苦役列車 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101312842

作品紹介・あらすじ

劣等感とやり場のない怒りを溜め、埠頭の冷凍倉庫で日雇い仕事を続ける北町貫多、19歳。将来への希望もなく、厄介な自意識を抱えて生きる日々を、苦役の従事と見立てた貫多の明日は――。現代文学に私小説が逆襲を遂げた、第144回芥川賞受賞作。後年私小説家となった貫多の、無名作家たる諦観と八方破れの覚悟を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を併録。解説・石原慎太郎。

主演、森山未來・高良健吾・前田敦子で映画化!2012年7月公開予定。

感想・レビュー・書評

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  • 次はこの作品を読もうと思っていた先月初め作者西村さんの訃報を知った。
    父親が起こした性犯罪事件により故郷から逃げ母と姉とのアパート生活。
    中学卒業後、日雇いの仕事で小銭を手に入れ、酒と煙草にその日暮らしの19歳の貫多。友人も居らず学歴コンプレックスと経済格差に世間を恨み自堕落な毎日に堕ちてゆく。

    昔、深夜のテレビ番組の企画で即興で小説を書いている西村さんを観た事がある。
    スタジオの床にうつ伏せに寝転び、手書きで原稿用紙に書き始める。もう、それだけで風呂無しのボロアパートでせんべい布団に吸殻だらけの灰皿が溢れかえっている映像が見えるようだった。  
    小説の中では人間の嫌な部分をこれでもかと描いていたが、嫌悪感を覚えつつ人間臭さがリアルでどこか憎めない感じがするのが不思議だ。

    ただ真っ暗な闇夜の中を走り、夜が明け果たして終着駅はあるのだろうか。
    苦役列車は彼を乗せて行ってしまった。
    ご冥福をお祈りいたします。




  • 面白すぎて、3時間で読めました。
    内容的には、中卒で、その日暮らしで、日雇いの
    仕事で生活している主人公貫多の、社会に対して
    の怒り、思い、価値観などをリアルに描いた作品
    です。この作品を知ったのが、映画です。
    面白そうだなと思って、映画から入ろうと思ってた
    けど、著者の西村賢太さんが先日亡くなられたので、原作を読まないで、実写化から入るのは、
    自分の中で、著者に失礼だなと感じ、原作から
    読みました。著者と主人公が重なる部分も多く
    あると思うので、どこか、私小説に似た感じもします。

  • ダメな男だがどこか他人とおもえないのは、きっと自分にも思い当たるふしがあるからだろう 19歳という年齢からしてもとくにそういう強がりや、自分をよく見せようとする気持ちはわかる 歳を重ねた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」での承認欲求にも共感でき、この人は乱暴だけど、きっと人見知りの裏返しなのだろうとおもうと、どこか魅力的でもある

  • 石川の地震により西村賢太と師匠である藤澤清造の墓石が倒れたという情報がXで流れてきた。彼の命日が近いこともあり、そういえば読んだことないなと思い、芥川賞であるこの苦役列車を読み始めた。
    面白かった。もちろん人によっては嫌悪感を示す内容だし、やっていることは褒められたことではないかもしれない。それでも個人的には面白かった。

    ・隣でサラダ食うおじさんを怒鳴りつけてやりたい。
    ・主人公はこういう行動したけど「僕の根は◯◯なので」という使い回しだったり。
    (一番面白かったのは、「根はスタイリストなので~」)
    ・友人とその彼女の3人で飲んでいる最中にコンプレックスが爆発して悪態を晒したり。
    ・何度も原稿を反故にし続けのは自分なのに、担当編集者にびびってたり。

    中卒というコンプレックスから、他の普通の人生を歩んでいるであろう人たちのどこかをけなしてやろうとする考えの一方で、文学賞候補に入ったときは欲しくてたまらないなどとミーハーな部分を出してみたりと、とにかくはちゃめちゃな主人公だった。

  • 女子には全くお勧めできない傑作。

    『王様のブランチ』の映画紹介コーナーで、主人公の貫多は「あり」か「なし」かというような話題をやっていた。皆一様に「うーん」と微妙な笑顔を作っていたが、ポップに映像化された主演の森山未來を観てさえそうなのだから、彼女たちが原作を読んだら絶句するかあからさまな嫌悪を示すに違いない。

    主人公の北町貫多は怠惰でどこかひねくれ、性欲過多でプライドが高く、激昂するかと思えば内向的な面もあり、臭い立つような狭い部屋での貧乏暮らしで...と数え上げればきりがないマイナス要素を持っている。
    しかし貫多は特濃100%果汁をギュッと凝縮した存在であって、男は誰しもこの果汁を様々な濃度に割ったジュースなのではないだろうかと思う。読んでいても嫌悪どころか時折チャーミングにさえ感じた。

    実際に貫多のような人間がいたらはた迷惑な存在だろう。でも何かのきっかけで接点を持ったら、日下部のように一緒に酒を飲んでうっかり盛り上がってしまうかもしれない。そうならない保証はない。
    ただ確実にいえるのは、貫多的男心が1%も無いヤツとは一緒に酒は飲めないということだ。これだけは保証できる。

    • vilureefさん
      ううう、実は私この本途中で挫折してしまいました・・・。
      そうですか、☆5つですか。
      これはやはり読破しないといけませんね!
      ちなみに西...
      ううう、実は私この本途中で挫折してしまいました・・・。
      そうですか、☆5つですか。
      これはやはり読破しないといけませんね!
      ちなみに西村賢太さんも時々テレビに出ているの見かけますがいい味出してますよね(笑)
      2013/03/12
    • kwosaさん
      vilureefさん!

      コメントありがとうございます。

      挫折する気持ち、わかります。
      ☆5つは超個人的評価です(まあ、本棚のすべてがそう...
      vilureefさん!

      コメントありがとうございます。

      挫折する気持ち、わかります。
      ☆5つは超個人的評価です(まあ、本棚のすべてがそうなのですが)。
      特に『苦役列車』をはじめ西村賢太さんの著作は、評価がまっぷたつに分かれる傾向があるようですね。それも女性と男性で。
      西村さんの作品には、男のだらしなさやいやらしさが剥き出しで描かれているので、そこに共感できるか拒否反応が出るかなんじゃないかなぁと思います。

      テレビの西村さん、いい味出してますよね。
      先日のフジテレビ『ボクらの時代』の西村賢太、伊集院光、玉ちゃんのスリーショットは凄かった。
      2013/03/12
  • 先日の読書会を引きずる第3弾。
    次回は参加できるかどうか不明だけど、
    次回の課題図書だということで。

    タイトルはもちろん知っていた。
    だけど今まで読むつもりはなかった。
    そのおかげで、
    著者が最近亡くなったこと、
    芥川賞受賞作品であること以外の情報は全く入れずに読んでみた。

    まずは表題作。
    難読漢字をやたら多用するし、
    時代は昭和の終わり頃なのにとんでもなく古めかしい言い回しが多いな。
    これ、私小説風?
    ダメだ、
    とりあえず主人公を全然好きになれない。

    …との感想を一旦持ち、

    次の
    「落ちぶれて袖に涙の降りかかる」に入ったところで、

    主人公が同じ名前で、時系列が進んでるな…、
    小説家ってことはやっぱり私小説か!

    と、半ば確信しつつ念のため一旦著者を調べるというカンニングをしてみた。
    今までほとんど私小説を読んだことがなかったので、寡聞にして知らなかっただけで、
    西村賢太氏は私小説家として有名な方なんだね。

    「苦役列車」よりも「落ちぶれて…」は、
    まあそれでも厄介な御仁に違いないけど、
    想像するだに痛そうでなんともお気の毒なギックリ腰の描写から、将来に対する覚悟や、楽観的になったかと思えば次の瞬間には落ち込んで、達観したかと思えば、己の些細なジンクスにすがる小心っぷりの七変化に共感と好感が持てた。

    と、いうことで私小説だとわかった上で通しで読んでみたら、苦行列車だけ読んだ時よりも読後感が良く、面白いなーと素直に思えた。

    それにしても、まあほとんど読んでないから実はよく知らないけど、私小説ってこんなに自身を赤裸々に書くもの?
    自分が主人公なんだからちょっとはカッコよく書きたい、みたいな自意識が出てきても良さそうなものなのに。
    特に「苦役列車」の方の若き日の寛太は
    粗暴で自堕落で捻くれ者で怠け者で、
    もし本当にそうだったとしてもよくこんなにもさらけ出せるもんだなぁと読み終えた感心してしまった。
    いや、
    このやたら難読漢字が出てきたり、
    表現が古めかしかったりな独特の文体…。
    もしかしたらこれこそが著者の自意識なのかもしれないな、
    …知らんけど。

    さてさて、
    年を重ねることによくわかる、
    世の中は本当に不平等だ。
    最初、若い寛太は自身の、自分では回避できなかった境遇を拗ねて無駄に時間を過ごしているただの怠け者に、わたしには映っていた。
    だけど、ラストシーンで尻ポケットに忍ばせたソレを足がかりに、その分野で彼なりに努力をして、
    とりあえずは何者かにはなれたわけだ。
    それがわかって、
    これが私小説だということが知れて、
    著者に興味が持てて、
    いやぁ、本当に良い読書ができた。
    読めて良かったな。
    蔵書するにはためらうんだけどさ。

  • 怠惰で強欲で被害妄想気味で嫉妬深くて救いようの無い男。
    そんな男の物語がどこまでも生々しい。
    ある意味すごく人間だ。剥き身の。
    面白い。

    • workmaさん
      前々から興味を持っていましたが、感想を読んで、読んでみたくなりました
      前々から興味を持っていましたが、感想を読んで、読んでみたくなりました
      2022/03/03
  • 厄介な自意識を抱え、人生を苦役に従事するかのように感じられる主人公北町貫太の中卒で日雇い仕事をする十代の頃と私小説家となった四十代の頃について書かれた小説。

    端的に感想を述べるとこの小説を読んで酷く鬱屈とした嫌な気持ちになった。それはこの作者が人間誰しもが持っているであろう汚い部分を包み隠さず私小説としてさらけ出しているからだ。この小説を読み進める度に眼前にぶちまけられた醜い感情になかば目を背けたくなる思いだった。

    しかしこのような凄惨な気持ちにさせられたから自分はこの作品を嫌いになったと言いたいのではなく、とても好きになったということが言いたい。その理由は醜悪な部分や綺麗な部分を含めた内面を改めてじっくりと見直せる機会を与えてくれるのが文学の良さであり楽しみの1つでもあると思っているからだ。ここまで負の面を臆することなく露呈させれることに圧倒された。

    「苦役列車」とても好きになったのだけれど、自分の心が耐えられそうにないので西村賢太の他の作品を読むのは当分控えたいなと思っている。

  • NHKで西村賢太さんの特集を観て読んでみたくなり
    手に取った。
    いろいろな感情が出てきた。育った環境の辛さ、やる気の無さから何なの?どうしようもない人だな、実際身近にいたら一緒に仕事したくないな、などなど。
    それでも友達がいない貫太が日下部に出会い、だんだん親しくっていく過程での気持ちや行動の変化のところは、人間臭さを感じ特に印象に残った。
    また次の作品を読んでみたくなった。

  • 現代の作家の私小説は初めて読んだが、北町貫多の行動や言動に驚かされたり、共感できるところがあって面白かった。正直な気持ちをそのまま文章にしていて、まわりくどい表現もなく醜い姿もそのまま投影されていて、読んでて気持ちよかった。
    文体が特徴的で、単語も少し難しく調べながら読んだのでスムーズには読めなかったが、その表現だからこそ作品が際立つと感じる。
    西村賢太さんが生きている間に読みたかった作品だった。他の作品も読みたい。

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著者プロフィール

西村賢太(1967・7・12~2022・2・5)
小説家。東京都江戸川区生まれ。中卒。『暗渠の宿』で野間新人文芸賞、『苦役列車』で芥川賞を受賞。著書に『どうで死ぬ身の一踊り』『二度はゆけぬ町の地図』『小銭をかぞえる』『随筆集一私小説書きの弁』『人もいない春』『寒灯・腐泥の果実』『西村賢太対話集』『随筆集一私小説書きの日乗』『棺に跨がる』『形影相弔・歪んだ忌日』『けがれなき酒のへど 西村賢太自選短篇集』『薄明鬼語 西村賢太対談集』『随筆集一私小説書きの独語』『やまいだれの歌』『下手に居丈高』『無銭横町』『夢魔去りぬ』『風来鬼語 西村賢太対談集3』『蠕動で渉れ、汚泥の川を』『芝公園六角堂跡』『夜更けの川に落葉は流れて』『藤澤清造追影』『小説集 羅針盤は壊れても』など。新潮文庫版『根津権現裏』『藤澤清造短篇集』角川文庫版『田中英光傑作選 オリンポスの果実/さようなら他』を編集、校訂し解題を執筆。



「2022年 『根津権現前より 藤澤清造随筆集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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