- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101312859
作品紹介・あらすじ
非運の長期に散った、大正期の私小説家・藤澤清造。その作品と人物像に魅かれ、すがりつく男の現世における魂の彷徨は、惨めながらも強靱な捨て身の意志を伴うものであった。-同人誌時代の処女作「墓前生活」、商業誌初登場作の「一夜」を併録した、問題の第一創作集。賛否と好悪が明確に分かれる本書には、現代私小説の旗手・西村賢太の文学的原点があまねく指し示されている。
感想・レビュー・書評
-
作者の怒りの感情や追求心だったり、好きな人の物を集めたり理解できる所もあるが、度を越している。まあ、凄いと思ってしまうんだけど、やはり芥川賞を取る作家さんだから突き抜けているんだなと思う
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
再読。西村氏は純文学を彷彿とさせる硬質且つ推敲された文章を巧みに操る。他方で彼自身の行動は徹底的に下衆で低俗である。この相容れぬ双方のバランスを保つ見事さはどうであろう。
特に「墓前生活」は、副住職の好意を反古にし一々逆恨みする姿が酷く身勝手な一方、単語選びから句読点の配列まで天才的感性があり、さもすると不快な印象しか与えない筆者の感情や行動を高度な文学者的視点を以てユーモラスに正当化されている。藤沢清造氏への鬼気迫る執着心など狂人の域である。墓標までコレクションしているのだから。
いやはや素晴らしい。 -
半分まではこれまで読んだ西村作品ではなく藤澤セイ造に対しての思いを綴った一冊なのかと思いきや、案の定のゾワゾワする読感が待っていた。
因に手に入れたのは講談社文庫版 -
個人的には「一夜」が好きです。
破壊・破滅の直前の「間」の取り方、緊張感がたまりません。スローモーションの中にある静けさを感じました。
たぶんあの沸点まで達するまでは、コンマ1秒くらいだと思うのですが、そのコンマ1秒をこんなに分量的にも表現的にもちょうどよいのは素晴らしい。 -
実際に自分のそばにこんな人がいたらまず近寄らないけど、本の中だと不思議と興味を持てて好きになってしまう人間らしさがある。
GADOROの「クズ」を思い出す。 -
最近テレビでの露出が多い西村氏。
目をパンパンに腫らしてたりして
あ、また喧嘩しちゃった?など
余計な心配をしながら
冷や冷やして拝見しております(笑) -
度を越した執念や想いや行動は笑える。
人間ってもんは滑稽だな。笑える。
(DVは嫌だが)
どうしようもないダメ男だが憎めない。体を張り暴走し一踊りする姿はある意味ダチョウ倶楽部的でもある。 -
没した作家の墓を部屋の中に持ち込んで生活する暮らし。だいぶキテるなあとおもったけど、墓前生活にまで駆りたてる熱量って一体どこから
憧れるって心理は不思議。巡礼になるともっと不思議 -
本書は作家、西村賢太氏の第一作集です。同人誌時代の処女作「墓前生活」、商業誌初登場作の「一夜」を併録した物となっており、西村文学の原点を思わせました。それにしても1年もよく持ったものだと思います。
本書は表題作のほかに、同人誌時代の処女作「墓前生活」に加えて、商業誌初登場作の「一夜」を併録した、 西村賢太氏の第一創作集です。やはり、処女作には 作家のすべてが含まれるというのは本当のことらしく、西村賢太文学の要素がほぼ完全に詰まっていると思っております。
梅毒の末期症状で脳をやられ、芝公園で凍死するという悲劇の最期を遂げた作家、藤澤清造に魅了された『私』(=のちの北町貫太)は藤澤清造の出生地である能登七尾を頻繁に訪ね、彼の菩提を弔う寺から、位牌と木の墓標を受け取る様子が『墓前生活』に描かれ、果ては彼の隣に自分の墓まで作ってしまうという一種の狂気が伺えます。そこには歿後弟子を自認し、彼の全集を個人編集で出版しようという強烈なまでの『思い』から来るのでしょうか?
しかし、表題作の中には彼のもうひとつの側面。同居している女性に暴力をふるい、罵声を浴びせ、さらには彼女を通して全集のためだからと300万円もの金を引っ張るという、まさに『藤澤清造のためなら何でもまかり通る』かのような暴君振りが延々と描かれます。女(=後の秋恵と思われる)はそれでもけなげに文章の構成を手伝ったり、家計を支えるためにレジうちのパートに出かけ、かいがいしく彼のために世話を焼く姿がどうもいじましくて…。しかし、『私』はカツカレーを食べる様子を「ブタみたい」と軽口を言われるようなそれこそ些細な理由で烈火のごとく怒り、彼女を罵倒し、打ち据え、挙句の果ては骨まで折るような暴行を彼女に加えてしまいます。
彼女が愛想をつかして出て行くと一転、戻ってきてほしいと哀願する姿は典型的な『ダメ男』のそれで、僕はその姿に大笑いしつつも、自分の中にもそういう部分が少なからず存在するからこそ、彼の小説に共鳴するのではないかと、そんなことを思ってしまいました。巻末にはこの小説について久世光彦氏の書評が収録されているのですが、それも非常に面白く。本編を読んだ後に読むと『そうだよなぁ』と納得がいくのでした。