切羽へ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.21
  • (20)
  • (46)
  • (77)
  • (32)
  • (8)
本棚登録 : 491
レビュー : 87
  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101302546

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 第139回直木賞受賞作。
    離島の小学校の養護教諭の麻生セイ31歳がみた、1年間の島の様々な人間模様。

    セイは島の診療所の医者だった父の娘で、一度は東京に出たこともありますが、今は両親は亡くなって、画家である幼ななじみの三歳年上の夫の陽介と二人で暮らしています。
    島で一つきりの学校である小学校に勤めています。

    同僚の教師月江は、生まれも育ちも東京ですが、五年前から島にいます。月江は独身ですが、妻のある愛人が本土にいて、本土さんと呼ばれるその人は時々、島に月江に会いにやってきます。そのロマンスは島民、全部が知っています。

    小学校の生徒は9人で、教師は他に校長先生と教頭先生だけです。
    そこへ、新任の音楽教師、石和聡が赴任してきて、セイも心がざわついてきます。
    90才の島の老嬢、しずかさんにはセイの心の内を見透かされたようなことを言われて落ち着きません。

    小さな島の何事もない日常だけれど、石和が現れて少しずつ変化していく様子が描かれていきます。
    島ののんびりとした空気、小学校の生徒たちが石和のピアノに合わせて歌っている場面など情景が鮮やかに浮かんできました。

    しずかや、夫の陽介も存在感があり淡々とした一連の出来事もはっきりとその空気感がみえてくるようなしみじみとした作品でした。
    大きな事件もありませんが、平易な文章で情感がありました。

  • これの前に小学生が主人公の本を読んでいたらから、いきなりの大人な内容だな(笑)。
    島の狭い人間関係と切なさがうまく混じりあっていてなんとも言えない雰囲気がある。
    現在、田舎暮らし。
    そういや、田舎暮らしも島ぐらしに近いものがあるように思う。昔から住んでる人とよそ者は区別しているし、周囲で起こったことはあっという間に広まるし。
    近所は皆家族ってな感じ!?
    隠し事なんてできそうもないもん。
    そんな狭い世界で、島外から人がやってくるとか日常と違うことがあったら心がざわざわしそう。
    石和の独特の雰囲気が余計にこちらの心も揺さぶってくるし……。
    よくわからないって気になるものね〜。

  • 硝子越しに、覗いてるような印象。
    もや~として、はっきりしないところが、上品。

    九州地方の島に住む、養護教諭のセイは結婚4年目に
    なる画家の夫と穏やかな生活を送っている。
    奔放な同僚の教師、月江や炭鉱をしていた亡き夫を求め続ける老婆や、無邪気な島の子供たち。
    ある日、音楽の教師として島に赴任してきた石和。

    表面上、セイと石和の関係は何もなく思え
    本土から月江を訪ねてくる愛人
    この二人の関係のほうが
    大きくゆれ動くように思えた。

    「トンネルを掘っていくいちばん先を、切羽というとよ。
    トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまうとばってん、掘り続けている間は、いつも、いちばん先が、
    切羽」

    最後の、セイと石和の最後にかわすセイの言葉。
    二人は、はたから見れば何もない関係に見えると思うが
    セイは初めて会った時から多分、石和に引かれ、
    石和もセイにどこか心惹かれているように感じる。
    文の所々から感じる二人の想い。
    もう、後戻りができない、どうしようもなさ。

    解説の「皆、切羽に立っているような気がする」
    この一文が小説を表していると読後感じた。

    表紙を見て気づいたのはタイトルが
    「せっぱへ」ではなく「きりはへ」だった。

  • 文章がきれいだなと読み始めてすぐ感じました。
    これでもか!と書き込まれた文章ではないからか
    素直に心に響く。

    恋愛の始まりって、「あ、素敵」じゃなくて、
    「何この人?」という反感に近いものだったりすること、
    お互いが惹かれあったときは、言葉は要らないこと・・・

    こういう話を自分も書きたかったのかも
    しれないなぁ。

  • わたしには良さがわからなかった。
    「語らない」ところがいいらしいけど、語ってほしいと思いながら読んでしまった。

  • 映画『つやのよる』が面白くなかったため期待してなかったけど、この人の小説は多分、文章で感じるもので、映像にしたらつまらくなって当たり前なんだと分かった。
    霧の中に隠された何かに引かれる感じ、そんなのは映像じゃ無理だもの。
    ぼんやりした理解だけど、登場人物はみんな好き。特に主人公の夫、理想的。

  • 2019 7/13


  • 日々の暮らしの中で、
    切羽詰まる、追い詰められ方は何度か味わっているけれど、ルーツは「切羽(きりは)」だとは知らなかったし、そもそも、切羽(きりは)」という言葉すら知らなかった。

    山田詠美さんが解説。

    抑制的で読者の想像に委ねている描写。
    わたしは好き。
    書かない言葉もあるという美しさもあると思うから。

    淡い、大人の恋愛。

  • 滴るような感情のひとすくいひとすくいを積み重ねていき。書かれている表面だけを捉えれば、セイと石和の間にはほぼ何も起こらず、気持ちもそれほど通じあわず、けれども月江には察知されていて、と。だけど、そうではない、書かれてないところにこそ…と言われるとたしかにそうも読めるかな、と。切羽。トンネルを両側から掘っていくとき、その間に横たわるもの、掘れば掘るほど少なくなっていき、通じたときにはなくなるもの。それは、二人の気持ちが通じあうまでの比喩として持ち出されているのだろう。

  • 心が惹かれ合う2人の様子が描かれている。
    一般的な恋愛によくあることは何も起こらない。
    山田詠美さんの書評にもあったように、書かないことも大切にしている小説なので、状況や気持ちなど読者の理解に委ねている部分も多く、もどかしい気持ちになる。
    直木賞といえばエンターテイメント性が高いものばかりだと思っていたが、この小説はいわゆる地味なものだった。

全87件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1961年東京都生まれ。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞、2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で直木賞、11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞を受賞。ほかに、『もう切るわ』『だりや荘』『誰よりも美しい妻』『ベーコン』『つやのよる』『キャベツ炒めに捧ぐ』『ほろびぬ姫』『虫娘』『悪い恋人』『リストランテ アモーレ』『ひどい感じ 父・井上光晴』『ママがやった』など著書多数。

「2018年 『100万分の1回のねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

切羽へ (新潮文庫)のその他の作品

切羽へ(新潮文庫) Kindle版 切羽へ(新潮文庫) 井上荒野
切羽へ ハードカバー 切羽へ 井上荒野

井上荒野の作品

切羽へ (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする