- Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101308043
作品紹介・あらすじ
時は19世紀末、権謀術数渦巻く李氏朝鮮王朝宮廷に、類いまれなる才智を以て君臨した美貌の王妃・閔妃がいた。この閔妃を、日本の公使が主謀者となり、日本の軍隊、警察らを王宮に乱入させて公然と殺害する事件が起こった。本書は、国際関係史上、例を見ない暴挙であり、日韓関係に今なお暗い影を落とすこの「根源的事件」の真相を掘り起こした問題作である。第一回新潮学芸賞受賞。
感想・レビュー・書評
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「閔妃暗殺」角田房子著、新潮文庫、1993.07.25
468p ¥660 C0193 (2022.11.10読了)(2014.08.26購入)(2006.02.05/16刷)
副題「朝鮮王朝末期の国母」
●日本大百科全書(ニッポニカ)「閔妃」の解説
閔妃(びんひ / ミンピ)(1851―1895)
李氏(りし)朝鮮第26代高宗の妃。1866年に王妃に冊封(さくほう)された。時の執権者であった高宗の実父大院君と対立し、閔氏一族を中心に反対派を糾合、政府の要職に登用し、73年には国王親政の名のもとに大院君を退け、自ら権力を握った。鎖国主義を改め、76年には日本と江華条約(日朝修好条規)を結んだ。82年の壬午(じんご)軍乱で失脚したが、ふたたび政権を掌握。84年の甲申政変では一族の有力者を失いながらも、清(しん)国軍の介入で政変を挫折(ざせつ)させた。日清戦争後、親日的な金弘集らの手で甲午改革が始まると、ロシアに接近して日本の侵略を阻止しようと図った。これを憎んだ日本官憲、浪人の手によって、95年10月8日殺害され、死体は焼却された。
[宮田節子]
●デジタル大辞泉「三浦梧楼」の解説
みうら‐ごろう【三浦梧楼】[1847~1926]
軍人・政治家。山口の生まれ。広島鎮台司令長官として萩の乱を鎮圧。のち、朝鮮特命全権公使として閔妃びんひ殺害事件を起こした。晩年は山県有朋とともに政界の黒幕として活動。
読んでみたいなと思う本の多くは、どういうわけか分厚いのが多くて困ります。読み始めるのに敷居が高くなかなか手に取るのに時間がかかります。
先月『物語韓国史』を読んで助走をつけて覚悟して読み始めました。10日ほどかかって読み終わりました。
明治時代からの日韓関係を知るうえで読んでおいた方がいい、本だと思います。
●権力(128頁)
すべての人を支配し、国の運命をわが手で左右する満足感、陶酔感……。〝権力〟という名の美酒を一度味わった者は、生涯その魔力から解放されることはむずかしいらしい。
●日清戦争(268頁)
日清戦争勃発前後の日本人は、清国と朝鮮の関係をどう考え、この戦争をどう受け止めていたのか――。
日本人のほとんどすべてが、一口に言えば、これを〝義戦〟と考えていた。長年にわたり弱い朝鮮をいじめてきた横暴な申告をこらし、朝鮮の独立を助けるため、力を貸そう――というものである。
●王妃暗殺(427頁)
王妃を殺されたことへの民衆の怒りはすさまじかった。閔妃が国民にとってどのような王妃であったか、ということは別問題で、自国の王妃が日本の暴挙によって抹殺されたことへの国民としての怒りであり、日本はこれからも朝鮮に対して何をするかわからないという暗い予感ともつながっていた。
●三浦梧楼の犯罪(430頁)
資料に基づく限り、閔妃暗殺は三浦梧楼の犯罪である。当時の公使には軍の指揮権もあり、機密費もたっぷり持っていた。政府と裏でつながっていなくても、独力で閔妃を暗殺することは可能であった。今の私には、当時の政治状況と日清戦争直後の国力、軍事力から判断して、政府が閔妃暗殺に直接関係していたとは考えられない。
【目次】
プロローグ―池上本門寺の墓地にて
李氏朝鮮王朝通信使
大院君、政権を握る
閔妃登場
悲しき王妃の座
閔氏一族の結束
王世子誕生
朝鮮の鎖国を破った日本
反閔妃、反日のクーデタ
大院君拉致事件
開化派青年たちの見た日本
閔妃暗躍
王妃をとりまく外国人たち
刺客と世紀末のパリ
外務大臣陸奥宗光の記録
朝鮮王朝の分裂外交
閔妃の自負心
日本公使の交替
下関の李鴻章
公使井上馨の失権
王妃暗殺計画
決行前夜
暁の惨劇
広島裁判の謎
陸奥宗光への疑惑
エピローグ―日韓併合への道
あとがき
解説 大江志乃夫
主要参考文献
☆関連書籍(既読)
「朝鮮史」梶村秀樹著、講談社現代新書、1977.10.20
「物語韓国史」金両基著、中公新書、1989.05.25
「古代朝鮮史」井上秀雄著、日本放送出版協会、1988.04.01
「韓国の古代文化」韓炳三著、日本放送出版協会、1995.04.01
「蒙古襲来(上)」網野善彦著、小学館ライブラリー、1992.06.20
「蒙古襲来(下)」網野善彦著、小学館ライブラリー、1992.06.20
「「蒙古襲来絵詞」を読む」大倉隆二著、海鳥社、2007.01.15
「朝鮮通信使」仲尾宏著、NHK人間講座、2001.04.01
「韓国併合」海野福寿著、岩波新書、1995.05.22
「韓国」渡辺利夫著、講談社現代新書、1986.10.20
「スカートの風」呉善花著、角川文庫、1997.02.25
「徹底検証朝日「慰安婦」報道」読売新聞編集局著、中公新書ラクレ、2014.09.30
「儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇」ケント・ギルバート著、講談社+α新書、2017.02.20
(「BOOK」データベースより)amazon
時は19世紀末、権謀術数渦巻く李氏朝鮮王朝宮廷に、類いまれなる才智を以て君臨した美貌の王妃・閔妃がいた。この閔妃を、日本の公使が主謀者となり、日本の軍隊、警察らを王宮に乱入させて公然と殺害する事件が起こった。本書は、国際関係史上、例を見ない暴挙であり、日韓関係に今なお暗い影を落とすこの「根源的事件」の真相を掘り起こした問題作である。第一回新潮学芸賞受賞。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本と朝鮮の関係、その歴史は古く複雑に絡み合い血筋も混じっていると言う。
教科書では一行で終わる事件、その背景を知りたくて読むことにしたが、事件への興味と同じくらい角田房子さんという著者の聡明さに惹かれる。
言い方が悪い所もあると思うけれど…
朝鮮は衣食住に於いて現代とは思えない自然と共存した暮らしであったと言う。
それは李王朝が支配して労働は悪のように考える風潮があったから。国民そして奴隷という人たちには過酷な人生だったと想像する。
平然と行われる収賄、正義なんてお金で買える、それは今の韓国や北朝鮮の人にも深く根強く残っているのではないか。
とは言え隣国でありお互い助け合うことも出来たはず、何故これまで拗れることになってしまったのか悲しみに耐えない。
話は閔妃に戻る、公然と地位名誉が一夜に変わる時代、運命によって担ぎ出された王の妃と言う立花。
沢山の女性の中の1人からトップに立つまで、立ってからもあり続けることに執着した心は幾許か。
中国無くして朝鮮はない、宗主国だと公然と言う王室の他力本願的考え。
それが中国だ、いや日本だ、えードイツ、あアメリカ……
ダメだやっぱりロシアだ!と寝返りを打ち続ける事が
事態を招いたように読んだ。
相当な努力家で頭も良かったのだろう。そのMP別に使えば国は滅びず平和に豊かになっただろうに。
そして韓国と北朝鮮と二分することもなかったのかもと思えてならない。 -
韓国では忠臣蔵並みに誰でも知ってるという暗殺事件。日本人が殺した。さらにその前に、国内の政争でもいったん殺されかかり、遺体不明で国葬もされた後逃げていたことがわかり復権している。なかなかわかりにくい時代だが、角田房子の文章が読みやすく、このままドラマにしてほしいほど。やはり下支えする知識の深さが、表現は抑えても文章を面白くするのだと実感する名著。なるべく歴史を脚色しないよう、当時の時代背景や参照した文献を丁寧に説明している。
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こうもおおっぴらだと、もはや暗殺ではなく殺害だろうと言いたくなる。外国人に王妃を殺害されたらそりゃ怒るわ。彼の国の人たちが日本を嫌うのもうなずける。直接的な戦争にはならなかったけれど日露戦争はこの事件が影響しているのは明らかだろうね。読んで面白かったのだけれど人物名が分かりにくいのが難点。しょうがないけど。
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情けない事に、この史実は知らなかった。
本書により、明治初期の日韓外交史の事をだいぶ教えられた。福沢諭吉の韓国での評価も知らなかった。
この事件から、100年以上経つのに基本的には日韓の関係は進展がないように思う。それを打破するには、筆者があとがきで書いているように、日本人が真実の歴史を知る事が大事なのは間違いない。申し訳ないという気持ちを持つ事も大事かもしれない。ただ、韓国の方も被害者意識だけで今生きている日本人に接しても何も生み出さない。根深い感情が横たわっているのは否めないが、乗り越える努力はお互いに必要であろう。
世界の中において、東アジアの地域が今の中東情勢のようにならない事を強く望む。 -
今年行った景福宮で配られているパンフにこう書いている「日清戦争に勝利した日本は、本格的に朝鮮に対する内政干渉を始める。ここに親露政策を立てて、日本に正面から対立した明成皇后は乾清宮で残酷な死に至る。1895年8月20日、日本公使館の職員、日本軍などが乾清宮に乱入し、王妃を刺し殺し、その死体は裏山で燃やすという蛮行を犯した。これが明成皇后殺害事件、いわゆる乙未事変だ」まさにそのとおりだと思います。
読了日:2010 04/09 -
大学近くのTSUTAYAで買った記憶が。
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1895年、日本の公使と浪人たちが朝鮮の王宮に乱入、王妃を殺害した。まさに野蛮としか言いようのない暴挙。この史実を初めて知った時にはとても信じられず、なぜこんな重大事件を学校で学ぶ機会がなかったのかと愕然としたものだ。
本書は、日本人の多くが知らないこの王妃殺害事件に至る経緯を日韓の資料からまとめあげた力作である。大院君と熾烈な権力闘争をくりひろげた「悲劇の王妃」の生涯は実際、ドラマのように波乱万丈興だが、作家の筆は一貫して冷静だ。王妃を美化したり、個人間のドラマに矮小化することなく、朝鮮への利権をねらって相争う日中露、腐敗した朝鮮王宮内部で権力闘争にあけくれる個人の、マクロとミクロの権力関係を実に見事に浮き彫りにしている。
作家は、王妃殺害は日本政府が直接計画・関与したものではないとの結論をみちびいているが、日本の公人と民間人が一緒になって類のないテロリズムを引き起こした背景に、日本の官民に共有されていた驕りと朝鮮への侮蔑視、民衆の無知、そして「国益」のためならば何をしても許されるといった思考が存在していたことを、冷静にみつめている。
本書は刊行当時ベストセラーになったというが、今の日本に本書をきちんと受け止めることのできる余裕はあるだろうか。「愛国無罪」というテロリズムに通じる心情を育てるものの正体をみつめる必要は今こそある。