あと少し、もう少し (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.09
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本棚登録 : 2581
レビュー : 281
  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101297736

作品紹介・あらすじ

陸上部の名物顧問が転勤となり、代わりにやってきたのは頼りない美術教師。部長の桝井は、中学最後の駅伝大会に向けてメンバーを募り練習をはじめるが……。元いじめられっ子の設楽、不良の太田、頼みを断れないジロー、プライドの高い渡部、後輩の俊介。寄せ集めの6人は県大会出場を目指して、襷をつなぐ。あと少し、もう少し、みんなと走りたい。涙が止まらない、傑作青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 中学生の駅伝、6人で3Kmずつ、18Kmの物語。

    何という青春なのでしょう。
    構成も素晴らしく、走る区間の学生目線で物語りが進んでいきます。
    子供たちはそれぞれ個性的で一生懸命です。
    顧問の上原先生もとても素敵です。

    どんどん引き込まれました。
    電車の中だけでなく、エスカレータでも読み続けたい感じ。
    学生時代に読んでいたら、人生が変わっていたかも。

    中学時代は失敗しても許される。
    もっと思い切って学生時代に取り組めばよかったと後悔しました。

    解説が三浦しをんさんというところもいいですね。
    子供にも大人にもお勧めの一冊でした。

  • 瀬尾まいこさんの中学男子、部活小説。
    以前「君が夏を走らせる」を読んだのだが、この話に出てくる「大田」のスピンオフ小説だったので、知っていたら、こちらを先読んだのに〜…とちょっと悔やまれた。


    田んぼや山に囲まれた長閑な環境にある、市野中学校の陸上部。
    年々生徒が減るので、部員も少ない。けれど、駅伝だけは毎年県大会に出場している。
    部長となって最後の年を迎える桝井日向は、厳しいながらも実力のある陸上部を育ててくれた顧問の満田先生が異動になり、なんの経験もない美術教師の上原先生が顧問になることを知らされ、絶望する。
    しかも、駅伝には6人必要なのに部員で長距離を走れるのは3人だけ。何とか他からスカウトしてこなければならない、頼りになるのは自分一人。
    誰でも何でも、暖かく包み込める人間になれ、と言われて育った桝井。
    この危機をどう乗り切る⁉︎


    瀬尾さんは、思春期の男子を書くのがとてもうまい。
    まだ、あどけなさを残しつつも、どう自分の殻を破っていくか実はもがいていたりする姿や、友だち同士の距離感を捉える目が鋭いと思う(最近の中学生を見る限り、彼らよりかなり幼い気がするけれど)。
    長く中学校の教師をされていたこともあり、物語からもこの年頃の子ども達に対する愛情を感じる。
    この話に出てくる、突如陸上部の顧問になってしまった美術教師の上原先生は、瀬尾さん自身がモデルなんじゃないだろうか?

    今まで読んだ瀬尾さんの小説も良かったが、これはダントツに刺さりました。
    実際の中学校生活は、こんな風にはいかないと思うけれど、それでも背中を押してくれる、希望をくれる一冊だと思う。
    「大田」だけでなく、他の子のスピンオフもお願いしたい。特に私は、「ジロー」が大のお気に入り。


    以下、桝井の心情で印象に残ったフレーズ

    小学校の時はいろんなことがそのまま楽しかった。けれど、大きくなるにつれて、少しずつ楽しさの持つ意味が変わってきた。今だって仲間と笑って遊んでいれば楽しい。でも、もっと深い楽しさがあることも知っている。
    無駄に思えることを積み上げて、ぶつかりあって、苦労して。そうやって、しんどい思いをすればしただけ、あとで得られる楽しさの度合いは大きい。

    2020.5.28

  • 父親とケンカをしたことがあった。小学校時代、見たいTV番組が重なっての主導権争いというやつだ。自分の見たかったものが何だったかはすでに記憶にない。でも父親が見たかったのが駅伝だったことははっきり覚えている。『そんなの後からニュースで結果を見ればいいだけじゃないか』自身が発した言葉をよく覚えている。

    『僕』『俺』『俺』『俺』『僕』『おれ』の6人が繋ぐ襷(たすき)。18kmを走る中学生の駅伝大会。県大会出場を目指して、学校の伝統と名誉のために臨時編成されたチーム。この作品では、そんな彼らの駅伝のスタートからゴールまでを、それぞれの過去の記憶を織り混ぜながら描いて行きます。それに合わせて第一人称が区間毎に切り替わっていきますが、これが絶妙です。同じシーンにも関わらず人が変わると見えている世界が変わっていく、その意味までもが変わっていく、同じものを見ているはずなのにその意味がこんなにも違っていたことに驚愕します。

    人はほんの些細なことにも意味をもって行動していることが多いと思います。他人から見ると何の意味もない行為が、その人にとってはとても大切なことがあります。その本当の意味を知るのはあくまで本人だけ。でもそれが伝わらない限り、他の人はそれぞれのロジックで片付けてしまう、これが誤解を生みます。そして、行き着く果ては戦争にもなるという人間社会の怖いところでもあります。

    臨時編成の駅伝チームの6人、すっかり調子を取り戻した設楽、他を寄せ付けないパワフルな走りを見せる大田、一本筋の通った根性のあるジロー、スマートさに磨きのかかった渡部、本番に向けて勢いを増すばかりの俊介、そして何故か調子の上がらない桝井が順番に描かれて行きます。第一人称の切り替えに伴って、重なり合うように描かれる同じシーンの中にメンバーそれぞれの個性が活き活きと描き出される一方で、調子の上がらない謎が謎として残される桝井。そんな謎は桝井が第一人称になる第六区で明かされます。

    『陸上だって団体競技だという人もいるけど、走っている瞬間は一人だ。快調に飛ばしていようが、苦しんでいようが、自分の区間を走るのは自分だけだ。』、桝井に過去の苦い記憶が蘇ります。スポーツは自分との戦い、団体競技としてみんなでやってきた道程を思えば思うほどに一人になった時の孤独感は辛いものです。駅伝だけじゃない。球技だって、ボールを持った瞬間は一人になるもの、この場面、この瞬間、最後は自分との戦いを勝ち抜かなくてはいけません。

    でも一方で、『誰かのために何かするって、すげえパワー出るんだな』、たとえ最後に一人になったように見えても決して一人じゃない。一人になった場面、瞬間を見守る多くの人たちがそこにいる、仲間がいる。それを力に変える、力に変えていく、そこに結果がついてくる、それがスポーツ。

    『今まで俺は何かをほしいと思ったことなどなかった。でも、今は渇望している。死ぬほどほしいものが、すぐ目の前にある。つかみたい。』という一途な気持ち。それぞれの勝利への想いと、それを見守る仲間たちの存在、それらが繋がりあって、輪になってゴールへ向かって物語は進みます。

    ネタバレという言葉があります。結果を知ってしまったら興味が失われるということでしょうか。TVの主導権争いはジャンケンによって私が勝ちましたが、父親は駅伝を録画しました。そして結果をニュースで知ってしまった後に再生しているのを見て当時の私にはその行為が全く理解できませんでした。結果がわかっているのに、ネタバレした後に何を見るのか?何が面白いのか?でも今なら少し分かります。あの時、あの瞬間に父親が見たかったもの。

    そして、襷(たすき)は渡された

    『僕は残っていた力の全てをこめて、足を前へと進ませた。もう何も身体に残さなくていいのだ。全てを前に進ませる力に変えればいいのだ。』、こんな一途な『僕』『俺』『俺』『俺』『僕』『おれ』のひたむきで、力強くそしてまっすぐな物語。そんな彼らのまさに青春をかけたこの物語に、まぶしくて、輝く光に溢れたかけがえのない時間を共有させていただきました。

    いいなぁ、この作品。

  • 表題を見て「あと少しもう少し」
    だいたいわかるし、絵を見てマラソンというのもわかるし
    読まなくてもいいなぁなんて思ってたが

    そこは瀬尾まいこにかかればこうなる。
    やられた!
    読書三昧、運動しない
    この自分、根性ものもなぁなんて
    そして中学生だしなぁ
    パスする?なんて。

    ごめんなさい。
    やはりいい、構成
    なんていっても優しいわ。、
    最後はジンときて涙。
    走りたくなる「単純」走れないから。

    始め全体の流れそしてそれぞれ
    1区、2区、3区と4.5.6区と彼等の思いが伝わる
    自分の気持ちを、相手の気持ちを思いやり、どうしても入賞して一緒に走りたいという気持ち

    素人の自分は何も知らなかった!
    やはり侮れない瀬尾まいこ!
    もっと素直になんて今だったらわかる

    この中に自分がいた。
    環境ではなく構えた中学の時の自分がいた
    それは明かさない。
    すぐ読んでしまえる。
    読んでよかった。

  • ザ・青春!爽やかな風が吹き抜けるような展開に、読者自身も彼らといっしょに走らされている気分だ。
    スポ根好きなら、きっとワクワクするに違いない。

    ——-

    中学最後の駅伝に思いを馳せる、主人公の桝井くん。しかし頼りにしていた顧問が辞めて、代わりにやってきたのが、元美術部顧問の上原先生。
    スポーツ全般がダメで、陸上のことなんて何も知らない、おまけに頼りないといった具合で、陸上部はいきなりピンチを迎えていた。

    駅伝を走るにはメンバーが足りない。
    そこでまず桝井くんは、メンバー集めに奔走する。

    集まったのは、とにかく自分に自信がない設楽くん、皆に恐れられるヤンキーの大田くん、明るいお調子者のジロー、自称芸術肌の渡部くん、桝井先輩に憧れる俊介、そして誰よりも駅伝にかける思いが強い桝井くんの6人だ。

    なんとか先生たちの力も借りて集めたメンバーは、一癖も二癖もあったけれど、このメンバーで走る駅伝は思い出に残るくらいとても素敵なものであった。

    ——-

    駅伝の1〜6区をつなぐ彼らの気持ちを襷に乗せて、次の人にへと渡す。
    区間を走っている最中は彼らの胸中が語られる。
    その秘めた想いが明かされると同時に、走りに込めた気持ち知ると、「ガンバレ!」と叫びだしそうになってしまう。
    懐かしさに似た何かが、胸に熱く込み上げてくる。

    ————-

    「わかる、わかるよ、その気持ち」と共感せずにはいられない。
    かつて自分も中学生で、何かに熱中したり、悩んだり、反抗したり、不安定な時期を乗り越えて大人になったことを彼らを見ていて思い出した。

    陸上部の顧問になった上原先生も、少しずつ生徒といっしょに成長していたのをみてほっこりした。

    仲間といっしょに汗をかくのっていいよな、青春だよな。となんだか懐かしい気持ちになった小説でした。

  • 面白かった
    中学生駅伝をテーマにした青春物語
    駅伝といえば、三浦しをんさんの「風が強く吹いている」が思い出されます。

    ストーリーとしては
    六人が3キロずつを走る駅伝大会
    まずはその六人を集めるところから始まりますが、集まった六人はとても個性的。
    そして、この六人が襷を繋ぐ形で、それぞれが語り手となって、思いを語っていくというもの。

    元いじめられっ子の設楽
    不良の大田
    なんでも引き受けるジロー
    斜に構えてプライドの高い渡辺
    部長についていく後輩の俊介
    イマイチ調子が上がらない部長の桝井

    自分の中学時代にも、「そうそう、こんな人いたよなぁ」って思い出されます。

    この六人で県大会に出場できるのか?
    といった展開です。
    そして、この陸上部の顧問の上原が、陸上素人にもかかわらず、良い味を出しています。

    六人のそれぞれの独白で明らかになる彼らの内面、その想い。そして襷を繋ぐんだという気持ちが、襷を繋ぐシーンで熱くなります。

    いいですね。スポ根青春ものは
    爽やかな読後感です。

    お勧め

  • 陸上部の名物顧問が異動となり、代わりにやってきたのは頼りない美術教師。
    部長の桝井は、中学最後の駅伝大会に向けてメンバーを募り練習をはじめるが……。
    元いじめられっ子の設楽、不良の大田、頼みを断れないジロー、プライドの高い渡部、後輩の俊介。
    寄せ集めの6人は県大会出場を目指して、襷をつなぐ。
    あと少し、もう少し、みんなと走りたい。涙が止まらない、傑作青春小説。


    ってことだが、涙は出なかった(^-^;

    しかし、中学生の駅伝部。うん。実に清々しい。
    部活大好き人間の私には、こういう物語は心地が良い(*^-^*)

    この前、何か似た本読んだなぁと思ったが、三浦しをんさんの風が強く吹いているだった。

    どちらも駅伝の話。どちらもそれぞれ襷を繋ぐ人のドラマがあって、面白かった。
    それぞれの個性もなかなかに良かった。
    真面目な頑張り屋さんな部長さん、とても好感が持てた(*^-^*)

  • 駅伝大会に挑むため、寄せ集めのメンバー6人と顧問の先生が県大会出場に向けて奮闘する青春作品。

    一気読み読了、率直に感動。
    私も中学校の3年間、情熱のすべてを注いだバスケ部時代の思ひ出が蘇って、作品の心理描写と重なるところもあって目頭が熱くなった。

    駅伝の1区〜6区間、それぞれの区間走者が、襷を繋ぐまでのリアルタイムシーンと、駅伝当日を迎えるまでの回想シーンの2つが独白形式で描かれていて斬新かつ見応えがあった。
    特に、それぞれ登場人物への命の吹き込み方〈性格、感情の持たせ方〉が秀逸でどの子たちにも感情移入が出来るほど、のめりこめた。

    強いて言えば、ラストが物足りなかった。
    もう少し余韻に浸りたかった。その思えるほど善き作品だった。

  •  桝井が最上級生になる年,鬼のようだが,陸上部を強くしてくれた顧問の満田先生が異動になった。代わりに顧問になったのは美術の上原先生。陸上を何も知らない上原先生に愛想をつかす部員たち。最悪の始まりだった。

     中学校駅伝は,男子六人で18キロで襷をつなぐ。
     陸上部で長距離をやっていて,駅伝を走れそうなのは部長の桝井と,小学校から一緒の設楽,二年の俊介のみ。他の部活から選手をかき集めてチームを作らなくてはならない。


     各区ごとに章立てされていて,その区の選手が主人公となるスタイルの小説。
     陸上に打ち込む中学生たちの青春小説……とはいいつつも,それぞれ胸のうちには傷ついたり,負い目に感じていたり,秘めていたりするものがあり……。

     登場人物それぞれに,中学生ならではの未熟な部分があって,何かしら抱えたものがあって,それでも陸上に打ち込んで,襷をつなぐ。
     こういう群像劇,ものすごく好きです。

  • 年寄りにとって、直球ど真ん中の青春スポーツ小説ほど、手を出すことにちょっとためらいを感じる作品はない。しかし、本作に関しては、素直に読むことができた。
    それぞれ個性の異なる中学生が、県大会を目指して中学駅伝の6区を走る。同じ場面が各走者の視点で繰り返されるが、決して煩雑にはならず、むしろ物語に立体感をもたらしている。それに、顧問の上原先生の立ち位置、存在が何ともいい。
    今や、この分野では古典的名作!と言ってもいい三浦しをんの『風が強く吹いている』に迫るともいえる傑作。
    若いっていいもんだ(年寄りの繰り言)

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著者プロフィール

瀬尾まいこ(せお まいこ)
1974年、大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒。2011年の退職までは、中学校で国語教諭として勤務する傍ら執筆活動を行っていた。2001年『卵の緒』で第7回坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、これが翌年単行本デビュー作となる。2005年『幸福な食卓』で第26回吉川英治文学新人賞、2008年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞をそれぞれ受賞。これまでに映画化された作品に、代表作『幸福な食卓』、『天国はまだ遠く』『僕らのごはんは明日で待ってる』。『そして、バトンは渡された』は第31回山本周五郎賞候補、2018年「本の雑誌が選ぶ上半期ベストテン」1位、「キノベス2019」1位に選出、さらに2019年本屋大賞を受賞。2019年6月13日、『優しい音楽』(新装版)を刊行。

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