信長燃ゆ(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (555ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101305172

作品紹介・あらすじ

「王権守護」-甲斐武田家を滅ぼし、さらに勢力を増した信長は、いつしか朝廷の禁忌に触れつつあった。ついに信長への離反を決意する前関白・近衛前久。朝廷に身を置きながら、信長と深く結びついてしまった東宮夫人・晴子。信長というあまりにも大きい存在に畏怖と動揺を隠せない明智光秀、羽柴秀吉。周到な陰謀が、天下人を追いつめはじめ、すべての意志が本能寺へ結集する。

感想・レビュー・書評

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  • 読んだ本 信長燃ゆ 安部龍太郎 20230428
     何故、明智光秀は本能寺の変に及んだか。
     その謎を解くというよりは、そこに至るまでの信長という人間の思想の変遷を描いた小説でした。
     何故、明智光秀を本能寺の変に及ばせたか。ってことです。
     NHKの歴史探偵か何かで、安土城で神になろうとした信長の史跡が紹介されてましたが、そういった土台に乗って、物語が構築されてるんですね。そう言えば、解説に安部龍太郎が出てたような気がします。
     陰謀には、秀吉も関与しているってことで。確かに、秀吉の中国大返しなんか、あんな奇跡的なことが起きるわけない。って素直に思っちゃいますよね。ここだけでも、もう一本小説が書けそうな気がしました。
     上中下巻ぐらいあってもよかったのでは。
     それにしても、歴史上の人物が事績だけで描かれず、それぞれにキャラクターがはっきりしてて、面白かったです。

  • 本能寺の変について、朝廷黒幕説にて展開していく。近衛前久らの朝廷内部での陰謀、日本社会の神道をも否定しようとし、朝廷の権威を塗り替え、安土遷都をも考えていた信長。
    非常に説得力ある展開。単なる怨恨ではなく、朝廷をも巻き込まないと、当時の魔王織田信長を討つ事は、出来なかったであろう。

  • 本能寺の変が『黒幕陰謀説』に則って描かれている。

    信長はイスパニア・ポルトガルなど外国の脅威からこの国を守り、彼の国に比す国力を持ってアメリカに進出しようと天下統一を急ぐ。
    そのためにはこの国の因習・政治勢力を一掃させるため、朝廷・天皇を凌駕する権力を持とうと正親町天皇を譲位させ、誠仁親王に践祚。征夷大将軍の任命を受け、武の頂点に立った上、自らの嗣子、誠仁親王の五の宮を次の天皇につけるよう圧力をかけ、即位と同時に自ら太上天皇となり、公の頂点に立とうとする。

    これに対し、前の関白近衛前久がもう一人の主人公。信長の野望を打ち砕くため、様々な陰謀を図り、明智光秀をして信長を打倒する。

    読めば読むほどこの説が真実に思えてしまう。

    誠仁親王の夫人、勧修寺晴子と信長の恋も彩を添え、当時の公家の生活の一端を垣間見ることもできる。

    初めに本能寺の変の描写があり、あとはその直前までに向かう物語が展開する。物語の構成も読む者を満足させる。

  • 対立構造が、はっきりしていて読みやすい。

    第三者の目線で書かれている信長と近衛前久。

    黒幕となる朝廷

    朝廷、公家社会にいながら信長に恋焦がれる観修寺晴子。

    非常に揺さぶられる作品であった。

    最近の研究を取り入れながらの作品で高評価できる。

    しかしながら、言い回しや文書の好みの問題でこの評価にした。

  • 2020年、25冊目です。

  • 途中まで良いキャラ立ち
    ラストは通説に落ちてしまう

  • 信長の行動は西洋諸国による侵略から日本を守り、逆に海外に勢力を伸ばすために神道に裏付けられた皇族と公卿による支配体制からの脱却を目指したものだと思えば、あの時代に進歩的な考え方を持っていた偉大な人だったのだなと思う反面、それでも歴史に残る残る残虐行為を認めることはできない。
    近衛前嗣のしたたかぶりもなかなかのものですね。
    あと、この物語にロマンスが必要だったかは疑問です。

  • 安部龍太郎氏の小説をはじめて読みました、信長燃ゆ、下巻です。武田家が滅亡するところを、武田の視点から書かれていて興味深くよめました。

    この本を読むことにより、信長は絶頂期において、有名な「三職推任=征夷大将軍・関白・太政大臣」を断りましたが、本当は征夷大将軍になることで権力を握り、将軍の座を譲って、天皇家に嫁がせた猶子の生んだ子供を天皇にさせることで、太上天皇になることで、朝廷・幕府の両者の権力を握ることで日本を変えようとしていた、という著者である安部氏の考え方はよく理解できました。

    歴史の勉強をしていただけでは学ぶことのできない、小説を読みながらの楽しい授業を受けている気分になりました。

    以下は気になったポイントです。

    ・朝廷に対して、庶民(おおだみから)の敬慕や尊崇の念しか頼るべきものしかない、そうした心情をこの国に扶植するために、朝廷には、宗教・文芸・芸能などあらゆる分野を主導し、庶民に範を示してきた。なので武家政権を打ち立てた者も、朝権そのものにまでは手を付けることをはばかった。信長は異なるが(p63)

    ・朝廷では、古来より、不破・鈴鹿・明石の外は、異邦の地だと考えてきた。畿内(きだい)とは朝廷の意向が届く範囲という意味であり、その外側は外国である。なので都でのように細々とした仕来りに縛られることもない(p101)

    ・バスコダガマがインドに到着した11年後の1509年、ポルトガルの艦隊は、インドのディウ沖海戦で、イスラム教国の連合艦隊を破り、インド洋交易の支配権を確立した。それ以後、インド洋沿岸の港に要塞を築いて交易を支配し、内紛に介入して植民地化していった(p125)

    ・近衛前久は、本願寺を拠点として、信長滅ぼすために暗躍する。比叡山延暦寺が浅井・朝倉についたのも、本願寺が禁をおかして一向一揆に挙兵を命じたのも、彼の根回しの結果である(p189)

    ・人は何のために生きるのか、信仰心というものがなければ人は決して満足できない、なぜなら心の奥底に眠る記憶が、前世や来世があることを知っているから。いかに法度をきびしくしたことろで、信仰心がなければ人は決して心底から従いはしない。罪も報いもこの世限りのことでしかないと思うなら、人は我慾に負けてどんな罪でも犯すだろう(p195)

    ・近衛家の祖神である天児屋根命(あまのこやねのみこと)は、天照大御神から瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の統治を助けよとの命を受けてこの国に下った、以来、中臣・藤原・近衛と、姓こそ変わったが、一貫して朝廷を守り通してきた(p203)

    ・信忠を将軍にしたら、足利幕府にならって三管領家を設置し、信雄・信孝と、徳川家を充てる。こうすれば織田家の天下が揺らぐことは無い(p253)

    ・信長公が葬られた理由は、朝廷の上にたとうとしたから(p270)

    ・足利幕府を再興して義昭を上洛、細川・斯波・畠山の三管領家、一色・山名・京極・赤松の四識家に檄を飛ばして、決起をうながしている(p280

    ・家康の饗応役は、光秀が急に出陣することになったので、信長自らが後任を務めた。厳しい役目を与えたが、このことを伝え聞けば光秀も意のあるところを分かってくれるはずであった。家康と梅雪は、恐縮したことであろう(p372)

    ・信長の計画では、幕府は安土ではなく、大坂。海に開けたところでなければ、イスパニアには対抗できない(p374)

    ・打倒信長と足利幕府再興を誓う血判状を出したのは、三管領・四識家、その上に信長によって所領を奪われた大名であった、めぼしいのは、武田元明・朽木元網・京極高次であった(p377)

    ・吉田神社は、春日大社・大原野神社と並ぶ、藤原家氏神三社のひとつである(p387)

    ・神社ばかりか寺院までが、二重三重の周到さで朝廷の権威を結びついていた、石山本願寺までが、顕如のころから坊主を九条家、近衛家の猶子として、門跡寺院の格式を手に入れて権勢の支えとしていた(p429)

    ・足利尊氏でさえ、結局は北朝を擁立し、帝の命によって幕府を開くという形でしか混乱を収拾できなかった(p431)

    ・百年かかってもきっちりと落とし前をつけるところが、公家社会や五摂家体制の恐ろしさである(p506)

    2018年9月9日作成

  • 最新の研究に基づいた新しい本能寺の変
    近衛前久黒幕説、説得力高いです

  • 本書は、天下布武を目指し古い権威を打ち破ろうとする信長と、公武のバランスの中で生き残りを図ろうとする公家社会との相克を、本能寺の変の遠因として克明に描いており、その分、本能寺の変に直接関わる出来事の描写はかなり薄い。とても面白く読めたが、少し気になったのは光秀の行動。本書の光秀には、信長への遺恨はなく、むしろ信長に従って新しい国造りに参画したいという気持ちが強くあった。それにも拘らず、自身に流れる土岐源氏の血が、朝廷の上に立とうとする信長を討ち取ることをあっさりと決断させている。近衛前久々にの謀略に嵌められた、という面はあるものの、やはり、光秀に深い遺恨や強い野望がないと、ここまで大胆な行動はなかなか起こせないのではないかなあ、と思った。
    なお、本書には、前久が兎の血の滴る肉を手ずから鷹に与えるシーンなど、公卿が血を扱うシーンが幾つか描かれている。宮中の人々は穢れを嫌う、と思っていたが、戦国時代にもなるとそうはいっていられない、ということかなあ。

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著者プロフィール

作家。1955年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒。東京の図書館司書を経て本格的な執筆活動に入る。1990年、『血の日本史』(新潮社)で単行本デビュー。『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『下天を謀る』(いずれも新潮社)、『信長燃ゆ』(日本経済新聞社)、『レオン氏郷』(PHP研究所)、『おんなの城』(文藝春秋)等、歴史小説の大作を次々に発表。2015年から徳川家康の一代記となる長編『家康』を連載開始。2005年に『天馬、翔ける』(新潮社)で中山義秀文学賞、2013年に『等伯』(日本経済新聞社)で直木賞を受賞。

「2023年 『司馬遼太郎『覇王の家』 2023年8月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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