幻の光 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307015

作品紹介・あらすじ

人は精がのうなると、死にとうなるもんじゃけ-祖母が、そして次に前夫が何故か突然、生への執着を捨てて闇の国へと去っていった悲しい記憶を胸奥に秘めたゆみ子。奥能登の板前の後妻として平穏な日々を過す成熟した女の情念の妖しさと、幸せと不幸せの狭間を生きてゆかねばならぬ人間の危うさとを描いた表題作のほか3編を収録。芥川賞受賞作「螢川」の著者会心の作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 短編4作品。当時30代の宮本輝さん、凄いな。
    移ろいゆく儚さ全開なのに、仄かな温かい光が感じられる。表題の「幻の光」が言い得て妙。

    宮本さん作品には欠かすことのできない人の死による「喪失」が短編4作すべてにおいて重要なモチーフとなる。
    だがそこには湿り気を帯びた感傷も、お涙頂戴の寂寥も皆無だ。「善悪」や「正義」の価値観をばっさり排除して描く勇気に惚れる。

    日々の営みのすぐ傍にある突然の人の死や失踪。昭和の風景では「不運」も「不幸」も「不便」も特別扱いされず、市井の人々はまず自分が生き延びようとその日を暮らした。

    人々の生き様は懸命とか精進とかの美徳から縁遠く、生臭く現実的な感情の連続。

    何某かの背徳感や罪悪感に苛まれたり、またある時は寂しさを埋めるため人肌を求めたり。裏切られた悔しさを許せぬ自分を悔み、知人友人と縁遠くなる日常の繰り返しのなかで年齢を重ねる。
    様々な登場人物たちの抗うことのできない細やかな情念の描き方は絶品だ。
    戸惑い、逡巡、後悔等が行きつ戻りつする様子は情景描写に重なり、とても重層的だ。

    「生」と「死」双方の重みある両立という現実に改めて気づき、なぜか安心感のようなものさえ覚える。
    長編もよいのだが、短編も味わい深く、宮本さんの昭和作品を読み返したくなる。

  • 「幻の光」を読んで。
    生と死の狭間、幸せと不幸せの狭間。狭間でたゆたう女性としての性に哀しくも美しいものを感じました。しかもそれは逞しくて。
    女性には誰でも二面性があるんじゃないかと思うのです。誰かを愛しながらも他の誰かに愛される運命を受け入れられるような。それが生を全うする為ならば、与えられた運命を生きていく為ならば。浮気や不倫やそんな軽々しい言葉で表されるものではなくて、もっと精神の奥底にうずくまっているものが、その宿命を受け入れる覚悟を決めるんじゃないかとそんな気がしてたまらないのです。

  • 表紙の裸婦絵は高山辰雄でとても印象深い。
    表題作「幻の光」ほか短編3作を所収で、どれもしっとりとした雰囲気の中で人間の情念を丹念に描いた作品になっている。
    「幻の光」は前夫の自殺した理由をわからず空虚にさまよう心を抱えながら再婚し、奥能登曾々木で暮らす主人公が、前夫に語りかけることで自らと対話するというスタイルをとる。兵庫尼崎での貧乏で暗い少女時代から、前夫との生活の中での会話、曾々木での安定した生活という人生の流れの中で、様々なエピソードが繊細な描写で深い余韻を残してくれる。すうっと消えていった祖母の話や大阪駅で見送ってくれた知り合いのおばちゃん、曾々木で蟹を獲りに行って遭難したと思われたおばちゃんの話が特に印象深い。ともすれば生死のはざまで生きてきた主人公が、冬の日本海の荒波の中で前夫の死を見つめ直し、現在の夫の前妻の影に嫉妬できるまでに再生できたところに安堵した。死へと向かう光が生と結びついている描写が妙に納得感があった。
    「夜桜」は、若い頃にゆとりがなかったばかりに離婚したことを後悔し、息子を事故で喪ったばかりの主人公の自宅に、奇妙なお願いに登場した見ず知らずの青年との、ある1晩の物語。ややもすれば長く住んでいると見落としがちな光景に、ちょっとの幸福感を共有できた心温まる物語となっている。
    「こうもり」は、少年時代の出来事と不倫プチ旅行を行っている現在とをパラレルに行き来しながら何ともいえない主人公のいたたまれなさを表した作品。少年時代の友人?との冒険的行動が印象深い。
    「寝台車」は大阪から東京に出張することになった主人公が、現在の商談経緯と少年時代の心に突き刺さる思い出を振り返りながら、情感に浸る作品。寝台車というロートルな情景で思い返される記憶の湧き起こりが印象的な物語になっている。
    どの作品も、喪失感を抱える主人公たちが「プチ旅行」「現在と過去」などを背景に、心の暗部を見つめながらも明日に向かって生きる、人間の生死のはざまに漂う思いを優しく包み込んでくれるような感じがする。


  • 『星々の悲しみ』とセットで好みな短編集。
    陰と陽で対になっていると勝手に思っている。

  • 松山市図書館
    到底かきえない文章の美味さに
    舌をまく

  • やっぱり宮本輝は天才だなあ…生きていくために必要な情念とか生命力についての言葉が重すぎる。これだけの結論を出すには、一体何人の人生と向き合ってきたのかね…

    唯一苦手な点があるとすれば、人が死にすぎる、失いすぎる点かも。でも宮本輝の悲劇って最終的には幸せな方を向いてる気がするので、嫌いにはならない。底なし沼ではない。ただ、その分逆に生々しくて残る傷が深いから、体力のある時に読みたい作家かも…

  • 短編集。表題の幻の光は、幼い子と妻を残し、自殺をした夫。再婚の為奥能登に行くことになった女性。気が付けばいつも前夫に話しかけている。少しずつ現夫との暮らしに気持ち持って行く様子が感じられた。

  • 短編集。
    どの作品も「喪失」というものが背景に感じられます。
    明るい話ではないけれど、読んだ後に、柔らかな余韻が残るような一冊。

  • 2016 1/28

  • 何の理由もわからないまま、愛する人を自殺という形で失った女の不安定な心情。
    喪失感や虚無感、自責の念・・・
    短編を書ける作家こそ一流作家だと思う、そんな短編集。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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