炎路を行く者: 守り人作品集 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101302843

作品紹介・あらすじ

『蒼路の旅人』、『天と地の守り人』で暗躍したタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ。彼は何故、祖国を滅ぼし家族を奪った王子に仕えることになったのか。謎多きヒュウゴの少年時代を描いた「炎路の旅人」。そして、女用心棒バルサが養父ジグロと過酷な旅を続けながら成長していく少女時代を描いた「十五の我には」。──やがて、チャグム皇子と出会う二人の十代の物語2編を収録した、シリーズ最新刊。

感想・レビュー・書評

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  • 守り人シリーズの番外編。
    本編の『蒼路の旅人』から登場する『ヒューゴ』の物語とまだ自分を抑えることのできなき15歳のバルサの物語。

    謎多きヒューゴの生い立ちがわかって番外編ながら楽しめるお話しでした。

  • 上橋菜穂子さんの作品は守り人シリーズ、獣の奏者、鹿の王などなどかなり読んでいるが、本作は買ったまま読み落としていたようだ。今回見つけて読んでみたが、やはり面白い。上橋作品の登場人物たちは味方も敵も主役も脇役もそれぞれに個性的であるとともに、超人的であるかと思えばどこか人間臭さもあり、そこにまた魅力を感じる。本作を読んで、あらためてそれぞれの人物が形成されていく背景にも本編に勝るとも劣らない物語があることに驚いた。ファンタジーが嫌いでなければどの作品もお薦めだ。

  • タルシュ帝国ラウル王子に仕える密偵のターク・ヒュウゴ。タルシュ帝国に祖国のヨゴ皇国を侵略され、タルシュ帝国の密偵になるまでの生い立ちを描いた作品。天と地の守り人でもかっこいい役柄だったけど、一層ヒュウゴが好きになった。こういうスピンオフはファンには堪らない。
    短編ではあるが、良作であった。

  • ここのところ現実的な物事についての本ばかり読んでいたからか、ふと物語が読みたくなり、上橋菜穂子さんの守り人シリーズから、未読の本を。
    上橋さんの本、あまりに面白くて大好きなので、一気によんでしまうのがもったいなく、物語欲が高まったときに、少しずつおろしている。

    本書はシリーズの番外編のような位置づけの一冊。
    シリーズ本編から時を20年ほど遡り、主要な登場人物であるバルサとヒュウゴ、それぞれの10代半ばごろの日々を描いた小編が2つ収められている。
    小編とはいえ、激しい戦乱と複雑な謀略、その中で必死に生きる人びとの細やかな感情の揺れ、豊かな生活風俗、ナユグと呼ばれる異世界の幻想的な精霊たちを、自在に描写するスケール感は本編と何ら変わらない。

    特に好きなのは、バルサの少女時代を描いた「十五の我には」。
    本編では圧倒的な強さをもつ短槍使いの用心棒として描かれる彼女が、若さゆえ、戦いを読み誤り、その失敗を取り返そうとしてさらに厳しい状況を招き、それでも自分を受け入れられずに強がって涙している姿に意表をつかれ、一方でそうした過程を積み重ねが今の彼女をつくったのだと、深く納得する。
    養父であるジグロの言葉の少ない優しさも沁みた。
    どの大人にも子供だった時代があって、また、大人と言えど決して成熟しているわけではない。
    当たり前のことだけれど、この二つの作品はそれを思い出させてくれた。

    頭の中まで物語の世界につかって心を添わせるのは、本当に楽しい。
    電車に揺られる細切れの時間を、幸せなひとときに変えてくれる一冊でした。

  • 物語本編にも出てくるヒューゴの物語。
    飄々としたキレ者というイメージが本編で抱いた彼の印象。しかしこの外伝を読んで、彼の中に渦巻く炎のような激情を見た。彼がどんな思いでタルシュの鷹になったのか‥。彼の故国であるヨゴの民が幸せに暮らせるようにという彼の夢が叶うことを信じて。

    そしてバルサの外伝。ジグロとの温かな関係。お互い言葉は少ないけれど確かにそこには家族と同じような愛がある。今はどうしたらいいか分からないような暗闇を歩いているかもしれないけれど、5年後には「あのときは何を悩んでたんだろう」と笑い飛ばせるように‥。私もそう思えるように、今を精一杯生きよう。

    最後に、素敵なファンタジーに出会えてとても幸せでした。シリーズの全てを読み終えてしまったことがとても寂しいです。
    バルサがジグロのことを忘れられないように、チャグムもきっとバルサのことを忘れることはないのだろうな。

  • 守り人シリーズのスピンオフ。
    ヒュウゴとバルサの青年期の話です。

    実は、本編に登場するヒュウゴはあんまり好きではありませんでした。
    信念がどんなものか見えず、掴みどころがなくて、ヒュウゴの思惑に踊っている部分もあったように見えたからです。
    しかも、どうしてそのポジションにいるの、もっと力があるならもっと上に…とか色々見えないからこそ思うことが沢山ありました。

    ですが!!

    この守り人シリーズを読んでいて、初めて泣きました。苦笑

    ヒュウゴも絶望の深淵を覗いていたんですね。
    バルサ、チャグムと同じように、それぞれにとても暗く苦しく自分の力ではどうにもできない大きな渦の中で戦っていたんですね。

    そしてヒュウゴの経験は、私が想像していたものよりもはるかに過酷でした。

    読んでいて、何度も泣きそうになって、そして泣いちゃいました。苦笑

    本編のヒュウゴがとてもくっきりとして、輪郭ができたような感じです。
    もっと注目して読んでおけばよかった。読み返します。

    大半はヒュウゴの話ですが、二作目はバルサが15歳のときの話です。
    前作から、さらにバルサは研ぎ澄まされていっていますが、バルサの人の心というか、気持ちが痛いほど伝わってくるし、ジグロの存在の大きさをとにかく感じます。
    どこへ向かっても、茨と崖しかないような道を進んでいくバルサ。とにかくギリギリの生活です。
    バルサもジグロもお互いを思っているからこそ、というのが見えて心が痛かったです。

    スピンオフの二作を読んで、バルサとヒュウゴが立体的になって、物語に厚みが増したように思います。

    願わくば、またどこかで再会したいです。

  • まさかの未読と言うことが判明して慌てて読む。
    本編で出てくる底の知れないけど、でも憎めずむしろ好感を抱くヒューゴの過去。
    きっと国のため人を殺める事も致し方ないと割り切れる強さは武人の家の出だからあるのだろうけど、心の奥ではある意味チャグムと凄く似た性格なんだと思った。
    あと、もう一遍入っていた15の夜にはもう本当に心に沁み入った。大人になったらからそうそう。と、頷けるこの話ももっと若い学生の時に読んだらどんな思いになったか…絶対にもう分からないけど体感してみたかった。

  • 最後の外伝である。もうこれで終わりなのだろうか、と少し淋しくなった。ヒョウゴの青年期を描いた「炎路の旅人」は、その序章と終章で「天と地の守り人」の第二部最終盤の状況を見せ、15歳のバルサを描いた「十五の我には」では、「天と地の守り人」第三部の序盤の一シーンをも見せた。本篇は、これにより膨らみはしたが、未来は見せていない。未来を見通す眼を見せてくれたのかもしれない。

    いまは亡きヨゴ国武人階級「帝の盾」の息子だったヒョウゴは、九死に一生を得て市中で暮らしている間も、自分の居場所がわからない。命を助けてもらった女性に商売人になったら?といわれて反発する。

    「タルシュの枝国になっちまったこの国で、そんなふうに根を下ろすってことは、タルシュに征服されたことを納得したってことじゃねぇか!土足で踏み込んできた強盗に、のうのうと自分の家に居座られて、そいつらを食わせるために身を粉にして働くなんて冗談じゃねぇと、なんでだれも思わないんだ?なんで、そんなに簡単に納得しちまうんだ?」

    守り人シリーズ通して現れる「異界」、それを見ることの出来る女性は、しかし病気の父親を抱えた貧しい市井の人だった。

    ー降っても照っても‥‥
    かすかな苦いものをふくんだ、しずかな思いが伝わってきた。
    ーわたしらは、ここで生きてきたし、ここで生きていくんだもの。(215p)

    枠の中にいる限り、枠の世界は見えてこない。飛び出さねばならない。しかし、それは枠の外のタルシュ帝国に入ることを意味するだろう。それが出来る人間と出来ない人間がいる。ヒョウゴは意を決してタルシュの武人になる道を選ぶ。それは確かに炎路を行くことになるだろう。むつかしい道だったと思うし、具体的にどんな困難があったのかは、本篇で少しは描かれているが、全体像はわからないし、本篇以降のことは更にわからない。ただ、「異界」を見ることの出来る女性のことがずっとヒョウゴの中にある限り、私たちは安心して彼のことを見ていられる。

    ナユグといい、ノユークといい、バルサの世界の「異界」について、上橋菜穂子さんは「別の生態系を持った、人や神の意思とは全く関係のない世界です」とテレビシリーズの演出家に語ったらしい。バルサの世界も、我々地球上の現代風に科学が発達すれば、そろそろ「異界」を本格的に解明しているのかもしれないが、中世のこの頃では、むしろ「異界」とは、我々のいう「運命」と云われるものだったのかもしれない、とふと感想を持った。もしそうならば、21世紀になっても未だ我々に目に見えない「運命」は、微かに見える彼らを手本にして、乗り越えていくべきモノなのかもしれない。

    2017年2月読了

  • 短編2作、ヒューゴの若い頃と、バルサの若い頃のエピソード。ヒューゴがどんなキャラクターだったのか漠然としか覚えてないが、大変楽しく読めた。それより、テレビドラマ化するというのを帯をみて初めて知ったが、よくよくあとがきまで読んでみると、シーズン3だということが分った。それだけポピュラーな作品になったのだなと改めて嬉しくなった。しかしながら私の脳内映像化バルサはいつもジーナ・カラーノだったりする。1作目が出た時に、某新聞の読書欄で大人も読める極上のファンタジーとかなんとか言うレビューに惹かれて読みはじめたのを思い出した。引っ越しで手放してしまったのでまた全作再購入再読したいと思う。

  • 思えば2008年の年頭に「おすすめ文庫王国 2008」でベスト1とされた「精霊の守り人」に出会って以来のこのシリーズ、この本も年頭に読む。
    漆黒の闇、紅蓮の炎、山の蒼さ、海の碧さ…、相変わらず色彩感豊かに描かれる物語は、ヒュウゴがタルシュ帝国の密偵になる前の経緯を語る。
    正直言って、ヒュウゴがどのような役回しになっていたか定かに覚えてないのだけれど、自分の「天と地の守り人〈第3部〉」の感想を読むと、『苦い思いを胸に抱きながらそれでも拷問に耐えるヒュウゴの信念』と書いてあり、この前日譚に繋がるものがあるんだろうなと感じた。
    シリーズが大団円を迎えた後にこうしてぽつぽつと出される短いお話は、勿論それぞれに味わい深いものがあるけれど、この程度ではなかなか満足出来ず、最早良く覚えていないこともあって、いつかもう一度、シリーズ通して読み返そう。

    短いバルサの話で紹介された“ロルアの詩”は、なかなか味わい深いなぁ。

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著者プロフィール

作家、川村学園女子大学特任教授。1989年『精霊の木』でデビュー。著書に野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、野間児童文芸賞を受賞した『狐笛のかなた』、「獣の奏者」シリーズなどがある。海外での評価も高く、2009年に英語版『精霊の守り人』で米国バチェルダー賞を受賞。14年には「小さなノーベル賞」ともいわれる国際アンデルセン賞〈作家賞〉を受賞。2015年『鹿の王』で本屋大賞、第四回日本医療小説大賞を受賞。

「2020年 『鹿の王 4』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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