マザーズ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (615ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101313320

作品紹介・あらすじ

同じ保育園に子どもを預ける作家のユカ、モデルの五月、専業主婦の涼子。先の見えない育児に疲れ切り、冷めてゆく一方の夫との関係に焦燥感を抱いた母親たちは、それぞれに追い詰められてゆくが……。子どもへの愛情と憎しみに引き裂かれる自我。身も心も蝕む疲労、そして将来への深い不安――。不倫、虐待、流産などのタブーにあえて切り込み、女性性の混沌を鮮烈に描く話題作。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『育児』真っ只中の女性がこんなことを口にしたらどう思うでしょうか?

    『子どもと二人でずっと家にいる。それがぐつぐつと煮えたぎる五右衛門風呂に沈められたり、針山に落とされたりするのと同等の地獄であると知ったのは、出産直後の事だった』。

    2021年に改正された”育児・介護休業法”の施行に伴い、男性がより積極的に『育児』に関わる世の中の動きがあります。しかし、この国の『育児』の中心はまだまだ圧倒的に母親が中心となるものだと思います。親子三世代同居というような考え方はほとんど見られなくなったこともあって、『育児』は母親がアパートやマンションの一室で、世の中から半ば隔離されたような環境下で黙々と行うもの、そんな状況があると思います。

    人は集団社会の中で生きる生き物です。それぞれに手を差し伸べ、助け合っていく、それは”古き良き時代”であれば隣近所というコミュニティによって、例え『育児』という場面であってもなされてきたのだと思います。しかし、今やそんなお伽話のような環境はどこにもありません。一人孤独に『育児』と向き合う、さまざまなことに不安になり、思い悩み、葛藤しながら、目の前に泣き声をあげる子どもと向き合っていく他ないのだと思います。

    そんな中では、何が正解か『考えれば考えるほどどうしたら良いのか分からなくなっていく』、そんな思いに苛まれることもあるのだと思います。悩めば悩むほどに『私を助けるものはインターネットにもない。携帯にもない。家庭にもない。自分の中にもない。多分そんなものは存在しない』と狂おしい思いにも陥っていく母親たち。

    『育児は楽じゃない。いい事ばかりじゃない』。

    そんな現実を噛みしめながら、それでもそんな我が子と日々を歩んでいく。日々少しずつ成長していると信じながら、我が子と向き合っていく、そんな側面が『育児』にはあるのだと思います。

    さて、ここに一歳、二歳、三歳半という子どもの『育児』真っ只中の三人の女性を描いた作品があります。性格も環境も何もかも異なる三人の女性たちが『ドリーズルーム』という『認証保育園』に子どもを預けることで関わり合いを持っていく様が描かれるこの作品。そんな日々の中に、

    『皆が普通にやっている事だ。結婚も妊娠も出産も育児も家事も、皆が普通にこなしている。私は何故そこに順応出来ないのか』。

    そんな思いにも苛まれていく主人公の姿を見るこの作品。そしてそれは、リアルな『育児』の光と影を読者の前に赤裸々に綴る金原ひとみさん渾身の物語です。
    
    『後ろからバイクのエンジン音が届き』、『恐る恐る振り返ると』、『二人乗りのバイクは私に近づき、ぶつかるっと』いう瞬間に『後部に乗っている男にラリアットをくらわされ』倒れ込んだのは主人公の一人・中山涼子。『バイクから降りてきた男』は『バッグを奪』い、『ものすごいスピードで』涼子の前から姿を消しました。『全身から力が抜け』る涼子は一方でこのことが起こらなかった自分を想像します。『睡眠不足』のためすぐに眠りにつくものの『二時間もしない内に一弥が目を覚まし泣き喚き』、『一弥の声に目を覚ましもしない浩太に苛立ち』という展開。『子どもが生まれて約九ヶ月。私は事件を求めていた』という涼子は、『育児の意味が分からない』という今を思います。一方で家へと向かう中で『全く相反する温かい気持ちが芽生え』ます。『一弥の笑顔が見たい。一刻も早く…抱きしめたい』。
    場面は変わり、『五月は、二人になると甘えるよね』、『俺たちもう半年になるんだよ』と待澤に『首筋を愛撫』されるのは主人公の一人・森山五月。『久しぶりだったせいか、今日は特別激しく、特別長かった』という行為の後、ベッドに横になった五月は、『百七十五の身長に、幼女のような胸、瘦せぎすの体』に『私はエイリアンだと思っていた』という自らの体型を思います。『自分を美しいと思えるようになるまで時間がかかった』という五月は『仕事で成功していく過程はそのまま、私が自分フェチになっていく過程でもあった』と振り返ります。そして別の日の朝、『弥生、そろそろ起きな』と娘を起こした五月は、『実家のマンションへ弥生を連れて行』った後、『撮影とインタビュー』の仕事へと向かいます。
    場面は再度変わり、『シッターの山岡さんを見送ったその場で、玄関で眠ってしまった』のに気づき頬を上げると娘の輪(りん)が『首を傾げているのに気づ』いたのは主人公の一人・土岐田ユカ。リビングへと入り自席に座った輪に『ロールパンとハムと作り置きしておいたゆで卵を皿に載せる』と『ちゅるちゅるめんめん、ためたい』と不服そうな顔をされてしまいます。『保育園で他の友達が言っていたか、保育士が教えたのだろう』と思い、舌打ちするユカ。その後、ソファに横になったユカのもとにやってきた輪を抱き上げると『満面の笑みを浮かべきゃっきゃと声を上げ』るのを見て『愛おしさに、胸が潰れそうになる』ユカ。そんなユカは輪を保育園へと送ったあと、自室へと戻り『書きかけの原稿をクリックし』ます。
    三人の母親が『ドリーズルーム』という保育園での関わり通じて、一人の母親として、そして、一人の女性としてそれぞれの人生を生きていく姿が描かれていきます。

    “同じ保育園に子どもを預ける作家のユカ、モデルの五月、専業主婦の涼子。先の見えない育児に疲れ切り、冷めてゆく一方の夫との関係に焦燥感を抱いた母親たちは、それぞれに追い詰められてゆく”と内容紹介にうたわれるこの作品。赤ん坊を抱き上げる聖母を思わせるかのような母親の姿が大きく描かれ、そこに「マザーズ」と書名の入った表紙が強いインパクトを与えます。そんな作品は最初から最後まで書名の通り『育児』真っ只中の三人の母親たちの姿がこれでもか!と金原ひとみさんの鬼気迫るような筆致のもとに描かれていきます。あなたは、『育児』にどのようなイメージを持っているでしょうか?そんな時代を遠い過去に見る方、経験のない方、そして現在進行形の方、大きく分ければこの三つのいずれかになるのだと思いますが、この作品はどの分類に属される方が読んでもそれぞれに激しい衝撃を受ける作品ではないかと思います。文庫本で600ページ超えという圧倒的な物量で『育児』真っ只中の母親の心の内をさまざまな視点から炙り出すこの作品。では、そんな物語の主人公三人をご紹介しましょう。

    ・土岐田ユカ、25歳、結婚6年目の小説家。夫・央太とは関係悪化を期に『通い婚』状態となるが、逆に仲の良さが復活。二歳の輪(りん)を育児中。薬物に溺れる姿が度々描写される。涼子とは高校時代の同級生。

    ・中山涼子、26歳、結婚2年目で職探し中。夫・浩太は育児に非協力的であり、保育園に通わせることを良く思っていない。一歳の一弥を育児中。虐待をうかがわせる姿が度々描写される。ユカとは高校時代の同級生。

    ・森山五月、29歳、結婚5年目のモデル。夫・亮とは『格差婚』を引き金に関係が冷めているものの離婚には至っていない。三歳半の弥生を育児中。予備校の非常勤講師・待澤と肉体関係を続ける一方で『ママさんモデル』として活躍。

    三人は『ドリーズルーム』という『認証保育園』に子供を預けているという共通点もあって『ママ友』としての付き合いをしている…そんな三人の『育児』な日々が描かれていくというのがこの作品の概要です。上記三人の設定を見て、感情移入できそうな人が一人もいないじゃないか!というのが男性の私の正直な感想です。女性の方にも思うところは多々あるかと思いますが、この作品はおそらくそんな設定上のイメージでは分からない感情移入対象としての姿を三人に見せていく作品でもあると思います。それこそが、今まで読んだことのない、『育児』真っ只中の母親たちの内面をこれでもかと曝け出しながら『育児』な日々を送る三人の描写です。次にこの側面から見てみたいと思います。まずは、こんなリアルな『育児』の場面です。

    ・『耳だれと鼻水を垂らす我が子を見ていると、この子の体内は腐敗し、この黄色くねばつく液体が頭から指の先まで詰まっているのではないかという気になる』と『抗生物質』を止められない状況に苦悩する涼子。
    → 『一弥が常に鼻水を出し中耳炎を繰り返しているせいで、完璧にたてたはずの予防接種のスケジュールも狂いまくっている』。
    → 『今手元にある予防接種票は三種混合が二枚とポリオが一枚…これからの季節に備えてインフルエンザも打ちたい… このままでは近々風疹麻疹混合の予防接種票も届き、接種スケジュールは更に混迷を極めるだろう』。

    これは私も自分の子どもの予防接種で同じような苦労をしていたのを思い出します。ここまで母親のリアルな苦悩を他の小説に見たことがありません。育児経験者の金原さんならではの細やかさ、『育児』あるあるだと思います。次はママさん同士の会話を見てみましょう。

    ・ユカ: 『涼ちゃんはどうなの最近?育児はうまくいってんの?』
    涼子: 『まあ、大変』
    ユカ: 『ストレスない?』
    涼子: 『あるよ。もう毎日へとへとだもん。ユカは?もう楽になった?』
    ユカ: 『あー楽になったー、って感じたのは一歳三ヶ月だった』
    涼子: 『あと半年か。早く喋れるようになって欲しいよ。何で泣いてるのか分かんない時が一番辛い』。

    これも同感です。何が原因なのか?何をして欲しいのか?こんなに泣かれるならなんでもしてあげるのに理由がさっぱりわからないというのは限りなく苦痛だと思います。まあ、喋れるようになったらなったでそれも大変ですが、いずれにしてもリアルな会話だと思います。次は、保育園をどう思うかというこんな心の内です。

    ・『保育園に行くため駅に向かって歩き始めると、一気に気分が軽やかになった』という涼子。
    → 『保育園に着けば私は自由になる』。
    → 『病院や調剤薬局で待たされるのと違って、自分が歩けば歩いた分保育園に近づき、抱っこすれば抱っこした分残りの抱っこ時間が減る、という事は素晴らしい幸福だ』。

    これはどうでしょうか?『育児』に苦悩する時間が長ければ長いほどに、いっ時でもそんな『育児』から解放されることを望む感情の発露を描きます。このような感覚を覚えること自体に罪悪感に駆られる方もいらっしゃるかもしれませんが、これまた『育児』の本音をリアルに表した表現だと思いました。

    このようにこの作品では、一歳、二歳、そして三歳半という子どもを育てる母親の『育児』のそれぞれの場面が相当に生々しく描かれていきます。可愛い我が子という側面だけでなく、言うことを聞かない我が子に対するイライラした感情をそのままにぶつけていく三人の母親たちの姿は、綺麗事が散りばめられただけの『育児』を扱った小説に不満を覚えていらっしゃる、そんなあなたに是非読んでいただきたい。もしくは、中途半端な育児本を読むくらいならこの作品を読む方がよほどためになる。そして、精神衛生上も良いのではないか、そんなことも考えさせてくれる作品だと思いました。

    そんなこの作品は上記した通り、ユカ、涼子、そして五月という三人の母親たちの生き様と関わり合いを見る物語でもあります。三人の母親たちの生き方はどこか薄氷を踏むような危うさを秘めてもいます。主人公の一人、小説家のユカは、『ユカの書く改行の少ない悪趣味な小説』と涼子が揶揄する表現をもってどこか金原ひとみさん本人をモデルにしたとも思わせる中に、一方で『抗鬱剤や眠剤などの処方薬から、MDMAやマリファナなどのドラッグまで、常に多種類の薬を持ち歩いていた』と描写され、その危うさが付き纏います。その一方で、娘の輪への対峙の仕方はどこかサバサバしつつもそこに愛情を感じさせるものがあります。次に職探しを続けている涼子は、三人の中で一人だけ一般人であり、その生活も慎ましやかで、本来であれば一番親近感を抱く存在のはずです。その一方で『さっき一弥を虐待していた時の恍惚と快感を思い出し、体が震えた』というように息子・一弥への激しい虐待を繰り返します。そして、モデルをしている五月は『弥生は私たちに喧嘩の予兆が出始めると「喧嘩だめ」「怒っちゃだめ」とそれぞれに注意して私たちを和ませた』というシーンの描写など娘の弥生との関わり合いはとても穏やかです。その一方で『私は彼と不倫を続ける生活の中で、いつの間にか自分と待澤を切り離して考える事が出来なくなっていた』と不倫の日常を送ります。

    全く異なるタイプの女性主人公が三人もいるにも関わらず、誰にも感情移入し難い側面がある、それがこの作品のなんとも悩ましい特徴です。誰にも感情移入したくない主人公たち、しかし、『育児』に向き合う切々としたリアルさに満ちた心の声には共感するところ多々ありという状況が、彼女たちに近寄り難いのに近づきたいという不思議な感覚を読者に与えていきます。これこそがこの作品の絶妙な構成の妙、複雑な思いに読者を抱かせていく所以なのだと思います。そんな主人公たちはさまざまな思いを独白してもいきます。

    ・ユカ: 『育児の大敵は孤独だ。孤独な育児ほど人を追い詰めるものはない』。

    ・涼子: 『子どもと二人でずっと家にいる。それがぐつぐつと煮えたぎる五右衛門風呂に沈められたり、針山に落とされたりするのと同等の地獄であると知ったのは、出産直後の事だった』。

    ・五月: 『聖母マリアに象徴されるように、母とは最も満たされた存在であるように捉えられているけれど、本当は昔から、母なるものが誕生したその時から、母とは最も孤独な存在であったのかもしれない』。

    そう、そこにあるのは孤独な存在としての母親を意識する三人の主人公たちの姿です。三人は見かけ上仲の良い時間を過ごしてもそれぞれに対する複雑な思いが交錯し続けます。そのあまりに激しい内面の吐露の連続に読者にもそれを受け止めていく覚悟がないと読みきれない作品だとも思います。物語は、ユカ→涼子→五月の順に視点が切り替わりながら進んでいきますが、最後の一周となって、物語はそれまで読んできた物語とは別物に色合いが変化します。どこか超然とした筆致に別の意味で衝撃も受ける物語。これから読まれる方には、そんな最後の展開にも是非ご期待ください。文庫本600ページ超えという圧倒的物量が嘘のように読み進めることのできる物語、『育児』に強い光を当てる物語がここにはありました。

    『育児は楽じゃない。いい事ばかりじゃない』。

    育児を経験された方には誰もが納得するであろうそんな涼子の言葉をしみじみと感じることになるこの作品。そんな作品には三人の母親たちが、『育児』に葛藤しながら、一方で一人の女性として人生を生きていく姿が描かれていました。育児未経験の方には『育児』がとても恐ろしいもののように思えてくるであろうこの作品。『育児』を遠く過ぎ去った方には、がんばれ!と主人公たちに声をかけてあげたくもなるこの作品。

    “幼い我が子と対峙するとき、母はつねに孤独な存在だと思います”と語る金原さんの鬼気迫る筆致に、ただただ圧倒されるインパクト最大級の作品でした。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。
      はい、子育ての『孤独』ぶりがよく分かる作品でした。金原さんならではの描き方だと思いま...
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。
      はい、子育ての『孤独』ぶりがよく分かる作品でした。金原さんならではの描き方だと思いますが、現代の子育ての真実がここにあるようにも思いました。今回、金原さんの作品を三冊読んでいるのですが、今回の三冊ターンで金原さんの魅力が分かりました。「蛇にピアス」を含む三冊を読んだ前回のターンでは、”痛い!”感覚で嫌になって金原さんサヨナラと思ったのですが、今回再び読んで良かったです。次回読めるのは一年以上先だと思いますが、早くコンプリートしたい作家さんの一人になりました。金原さんの作品を読むきっかけはnaonaonao16gさんにいただいたので、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました!
      2023/04/08
    • naonaonao16gさん
      さてさてさん

      金原さんは痛みの描写が強い印象の作家さんで、初期の作品は特に痛みの強さを感じるのと、時に理解できない難解な描写もあったりしま...
      さてさてさん

      金原さんは痛みの描写が強い印象の作家さんで、初期の作品は特に痛みの強さを感じるのと、時に理解できない難解な描写もあったりします。
      『マザーズ』は、今の作品の作風に通づる部分を感じます。最近の作風の原点というか。社会性を持たせるとともに、しっかり個人の痛みにもフォーカスしていて、彼女独自の路線を持っているように感じます。個人的にそのスタートになったのが『マザーズ』という印象です。
      違うかもしれませんが笑

      わたしがブクログで金原さんのレビューを書いたことで、金原さんの作品に触れる方がいらっしゃることが嬉しいです!言葉にすることが難しい痛みを言葉にし続ける金原さんを、これからも布教し続けたいです!笑
      2023/04/09
    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、痛みの描写、わかる気がします。独特な世界観もそうですが、近寄りがたい印象を抱いているうちはダメですね。ただ、感...
      naonaonao16gさん、痛みの描写、わかる気がします。独特な世界観もそうですが、近寄りがたい印象を抱いているうちはダメですね。ただ、感じ取れるという感覚を得ることができると中毒性がある作家さんだと思いました。この「マザーズ」は読みやすい印象がありました。ただ、今回三冊読んだ中では、強烈な一冊もありました。でも、それでも、また読みたいなという印象は変わりませんね。
      naonaonao16gさんのレビュー、また楽しみにしています。
      どうぞよろしくお願いします。
      2023/04/09
  • はじめて読んだ金原ひとみさんの作品。

    ドラッグ、虐待、不倫、流産……なんとも重たい内容を描く作品でしたが、この本には育児で葛藤しながら1日1日を生きていく母親の姿、母親の愛、母親の苦しみが詰まっていて読んでいくうちに心苦しくなることが多い。特にユカという母親はドラッグ中毒なので幻覚する場面はいつも恐ろしさを感じるけど、本人自身それだけ苦しんでいるんだろうと思う。金原ひとみさんの喩えかたはインパクトがあって凄いと思いました。
    ユカが央太の部屋に上がってDVD齧るとこやばかった。
    涼子が一弥にシャワー浴びせるとこもやばかった。
    読んでいて痛々しい描写もあって、読み進めるにも時間がかかりました。重たい…(泣)
    最後の方の五月の章はもう、悲しすぎて……(T ^ T)

  • 一気に読めました。
    人間の描き方が魅力的で楽しい。
    母親業をやっている人たちは色々な種類の人がいる。

  • 読んでて辛いのにやめられず、あっという間に読み終わった。というか、読み始めてしまった以上終わるまで読まないわけにはいかないという感じ。
    小説家でもモデルでもクスリをやってても浮気をしてても、子供育てる苦労は、ごく普通な主婦の自分と同じなんだなって思いました。
    わたしが子育てしてたのは20年以上も前で、携帯もネットもメールもなかったから孤独だったんだろうって思ってた。夜中に子供が泣き止まないときに、つぶやいたりしたら仲間見つかるだろうし、なんでミルク飲まないの?って検索すれば、いろんな答え出てくるだろうし、いいよなあーって思ってた。
    だけどそんなことないんだなあーやっぱり孤独なんだなー。どうして夫という生き物は妻をどんどん孤独に追い詰めるんだろうね。

    それぞれの心の動きがよくわかりすぎて辛かった。こういうふうに考えるのは自分だけだろうって思ってたこと(そんなに意識せずにだけど)が、理路整然と文章になっていて、びっくりした。そっかわたしが思うことってそれか。って思ったり。

    3人とも共感できないけど、ちょっとした気持ちの動きがよくわかるとこいっぱいあった。

    でもどっちかといえば、内容全部忘れたい。笑


    2016/10/11

  • 読み終わった瞬間産声が聴こえた気がした。凄まじい小説。改めて私は金原ひとみが大好きだと思った。弥生が死んだシーンは頭を殴られたようなショックを受け、自分から湧き出てきたわが子を失った気持ちに圧倒された。終盤に連れてユカや涼子、五月がそれぞれに、妻や母親として安定した状態に為っていくことに心から安堵した。
    女であるということは、大体の場合妻として、母親として誰かを愛し、産み育てるということであり、自分の躰に他者を取り入れ、吐きだし、いずれは一部でなくなってゆくことを、哀しみ、苦しむことも含まれている。濃厚な愛が子供を失わせ、生存を危うくさせ、狂わせてゆくことがあり、それは決して稀なことではないのだと思う。女という性がまとう生々しく詩的な、切実で破裂しそうな危うさが、理屈ではなく私自身の胎内へと肉薄し、自分が女であることを、改めてどんなことなのか、その一端を見ることができた。読んで良かった。女が母に為ることは、ひどく業が深く、それ故に物語的で、文学的で、畏ろしいことなのだと感じたし、そんなことを思わせてくれた金原ひとみに感謝したい。

  • 金原さんが丸くなったと思った作品。
    ドラマチック。

  • すごい。圧巻。すべてを書き切っているのでは。

    3人の若き母たちを題材に、母親であることの幸福と孤独、身を切るような痛み。金原ひとみ節として不倫、クスリ、暴力の描写はあるけれど、それもその時々で彼女たちには必要なもの。

    読むタイミングは選んだほうがいい。若すぎるとわからないし、登場人物に近すぎると嫌悪感が勝りそう。まだそこに足を踏み入れないギリギリという、最適なタイミングで読めたことを幸せだと思う。

  • 2.8 とにかく読むのに時間がかかった。出てくる男も、いけてない。母になり損ねた女たちの物語。父になることもやはり難しい。

  • こいつはまた、ええじゃないか。
    最初はセレブvsパンピーかよー、このブルジョアどもめが、って感じだったけど、まぁ最終的にも感情移入できて心情が理解できるのはパンピーだけだったけど、でも三者三様にそれぞれ楽しいのよ。
    ユカが突然と厨二病みたいな説教始めるのも悪くない。こんな面倒くさいこと言うのか普通って思ったけど女の人は時々こうだからな、それに比べて別居して巨乳DVD見てオナニーしてんじゃねーよと突っ込まれる央太は実にどうしようもなく、ていうか女流作家故にか概ね男はうんこな感じで描かれてるのもなんか、ブルっちゃうっていうか、Mかな。

  • 女性が母になると抱く葛藤、育児の辛さ…特に1歳までの乳児期は睡眠も細切れで、思考能力も判断力も低下する。ほっとけばすぐに死んじゃうような赤子を抱えて、でも一瞬の隙間時間があれば1分でも寝たいと訴えてくる脳と体。
    育児の地獄体験にはわかるーわかるーと同意できる反面、クスリをやっているユカの脳内はぶっ飛びすぎており、旦那の浮気を疑い発狂する姿は恐怖だった。

    母親の中にはこんなドロドロが渦巻いているんだよ、と男性に勧めたい気もするが、暗すぎて引かれるかもしれない。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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