉に惹きつけられた。
    私は、血のつながりというものに(少しは)甘えていたのではないかと考えさせられた。親子だから、気持ちわかってくれてるだろうとか、私の態度で伝わってるよねきっととか。自分の親にもそうだ。もやっとしたとき、思い切って言うと晴れ晴れすることがある。親子と言えど別々の人間、言葉にしないと伝わらない理解できないこともあるから。

    「すごくおいしいもの食べたら、食べさせたい人の顔が浮かぶはずだ」と、いう言葉も身に染みた。
    食べさせたい人がすぐ目の前にいることはすごく幸せなことだ。

    7’sblood (こちらを読んでいなかったので再読)
    七子と七生は、腹違いのきょうだい。
    七生は父の愛人の子。
    父親が亡くなり母親(愛人)が傷害事件を起こし、七子の母は七生を引き取る。それには事情があった。
    なかなか七生に馴染めなかった七子だが、最後には愛しくて愛しくて別れを惜しむ(母親が出所するから)。
    ああ、やっぱり七生、行ってしまうんだ。
    小6の七生、家事はするし、健気で、素直こんな弟欲しい。風邪をひいた姉、七子のためにお粥をこさえる。
    こんな出来た弟いますか。
    ストーリーがどうのではなく、場面場面が穏やかで、人を思いやることの大切さが伝わってくる。
    最後に床屋さんをするところは切なすぎる。
    そう思うと、私たち生活一場面一場面も後になれば小さな物語なんだ。

  • 今までに
    何度となく読みかえしたけど
    そのたびに切なくて、
    読みきってしまうのが惜しくて、
    いつもページをめくる指が止まってしまう。


    捨て子疑惑に悩む
    小学四年生の育生(いくお)が
    母から見せられたものは
    へその緒ならぬ
    卵の緒(卵の殻)だった…
    「卵の緒」



    家族を知らない自分にとって
    これほど理想の家族はいないです。


    食べることが大好きで
    いつでもどこでも
    突然クイズを始める(笑)
    お茶目な育生の母、
    君子さん。


    そしてそんな母さんがメロメロにハマってる
    会社の上司の
    朝ちゃん。


    猫グッズを集め、植木職人である
    育生のおじいちゃん。


    登校拒否児なのに颯爽とした
    池内くん。



    出てくる人すべてが
    いとおしい。

    中でも育生の母、
    君子さんのキャラが
    最高にあったかくてカッコいい。


    「学校は大切だけど
    休むことなんてたかが知れてる。
    破ってみないと
    わかんないこともあるのよ」

    なぁ〜んて言葉を
    実際に学校の先生である
    瀬尾さんが書いちゃうところがまた
    カッコいいし。


    君子さんのキャラは、
    もしかしたら
    瀬尾さんそのものなんじゃないかなって
    勝手に想像しています(笑)



    そしてもう一編は
    突然、父の愛人の子供と
    暮らすことになった女子高生の
    戸惑う日々を描いた
    「7’s blood」。


    あまり物事に動じない17歳の主人公、
    里村七子。


    父の愛人の子供で
    腹違いの弟である
    11歳の山本七生(ななお)。


    最初はギクシャクしていた二人が、

    腐ったケーキや
    アイスクリームのエピソードなど、
    印象深いシーンを積み重ねながら
    次第に心通わせてゆく構成が
    ホンマ憎い。


    そしてクライマックス、
    お風呂場での散髪シーンの
    胸をきゅい〜んとさせる
    切なさときたら…(ToT)


    野犬から七子を守る
    七生のナイトっぷりなんて、
    男らしさを勘違いしてる輩を
    正座させて読ませたいくらい(笑)
    本当にカッコ良かった。



    血をよりどころにせずとも、
    繋がった家族。

    わずかな血の繋がりこそが
    強固な絆となる家族。

    どんな形でも
    家族は家族。


    教科書には載っていない、
    好きな人と
    好きなものを食べることの大切さを教えてくれる、
    身体に染み込むような一冊です。


    すごーくおいしいものを食べたとき、
    あなたなら
    誰の顔が思い浮かびますか?

    • まろんさん
      この2作を1冊に纏めたセンスが素敵ですよね!

      血の繋がりがあろうとなかろうと
      「おいしいものを一緒に食べたい」と素直に思える気持ちがあるな...
      この2作を1冊に纏めたセンスが素敵ですよね!

      血の繋がりがあろうとなかろうと
      「おいしいものを一緒に食べたい」と素直に思える気持ちがあるなら
      もうそこには、確かな絆がある。。。

      おかあさん達の凛々しさと
      少年たちのけなげさが胸に迫る、
      大好きな本です♪


      2012/06/14
    • 円軌道の外さん

      まろんさん、
      ここにもありがとうございます(^O^)

      そうなんです!!
      これだけ質の高い作品二本が
      なんとなんと
      一冊で読...

      まろんさん、
      ここにもありがとうございます(^O^)

      そうなんです!!
      これだけ質の高い作品二本が
      なんとなんと
      一冊で読めるなんて
      お得感ハンパないっスよね〜♪


      それにしても
      まろんさんの表現は
      まさに言い得て妙!!


      自分も
      一緒に美味しいものを食べたいと思える誰かと
      いつか家族を作ってみたいです(^_^)


      2012/06/19
  • いろいろな家族の形があると、あらためて気づかされる二編のお話。楽しい事ばかりじゃないけど、心許せる人と繋がるって幸せだと思いました。優しい気持ちになれる読後感。

  • 二編とも、親子、姉弟がうらやましいくらい強い絆で結ばれていて、その優しさや温もりに感動しました。
    家族のつながりって、形や証拠ではないのですね。
    心から思える人のいる人が、本当に幸せなのです。

  • 「僕は捨て子だ」とインパクトのある文章で始まる『卵の緒』。
    へその緒がないのを「卵で産んだ」とけろりと言い切る、本能のままに明るく生きる母がステキだ。

    もうひとつの『7's blood』は「出所」が違う姉弟の物語。
    こちらの母もさっぱりとした思いきりの良い人。
    姉弟二人でお互いの髪を切るシーンは切ない。
    共に家族の繋がりや距離感について考えさせられた。
    優しい時間がゆっくり流れるような物語だった。

  • H29.1.9読了。

  • 瀬尾まいこのデビュー作。

    「卵の緒」
    マイペースな母・君子と二人暮らし。
    自分は捨て子じゃないかと疑っている育生。
    へその緒というものがあると学校で教わり、これなら確かめられると母さんに聞いた所、箱に入った卵の殻を出してきた。
    卵で生んだのだという~信じられないが、その場は言いくるめられてしまう。
    同じ会社の朝ちゃんのことをすごくハンサムだとよく口にする母は、ある日、夕食のハンバーグがとても良くできたからと急に彼を呼ぶ。
    やって来た朝ちゃんは、すっきりした外見で、とても食べ方がきれいだった。
    同じクラスの池内君が登校しなくなり、気にかけていた育生。
    学級委員で、とくに理由も見あたらないのに。母さんに家に行ってみたらと言われ…

    日常にありそうな出来事に、ちょっと不思議なアクセントが添えられていて、軽やかなのに、見入ってしまう感じ。
    君子さんのユニークさと、真っ直ぐに向けられる愛情が心地良い。
    人の繋がりは色々なんだと…でも、好きだということが大切。
    好感の持てる人ばかりなので、その場に幸福感が漂います。

    2作目のほうが重い感触があります。
    1作目は絵空事になりかねないようなハッピー感があるのですが。
    こちらは現実的な暗さや怠さも含みつつ、芯が強い登場人物に励まされる心地。
    高校3年の七子は、突然11歳の異母弟・七生と暮らすことになった。
    父はとうに亡くなっているが、愛人と子どもがいることは知っていた。その愛人が傷害事件を起こしたため、母が七生を引き取ってきたのだ。
    ところが、その母がすぐに入院してしまい、二人で生活する日々。
    名前も顔も似ているが、妙に出来すぎで、気を遣う小学生に苛立つ。
    二人だけの日々で起きる行き違いや反発。同じものを食べ、アイスクリームを作ったり。喧嘩した後に、バースデーケーキを発見したり。夜にお揃いのパジャマで外を歩いた日。
    別れの時が切ない。
    もう会うイメージが湧かないので、おそらく会わないのだろうと‥

    そうとも限らないんじゃないかとは思うものの、そうかも知れないと哀しくなりました。
    引きこまれましたね。

  • 2組の家族の物語。

    血の繋がりがなくても、自分はお母さんに愛されてるんだって分かっていたら、そこにはちゃんと家族が生まれているんだ。本当は血の繋がりがあるとかないとか、そんなこと関係なくお母さんは子どもにストレートに愛してるってことを伝えることがとっても大切なんだよね。思ってるだけじゃ伝わらないこと、たくさんあるもの。

    「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛してるの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?」

    ちょっとの血の繋がりに、自分を大切に思ってくれている人がいるとの幸福感や安心感を抱く関係もある。一度ひとつ屋根の下で暮らした時間は、ちゃんと消えることなく存在している。二度と会うことがなくても、姉弟の心はもう繋がっている。温かい血の繋がりで。

    「思い出なんか必要ないじゃない。私たち恋人でもないんだし、七生しばらくは死ぬ予定ないでしょ?もちろん忘れる必要だってない。私たちは血が繋がっているんだよ。少しだけど。何もしなくたって、ちゃんと繋がっているんだから」

    親子や兄弟、家族って言葉に縛られると、時には窮屈になってイライラしてしまう。そんなとき、この物語を読んで深呼吸してみたら、きっと優しい気持ちになれるよね。

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著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞。翌年単行本『卵の緒』でデビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治新人賞を受賞。その他の著書に『図書館の神様』『強運の持ち主』など。

「2019年 『ありがとう、さようなら』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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