- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101297729
作品紹介・あらすじ
僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作。家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7's blood」)。優しい気持ちになれる感動の作品集。
感想・レビュー・書評
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瀬尾まいこさんのデビュー作、未読でした。2つの短編が収められています。
表題作『卵の緒』は、捨て子疑惑を抱く小学生男児とその母親の絆を描いた心温まる物語です。
深刻な話‥ではなく、母親は実にオープンで心から息子を愛し、息子も素直で優しい子です。「親子の証」って何? の答えを軽やかに示してくれています。何か、『そして、バトンは渡された』に通じるものがあるなと思いました。瀬尾さんは、ちょっと複雑な家族関係を、重くならずに優しく少し切なく描くのが元々上手だったんだなぁ、と実感しました。
もう一編は『7’s blood』。こちらは腹違いの姉(七子・高校生)と弟(七生・小学生)の絆を描いた物語で、少し血が繋がっています。
設定の違いはあれども、2篇とも家族とは、愛情や人の繋がりとは何か、を考えさせられます。
瀬尾さんのあとがきの一文がとても印象的です。
「そこら中にいろんな関係が転がっていて、誰かと繋がる機会が度々ある。それは幸せなことだ。」
この考え方が瀬尾さんの原点にあるのだなと、妙に納得してしまいました。
瀬尾まいこさん特有の優しさや温かさ、人との関わりを大切にしたくなる物語は、今後も読み手である私たちの心を、明るく照らし導いてくれる気がします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
純文はテッパン。
ミステリは、好物。
イヤミスは、格別。
ホラーは、別格。
古典だって、嗜んでみる。
だけど、時には、普通でない家族の優しい瀬尾風家族。癒しの読書。
皆さんの素敵なレビューを堪能しました。
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2022/10/20
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2022/10/21
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『血は争えない』、親子を語る場面などでよく聞く『父母の気質や性向は、何らかの形で子どもに受け継がれていること』という意味をもつ言葉です。この言葉をはじめ、『血筋』『血統』『血を引く』、と人と人の関係を説明するのに『血』はとてもよく登場します。英語では、『Blood will tell.』という言葉に置き換えられるように、世界的にも親子を語る時に『血』は欠かせないものなのかもしれません。それ故に私たちも何かと『血の繋がり』を意識します。幼い頃に、自分は本当にこの家の子どもなのだろうか?という不安に人知れず苛まれた人も多いのではないでしょうか。私もその一人でした。小さい頃から祖母と同じ部屋で寝起きする一方で、妹は父母と同じ部屋で父母に挟まれて寝ていました。私には食べ物の好き嫌いは一切許してもらえなかったのに、妹は好き嫌いし放題などなど。そんなこともあって、自分が生まれた時の話をしつこく聞いたり、小さい頃の写真に自分が父母と写ったものがあるか探したり。そんな幼い身であっても意識してしまう『血』とはなんなのでしょうか。『血』が繋がっていなければ親子とは言えないのでしょうか。親子とは…。
『僕は捨て子だ』という衝撃的な一言から始まるこの作品。主人公・鈴江育生は『「僕は捨て子なの?」と聞いた時のばあちゃんやじいちゃんのリアクションが怪しい』『そして、驚くことに母さんの僕に対する知識があやふやなのだ』と、自身が母親と血が繋がっていない子ではないのかと思い悩みます。『ついでに言うと、僕の家には父さんがいない。僕の記憶にも、さっぱり残っていない』と、元々記憶の範囲内にはすでに母一人子一人の生活を送ってきた小学三年生の育生。そんな時に担任の青田から聞いた『へその緒はね、お母さんと子どもを繋いでいるものなの』という話に執着します。『ついに長年にわたった僕の捨て子疑惑を明らかにする時がやってきた。へその緒一つで今までのもやもやがすっきりするのだ』と勢いづく育生。でも母・君子がそんな育生の問いに見せてくれたのは卵の殻でした。『育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの』という君子。すっかり言い含められた育生は『この母さんなら卵で僕を産むこともありえるだろう。それに、とにかく母さんは僕をかなり好きなのだ。それでいいことにした』と納得するのでした。
この本には、書名にもなっている〈卵の緒〉の他にもう一編〈7’s Blood〉という作品も収録されています。分量的にはこの作品の方が長く、こちらも『血』がテーマ。でも、〈卵の緒〉とはある意味真逆、『血の繋がり』のある姉弟が主人公となっています。『七子と七生。父さんがつけた』という姉と弟の名前。でも、『私たちは名前を見れば兄弟だってわかるようになっている。だけど、私と七生は兄弟じゃない。出所が違う。七生は父の愛人の子どもだ』という複雑な思いが渦巻く『血の繋がり』。父親はすでに他界し、七生の母親は刑務所に、そして七子の母親も病床に伏した状態での高三の姉と小五の弟の二人暮らし。『血の繋がり』を意識する二人。でも、それぞれの母親は別に存在し、それぞれの家は別にあると言う微妙な関係性。それ故に、ケンカをしても『本当の姉弟じゃない私たちは、ずれた関係を自然に修復する方法を知らなかった』と七子は悩みます。
〈卵の緒〉と〈7’s Blood〉の間に関係性はありません。しかし、それぞれが『血の繋がり』とはなんなのかということに違う方向から光を当てていきます。いずれも主人公の少年は小学生という共通点。その言葉、行動に彼らそれぞれの境遇、置かれた立場の中で一所懸命に考えた純粋なまでの思い、気持ちが滲み出ています。それだけに、読み手にはストレートに彼らの心の内が伝わってくる分、いずれの話の読書でも心が大きく動かされるのを感じました。第三者的立場で見れば、両作品とも事象として特別に何か大きなことが起こるわけではありません。でも小さな彼らにとっては、とても大きな変化、彼らの人生を左右するであろう大きな変化にも身を寄せて生きていく他ありません。それ故にそれぞれの結末には、それぞれの冒頭で抱いた『血の繋がり』とは別の『血の繋がり』について考えさせられることになりました。そう簡単にどうこう言えるものではない、それが『血の繋がり』というものなんだなと改めて感じた次第です。
ところで、この作品では全編に渡って、とても自然に、とてもさりげない日常風景の中の一コマとして、『母さんはにっこり笑って、ハンバーグを口にほうりこんだ』『七生の作る肉じゃが。味がよく染みたジャガイモが口の中でほろりと崩れた』といったような食事の風景がとても印象深く登場します。重いテーマをほっこり感で優しく包んでくれる、とても瀬尾さんらしい、素敵な作品だと思いました。
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ちょっとほんわかしてみたくて、瀬尾まいこ先生の小説を購入。
凄く薄い本だった為、この分量の小説一編だと思ったら、短編がふたつ。
卵の緒と7’s blood
卵の緒
いきなり、僕は捨て子だ。から始まる。
小学校五年生の育生が主人公。
母親に、臍の緒を見せてと言うが、母親は育生を卵で産んだのだと言う。
自分が母親の実の子ではないのだろう?と感じながらも、母親の大きな愛を感じている育生。
不登校の池内くんと仲良くなり、池内くんも育生の家族と接するうちに変化が。。。
7’s blood
母親と二人暮らしをしていた高校生の七子の家に、突然父親の愛人の息子がやってくる。
そんな時母親は入院してしまい、異母姉弟の七生と2人で暮らすことに。
七生は小学生なのに、何をやっても要領が良い。
人に好かれ、可愛がられる。
最初のうちはそれも含めて面白くない七子は、なかなか七生とうまくやっていけない。
しかし、次第に心が通うようになった頃に。。。
瀬尾先生の作品は、いつも本当に温かい。
心が温まる。ほわほわする。
まずは家族の愛。血が繋がってるとか、繋がってないとか、そんなことはさほど重要ではなくて、愛情だけで血の繋がりなど瑣末な事にしてしまう(^^)
あっという間に読めてしまったが、心を休憩させたい人にはピッタリの本。 -
いい作品
簡単に言うと
●愛情
●信頼
●幸せ
全部、正解も無いし 形もない
なんでもアリって事ですね。 -
「僕は捨て子だ。」
こんな書き出しから始まる表題作、『卵の緒』。
瀬尾まいこさんは本の書き出しを考えるのがお好きだそうですが、たしかにインパクトのある書き出しは読者の想像をかき立て、一気に物語の中に引き込む力がありますよね。
育生の家族は、もしかしたら周りから見たら同情されてしまうような複雑な形をしているのかもしれないけれど、本人は少しも自分が不幸だなんて思っていない。
それは、君子からの愛をずっと受け続けているから。だからこそ終盤、君子から重大なことを打ち明けられてもすんなりと受け入れられる。
たとえ血が繋がっていても、当の本人たちがちっとも幸せとは感じられていない家族がきっとたくさんある中、育生と君子の関係は本当に理想の家族の形のひとつ。
「育生は私が出会った中で一番優しい男子だわ」
「私の表現能力は類まれなものがあるよ。特に育生に関してはね」
言葉って大切だなぁと思います。私自身、子供のときに親からかけられた言葉はプラスのものでもマイナスのものでもいまだ自分の中に根強く残っている。
君子さんを見習って、子供への愛情をしっかりと言葉にして伝えていこうと思います。
もうひとつの『7's blood』もとても良かった。血が繋がっていてもいなくても、人と心地よい関係を築くことは可能なんだと思わせてくれる2つの物語。
これが瀬尾さんのデビュー作だなんて、ほんとにビックリです。
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どんな形であろうと、家族の絆っていいな、と思った。絆の糸が近すぎず、遠すぎず、一定の距離を保つからこそ上手くやっていけるんだなー、と考えさせられた一冊。
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卵の緒
母(君子)と息子(育生)は血が繋がっていない。
捨て子疑惑を持つ育生は、へその緒を見せてと母にせがむ。
母が見せたのは、卵の殻だった。
粋で温かい君子が素敵だと思った。本当は実の子ではないと出生の真実を打ち明ける場面。どれほど育生を愛し必要としているか訴える直球の言葉に惹きつけられた。
私は、血のつながりというものに(少しは)甘えていたのではないかと考えさせられた。親子だから、気持ちわかってくれてるだろうとか、私の態度で伝わってるよねきっととか。自分の親にもそうだ。もやっとしたとき、思い切って言うと晴れ晴れすることがある。親子と言えど別々の人間、言葉にしないと伝わらない理解できないこともあるから。
「すごくおいしいもの食べたら、食べさせたい人の顔が浮かぶはずだ」と、いう言葉も身に染みた。
食べさせたい人がすぐ目の前にいることはすごく幸せなことだ。
7’sblood (こちらを読んでいなかったので再読)
七子と七生は、腹違いのきょうだい。
七生は父の愛人の子。
父親が亡くなり母親(愛人)が傷害事件を起こし、七子の母は七生を引き取る。それには事情があった。
なかなか七生に馴染めなかった七子だが、最後には愛しくて愛しくて別れを惜しむ(母親が出所するから)。
ああ、やっぱり七生、行ってしまうんだ。
小6の七生、家事はするし、健気で、素直こんな弟欲しい。風邪をひいた姉、七子のためにお粥をこさえる。
こんな出来た弟いますか。
ストーリーがどうのではなく、場面場面が穏やかで、人を思いやることの大切さが伝わってくる。
最後に床屋さんをするところは切なすぎる。
そう思うと、私たち生活一場面一場面も後になれば小さな物語なんだ。
著者プロフィール
瀬尾まいこの作品






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