夏の庭―The Friends (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101315119

感想・レビュー・書評

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  • 三人の少年が「死んだ人」を見たいというので、近所に住む死にそうなおじいさんを観察し始める。
    ふとしたきっかけで、少年たちとおじいさんは観察者・被観察者という関係から脱却し、交流を持つようになる。
    最初はぎくしゃくしていた関係も、やがては本当の祖父・孫とのやり取りのようになってゆく。
    その中で、死ぬとはどういうことか、あの世とはどういうものかを少年たちはそれぞれ考え始め、成長してゆく。
    少年らしい視点に立った物語。
    子供たちの無垢な残酷さも描かれていて、リアリティがあった。

  • あのころに戻れる…
    こんなお話に弱いのです。本文で泣き、作者のあとがきで泣き、最後の解説文で泣き・・仕事の合間に読んでいたのですが、接客業だというのに、もう読み終えた後は、顔面ぐちゃぐちゃになってしまいました。「暑いですね。」が挨拶代わりにもなっている夏日の毎日ですが、こんな作品に出会えば、清々しい風が身体をす~うっと通り抜けていくような気持ちよさに包まれます。井上陽水さんの『少年時代』のメロディも浮かんできます。ビジュアル的にも心情的にも、ほわぁんと眼前に広がる世界が心地よくて。おすすめです!自分の子どもにも読んでほしい!

  • 映画「スタンド・バイ・ミー」を思い出した

    小学6年生の夏、木山、山下、河辺の3人の少年は、
    「人間の死ぬ瞬間を見届けたい」という好奇心から『探偵』と称して町外れに一人で住む老人を見張ることになる

    個性あふれる3人の会話が生き生きとしていて、映画を見ているように情景が浮かんでくる

    『探偵』を続けるうちに少しずつ変化する3人の行動から老人への心情の変化もうかがえる
    山と積まれたゴミを片付けたり、刺身を差し入れたり
    救急車で運ばれたのがおじいさんではないかと気遣いを見せたりと

    見張られるおじいさんも無気力で怠惰な毎日から、少しずつ元気を取り戻し、生活に張りを見せるようになる

    興味半分の老人との付き合いは、単なる見張る人と見張られる人の関係から年代を超えた不思議な友情へと変化していく様子は読んでいても楽しかった

    3人は、おじいさんの家の草むしりをした庭一面にコスモスの種を蒔き、朽ちた板壁にペンキを塗り見違えるような家にする

    おじいさんは、少年にスイカを振る舞い、河原で打ち上げ花火を披露する

    少年たちにとって小学校最後の夏休み、何と素晴らしい体験をしていることだろう
    ずっと友だちと外遊びをしていた子供の頃を思い出す

    しかし、「死ぬ」ということに対する好奇心から始まったこの楽しい日々は、おじいさんの「死」によって終わることとなる

    静かにやさしく親しげに横たわっているおじいさんを前に、3人は、「死」は幽霊や妖怪などと怖がりながらも興味津々だったものとは全く違うことを知る
    おじいさんはめいっぱい立派に生きたことを感じ、素直に死を受け止める

    3人が「死」について語る部分が興味深かった

    「死ぬのは別に不思議なことじゃない。だれだって死ぬんだから」.
    「ほんとは生きてる方が不思議なんだよ。きっと」
    死んでもいい、と思えるほどの何かを、いつかぼくはできるのだろうか。たとえやりとげることはできなくても
    そんな何かを見つけたいとぼくは思った。そうでなくっちゃ、何のために生きているんだ

    3人にとっては、子供の頃のひと夏の経験だったろうが
    大人になっても忘れることのない貴重な経験だったことだろう

    私たち大人ももうすっかり忘れてしまっているが、こんな経験を積み重ねて大人になったのだろう
    しみじみと心に沁みる本だった







  • 最初は死ぬことについてほんの好奇心から始まったおじいさんの観察が、こんなに温かくて素敵な物語になるなんて。

    ちょうどこの年頃になると死について考え始めるし、私もよく考えてた。なんなら今でも考えてる。

    もうすぐ死にそうなおじいさんがいるという噂を聞いて始めた観察だったけど、いつの間にかおじいさんがちゃんと暮らせるようにお手伝いして、そして気がついたら仲良くなってて、とってもほっこりした。いつまでもこの幸せな時間が続いてほしいと思った。

    でも死って本当に突然にやってくる。めちゃくちゃ悲しくて泣いた。でもおじいさんのことを考えたら、亡くなる前に綺麗な家になって人間らしい生活を送れて、遊びに来る子供達と楽しく過ごして、おじいさんが一番気になっていただろう妻の古香弥生さんの現在も知ることができて本当に良かった。

    この季節に読めて良かった。映画もあるみたいだから気になる。

  • 旅先で海を見ながら読むのにはちょうど良かったです。夏休みに童心に帰りたい方はおすすめです。

  • とてもよかった。
    最初は人が死ぬところを見てみたいという、やや不謹慎な冒険心から、近所でもうすぐ死ぬと噂されているおじいさんが死ぬところを主人公たち小学生男子3人が見張るところから始まる。最初はおじいさんも主人公たちが泥棒を企んでるのではないかと邪険にするが、だんだん交流が深まるうちに、おじいさんも主人公たちもお互いが大切になってきてあたたかな関係になる。そして今まで見えてこなかった友だちの気持ちや普段どうすごしているのかなどがわかってきたり、思いを巡らすことができるようになってくるのだ。
    その変化の描き方や、小学生たちのやりとりなど、目の前にありありと浮かぶようで、ほんとうに彼らが身近に生きているような感じさえしてくる。細やかな彼らの動きや心情や発言に心動かされる。
    読んでよかった。

  • 夏をテーマにした本を探してたら書店で見つけた。3人の少年が老人を死ぬまで観察するというあらすじに惹かれ即購入。
    木山(陽キャ)山下(デブ)、河辺(ガリ眼鏡)はズッコケ三人組みたいな分かりやすい外見と性格をしている。物語は木山視点で進行していく。

    この本を読み終えて、ばあちゃんの死顔を見たときのことを思い出した。17年前くらい前ばあちゃんが病気で死んだ。当時小学生だった俺は初めて身近な人の死を経験した。この経験があるまでは「人が死ぬ」ということがどういうことか全く分からなかった。

    とにかくぼくは、だれかが死んだらどんな気持ちになるかなんてこと、全然知らないのだ。10ページ
    頭では人間はいつか死ぬってわかっているつもりでも、全然信じられないんだよな。21ページ

    これらのフレーズは山下のばあちゃんが死んだときの木山と河辺の反応だ。山下のばあちゃんが死んだと聞いて木山と河辺は興味津々。死を経験したことが無い子供たちの心情をよくあらわしていると思う。実際に周りで誰かが死なないと「死」を実感できないのだ。死を実感するため3人は老人が死ぬまで観察することを決意。最後には老人が死に別れがやってくる。

    おじいさんの骨のかけらはまっ白で、平らなものもあれば、曲がったものや、貝の化石みたいなものもあった。199ページ

    火葬場で老人の遺骨と対面したときのシーン。表現がやさしくて全くグロテスクに感じない文章だ。俺もばあちゃんの遺骨を見たとき色々な形の骨があったのを思い出した。箸でばあちゃんの色々な部分の骨をつまみ、その感触で死を実感した気がする。

    老人の死を経験して悲しみに暮れる3人だったが、最後は別々の道を行き希望に満ちた別れを迎える。その時の山下の台詞がとても好きだ。
    「だって、オレたち、あの世に知り合いがいるんだ。それってすごい心強くないか!」208ページ

    俺もこれから死を経験するたびにこの言葉を思い出すだろう。死に対するネガティブイメージが吹き飛ぶ心強い言葉だ。

    こんな人におすすめ
    身近な人の死を乗り越えられない人
    いつか自分が死ぬのが怖い人
    死を知らない子供

  • あまりにも有名な小説を、今更ながら。
    無駄がなく、すごくシンプルな筋だけど、それがまっすぐな感動に繋がる。
    本当に爽やかな読後感。
    あぁ良い物語だったな、と素直に思える。

    小学6年の3人の少年たち。その中の山下のお祖母さんが亡くなったのをきっかけに、木山と河辺も、人が死ぬところを見てみたいという好奇心に駆られるようになる。
    そして3人は、町外れに1人きりで暮らすおじいさんを観察し始める。生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。
    3人の好奇心は日ごと高まっていくが、不思議とおじいさんは元気になっていくように見えて…。

    「人が死ぬ」ということを芯から実感したのはいつだっただろう、と考えた。
    初めて経験した身近な死は中学生のときの祖母の死だったけれど、身近で衰えゆく姿を見たわけではないし、亡くなる瞬間に立ち合ったわけでもないから、本当に実感したとは言えないかもしれない。
    生きているものはいつか必ず死んで、会えなくなる日がくる。そしてそれはいつか自分にも訪れる、ということを、実感したのはずいぶん大人になってからだったかも知れない。

    この小説の少年たちも、死という概念がまだ自分のなかには存在していない。
    祖母を喪った山下でさえも、死ぬということは何だかぼんやりと靄に包まれた感覚だ。それは普段あまり会ったことがなかった祖母だったから、というのがとても大きい。
    だから、知りたいと思った。死ぬ、ということを。
    という、幼いからこその残酷な感情が元で1人のおじいさんを追いかけ観察を始めるのだけど、それが思いがけない方向に転がってゆく。

    流れや結末を書いてしまうとこの物語の良さが薄れてしまうので書かないことにするけれど、その夏少年たちがした経験は、彼らのなかに一生忘れられない記憶として残るのではないかと思う。
    切なく、大きく、だけど瑞々しい子ども時代の経験として。

    青々とした植物やみどりの感じとか、プールに行ったりサッカーをする描写とか、面倒くさがりながらも塾に行くところとか、夏休みを目一杯楽しんでいた幼い日のことが懐かしくなる。
    1日1日が冒険で、新しく知ることで溢れていた年代。
    瑞々しい、という言葉が私のなかでは一番しっくり来る、素晴らしい青春小説だった。

  • 6年生の男の子3人と老人の交流の話。
    1人の子が祖父の葬式に行った事から、死に興味を抱く3人。
    そして近所で死に1番近いであろう見知らぬ老人を観察するようになる。

    そんな事ってある?って(私が)思いながらも、彼らは仲良くなり、老人からいろいろ学び、感化される。

    結果、本当に老人の死に直面してしまう。
    ほんの夏休みの間の出来事だけれども、3人の男の子は何かを感じ取り成長したのだろう。


    テレビのニュース番組で又吉さんが紹介してたので読んでみました。

  • なんか涼し気なタイトル!という感じで手に取る。想像してなかったストーリー。だけどグッとくる。自分の子供の頃の風景が何となく蘇ったような。

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著者プロフィール

1959年東京都生まれ。作家。著書に、小説『夏の庭 ――The Friends――』『岸辺の旅』、絵本『くまとやまねこ』(絵:酒井駒子)『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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