錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 572
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307022

作品紹介・あらすじ

「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る-。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

感想・レビュー・書評

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  • 無理心中を図った愛人に重傷を負わされながらもひとり生き残った男。その男を愛しながらも許すことが出来ずに離婚を選んだ女。
    その2人が10年後に蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で偶然に再会しました。驚きながらも変わり果てた男の姿を見て、なぜだか自分でも分からない感情に突き動かされ女は男に手紙を書きます。この物語は2人の往復書簡で成り立っています。
    再会したその一瞬で女は男に寂しさを感じ、男は女が幸せではないことを悟ります。2人を変えてしまった10年という時の流れは、けれどもお互いを慮り向き合うことが出来るようになるにも必要だった時間には違いありません。
    手紙は過去から現在、未来へと繋がっているようでした。それはまるで2人を喪失から再生へと導いていくかのようで。
    過去を振り返る女の手紙からは、裏切った男への憎しみ、女としての意地、妻としての自尊心などで、どうして?どうして?と男を責めているようでした。再婚したけれども、愛情を持てない夫。障害を持って生まれた子どもの世話をしながら、男と別れなければこの子も生まれることはなかったのに。どうして?どうして?そんな哀しい叫びが聞こえてくるようでした。
    それが手紙を2通3通と書いていく度に、子どもの為に生きようとする強い母、愛人との間に子どもまで作った夫との別れを選ぶ凛とした妻へと変化していきます。
    男は死へと誘った愛人、裏切り傷つけてしまった妻、そして男とともに一緒に暮らす生命力に溢れた女、彼女らと出会ったことでいろんなものを手放し失ったけれど、今やっとかけがえのないものを掴みかけている時なのではないでしょうか。
    手紙では業、命、生と死、そして宇宙へと話は壮大に広がっていきます。
    不可思議な法則とからくりを秘めている宇宙の下で巡り会った生命。無理心中を図り亡くなった女、年老いた父、夫、星を眺めている子どもと自分。同じ時刻に近くにいた男……女からの最後となる手紙に、わたしは宇宙に響く荘厳な鐘の音を聞いたようでした。
    そしてまた出来るなら。
    10年後、男と女がミモザアカシアの古木の下で偶然に再会してほしい。そんな場面を想像しながら、この往復書簡を読み終えることとしました。

  • 秋になって紅葉し始めたら読もうと思ってました。

    ある事件がきっかけで、よく話し合わないまま別れてしまった元夫婦が、偶然に再会したことで始まった手紙のやり取りだけの書簡体小説。

    過去に後悔の念を残した二人がお互いに手紙を書くことで、過去を振り返り、清算し、癒され、今を受け止め、未来に向かって歩いていくまでの手紙。

    最近の私とリンクするキーワード、業、宇宙のからくり。

    生々しい男女の業とでも言うようなことが、日常や情景を丁寧に描くとともに書かれていて、とてもリアルで胸に迫ってきて、一気にほとんど一日で読んでしまった。

    また秋になったら読みたくなるかもしれない。
    そして次に読む時は、また違ったことを感じそうな気がします。

  • 「うち、あんたの奥さんやった人を好きや」

  • 仕事帰り、飛び込んだ書店で手に取り、
    そのまま喫茶店に座り込んで、一気に読んでしまった…
    久々に、こんな小説の読み方をした。引き込まれた。
    たしかに、これ、名作です!

    やんごとなき事情から、離婚をしたふたりが、
    偶然に再会する…しかし、その後、会うこともなく、
    ただただ、長い手紙のやりとりが続く…
    少しずつ、過去がつまびらかにされてゆくのです。

    時間というのは、過ぎるものでなく、
    積もってゆくものなのでしょう…あたかも、錦に、
    美しい刺繍をほどこすように、重ねられ、
    彩られてゆくものでもあるのでしょう。

    この小説は、決してハッピーエンドではないけれど、
    過去を纏いながら、現在を生き、そして、未来へと
    つないでゆく・・・そのことこそ、
    人が生きるということであると感じ入りました。 

    登場人物は、それぞれに悩みも恨みも抱えながら、
    他者を許すのです…いっしょに暮らす女の一言…
    ―うち、あんたの奥さんやった人を好きや
    この場面、涙腺切られました…

  • 書簡形式で物語が進みゆく構成が面白い。現代だったら瞬時にやり取りが可能であるが、相手からの返信を何ヶ月も心待ちにしたり、止めようのない熱量や、あるときは何日もかけて熟慮の上で返信を書いたり。そんなさまがかつて自分も文通をしていたことを思い起こさせ何やら懐かしくもあり、新鮮でもあり。別れたふたりが偶然にも再会し、過去の出来事について紐解いて、互いの想いを知ったり。しあわせって何だろうとふと考えてみたり。この作品はきっと繰り返し読まずにはいられないであろうと確信しているのです。

  • 石田ゆり子さんがエッセイで絶賛されていて、「この役を演じたかった」ともおっしゃっており気になって読みました。
    往復書簡体のみで綴られた小説。「蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。」という女性からの書き出しが美しい。逸る心を必死で抑えているかのような、重苦しく、意味深で、どこか耽美な筆つきだ。
    二人はかつて夫婦で、夫の浮気から起こった無理心中事件のせいで離婚したきりだったということが徐々に明らかになっていくのですが、手紙っていうのがめちゃくちゃ効いている。
    すべてが相手に向けられた言葉なのだ。相手に伝えようとする言葉。相手に伝えるためだけに選ばれた言葉。
    他の人物も振り返る過去も、それらは言葉による手紙のなかだけの存在で、今この物語に実存しているのは勝沼亜紀と有馬靖明、二人の男女しかいない。
    二人の過去が、今が、未来が、口にはしなかった想いが、文面で幾重にも折り重なっていくさまに、まるで本当に燃えるような紅葉をイメージした。錦繍。美しかった。
    読みながら、「生きていることと、死んでいることは、もしかしたら同じことかもしれない」という言葉の意味を、幾度も幾度もかんがえた。
    過去を埋め、過去を追い越し、〈いま〉へ歩みだしてゆく。

  • 戻ってこない過去にすがっていてもなにも変わらない。でも、〈いま〉の自分は〈過去〉が作ってるのも事実。だからといって、もう〈みらい〉が決まってるわけではない。

    手紙を通してなかなか言葉にできない心の葛藤を上手く表現していて読みやすいし心に響くものがある。

  •  今年は台風18号が夏の名残りを連れさったようで、朝夕と急に涼しくなりました。空は高く雲も細くなり、秋の気配が色濃くなるこの時期にふと思いだすのが、こちらになります。

     とある理由で離婚した男女が、10年ぶりに再会したところから始まる物語。再会の舞台は蔵王のドッコ沼、そのゴンドラ・リフトの中ですれ違うところから。といっても、その後のやりとりは約1年かけての往復書簡のみ、なんですけども。

     男は37歳、女は35歳と、人生を季節になぞらえれば、秋の始まりを綴った物語となりましょうか。10年前はそれぞれに20代後半、青春がまさに燃え尽きようとしていた、そんな直情的な時代の“感情の行き違い”をふり返るところから書簡は語り始めます。

     “時間の長さ”が傷痕を消してくれることはないけれど、薄めてはくれるのかなと、なんとなく。

     10年、長いようで短く、、でも、人生がうつろいゆくには十分な時間で。それぞれがそれぞれの10年を穏やかに、でも結婚をしていたからこその開けっぴろげさもあわせて、まるでお互いを旅するかのように語っていきます。

     人生の再生、、幸せは出会っていないだけなのか、転がっているのに気づかないだけなのか。読んで受け取る印象は、手に取った年代で感想が変わりそうだな、と感じました。ちなみに私の場合は、、

     10代では、うわべだけで理解できませんでした
     20代では、斜に構えて鼻で笑っていた覚えがあります
     30代の今、なんだかスルッと、“こころ”に入ってきたような気がしています

     人生の酸いも甘いも、なんて言えるほどに老成しているとは思えませんが、少しは「大人」になったのかな、とも感じてみたり。耳をすませば、、そろそろ落ちつけよ、いやまだまだだよ、、そんな言葉のせめぎ合いも聞こえてくるかのようで。

     40代、50代で読んだ時にどう感じるのか、不思議なほどに楽しみにしている自分がいる、そんな一冊です。

  • 宮本輝さんの真骨頂!
    と聞いていたので読んでみました。

    いやぁ、申し分ない。。
    言葉がとても綺麗です。




    蔵王のダリア園からドッコ沼へ登るリフトの中で、偶然再開した2人。

    その後の手紙のやり取りは、互いの過去の大きな穴を埋め合い、未来のエネルギーとなっています。

    結局それぞれ違う人生を歩むのだけど、そこには生きることへの前向きな姿勢が感じられるのです。



    きっと、あの手紙のやり取りがあったから、亜紀も靖明も前に進めたんじゃないかなぁ。



    久々に、『生きること』について考えさせられました。

    個人的に、令子がナイスキャラだと思います^^




    時間ができたら、またじっくり読み直したいです。

  • 読み終わった後、何とも言えない寂しい気持ちになりました。過ぎてみれば、あの時のあの自分の行動や判断が人生の岐路だったりするんですよね。人生まだそんなに生きてないですが、今までしてきた自分の行動や判断を悔やむことはよくあります。だけども、そんな失敗や誤った判断があってこそ、今の自分があるし、成長できることもたくさんありますもんね。本当に人生って、そういうもの、、それを改めて感じた作品でした。

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著者プロフィール

宮本 輝(みやもと てる)
1947年、兵庫県神戸市生まれ。1977年『泥の河』で、第13回太宰治賞を受賞してデビュー。1978年『螢川』で第78回芥川賞を受賞。『優駿』で吉川英治文学賞、1987年初代JRA賞馬事文化賞、2009年『骸骨ビルの庭』で第12回司馬遼太郎賞を受賞。2010年、紫綬褒章受章。
主な代表作として、2018年に完結した自伝的小説『流転の海』シリーズ作のほか、『蛍川』、『優駿』、『彗星物語』がある。

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