東京島 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101306360

作品紹介・あらすじ

清子は、暴風雨により、孤島に流れついた。夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは依然なく、夫・隆も喪った。だが、たったひとりの女には違いない。求められ争われ、清子は女王の悦びに震える-。東京島と名づけられた小宇宙に産み落とされた、新たな創世紀。谷崎潤一郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;桐野氏は小説家。30代の始めにサンリオロマンス賞に応募した「愛のゆくえ」が佳作入選し、小説家デビュー。その後、女性ハードボイルドの先駆けと言われた「顔に降りかかる雨」が江戸川乱歩賞受賞。他にも「柔らかな頬」で直木賞、「グロテスク」で泉鏡花賞など、多数受賞。「OUT」では米国エドガー賞にノミネートされ、最終候補となり、国際的評価も高い。
    2.本書;中年夫婦が船旅の途中で嵐に会い、無人島に漂着。その後に、23人の日本青年と11人の中国人が、訳があり無人島に漂着。日本人グループの住む島の西側はトウキョウ、中国人グループのいる東側はホンコンと名付けられた。島で夫を亡くした清子(主人公)はたった一人の女性として、逞しく生き抜く。女性1人と言うと、ポルノ的酒池肉林を想像しそうですが、然に非ず、漂流記やサバイバル小説 とも違います。極限的な環境に放り出された人間が、何を糧にどのように生きるかを問うた純文学。五章15節の構成。
    3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記);
    (1)『第1章の1.東京島』より、「トウキョウ側はナイフや飯ごうやテント等の物資は持っている癖に、生存の為の新しい技術も、技術を開発するだけの根気もなかった。トウキョウが夢中になっているのは、椰子の皮から繊維を取って服を作る事や、家具作り、野生の花を使ったレイ作り等の、文化的と言うよりは、主婦や老人の趣味に近いものだった。・・ホンコンが食材の枯渇を恐れて、生産性を高めていくのに対し、トウキョウは文化に走った」
    ●感想⇒生きる術に執着するホンコン対し、文化を求めるトウキョウ。生まれ育った国情(中国×日本)の違いが出ています。そこで、“人間の豊かさ”とは何かを考えたいと思います。暉峻(てるおか)さんの『豊かさとは何か』という本があります。30年程前の出版です。当時、日本は経済大国と言われていました。「セリーヌもバーバリーも、ごく普通に、色とりどりの服装をした若者達。毎日の食事と残飯の山。捨てても捨てても、すぐ一杯になる屑かご。粗大ゴミ捨て場の家具や電機製品」との記述。我が国の社会・政治・・は、当時とさほど変わっていません。むしろ悪くなっているとも言えます。人生にとってお金は手段であり、目的では無いのです。安堵の情感や精神的なゆとりがあってこそ、豊かな人生を享受出来ると思います。個々人が自分で考え、行動して創るべきものと考えます。
    (2)『第2章の3.糞の魂』より、「渡辺君は、海亀の甲羅を背負い、一人でアニメの登場人物の真似をしながら戯れていた。思わず、“愉快な格好だね”と声をかけると、渡辺君は頭を掻いて照れた。“俺、暇ですから”。何という余裕だろうか。私は驚きを禁じ得なかった。このような遊びの精神こそが、今の私達に必要とされている強さではないだろうか。余裕と豊かな生命力。渡辺君こそが、この島で生き残るべき人間だ」
    ●感想⇒日本の社会は、“失われた30年”と言われています。「環境破壊、過労死、受験戦争、老後不安など」深刻な現象は続いています。経済価値優先はお金と言うモノサシで、人間の優劣を決め、敗者を捨て去る社会です。最近の流れは、環境保全・福祉の実現・・等、ゆとり社会の実現が叫ばれているものの、社会的弱者が暮らし易いとは言い難いと思います。「余裕と豊かな生命力。渡辺君こそが、この島で生き残るべき人間だ」。現代人が忘れがちな「遊びの精神」を蘇らせ、活き活きと生活したいものです。それはそれぞれの人が考え、行動して追求するもの。画一的には考えられないものです。いずれにせよ、しかめっ面ではなく笑顔の絶えない暮らしをしたいものです。
    (3)『第4章の5.毛流族の乱』より、「(ヒキメ)僕は文明社会に助けて貰いたいと思う一方で、この島での原始社会が嫌いではないんだ。最近は、むしろ好きになっているかもしれない。テレビもなければ本もない生活だが、僕は夜の星を眺めるだけで満足する。自分で作ったささやかな仕掛けで魚を獲り、こうやって生きて、死んで行く。それでいいのかもしれない、と思っている。
    ●感想⇒「テレビもなければ本もない生活だが、僕は夜の星を眺めるだけで満足する」、憧れる言葉ですね。現代人は、世の中から取り残されない様にとばかりに、色んな情報に敏感になり過ぎています。だから、傍から見ると、テレビ・スマホ・新聞・・の虜になっているように見えます。某宿泊施設は、脱デジタル滞在という、テレビやスマホなどのデジタル機器から離れて、自然や文化に触れる機会を提供しているそうです。自分と向き合う時間を過ごすことで、心身ともにリフレッシュし豊かな感性を取り戻す事が狙い、との事。情報化の嵐の中で生活している現代人には、自分と向合い、内省する時間を持ち、ストレスからの解放と自分なりの感性を取戻す事が必要なのでしょう。人生の主役は自分自身です。そうした自分だけの貴重な時間や場所を持ちたいものです。
    4.まとめ;この小説は、先に書いたように、無人島・漂流から連想するようなサバイバルものではありません。清子(主人公)×多数の男が、東京島で共同生活。彼女を巡る男達の闘争。このシチュエーションは、ポルノ的展開を想像しますが、そうではありません。無人島という閉鎖社会の中で、人々がどのように個性的に生きていくかを説いています。独占欲の強いカスカベ、記憶喪失のふりをするGM、ひねくれ性格のワタナベ・・、特異な環境で自我が出ます。私達は、急速な情報化社会の中で、自身を見失いがちです。もし、東京島で生活する事になった時、どう生きるのかを想像すると、楽しみと恐ろしさに困惑し、身震いしそうです。谷崎潤一郎賞受賞の重みある作品です。(以上)

  • あり得なそうな設定と、精神が崩壊してもおかしくはないのに(まあ壊れた者もいるが)社会を形成するプロセスが面白い。ラストの皮肉っぷりも著者ならでは。誰一人、登場人物を好きになれない稀有な一冊。

  • 映画を先に見てから、何気に図書館で発見して読んで見ました。
    全く違う作品に思えました。
    脚本や映像になるとテイストも変わったりするのはよくありますよね。
    原作の方が良かったです。
    いやいや、エンターテイメントすぎて現実離れしてたところもありましたが、
    すっかり物語の世界に没入させられていました。
    なかなか考えさせられる場面もありました。
    さすがプロ。
    脱帽作品の一つです。

  • アナタハンの女王事件の事を知って、それを基にした話があると知って読んだ。
    (現実から発想を得ただけで、これは創作だと分かった上で)
    外界から隔離された世界では異常行動に拍車がかかる。唯一の女性がふてぶてしいからこそ出来上がった世界。

    関係ないけど、以前観ていたアメリカドラマLOSTと比較して、いつまでも服をきれいに着ているとは限らないんだなと思った

  • みんなが人間臭く、絶望感がたまらない。

  • それぞれの事情により無人島に漂流した人々。
    31人の男性の中で、女性はたった1人自分だけ。
    東京島と名付けられた島で起こる出来事を綴った話。

    何人かの語り口で描かれていますが、全員が全員、自分本位すぎてかなり笑える。
    登場人物の誰一人、好きになれないので☆3点ですが、
    桐野さんらしい、シュールな作品だと思いました。

  • 無人島で31人の男に対して女1人・・性に溺れる女性の物語を想像していたが、そんな矮小な枠に収まるものではなかった。
    人間同士のぶつかり合いや出し抜き、抜け駆けや、それに至る心理状態が、無人島という閉鎖的で特殊な舞台の上で繰り広げられていた。
    登場人物それぞれが固有の過去を抱えていて、物語が進行するごとにそれらが少しずつ明かされていく過程も面白い。
    桐野夏生さんの本は「グロテスク」以来だったが、綺麗事を一切書かないというか、人間誰しもが本来持っている本能的な黒さ(自分が生きるためなら周りを騙したり、自分本位になったり)が物語全体を覆っている。たまにはこういう黒い小説を読むのもいいなと思った。
    最後の結末は、意外だった。読み始めは、まさかこんな結末になるとは全く思わなかった。だが、全くもって興醒めするような不自然さはなく、むしろ救われた気持ちになった。

  • 読み終わって楽しい気持ちにはならないですね。
    しばらくこの手の話は読まなくていいかな…。
    お話のもって行き方は流石だなと思いました。

  • 東京島は決して社会の縮図ではない。
    そんな小さな世界の中で生きていくために必要なのは狂うことなのか、支配することなのか、従属することなのか。
    夫の隆が生き残るだろうと言った、清子とワタナベが実際に外に出てこの小さな社会から抜けることの意味は何だろう。

  • 無人島に持っていく一冊は何か?という質問の気楽さなんてぶっ飛ぶ、無人島に漂着してしまった31人の男(若者たち)と1人の女(中年)の物語。ファンタジーとして捉えるにはきつすぎるおもしろさ。

     このちいさな島で起こることは、どれもこれも身近な事実のようで人間描写がおもしろい。極限状態状態をどう乗り切るか、働く人、働かない人、精神的に落ち込む人、高揚する人、格差あり、人種相違あり、あいかわらずの筆力ではある。

     特に若者と中年の女性のとりあわせは、現代社会の比喩としてなるほどと思わせられるうまい配置。

     でも、ファンとしては数々ある作品の中どころというのが一気読み後の印象。ああ、贅沢~。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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