流転の海 第1部 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307503

作品紹介・あらすじ

敗戦から2年目、裸一貫になった松坂熊吾は、大阪の闇市で松坂商会の再起をはかるが、折も折、妻の房江に、諦めていた子宝が授かった。「お前が20歳になるまでは絶対に死なん」熊吾は伸仁を溺愛し、その一方で、この理不尽で我侭で好色な男の周辺には、幾多の波瀾が持ち上った。父と子、母と子の関係を軸に、個性的な人間たちの有為転変を力強い筆致で描く、著者畢生の大作第一部。

感想・レビュー・書評

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  • なんとも言えない。簡単な成長物語としてのビルドゥングスロマンではなし、時代小説のようなものでもなし、ましてやエンターテイメントでもなし。人間が剥き出しに描かれている様に感じるものの、良いとか悪いとか、主題が何か、今の自分には判然としない。

    紆余曲折、毀誉褒貶の人間模様。人間の多様面と厚さ、深さ、複雑怪奇さを感じる。人間の矛盾、弱さ、汚さ、儚さと、苛烈さ、酷薄さと、強さ優しさ、潔さと。美と醜が渾然一体となって、混沌のままに呈示される。どちらも人間の本質なのか。
    正に海。掴めない。

    ただ、その中でも、幼子を前にした父親を人間として見る感じる描写は、自身の父親もそうであったかもと思わせてくれて少し親に近づけてくれる。
    そして、この物語を読み進めることによって、『分かった気になって、人間を善悪の二項対立で簡単に判別しがちな私自身の薄っぺらな人間観』と、『なんでも勝ち負けに落とし込んでしまう考え方』が、豊かになるかも知れない期待が出てきた。

    全9冊の大作を読み進める中で、どんな変化が自分に起こるのか、起こらないのか、楽しみである。

  • 主人公松坂熊吾50歳(ワイと同い年)、作者宮本輝(ワイと同じ名前、ワイはアキラですが)、これはもう運命を感ぜずにはいられない。 
    この物語を読む事が私の使命、いや、これを読む事でこれからの自分の生き方に何らかの影響があるのではないかと、寧ろ恐怖を感じる。

    舞台は日中戦争開戦からそして終戦へ。生きている時代は違うのだが、松坂熊吾に感情移入してしまう自分がいる。しょーもないミステリーを読んで揚げ足取って喜んでいた自分のなんて小さい事よ。これだよこれ、私が求めていたものは。

    って、読了して知った、これ全部で9部wなげーよwもー、ばかばか! がんばりまーす。

  • 長編第一部
    宮本輝の父親を描いたとされる自伝的小説。
    豪放磊落、しかし、決して完璧でない、むしろどこか精神的な病を患っているかのような主人公の在り方に、とても惹かれた。今の時代には、おそらく受け入れられないであろう。だからこその憧憬かもしれない。魅力的で人間臭いキャラクターが多数登場。続きが楽しみ。

  • 宮本輝さんの作品との出会いは16歳。青が散るでした。
    そしてこの流転の海のシリーズを読み始めたのは52歳。主人公とほぼ同じ年齢なので目を背けたくなる描写も、辛くて耐えられそうにないことも受け入れられる精神力があるように思います。
    作品に入り込みすぎてあっという間に読み終えてしまいそうなので、この流転の海シリーズは一年かけてゆっくり読みたいと思います。

    • まことさん
      えみほさん、初めまして♪

      私も宮本輝作品は『青が散る』が初めでした。
      テレビドラマ化されたのを見ていて、とても好きになって読みました...
      えみほさん、初めまして♪

      私も宮本輝作品は『青が散る』が初めでした。
      テレビドラマ化されたのを見ていて、とても好きになって読みました。
      昨年『優駿』を読みましたが『流転の海』シリーズは積んでます。
      冬になって図書館に通えなくなったら今年こそは読みたいと思います。
      2023/09/23
    • えみほさん
      まことさん、コメントありがとうございます!
      「青が散る」デビュー一緒とのことで嬉しかったです。
      優駿も好きでして本棚に並んでいます。久しぶり...
      まことさん、コメントありがとうございます!
      「青が散る」デビュー一緒とのことで嬉しかったです。
      優駿も好きでして本棚に並んでいます。久しぶりに読んでみようかなと思いました。
      流転の海はいろんな人におすすめしたいのですが、長編なので躊躇います。
      2023/09/23
  • 1982年に開始したこの「流転の海」シリーズが、2018年6月の第九部「野の春」をもって完結したということが話題となった。宮本氏も、この37年間に及ぶ大河小説の完結に、躊躇することなく自らを褒めていた。

    物語の主人公は、松坂熊吾。宮本輝氏の父・宮本熊市氏の物語である。第一部は、敗戦から2年たったばかりの大阪を舞台。松阪熊吾が事業の再興を始めるシーンから始まる。そのとき、熊吾50歳にして初めての子を授かる。

    物語の中では、その子を「伸仁」と名付けるが、まさに宮本輝(本名宮本正仁)自身のことである。

    宮本氏は、「私は、自分の父をだしにして、宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうともくろみ始めた」と述べている。

    なるほど、主人公・松坂熊吾は、豪胆な実業家のイメージで描かれているが、この物語は凄腕実業家のサクセスストーリーを筋とするような軽いものではない。そんなものならすぐに飽きられただろう。

    この松坂熊吾という人物は、凄いけれども欠点もボロボロあわせもっている。彼の周りにはありのままの人間ドラマが繰り広げられていく。

    人を信じたり、騙されたり、妻を愛する心や尊敬する気持ちが根底にあるかと思えば、妻に支配的になり暴力をふるったり、暴言を吐いたり。事業に野心を抱きながら、一方で虚弱な子どものために自分の野心を捨てさろうと悩む。その主人公像は、決して精錬されたものではない。

    スマートではないが、人間臭さの中に魅力があるように思う。粗暴とも思えるような一面を持ちながらも、その熊吾から発せられる言葉の端々に、宇宙を貫く法則的なものや、哲学的な視点が感じられたりする。

    「宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうともくろみ」とはこのような狙いのことだろうか。

    生まれた「伸仁」の顔を見ながら「お前が二十歳になるまでは絶対に死なん」と宣言した熊吾は、これからどんなドラマを展開していくのか、それが非常に興味深い。

  • 自分と同世代の熊吾。息子が二十歳まで生きる、って、全く同じ決意には共感。豪快ながら不安を抱え生きていく様、家族や周りの人物像。時代背景があるにしろ、心地よい引き込まれ感。

    さあ、男、家族、親子の行く末はどうなるのか。
    宮本氏の「生死観」の描き方にも注目かな。

  • 久しぶりに宮本輝さんの作品を読んだが、やはり文章・人物の描き方等全てにおいて素晴らしかった。
    主人公が妻に暴力を振るう場面は、嫌な気分になったが、すごく話に引き込まれた。続きが楽しみ。

  • 豪胆かつ小心で、猥雑な面も併せ持つ松坂熊吾とその眷属たちが織り成す、濃密な小宇宙を描く。宮本輝氏本人と実父・実母をモデルとした大河編の第一部。

  • こんなに読ませる小説には出会ったことがないというくらい、面白かった。
    流転の海シリーズは全9巻だが、中でも特に面白いのが主人公一家の羽振りがよい1,2巻。その後は主人公の熊吾が手を出す事業がことごとくうまくいかず、読んでいて辛い気持ちになることも。
    面白さの要因は、事業が上手く行くのかどうかのサスペンス性、登場人物は無事にいられるのか心配にさせられる所などなど、つまりは先が気になるところなのかなと感じた。

  • まだまだ序盤といった感じだが、魅力的な登場人物が多く、続きが気になる。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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