- Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101315133
感想・レビュー・書評
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読んでる間なんだかずっと胸がぎゅっとなって、不安な気持ちになった。
この作品のもつ不気味さみたいなのが読後も胸を取り巻いてる気がする。
読んでる間そわそわと不安になってしまったのは、小学校を卒業したばかりのトモミの背たけから見る大人の世界や死というものは解像度がとても低く、全貌が見えにくいものだからだと思う。
だからこそより不安感が増したし、落ち着かない気持ちになったんだと思う。
大人になるにはやっぱり静かにただ前に進むしかないのかな。
あとがきの
「あっていなかった時も私の断片はその人の時間の中で生きていたのだと思う」
という文、すきです。 -
小学校を卒業したばかりの私。ご近所のトラブルから始まって、捨て猫とその世話をするおばさんに出逢う。すれ違っていた家族や宙ぶらりんな自分に思い悩む少女とその弟を切ないほどにリアルに描く。
あらすじがうまく説明できません…(;´∀`)夏の庭、ポプラの秋に続いて読みました。子供の心情のリアルな描写、魅力的なおばあさん(本作ではおばさん)、死を通してのメッセージは通じるものがあると思います。後半は何度か涙しながら読みました。 -
大人でもない、子どもでもない、そういった女の子のもやもや感がうまく描かれていると思います。
もやもやしたことの答えが見つかるわけではなく、もやもやしたことをひとつひとつ自分なりに噛み砕いていく、
そんな過程を見せてくれます。しんどいことでもあるのですが、心がすっきりとしていく面もあります。
10代前半の子にとっては、うけとりかたが人によって結構かわる作品かも。
いま、もやもやしているであろう隊長に一読をすすめたいですね。
2014.05.31 -
「夏の庭」がとてもよかったので他の作品も手を出してみた。中学生へ進学する前の春休み。野良猫を通して知り合ったおばさんや、おじいちゃんの過去、家にいないお父さん、私より大事にされる弟…短い休み期間に成長していく主人公の心の声が瑞々しく響く。
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再読。
解説を読むと、いつも思う。
作者は本当にこんなに小難しいことを考えて書いたんだろうか。
きっと何かしら説明を後付けでも付けられる文章を書く作家がいいと言われるんだろうけど、受け手には様々な思いが残る。
トモミの葛藤が苦しかった。
抗っても抗ってもどうしようもない現実。
家族の不協和音。
おばあちゃんの死。
弟ばかりが愛されてるという不安。
いろんなものが交錯して、出してしまいたくなって、抗って初めて周りが変わっていく。
ラストがタイトルらしくて暖かかった。 -
これはすごい。
思春期の子どものこころの描写が素晴らしいと思いました。
「どうしようもないかもしれないことのために戦うのが、勇気」というくだりが印象的でした。
この本は、折に触れて、読み返していこうと思います。 -
湯本さんの描く世界は圧倒的に現実に近い。<BR>
じわじわと締め付けられるような感覚がページをめくる度に強くなっていく。取り立てて大きな事件が起きるわけでもなく、淡々と過ぎていく日常の中で主人公と弟、そして周りの人々が生きていく。それなのに、小学生から中学生へと移り変わる主人公の気持ちが一歩一歩大きくなっていく。<BR>
何も知らないでよかった歳から、嫌でも知らなければいけなくなっていく歳になる。自分の中で整理し切れなかった思いに悩まされ、迷わされ、どうしていいかわからなくなる。弟はこうも自由に真っ直ぐ進んでいるというのに、なぜ自分は迷走しなければならないのか。先に生まれて、弟よりも先に世界を知らなければいけない、そんな長女や長男の皆さんなら非常に共感できると思う。そこで凄いのは、湯本さんは決してぬるい結末を作らないということだ。主人公があるべきところへ行き着く、それをきっちり、過不足なく描いている。私はそういうところが好きだ。 -
不思議な本でした。
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「春のオルガン」湯本香樹実
思春期小説。天鵞絨色。
思春期の少女が多感に抱く「恐れ」を情景から切り抜くストーリー、もうすこし振り切れたら白けてしまいそうな程の物語を、巧みにまとめあげているところが、やっぱり読んでて心地よい。
「しろいろの街の、その骨の体温の」が、ひとりの心象だとしたら、本作は、弟のテツに、幼さゆえの行き過ぎた言動を担わせることで、トモミの恐れの抑圧さを描いていると思う。
思春期特有の、矢印が内面に向く不安や葛藤をたっぷりと描いていることで、逆に、私たち大人の読者が如何に外を攻撃したり/諦めたりすることで、自分を守っているのかなと思う(姉弟の父母の夫婦げんかを見ていてもそうだ。)
春のオルガンはいちども弾かれることなくおじいちゃんの手によって解体されたけれど、軽やかな音楽を卒業したトモミの成長を表しているのかもしれないし、もしかしたらトモミの家族が新しい生活を始める第一歩を表しているのかもしれない。(4)