- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101304557
感想・レビュー・書評
-
2017年に読んだ同じ著者の『離陸』と同じようなテイストか。現実の世界が舞台なんだけど何だか摩訶不思議なことが起こっているという意味で。
私は現実にあるような物語を読むのが好きなので、読み始めの頃は何とも読みにくさを感じたし、その後もスイスイ身の内に入ってくるような感じはしなかったんだけど、どこか定年間近の中年男が自分の歩いてきた道を振り返るような運びにはもののあはれ的な意味で共感をもてた気がする。最初はまったくさえずつまらないおっさんに思えた省三さんだけど、亡き妻に手紙を書いたり思い出を懐かしんだり、いろんな感情をもっていることが露わになってきて魅力が出てくるのも面白いものだった。想像で思い描く省三さん像も読み始め当初より髪が増えたり背筋が伸びたりしてカッコよくなっていった。
一族の末裔として昔を振り返る「旅」をすることで、何となくしっくりいっていなかった娘や息子、長く音信不通だった弟との新たな関係が開けていきそうな終わり方もよかったね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あまり期待せず読んだけど、思いの外面白かった。
-
主人公の男は喪失感と虚無感の中彷徨いながらも、小さな希望を見つけまた現実と向き合って歩き出した。絲山秋子は少し村上春樹に似ている気がする。好きな作家。
-
再読。
絲山秋子は、つねに「意外なオチ」を用意している。職人のようだ。伊坂幸太郎に似ているかもしれない。
この小説では、桜田ミミがいい仕事をしている。 -
単行本で読んでいたものの再読。
爽快感ある作品。
以下、読書メモ。
「「あんた、筋書きでしかでしか行動できないのか」
「筋書きというのを、運命と言い換えていいのなら、その通りです」」
「家族というのは、お互いの一面しか知らないし、見ようとしないものだね。そうでないと、一緒に暮らしたり、長いことつきあったりして行けないんだ。」
「「生きるのに必死」と「死」はぞっとするほど近い、境界線が複雑に入り組んだ場所にある。あるときは生きる方に傾き、あるときは一瞬にして死に傾いてしまう。」 -
鍵穴がないなんてもしやファンタジー?と思ったけどそうでもないみたい。乙も不思議な人。ちょこちょこ出てくる犬がなんだかおかしいのに妙にほっこり。
-
現実なのか夢なのか、はっきりしない話。最初、くたびれた中年男性に惹かれるか不安だったが、気づけば周りの景色も忘れるくらいこの本の世界に入り込んだ。言葉少なだった父のこと、自分はどれだけ理解してきただろうか、と読みながら思う。過去と死者が膨大にあり、今の自分がいる、のだと思うと、流れの中の小さな存在だということに安心する。
暗いようで前向き。今この本を読んでよかった。 -
突然自宅の鍵穴がなくなった高齢男性が幻想世界の登場人物たちにめぐりあいながらファミリーヒストリーを思い出していく話。まあ面白かったけど、何だかなあ。
空気感が伝わってくるようなところがあり、空想?の登場人物たちも良かったし、物語を私の心だけの問題からその周囲環境・歴史の問題へと開き、そこでの調和の再獲得というスケールに広げようとしている、云々。確かに良いのだけど、うーん。 -
読み進めていく中で、生きている人と死んでいる人が交流している?交錯している?
ちょっと不思議な内容でしたが、静かに死と対面するような、そしてこの世だけどあの世の次元とつながっているのかな?っていうような感じがすごく素敵に描かれていて、良かったです。
かといってホラーでもファンシーでもない。
そういうところがとても良かったです。
何より、文章や表現力がすばらしいので読み進めていくのが楽しくて、絲山さんの作品は大好きです^^