誰よりも美しい妻 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2009年3月2日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784101302539

感想・レビュー・書評

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  • 堪能した。グダグダの愛憎物語に仕上げることも簡単なのに、不必要なものをばっさりと削ぎ落し、かぐわしく、凛としていて、品に満ちてる。

    世間の耳目を集めるバイオリン指導者であり、奏者である夫惣介と、楚々とし、決して生活感に擦り切れることなく、我儘な夫に沿う良妻園子。

    完璧な夫婦像でありながら、夫は易々と多情に任せ、妻を裏切る。それに気づきながら、今ある生活を何事もなく続ける園子の繊細な心の様子に痺れる。

    果たして彼女が本当に愛しているのは、夫惣介なのか、良妻としての自分自身なのか、或いは恵まれた経済性なのか…。

    善悪も答えも提示しない、ただただ描かれるそのままの男と女。荒野さんがお仕着せの正義や倫理観を作品に一切絡ませないのが粋だ。

    人の心はそんなに単純ではない。最後に明かされる夫惣介の前妻の存在に、そうだったのか、やられた~!の感。

    こういう荒野さんの作品がとても好み。また読み返したい。

  • 初めて読んだ井上荒野さんの小説。
    ひんやりと低温で淡々としているところは、どこか江國香織さんの小説とも通じるような。

    誰もが認める美貌を持つ園子。
    若くして歳上の有名ヴァイオリニストである惣介と結婚し、息子の深は小学六年という多感な年頃に差し掛かっている。
    バレエを習い、読書をして、料理に精を出し、たまに別荘で過ごす、という誰もが羨むような上流家庭の主婦として生きているが、家族三人のバランスがどこかちぐはぐなまま、日々を過ごしている。

    園子の常に超然とした態度って、男の人にとってはある意味脅威なのではないかと思った。
    例えば夫の浮気の証拠を見つけても、見つけなかったふりを装う。そうなると夫は妻にバレていることに気づかないまま過ごすことになる。
    浮気の証拠をあげつらってキーキー言う女と、何も見なかったふりをして超然としている女では、果たしてどちらが恐ろしいか。
    それも園子は諦めているからそうするわけではなさそうなので、自分の身に置き換えて考えてみると、壮絶な心理状態だと思う。
    きちんと見てると園子に嫉妬心がないわけではなさそうなのだけど、それなのにこれだけ低温だというのが不思議。

    美しいということ。そして美しいという自負があること。
    女性はそれがあるか無いかで人生ががらりと変わると思う。
    その自負は自意識にもかなり影響を与えるから、園子の在り方は、もしかしたらその自意識から来るものなのかもしれない。美しい人間は、美しく居なければならない、という自意識。

    ごく限られた登場人物で成り立っていて、語り手が順繰りに変わっていく構成なのだけど、その中で夫婦について客観的に語る人物が息子の深だけということが、ミステリアスで低温な雰囲気を増させているような気がした。

  • 本当に美しい妻でした。

  • この作家の本、全て読みたい。あらゆる文章がみずみずしくてすき。本にありがちな「不倫」という題材。でも女の人はそれを知っていてもその後もだんなさんとは別れないことは多い、そして諦めてしまうのだ。それって怠惰なのかな?

  • 不思議な関係が幾重にも重なりあっている物語。いつものことながら、井上荒野が描く女性は安易な形容を拒む。

    身勝手でわがままで浮気性の夫と、それに「耐える」妻、あるいはそれを「許す」妻、という、女の側が無理にでもがまんする構図とそこから生まれる葛藤やドラマというのだったら見慣れているしわかりやすい、のだが、この「誰よりも美しい」妻は、そういったタイプとはまったく別の地平にいる。

    彼女はなによりも自分にとってなにが幸せか、をよく理解している。それは夫に愛されることで、夫のすべてを愛することでもある。こうして書いてしまうととても陳腐にきこえるが、こどものように、欲望のまま、奔放にしかできない相手のためにその気持ちによりそっていながら、それが我慢やストレスにならないばかりか、むしろ満ち足りた気持ちであたかも自然なこととして日々生活している主人公の神経は尋常ではない。

    彼女は、夫をかたちづくっているすべての要素の、どれかひとつでも欠けたらうまくいかないことを知っている。知っているから、周りからみたら不自然なこともさらりとうけいれ自分の日常のこととしてとりこんでいく。この落ち着き様はちょっと不気味なくらいだ。

    おもしろいのは、そういう両親の関係性を観察している1人息子のまなざし。彼の視点がはいることで、ふたりの世界の閉塞感が軽減されている気がする。ふたりにかかわる他の人々はいろんなさざ波をたてていくのだけれど、息子だけはしずかに、かかわらずに傍観している感じ。そのあたり彼は母親によく似ているかもしれない。

  • 短編以外では初読み。
    江國香織から濃厚さをなくした感じか。
    江國的なのはお腹いっぱいなので、これ以外を読んで、同じようならもういいな。

  • とてつもなく不穏で、かなしくて、うつくしい。
    破綻したまま成り立っている、そのバランスが、人生だと思う。

    荒野さんの描写はいつも簡潔で的確で、好きです。

  • 荒野さんの文章は陰翳があって好き。

  • この夫婦の精神構造がいまいち理解できない...。

  • 何かを信じ続けるのはとてもむずかしい。だから一度信じると決めたら、信じ続けなければならないからだ。

  • 2019 11/16

  • 著者の本、他にも読んだ気がするんだけど、これしか持ってないし、他に買う気もあまりない。
    でもこの本はたまに読み返してしまう。
    あと、なぜか著者からの連想で、大学の友達を思い出してしまう。
    何故?好きだったのかなあ?
    内容はまあ、いつも読み返す通り、軽くて重くて好き。
    何が好きなんだろうなあー。

  • 面白かった。主人公の女性のぶれない姿。形式的には通り一遍ではない人間関係を、違和感なく主人公を理解できるよう描く筆者の力量に興味が湧いた。他の作品も読んでみたい。

  • 井上光晴氏の娘、井上荒野さんの「誰よりも美しい妻」、2009.3発行(文庫)です。大学勤務で女子学生などと浮気に走る安海(あずみ)惣介48歳、みんなが驚くほどの美人妻園子33歳の物語。夫に裏切られてても、嫉妬せず、問い質しもせず、平然としているかのような園子。優しいのか冷たいのか、自由な身なのか不自由なのか、幸せなのか不幸なのか。園子の心の内は掴めるようで定かではありません。12歳の息子深(しん)、安海の友人で園子に心を寄せる広渡、安海の前妻みちるなどが物語に幅と深みを与えています。これぞ小説という感じ!

  • ヴァイオリニストの夫と小学六年生の息子を持つ園子。
    美しく、夫の意のままに生きることを当然として生活する彼女は、夫の望む通りの妻であり続ける。
    夫の浮気を知りながらもそれを黙殺し、その浮気相手に罵倒されても平然としている。
    周囲から嫌味を言われてまったく気にしない。

    園子と夫の作り物のように完璧な家庭、夫と浮気相手たち、園子に恋心を抱く夫の親友などが重層的に物語を作っていく。
    破滅のストーリーがあるわけでなく、あくまで淡々と物語は進む。
    退屈に感じるかも知れないが、奇妙な園子の生活と思考が興味深く、味わって読み進められた。文章のリズムも独特である。

    登場人物のほとんどが、人をイライラさせるような言動を取るのだが、憎みきれない人間らしさがある。
    家族・恋愛モノというよりファンタジーのような世界を感じた。

  • 支配されているようで支配していて、支配しているようで支配されている、みたいな。

  • 勝手すぎる夫も何も言わない妻も
    解らないけど嫌いになれない。

    息子が大人で良い感じ。

  • 主人公の男に対して「何様のつもりだこの男は!」と思いながら、なんだかんだいって読了。この恋愛観は全く理解できないし、おそらく今後自分が体験することはないと思うのだけれど、面倒で不穏な恋の修羅場といったような今後改めて自分の知り得ないであろう世界を魅せてくれる本っていいなと思った。物語中に出てくる料理、食べ物の描写がとてもステキで食事という行為を大切にしたくなる。

  • 誰よりも美しい妻とは幸せなのか。
    自他共に美しい妻とその夫、息子のお話。
    美しいから、常に愛されているからといって幸せとは限らない。
    愛すのは1人だけではない。美しければそれでいいという事を考えていたが、そうではないのかもしれない。なにが一体幸せなのか。いろんな人の感情が交差してとても複雑なものとなっている。
    だが、とてもキラキラした文章のようにも感じた。
    透明感のある、淀みのないものが感じられた。
    井上先生の本を他にも読んでみたい。

  • ずいぶん前に読んだ、オトナな小説。
    夫婦ってなんなのか、愛し合う形ってなんなのかわからなくなった。
    現実にもこういう夫婦って、いるんだろうな、多分。

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著者プロフィール

1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞、2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』で直木賞、2011年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、2016年『赤へ』で柴田錬三郎賞、2018年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞を受賞。他の作品に『もう切るわ』『ひどい感じ 父・井上光晴』『夜を着る』『リストランテ アモーレ』『あちらにいる鬼』『あたしたち、海へ』『そこにはいない男たちについて』『百合中毒』『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』『小説家の一日』『僕の女を探しているんだ』『照子と瑠衣』『猛獣ども』『しずかなパレード』などがある。

「2025年 『私たちが轢かなかった鹿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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