私たちが好きだったこと (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 101
  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307121

感想・レビュー・書評

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  • 毎日私たち個人は、色んな悩みや喜びに一喜一憂して、熱量を持って生きているのに、私たち個人をすぐそこに取り巻く大自然(宇宙)は、そんなちっぽけなドラマからは超越して存在する。

    今となっては昔の、たった二年間の物語。
    恋に落ち、嫉妬し、生命力を燃やし続けた激動の二年間も、過ぎ去ってみればちっぽけな記憶にしかならない。

    どんな不幸も、しのいで、しのいで、しのぎ切った時、
    気づけば身体も衰え、忘れてしまう。どんな事でも時間が忘れさせてくれる。男は、そのように出来ている。

    バーに通い続ける老人に、私は特に畏敬の念を抱かないと言っていた曜子のセリフは、女はそうは出来ていない、ということを示していたのだろう。

    女は時間によって忘れることができない。
    しのいでも、しのいでも、時間は忘れさせてくれない。
    忘れようと思ったら、より強大な別物によって、上書きされるしかないのだ。


    人里離れた田舎の古宿、軽井沢の奥地、ネパールの山奥、そういう所に存在する宇宙に縋ることを、男はやめられないのだと思う。
    なぜなら、昨日が今日になり、今日が明日になり、明日が明後日になるたびに、毎日が時間の作用で色褪せていってしまうからだ。
    宇宙は、常に熱くて、常に刺激的で、触れている間、時間を忘れさせてくれる。


    考えてみれば、男女が結婚して一生を遂げるというのは本質的に不自然なことであって、恣意的な行動のコントロール無しには、その関係は成り立たない。

    男は、今日が昨日以上であり、明日が今日以上であり、明後日が明日以上でない限り、その熱量は色褪せていってしまう。
    女は、今以上の新しい何かに触れた瞬間に、今を全て上書きされてしまう。

    勝気な曜子にも、気弱な愛子にも、女の核があった。ロバにも与志にも、男の核があった。

    曜子は、恣意的な努力によって、男女の本質的なギャップをカバーした。愛情があって関係が生まれたのではなく、恣意的な行動のコントロールの結果、関係から愛情が作り出された。
    一方愛子は、努力をしなかった。
    自然に沸いてきた愛情よりも、行動のコントロールから作り出された愛情の方が、強固なのだろうか。


    大自然(宇宙)を身近に想起させる雨音の中で、色褪せた昔を振り返るという本作の構図は、思えば男の本質に適っている。

  • 読み始めて「あれ?これってエッセイじゃないんだ・・・」と思いました。
    だって、宮本輝さんの本で一人称・・・私で書かれているのって珍しい。
    そして読み終えて、このタイトル「好きだった」と過去形なんだ・・・と思いました。

    ひょんな事から同居する事となった4人の若い男女の様子を描いた話です。
    高い倍率の公団住宅に幸運に当選した私-与志。
    所が、その公団住宅に入居するには同居者が必要だった。
    そんな訳で、与志はカメラマンの友達、佐竹-通称ロバちゃんと一緒に暮らす事にする。
    そして、その日たまたまバーで出会った女性二人組ともなりゆきで一緒に暮らす事になる。

    サラリーマンで、将来は独立して自分の事務所をもつのが夢の与志。
    カメラマンのロバちゃん。
    美容師の曜子。
    会社員で不安神経症を抱える愛子。

    まもなく、与志と愛子、ロバと曜子という組み合わせの二つのカップルが誕生する。
    そして、美容院の金を使い込んだ曜子のため、医師を目指す愛子のため、ロバちゃんが交通事故の際に知り合った10代の男女のため、4人は借金を抱える事となる。

    宮本輝さんの書くヒロインは大体において、いくつかの共通点があります。
    それは美女で賢くて清潔感があって、潔癖で、そして自分が悪い時も決して謝らないという特徴。
    この物語のヒロインは正にその通りでしたが、「こんな女性が潔癖だなんて私は認めない!」と読んでいてムカムカきました。
    もう一人の女性、曜子もすごく勝手で人の気持ちを考えない言動をしている。
    けれど、この物語では「優しい」という設定。
    これが作者の女性観なんだろうな・・・。
    それに逆らう気はないけど「潔癖な女性」「本当に優しい女性」ってこんなもんじゃないだろう~と私は思います。

    ただ、その本人のしている事が清潔でなくても、潔癖でなくても、そういう雰囲気を漂わせていたら周囲はそのように扱うというのはあると思う。
    同じように、「人のために生きる」「自分の事より人の幸せを考える」という事に徹した主人公たちの2年間という年月はそういう雰囲気を彼らに漂わせたのではないか?と思いました。
    だからこそ、物語の後半に主人公が旅行した際のエピソードが生まれたのだろうな・・・と。

    この作者の本にしてはストーリー展開はかなりお手軽だし、どうしても主要登場人物の女性たちが気に入らなくて、好きになれない話でした。

  • 再読4回目。
    人って、基本的には自分のことより人のこと、なのかもしれない。

  • 男2人・女2人それぞれが、ある日突然酒に酔った勢いで一緒に暮らし始め、いずれ愛が育まれ、そしてまた別れと新たな生活へと旅立って行く・・・無償の青春の遍歴が印象的だった。

    決してエゴではない、彼と彼女の生き方に好感が持てました。

    本書は、映画化されたそうですね、知りませんでした。

     いい作品でしたよ!

  • 共同生活をスタートさせた男女四人が互いを思いやり傷つけあい最終的に深く愛するという個人的に好みの内容。せつない、けれども暖かい作品。
    優しさとは何なのか、愛するとは何なのかを考えさせられるが、私自身は「子供心なんかはとうに萎えきっているのに、いつまでたっても大人になれない」口なので、登場人物のような考えはできないかなって感じるのが正直なところ。
    また会話に出てくる台詞でいいなぁと思う言葉が多く、心に残る。

  • 男2人、女2人の共同生活の話。俺はたぶんヨシ・タイプだと思うので、ロバみたいにゆったり大きく、人に接することのできる人に憧れるし、尊敬してしまう。四人共、魅力的でいい人だと思うけど、それでも、やっぱり女は怖いな…。と思った。ロバがハッピーエンドだったのが救いかな…。良い物語。

  • 10数年ぶりに再読。久々の再読なのに感想は一緒だった。

    宮本輝の作品の中では軽くて異色な感じ。昔のトレンディードラマみたい。
    主人公の心のあり方が印象的で、それが作品の魅力だった。
    やっぱり愛子がちっとも好きになれなかった。

  • 父の本棚に置いてあったので手に取りました。
    読後一年ほど時間が経ってからの感想ですが、未だにこの作品の印象が強く頭の中に残っています。
    好き嫌いの否応無く記憶に残ってしまう作品だと感じました。
    正直、話の繋がり方と登場人物の人間性が気にくわない部分があります。(物語の起承転結、スピード感、文章の構成はとてもスッキリしていて読みやすいです。)
    しかし、それを押しのけてでも読ませて、記憶に残す力のある作品だと感じました。
    人と人の間で愛がどのように生まれ作用するか。
    また、そもそも愛とはどういったものなのか、という事について考えさせられました。

  • 感想というか好きな部分。

    「個人のプライバシーに唾吐いて、言いたい放題、書きたい放題。それを読むやつも、なるほどそうなのかて、いとも簡単に信じ込む。どいつもこいつも、口舌の徒になる。俺は、そんなふうになりたくないんだ。逢ったこともなければ、話をしたこともない人を、誉めたり、けなしたりするのは犯罪だよ。

    コオロギもカブトムシも、鮭も鯨も、雀も鷲も、みんな子どもを産む。どうして人間だけ子供を産むことに不自由になってしまったのだろう。命、ばんざいだ。ばんざい、ばんざい、おめでとう。

    時間も偶然も金では買えない。でも、命も金では買えない。金で買えないもののために、金が必要なんだ。金ってやつは、金で買えないもののために真価を発揮する。

    物の秩序は、その膨大な数が偶然の疫病と季節の無慈悲からではなく、産むと同じように、激しく破壊する避けがたい運命のために殺され滅ぶことを求めているのか、私にはわからない。

    俺は、騙してくれって言ってんじゃないよ。嘘をつくってことと、本当のことを口にしないってこととは違うんだ。自分の胸に収めて、黙ってられるかどうかが、人間としておとなかどうかってことだろう?

    他人によって傷つけられるものは自意識だけだ」

  • ドラマで見たい。与志くんは、西島秀俊かな。

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著者プロフィール

宮本 輝(みやもと てる)
1947年、兵庫県神戸市生まれ。1977年『泥の河』で、第13回太宰治賞を受賞してデビュー。1978年『螢川』で第78回芥川賞を受賞。『優駿』で吉川英治文学賞、1987年初代JRA賞馬事文化賞、2009年『骸骨ビルの庭』で第12回司馬遼太郎賞を受賞。2010年、紫綬褒章受章。
主な代表作として、2018年に完結した自伝的小説『流転の海』シリーズ作のほか、『蛍川』、『優駿』、『彗星物語』がある。

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