錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307022

作品紹介・あらすじ

「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る-。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

感想・レビュー・書評

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  • 「錦繍」美しい作品名である。新潮文庫の100冊の定番。長年気になっていて、夏に読むものではないなと思いながら数年が過ぎ、今秋、自分の中で機が熟したか、手に取った。読んで良かったと思える作品であった。

    紅葉の季節、元夫婦が10年ぶりに蔵王のゴンドラ内で遭遇し、お互いの変化の大きさに驚くも少し言葉を交わして別れる。その後、不意に届いた元妻・亜紀からの一通の手紙で始まる10か月、14通に及ぶ往復書簡により物語は紡がれる。

    手紙のやり取りを通じて、10年前に別離の契機となった壮絶な事件の当事者である元夫・靖明と謎めいた死を遂げた女性・由加子との男女の関係と中学時代からの因縁が明らかになる。男が少し影のある美しい女性に惹かれるのは普遍的事象か。

    亜紀は思いを秘めながら、口を閉ざす靖明と離婚する。その後、再婚するも障害のある息子・清高を抱え、夫も愛せず孤独を感じていた。突然の別れの空白を埋めるように、手紙を出し続けるうち、亜紀は母親としての運命を受け入れていく。

    一方、亜紀の手紙に過去の裏切りを詫び、現在の零落ぶりを綴る靖明だが、亜紀の何気ない死生観に纏わるエピソードに自身の臨死体験が重なったことを契機に、自分を逞しく支える女性・令子との現在を語るようになり、次第に再生していく。

    往復書簡を通じて過去を清算し、現在の生き方まで変えていく過程に、女性たちの強い「情念」を感じ、それぞれの想いに心が揺さぶられた。シニア世代の話と思いきや30代後半という。この達観ぶりや表現の円熟ぶりは昭和世代の成熟度か。

    • 傍らに珈琲を。さん
      harunorinさん、こんばんはー!

      コレ、良かったなーって印象です♪
      昔読んだので、内容忘れておりまして…harunorinさんのレビ...
      harunorinさん、こんばんはー!

      コレ、良かったなーって印象です♪
      昔読んだので、内容忘れておりまして…harunorinさんのレビューでうっすら思い出しました!

      『螢川』と『幻の光』も良かったように記憶しています←こっちも忘れてる 笑
      2023/11/01
    • harunorinさん
      傍に珈琲を。さん、こんばんはー(*´꒳`*)
      宮本輝先生は初読みでしたが、なんか後引く清々しさがあって、すごく好きな作品です。
      私は特に忘れ...
      傍に珈琲を。さん、こんばんはー(*´꒳`*)
      宮本輝先生は初読みでしたが、なんか後引く清々しさがあって、すごく好きな作品です。
      私は特に忘れっぽくて、レビューも筋を追う感じになりがちなので、うっすら思い出すのに丁度いいかも笑
      「幻の光」と聞いて思い出しました。当時、原作者も知りませんでしたが、映画見てました!話はまったく覚えてませんが、モノトーン&スローで寝落ちしてた気がします(´-`).。oO
      2023/11/01
  • 宮本輝の代表作。
    全編書簡体の作品。
    過去から現在、未来へとお互いに筆を走らせ、気持ちの揺らぎや変化を綴っている。

  • まず、「錦繍」というタイトルが秀逸。
    不倫とか離婚とか心中事件の真相などは、この小説の主題ではないことがタイトルでわかる。

    あと、書き出しがとても印象的。
    「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。」
    この小説を、端的に美しく表している。

    ラストのやり取りがよかった。
    手紙から後光が出ていた。特に有馬のほう。
    亜紀は父親の無償の愛に守られることで、有馬は令子さんに力強く引っ張られることで、前に進み始める。
    助けてくださいって言うことって、すごく大事なことだと思う。
    弱っているときは、そばにいる人に助けてもらう。
    それで強くなって、今度は弱っている人を助けてあげる。
    生きるって、こーいうことなんだと思う。

  • 良作の一冊。

    この作品の魅力とは?聞かれたら一言では言い表せない。
    往復書簡のみという形式。
    流れるような美しい文章。
    別れた男女が再会を機に振り返るあの時のあの想い。
    丁寧に綴ることで今一度あの日を振り返り、かつ相手の想いも受け取る。
    思いがけない言葉をもらった瞬間の心の揺れ。
    過去の自分を慈しむことが現在を見つめるきっかけへ一歩へと繋がる。

    まるで往復書簡という幾本もの縦糸、横糸が交互に丁寧に紡がれ出来上がる一枚の錦織りのよう。

    ラストの書簡がまた秀逸。

    美の言葉の中に生きる灯火、自分で創る未来を力強く感じた良作。

    • くるたんさん
      yhyby940さん♪コメントありがとうございます。
      美しい世界でしたね。
      また読むたびに心に響く箇所が増えそうなそんな作品だと思いました。...
      yhyby940さん♪コメントありがとうございます。
      美しい世界でしたね。
      また読むたびに心に響く箇所が増えそうなそんな作品だと思いました。

      宮本輝さんはあまり読めてないですが、いつも小説を読み喜びを感じられる作家さんだと思います。
      2021/05/15
    • yhyby940さん
      ご返信ありがとうございます。最近の著者の作品には若干、お説教じみたものを感じることがあるんですが、人を勇気づけてくれる作品が多いように思いま...
      ご返信ありがとうございます。最近の著者の作品には若干、お説教じみたものを感じることがあるんですが、人を勇気づけてくれる作品が多いように思います。不躾ですがフォローさせて頂きました。ご気分を悪くなさったら、ご勘弁ください。
      2021/05/15
    • くるたんさん
      いえいえ、ありがとうございます♪
      よろしくお願いします♪
      いえいえ、ありがとうございます♪
      よろしくお願いします♪
      2021/05/15
  • 宮本輝を初めて手にしたのは、いのちの姿だったから物語はどんなだろうと趣の違う作品を何冊か読んでみた。

    この作品は往復書簡が展開され、過去が明らかになっていくミステリアスであり温かみがある。
    マチネの終わりにのインタビューで石田ゆり子さんが錦繍を好きだと言った意味も読み終えた今理解できた気がする。

    この人が好きだと言う絶対的な理由を述べられなくても好きなんだから仕方ないでしょうと言う感覚。
    忘れていた恋心に灯りが灯ったようだった。

  • かつては夫婦であったが、壮絶な出来事により離婚した男女、有馬と亜紀。
    秋の紅葉深まる蔵王で偶然再会し、手紙のやりとりが始まる。

    最初は謎が多く、それぞれの性格を探りながら読む形となるが、次第に離婚の事情とその後辿ってきた厳しい人生が明かされていく。

    生きていても虚無の中で生活していた亜紀。
    「生きていることと、死んでいることとは、
    もしかしたら同じことかもしれない。」
    亜紀の苦しい心情に共感し、何とか立ち直って欲しいと願う一方で、破れかぶれに生きている有馬には、甘さを感じ怒りすら抱く。

    手紙のやりとりを通じて、お互いの過去の事実を知り、今を見直し、未来を変えていく事になる。交わる事のない2人だが、思いは通じた気がした。女性の方が強く逞しい。

    手紙だけで物語が成立する珍しい小説。
    四季折々の美しい文章で綴られた手紙が、雰囲気を作り素晴らしかった。現代のSNSも便利だが、手紙もこれまた味わいがあり、良いもんだなぁと感じた。

  • 素晴らしかった。有名な往復書簡の小説。

    かつての夫と、蔵王のゴンドラの中で偶然再会をし、長文の手紙のやり取りが始まる。

    10年前になぜ離婚しなければならなかったか? 
    納得しないまま別れることになったある事件。
    その真相と、10年間の空白を手紙が埋めていく。

    お互いに過去を見つめ直し、呼び起こし、伝え合う。辛いことも怒りも悔恨も。
    そして「今」に至り、お互いに生きる理由と糧を見出していく。

    蔵王のゴンドラからの錦繍と、締めくくりの錦繍が2人の背中を押している。
    人の業とは何なのだろうか。
    粋な遊び心?亜紀と靖明…秋。

  • 愛し合ったまま別れても、どんな波瀾万丈な過去でも、お互いに他の誰かを生きる糧にして、強く生きていこうとしている。
    当時より大人になったからこそ綴られた言葉に、儚くもリアルなラブストーリーを見ることができました。

  • 紅葉の蔵王で、偶然の再会をした10年前に離婚した夫婦だった二人。妻であった女性からの手紙から、二人の往復書簡が始まる。
    夫であった男の不貞から不本意な離婚となった女性の悔恨、各々の過去の告白、現在の生活、これからの別々の行く末と、綴られていき、徐々に気持ちの溝が埋まっていく。
    錦繍という美しい題名は小説の始まりの紅葉からだろうか。女性が人生を経て強く生きていく様かな。

  • 無理心中を図った愛人に重傷を負わされながらもひとり生き残った男。その男を愛しながらも許すことが出来ずに離婚を選んだ女。
    その2人が10年後に蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で偶然に再会しました。驚きながらも変わり果てた男の姿を見て、なぜだか自分でも分からない感情に突き動かされ女は男に手紙を書きます。この物語は2人の往復書簡で成り立っています。
    再会したその一瞬で女は男に寂しさを感じ、男は女が幸せではないことを悟ります。2人を変えてしまった10年という時の流れは、けれどもお互いを慮り向き合うことが出来るようになるにも必要だった時間には違いありません。
    手紙は過去から現在、未来へと繋がっているようでした。それはまるで2人を喪失から再生へと導いていくかのようで。
    過去を振り返る女の手紙からは、裏切った男への憎しみ、女としての意地、妻としての自尊心などで、どうして?どうして?と男を責めているようでした。再婚したけれども、愛情を持てない夫。障害を持って生まれた子どもの世話をしながら、男と別れなければこの子も生まれることはなかったのに。どうして?どうして?そんな哀しい叫びが聞こえてくるようでした。
    それが手紙を2通3通と書いていく度に、子どもの為に生きようとする強い母、愛人との間に子どもまで作った夫との別れを選ぶ凛とした妻へと変化していきます。
    男は死へと誘った愛人、裏切り傷つけてしまった妻、そして男とともに一緒に暮らす生命力に溢れた女、彼女らと出会ったことでいろんなものを手放し失ったけれど、今やっとかけがえのないものを掴みかけている時なのではないでしょうか。
    手紙では業、命、生と死、そして宇宙へと話は壮大に広がっていきます。
    不可思議な法則とからくりを秘めている宇宙の下で巡り会った生命。無理心中を図り亡くなった女、年老いた父、夫、星を眺めている子どもと自分。同じ時刻に近くにいた男……女からの最後となる手紙に、わたしは宇宙に響く荘厳な鐘の音を聞いたようでした。
    そしてまた出来るなら。
    10年後、男と女がミモザアカシアの古木の下で偶然に再会してほしい。そんな場面を想像しながら、この往復書簡を読み終えることとしました。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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