流転の海 第7部 満月の道 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307565

作品紹介・あらすじ

年が明けて昭和37年、順調に伸びていた「中古車のハゴロモ」の売上が突如低迷しはじめた。伸仁は高校生になり、身長は熊吾を超えた。熊吾は、質の悪い情夫と別れられないでいる森井博美と再会し、不本意ながらその手切金の金策に奔走することになる。仕入担当の黒木は「ハゴロモ」の不自然な入出金の動きを嗅ぎ取った……。運命という奔流は抗いようもなく大きく旋回しはじめる。

感想・レビュー・書評

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  • 松坂一家のドタバタ劇は続きます。
    60代で立ち会上げた『中古車のハゴロモ』は無事軌道に乗り、むしろ拡大していく彼の商才は大したもんではありますが、またいつものように女絡みで一波乱ありそうでワクテカ状態です。65歳でもギンギンですね、よ!松坂の大将!私も亜鉛摂取して大将に負けないぐらい頑張りマッスル。

    第四部で別れた女(西条あけみ)に偶然出逢ってしまい、焼け木杭に火で5秒で合体、あひゃ、これは言い過ぎか、彼女のヒモ野郎(893屋さん)に手切れ金を渡し、再び失楽園の世界へ・・・

    以前経営していた中古車販売で社員にお金を持ち逃げされて結果会社を畳んだ松坂の大将、またやらかします。信頼していた社員にまたごっそり持っていかれましたね。もー、バカバカ、大将のバカ!

    ここで伸仁くんが名作『赤毛のアン』に線を引いていた一節〔アンにもの事を冷静に受け取れと言うことは、性格を変えろということになるだろう〕これですよ、正に同じ失敗を繰り返す松坂の大将お前にピッタリやがな。

    そして〔松坂熊吾に同じ失敗を繰り返すなということは、性格を変えろということになるだろう〕大将は自分で分かったみたいですね。お疲れ様です。

    あとがきでは次回第8部で大将の奥様房江さんが大変苦労すると書かれておりました・・・・房江さん、ファイツ!

  • 前巻から、打って変わっての空気感。
    人生何が起こるかわからない。変転、流転は、常のものか。
    その中でも、変わらぬ己の特質がもたらす陥穽。

    行というものの大切さなども、物語の伏流の中で描かれる。
    銀行の空気や、ふとした瞬間に熊吾が思い出す、戦死した戦友たちへの申し訳ないという思いなど、今の時代に失われた日本の文化や教えというかなんというか、知恵?なのかを、うっすらと、されどさり気なく、伝えてくれる。

    伸仁の成長と、熊吾の衰え、そして暗雲立ち込める展開。
    最晩年にでも、破滅的な転落が起こりそうな予感。

  • 息子の危なっかしいところはだいぶ落ち着いてきたが、親父は懲りないというか、ますます人間臭さを強く放ってくる。

    修羅場に直面した時の、熊吾の一貫した肝のすわりかたはすごい。自業自得感は否めないのだけど。

    望んでいないけど、そろそろ夫婦関係に一大事か?

  • 事業の危うさ、身体の危うさ、人間の危うさが入り混じっていて最後までヒヤヒヤしながら読んだ。
    そんな中でも生命の誕生や房江が新たに楽しみを見つけて人生を楽しもうとしていてワクワクする。人生を楽しむのは些細な事で良くて、それはこの第7部の満月があらわすように常にそばにある。それに気がつく事が出来れば幸せなのかなと考えるきっかけになった。

  • 全九巻の本シリーズ七巻目の読了。
    この七巻発刊までに要した期間は30年、幸いにも全巻が刊行されてから読みだした私にとっては途絶えることなく読み続けられて嬉しい限りだけど、一巻発売時からのファンのなかには鬼籍に入られた方もこのシリーズの時代背景からも少なくないのではないかと思う。
    自分が育ってきた歴史を振り返ってみても、色々なことが思い起こされる。

    再び信頼していた部下に裏切られ、多大な運転資金を横領されてしまった熊吾。
    暫く途絶えていた元ダンサーとの腐れ縁が復活。
    同じ事の繰り返しも、背景が以前とは違い段々熊吾も歳をとってきている。
    残された年月はそんなに多くないのに、なにをやっているんだともどかしく思うが、興味は尽きない。

  • 房江がけっこう良さげに想い語ってるやん て思ってたらあとがきで次巻は最悪になるって知らされて…盛り上げどころになるのは分かるけど今回幸せそうになってきてよかったやん て思ってたのに。まぁ熊吾はでっかい人やからこそちっこい綻びあったっていいやん。伸は15,6なのに良い子過ぎやわ〜このまま成長できるのか気になる。毎回 読んで学んでるのは失敗しても凹み過ぎず素直に反省しポジティブにも考えられる、心持ち スケールでかくしていたいって事かなぁ。

  • どこまでが実話かは分からないが、正に波瀾万丈。

  • のぶが順調に育っています。熊吾はやっぱり寄り道をしています。
    登場人物それぞれの息遣いが感じられます。
    時代の雰囲気も伝わってきますね。次の文庫化が楽しみです。(また2年後かな?)

    20161130

  • 第7部
    熊吾の商売を房江に任せる事が出来たなら、もう少し上手く回っていくんじゃないかと思う。
    またいずれ、お人好しが原因で窮地に陥る気がする。

  • 車をあっちやったりこっちやったり

  • 満月の道

    熊吾が、柳田のモータプールの管理人と並行して始めた中古車販売の「ハゴロモ」は、予想以上に繁盛しスタッフの増員を余儀なくされ四十五歳の玉木則之と二十二歳の佐田雄二郎を新たに雇い入れる。

    一家は、ゴルフ場建設に意欲を燃やす柳田の要請で、もう一年モータープールの管理人を続ける事となるが、房江の負担軽減の為柳田商会から高卒の田岡勝己を派遣してもらう。
    さらに、またも国立大学の受験に失敗したシンエータクシーの神田を、合格した私大の夜間に通わせる為ハゴロモに雇い入れる。

    意に反して事業拡大するハゴロモは、房江の心配をよそに板金塗装会社「松坂板金塗装」を立ち上げる。
    そしてその資金繰りの為、柳田商会の松田茂とその母親の貯えからから八十万を借り受ける。

    そんな頃、街中で男と言い争う森井博美を見かけるが、その余りにも窶れた見窄らしい姿に愕然とし、後を尾けるも見失う。 
    だが後日、たまたま食事に立ち寄った居酒屋で働く博美とついに再会してしまうのだった。
     
    同じ頃、神田から玉木が二重に伝票を作成していると言う報告を受けるが、さしたる調査もしないまま忘れてしまう。

    再び、
    街中でばったり博美と遭遇した熊吾は、ヤクザのヒモと切れないので助けて欲しいと懇願され、博美の顔の傷の負い目もあり逃亡に関わってしまう。
    結果、熊吾が東京へ逃した事が漏れ、赤井というヒモに八十万の手切れ金を支払うハメに。そしてその出費は想像以上に大きな重荷となってゆく。

    熊吾の手切金によってひとまず自由となった博美は大阪へと戻り、モータープールとハゴロモの近所にアパートを借りる。

    結局、博美の持つあまりにも甘味な肉体の虜となった熊吾は、その欲情に抗えず昼間から足繁く通うようになる。

    一方、
    行方不明となっていた城崎の麻衣子は、蕎麦修行の為に但馬の出石にいた事がわかる。蕎麦専門店としてのちよ熊を開店するにあたりツユの味が決まらず、房江を頼ってきたのだった。

    そして…

    神田の抱いていた危惧は的中し、またしても信じきっていた己の腹心・玉木の裏切りが判明する。
    玉木は数百万にも及ぶ金を着服していたのだ。
    そして、その金はなんと森井博美のヒモとその背後のヤクザへと流れていたのだった。

  • 何度同じ失敗をするのか、熊吾は。
    太っ腹で人情家でもあるけれど、最後の詰めがいつも甘い。
    若いうちはまだやり直しもできた。
    だけどもう65歳。
    体力も、残り時間も、そんなに残されていないのだ。

    伸仁のために生きる、と決めていたんじゃないの?
    なのに、糖尿病についても、すぐ油断する。

    房江もそうだ。
    通信教育でペン字を最後まで習いきったのはえらいと思うが、家族に隠れて飲む酒がどうしてもやめられない。
    あんなに伸仁が嫌がって、酒をやめてほしがっているのを知っているのに。

    だけど、房江は麻衣子と交流を深めることで、新しい道が開けていくような気がする。
    心を開いて話ができる人がいるというのは、いいことだ。
    この先房江は城崎で暮らすつもりなのだろうか?

    伸仁が毎日練習していた柔道の目的が判明。
    思春期で、母親に対してぶっきらぼうではあるものの、伸仁は母に優しいと思う。

    森井博美は西条あけみだったころと別人のようである。
    もっと毅然とした生き様を見せていたと思うのだけど、熊吾にすがるしかない今は情けない。
    もし今の姿を伸仁に見られたら、ちゃんと挨拶できる?

    熊吾は会社を、家庭を守り切ることができるのか?

  • 文庫判だからこそ巻末についているであろう「解説」で1〜6部のあらましをまとめてくれているのが悪くない。

    が、宮本さんの筆致力により第六部からおおよそ9年ぶりに読んだにもかかわらずぐぐっと引き込まれるのがすごい。

  • 今回も熊吾は同じ失敗をしている。信頼している部下に裏切られるのだ。何回同じ過ちを犯しているのかとほぞを噛む思いだ。さすがの熊吾も自分の性格を分析している。
    この先房江には困難が待ち受けているそうだ。しかしそれは満月の道であるという暗喩。
    伸仁が逞しく成長している。

  • 最高
    読み返そう

  • 中古車販売会社「中古車のハゴロモ」の取り扱い規模も人員も増やし商売が軌道に乗ってきた熊吾は森井博美と再会し歯車が狂ってくる。従業員の不審な動きに気付いた熊吾は借金を抱えたまま窮地に陥ってゆく。

  • 次から次と数多の人物が登場しますが、結局、優しい乱暴者で終わりそうだ。
    熊吾に残ったのは房江と伸仁、家族は大事ですよ・・・って事か。完結まで後2冊。
    飽きてきた。伸仁に将来を託すでThe endかな?
    宮本さんは熊吾に「この俺が杜撰だった」と云わせていますが、それじゃ読者が可哀そう!?
    杜撰・「ずさん」と読むことを知りました。少し利口になりました( ´艸`)

  • 熊吾さんはどうしてこうなんだろう。
    自分でお分かりになってらっしゃるようなのに。

    歳を重ねて、経験を積み重ねても自分を戒める事はますますもって難しくなるんだろうか。

    あぁ、房江さんがただただお気の毒だ……

  • 第八部へ。

  • 感想は最終巻に。

  • 続けてシリーズ第7部。戦後、日本人が敗戦という事態を引き受け(ざるを得ず)、退廃や貧困から少しずつ豊かさを手にしていく様がそこかしこに感じられる。しかしそれは社会全体という話であって、個々の家庭や個人となると問題は別。
    熊吾とて、加齢による勢いの衰えや運、不運、そして自分ではなかなか気づけない弱さ、脆さもあり、同じ過ちをまたしても…。事業も女性問題もである。

    東京オリンピック前の昭和37年、車が日本でも身近となり、中古車需要の波に乗り事業を拡大しつつある熊吾一家。辛い生い立ちを持ち、なかなか自分として生きられなかった妻房江が我が身を振り返り、自己肯定感を持ち始めたのは本当に嬉しい。この作品の女性たちは、その資質や特性を生かし、逆境や不運を跳ね返そうと何らかの覚悟を持っている様子が興味深い。男尊女卑が通念だった時代、女性の細やかな心情や強さを描く様に惹かれる。
    ちなみに女性を解放する手段である生理用品が開発、流通し始めたのもこの時期だったんだな。昔あった「アンネ」。作品の中で再会できるとは懐かしい。インド映画の「パッドマン」も上映されたところだし。

    この時代の若者たちは地方の貧しさを補うため、上京または上阪し、少ない給金から田舎への仕送りを工面していたんだなあ。今は仕事を求めて、上京しても地方の親から仕送りというパターンがあるとも聞く。どちらが良いというのでもなく、時代が変わった。

  • 読者としても、もはや引くに引けないお付き合いとなる長編。

    宮本輝は自身の生い立ちや経験をなんども作品化している。名前や設定は変えつつもこれまで他の作品で描かれてきた主題がじっくりと描かれている。これは「重複に対する批判」ではなく逆にファンとしては嬉しいことなのだ。筆者の、繰り返してきた年輪と成熟が大樹の中に流れる生命の音を静かに奏でる音に、旅人はただその傍らにたたずみ、時折耳をそばだててその流転する血潮に包まれるだけ。無事完結を祈る作品の一つ。

  • 熊吾しっかり!まったく前作までのあらすじを思い出せない私もしっかり!あとがきナイス!ほんま登場人物多すぎ、スクランブル熊吾。

  • 単行本再読だけれどこちらに記録

  • 発表、発売が緩やかで、これまでの話を忘れてしまうのが惜しい。主人公熊吾は66歳である。まだ懸命に働いている。様々な事件が襲い、人間模様に翻弄される。2016.11.19

  • 伸仁の成長!良かったなあ…熊吾さん頑張れ。でも、ここからどんどん辛くなるんだよなあ…。最終章の執筆が始まったそうですごく楽しみ。最後どんな文章で終わるんだろうか。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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