下山事件(シモヤマ・ケース) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101300719

感想・レビュー・書評

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  • 1949年7月6日、初代国鉄総裁の下山定則は、国鉄常磐線の北千住-綾瀬間の線路上で轢断死体となつて発見されました。下山事件を説明すれば、たつたこれだけでありますが、現在に至るまで謎に包まれ、多くの捜査関係者やジャアナリストたちがその真相を突き止めんと、血眼になつた事件であります。
    さらに続く7月15日には三鷹事件、8月17日に松川事件が相次いで発生しましたが、いづれも未解決のまま現在に至つてをります。これら三事件を、国鉄三大事件などと称し、戦後間もない不安定な世相の中、人々を不安に陥れたさうです。

    さて下山事件。本書『下山事件(シモヤマ・ケース)』の著者・森達也氏は、映画監督の井筒和幸氏に「彼」を紹介されたところから、この事件に関つてゆくことになります。その後の森氏の苦難を思へば、井筒監督も罪なことをしました。「彼」とは、親戚が下山事件に関つたといふジャアナリストらしい(最後に正体は明らかにしてゐます)。森氏のほかに、その「彼」、斎藤茂男氏、週刊朝日の諸永裕司氏らが共同でこの事件を追ふ形になりました。しかし、「彼」も諸永氏も「下山病に感染(斎藤氏)」してしまひ、森氏を取り巻く雰囲気は俄かにきな臭くなつて参りました......これが、後に捏造騒ぎなどの問題の遠因になるのでせう。

    森氏は映像(ドキュメンタリー)が本職のせいか、その著書も一般のノンフィクションと違ひ、時系列で事件を再現する形式ではありません。取材対象を詳しく描写し、その息遣ひまで伝へんとするかのやうです。インタヴューする森氏自身の葛藤、逡巡、焦燥といつたものまで隠しません。
    読者は、新事実からどのやうな真相究明がなされたかを期待すると、当てが外れるかも知れません。しかし著者は「客観的な事実ではなく、主観的な真実を掴んだという自信がある」さうです。そして下山病のワクチンは見つけたつもりだけれど治すつもりはない、とも。それどころかこのウィルスを撒き散らして、多くの人に感染させたいらしい。迷走する取材活動の中で、最終的に辿り着いた本書の「目的」なのでせう。

    今さらながら、発表メディアの影響力いかんで、「ノンフィクション」の内容が如何様にも変化することを、森達也氏から教はつた気分です。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-675.html

  • 下山事件についてまったく知識がないまま著者に対する興味で読み始めました。戦後最大?の未解決事件下山事件の真相に迫る本なのかなと思っていたが、森さんらしく「ノンフィクション」というよりは「ドキュメンタリー番組」を見ているようで。事件に関しては、戦後日本の共産化を恐れたアメリカの思惑、職員の大量解雇や労働組合の弱体化、将来的な民営化をねらう国鉄首脳部や政府、その他権力闘争が複雑に絡み合っているように思えたのですが、結局のところ最終的な決定者(黒幕)は誰なのかはよくわからなかった。いろんな思惑があるのはわかるが、果たして国鉄総裁を残虐な方法で殺すまでして得るものとはなんだったのか。生きていてはまずいことがあったのか。脅すことが目的で殺してしまったのは予定外だったような記述もあったが、森さん自身ある程度わかっていて触れていないのかわからなかったのか、とにかくちょっと消化不良。もう少しほかの本を読んで勉強しないと私には理解できないかもしれない。情けない。なにしろ、その右翼なりフィクサーなりの大物ぶりがどうしても実感できないものだから。でもこの事件やその頃の権力者たちの決断がその後の日本の進んできた道に大きく影響しているらしいこと、それが当然のことながら現代にも地続きになっていることだけはなんとなくわかった。事件を追うのと平行して、最初の情報提供者やTBS、週刊朝日編集部とのトラブルについて赤裸々に内情を描くのは森さんらしい、かな。

  • 米軍のキャノン機関の謀略か、共産主義者の暴走か。旧日本軍の特務機関だった矢板玄とは。三越そばに今も現存するライカビルを舞台に何があったのか。あの頃の日本はどんな状況下にあったのか。筆者は戦後史の岐路だという。GHQの占領が終了してもなぜ事件は解決しなかったのか。読み進むにつれ、あの時代の空気のにおいが行間から漂いはじめ、いつしか「下山病」に感染することになるだろう。

  • 事実は小説より奇なり。

    下山事件の犯罪特異性もさることながら、取材過程で筆者に起こる様々なハプニングが赤裸々に書かれており、そのスリル感もあいまって好奇心をくすぐられ続けられる作品。

  • ビリーバットを読むのなら、この本も目を通しておくと楽しさが増すよ。

  • 某浦沢直樹の新刊で下山事件が出てくるのですが、あんまり詳しくないので下山事件本を読みたいなぁ、と思っていたところ、森達也さんが書いていたのでこれにしました。
    難しそう、だったけれどすいすい読めました。

    途中から真相探し、というより森さんがドキュメンタリー撮影の際の悩みに没入…という風に移行したけれど、そして結果的に失敗したけれど、面白かったです。

    個人的にこれ一冊でいいかなぁ、私は。
    あと二人の人の下山事件本は読む気が起きなくなりました。

  • 笠原書店で購入。下山事件を解明するルポルタージュ、として読んではいけない。ごく私的な下山事件をめぐる人々の交錯。裏切られたり、結果的に裏切ってしまったりという、ドキュメンタリー映像作家による「下山事件を解明しようとするルポルタージュ」のルポルタージュとでもいうべき作品。

  • 社会や日本の“あちら側の世界”に光をあてて、そこから逆反射した光をもって、“こちらの世界”を表現する。
    森達也さんは、その方法を確立した、優れた現代ドキュメンタリストだと思います。
    私自身、日本軍による沖縄島民惨殺事件を、ドキュメンタリーで挑戦したことがありました。でも。
    ドキュメンタリーは内面をどんどん照びあがらせ、だからこそ、撮影・描写側がしっかりとスタンスとテーマをもたないとできないものだと痛感しました。
    この本は、下山事件を「知る」ことより、その事件を通るべくして通っ手発展した、私たち自身を「見つめる」ことの重要性を示唆しています。
    最後の方で、事件についてわかったか?と問われた著者が「客観的な事実より、主観的な真実はわかったつもりだ」と応えているのが印象的でした。

著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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