阿片王 満州の夜と霧 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2008年7月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (600ページ) / ISBN・EAN: 9784101316383

感想・レビュー・書評

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  • 昭和7年3月、東アジアに忽然と出現し、昭和20年5月に跡形もなく消え去った人造国家、満州。国土面積は日本列島の3.4倍にものぼる。
    昭和初期の大不況によって、「娘売ります」の看板を出さなければならないほど経済的に追い詰められた東北の農民たちにとって、五族共和、王道楽土を標榜した満州は、貧しさを脱するきっかけとなるかもしれない新天地だった。

    阿片密売の総元締めとして、満州における莫大な闇利権を一手に差配し、関東軍から国民党までの信を得た里見甫。阿片王の名を欲しいままにしたその生涯を掘り起こす一冊。

    極東国際軍事裁判、いわゆる東京裁判では民間人第一号のA級戦犯容疑者として法廷に立つ。

    戦前、戦中とフィクサーとして暗躍した里見は、偏狭なナショナリズムとも、狂気に通じるパセティックな情熱とも、不毛なイデオロギーとも一切無縁に過ごしてきた男だったらしい。
    阿片王と呼ばれながらも、私欲に頓着しない人間だからこそ、軍部にも重宝されたのか。

    たった数年しか存在しなかった国家の満州だが、知れば知るほど面白いな。日本の高度経済成長を生むきっかけですらと思えてくる。

    しかし、著者の取材力にはたまげるな。構想10年というのも頷ける。
    ブックオフで100円で買ってごめんなさい。

  • 「里見甫」(さとみはじめ)何人の人がこの名前を知っているのでしょうか。歴史の教科書的な人物ではないと思いますが、この人が戦前の日本と中国の様々な裏の折衝(阿片の密売)には欠かせない役目を負った人物だったということがわかりました。そして、有名なアヘン戦争然り、「阿片」という麻薬物質がいかに中国において(今に至っても何処でもですが…)多大な影響をもたらしたのかということも理解できました。
    著者の佐野眞一氏は「東電OL殺人事件」を書いたノンフィクション作家です。(彼自身も既に物故者で残念)
    今回は既に故人となっていた里見氏の遺児への奨学基金の寄付名簿をたまたま手に入れ、その名簿にあった発起人の錚々たる顔ぶれに驚き興味を持ったのが発端です。岸信介、児玉誉士夫、笹川良一、佐藤栄作。私でも知っている首相経験者や戦後の妖怪とか揶揄されたいわゆる大物。その人物繋がりを調べていくうちに、更に謎の女性に行き当たります。
    「梅村淳」偽名ですが、男装の麗人。彼女は里見氏の片腕のような存在だったようです。しかし、遡って彼女の母親の梅村うたという人物然り、里見氏と出会った経緯やその繋がりや関係性はいくら調べても推測の域を出ないものでした。‥すべては満州の深い霧と冷たい夜の帳の中に閉ざされている‥と本文にあります。
    戦争の時代、莫大な資金を必要とした軍に仕え、その役目を全うしたと言える実績を持ちながら、私利私欲に走ることは一切ないその人物像に著者も敬服しています。その対比として、戦後大手を振っていた児玉さんや笹川さんなど、卑しさが嫌でも目につきます。なるほど戦後の中央の社会はこういう仕組みで成り立っていたのねと実感します。
    満州国は、戦後日本の高度成長時代の壮大な実験場という側面を持っていた。と記述がありました。そこで活躍した梅村母娘に著者は、この二人の生い立ちにこの世の不幸を背負って‥の表現を使っていましたが、いわゆる家庭の幸せ、女の幸せから背を向けた人生を選び取り、魑魅魍魎の跋扈したこの時代の満州国に生きた二人は、充実した人生を送ったのではと思います。勿論、そこには里見甫という男が関係したのは、間違いないのですが。
    この本を手にしたきっかけは父の遺品から。戦前、祖先が朝鮮に渡り、京城で生まれ満州国で育った父がこの本を読んだのは必然でしょう。

  • 大正から昭和にかけ中国大陸で活動し、満州立国、日中戦争、その後の敗戦の時代に暗躍し阿片王の名で歴史の暗部に名を残した”里見甫”に関してのルポルタージュ。
    里見個人と里見を取り巻く魑魅魍魎の面々そして関東軍を中心とした時代背景を筆者が丹念に資料を調べ、関係者にインタビューを行った事実を纏め上げた文章は、じっくり読まないと頭に入ってこないので時間をかけて読破。
    ”里見甫”はジャーナリストとして大陸に渡り中国人との強力なコネクションと優れた統治管理能力で阿片売買組織”里見機関”で関東軍に協力し満州で絶大な力を持っていた怪物。
    私の浅薄な知識では満州の闇の帝王といえば”甘粕正彦”しか知らなかったので書店で本書を手に取った際は「へ~そんな人がいたのね」的興味を持って読み始めましたが、いやはやなかなかいろんな意味で凄い人物です。

  • 2020年 52冊目

    満洲が気になります。
    映画ラストエンペラーを観てからその時代の事に興味を惹かれていた。だから、その時代の本をみつけるとついつい手にとってしまいます。

    真実はわからないけれど、やっぱり世の中は知らない事だらけだと改めて。

  • 戦後日本は驚くべき復興を遂げた。その著しい成長の背後には戦前の「満州」があるのではないか。作者はたしかそのような動機を表していたように思う。その着眼にはこちらもピンとくるものがあった。完全に叩きのめされたはずの帝国が案外地下水脈として現在につながっているとしたら…。

    わかりやすい謀略史観に陥りたくはないが、戦争に負けたくらいで一国の歴史の流れが突然かわるわけではないのは確かだろう。むしろバブルがはじけて、失われた10年20年の今日にいたるまで、この国のリーダーは情けないやつばかりなのは昔からの伝統のような気がする。われわれ(日本人)はこの戦前の満州で何が起こったのか未だに知らない。それは一つにはこの恥ずべき歴史を意図的に消そうと画策した人々が多くいたからなのだろう。この本のテーマ「阿片王」の過去を掘り起こしその人となりを浮かび上がらせようという作者の意図は全く果たされなかったと見るべきだ。それでもこの本が面白いのは、簡単には全貌を表さない主人公の神秘性と、彼に迫るための手当たり次第の捜索活動の過程が終止緊張感をもってつながっているからだろう。

    里見甫がどういう人物だったのかはもはやどうでもいいと思った。それより誰もが口をつぐむ満州体験、満州建国とは何だったをこそ、これから時間をかけてでも我々は知らなければならない。現状のへたれたこの国に活を入れるためにも。

  • 満州国建国に関わった里見甫という人物について綴った一冊。

    阿片による裏金作りと諜報活動に奔走してたみたいで、歴史の表舞台にはあまり出てこない彼について知ることができた。

    また、今でこそ中国では偽満州国と言われ、侵略戦争の象徴みたいな見方をされてるけど、少なくともその当時は真剣に夢を追って活動してたのがよくわかった。

  • 文中に他人の著書を「~のヨイショ本」と表現する部分が出てくるが、そのひそみに倣うなら本書は「里見甫のヨイショ本」に他ならない。
    「いやいや、佐野と里見は無関係、ヨイショする必然がどこにある?」と反論されるだろうが、本書自体がその答えだ。つまりノンフィクション界の重鎮である著者が、長い年月を掛けて取材し、資料を蒐集・分析して執筆した対象が実は大したこともないアヘンブローカー、あるいは陸軍のパシリだった、というオチは何が何でも避けなければならない。
    それは少々言いすぎかもしれないが、少なくとも、本書の中には里見をかばうため、あるいは大物感を演出するために強引な解釈を読者に押し付けたと思われる箇所がいたるところにある。
    最終盤では、東京裁判での里見の司法取引を仄めかした元秘書をこれでもかとばかりに貶め、その情報の信憑性をムキになって否定する、名誉毀損スレスレの文章も登場する。ある意味で要注目だ。
    五月雨式に登場する人名や関連資料等に惑乱されずに精読すれば誰でもわかることだが、本書のノンフィクションとしての完成度はそれほど高くはない。 いや、かなり低い。

  • 満州国の設立。阿片王里見甫を取り巻く大スケールな謀略の歴史。少しずつ明らかになる人間関係。その特異性。面白かった。

  • 満州の阿片王と呼ばれた里見甫の謎に包まれた生涯を解き明かそうとした取材レポ。

    歴史の教科書の一文でしかその存在を知らなかった満州という人造国家。人造であるが故に様々な思惑が蠢く国家。昭和史も中々興味深いと思った。

    昭和史の予備知識が皆無だったので、歴史上有名人と思われる人々の解説を一々丁寧に述べられた箇所が多く付いていけなかった。取材レポ風なところも、物語を期待していたので、しんどかった。

  • 知人が登場するので読み始めたのだが、最初はかなり読みづらかった。そもそも里見甫を知らなかったし、中国の地名や人名が難しいし、時代もあちこちするし、登場人物はやたらと多いのに、里見本人の実像がなかなか見えて来ないし…。児玉誉士夫や笹川良一など名前は知ってるが具体的なことは知らない世代なので、ピントが会わないせいもあったかと思う。主人に聞いたり、ググったり色んな人を調べたりしたので時間がかかった。でも、でも、面白かった!まさに知られざる暗黒史。個人的に一番腹がたったのは、要人たちが敗戦後すぐに飛行機で帰国したこと。満州から苦労して引き上げてきた祖父の話を聞いてたから、こんなに簡単に帰れた人がいたんだと思うと残留孤児の人達が可哀想だと思った。それにしても、作者の根気強さには脱帽である。自らの足で関係者一人一人を訪ねて証言を取る手法で、時代から忘れ去られようとしている歴史の暗部をあぶり出している貴重な作品である。(もちろん作者の主観も多いに入っているので検証は必要だとは思うが。)2012.3
    この作者が明治の人だったら子母沢寛に代わって新選組に関する証言を取材してほしかったな~なんて…。

  • 里見甫と阿片取引に関する人物がかなりの数登場し(有名な人もそうでない人も)、しかも時代も頻繁にいったりきたりするので、かなり読みづらかった。が、歴史に埋もれた事実がこれでもかというくらいに書かれているので、その衝撃がおもしろく、読むのに時間はかかったが、読んでよかったと思った。非常に勉強になった。特に、日本軍の慢性的な資金不足を阿片密売で補っていたというのは全く知らなかったことで、本当に極悪というか、日本人がここまで非人間的に振る舞えたのかと思うと本当に悲しくなった。

  • 里見甫は阿片王と呼ばれてたらしい。知らなかった。
    策謀渦巻く満州帝国を、闇で牛耳った一人の男がいた。最も危険な阿片密売を平然と仕切り、巨額の資金を生み出した怪傑・里見甫。その謎に満ちた破天荒な人生を克明に掘り起こし、麻薬と金に群がった軍人、政治家、女たちの欲望劇を活写する。誰も解明できなかった王道楽土の最深部に迫り、戦後日本を浮き彫りにする著者の最高傑作。

    佐野真一が書く「阿片王」里見甫の物語。
    満州帝国を裏から支えた人物を追った力作ですが、この主人公にそれほど興味が湧かなかったので、出版社が言うように最高傑作と呼べるのかどうかは判らない。内容もやや尻すぼみの印象で、あまり記憶に残らなかったのが残念。

  • 大正から昭和にかけ中国大陸で活動し、満州立国、日中戦争、その後の敗戦の時代に暗躍し阿片王の名で歴史の暗部に名を残した”里見甫”に関してのルポルタージュ。
    里見個人と里見を取り巻く魑魅魍魎の面々そして関東軍を中心とした時代背景を筆者が丹念に資料を調べ、関係者にインタビューを行った事実を纏め上げた文章は、じっくり読まないと頭に入ってこないので時間をかけて読破。
    ”里見甫”ジャーナリストとして大陸に渡り中国人との強力なコネクションと優れた統治管理能力で阿片売買組織”里見機関”で関東軍に協力し満州で絶大な力を持っていた怪物。
    私の浅薄な知識では満州の闇の帝王といえば”甘粕正彦”しか知らなかったので書店で本書を手に取った際は「へ~そんな人がいたのね」的興味を持って読み始めましたが、いやはやなかなかいろんな意味で凄い人物です。

  • わかりやすく言ってしまえば、
    戦中の満州で、裏ルートで阿片を捌いてた総元締めのお話。

    当時の文献や関係者の証言を拾いながら、
    その総元締めの里見甫の人間性と人脈を暴いていくのだが、

    数々の証言からわかってくることは、
    戦中から戦後にかける大陸の空気感、
    阿片が通貨同然に流通していたこと、
    阿片人脈が戦後の政府・財界などの表舞台に大きく影響しているという、驚くべき事実ばかり。

    里見甫という男の人間性も魅力的だが、
    そこに迫る過程でわかってくる、それらの事実のほうが興味深く読める。


    佐野本らしく、事実に迫っていく筆者に
    追体験するような感覚が、読み始めると止まらなくさせる。

  • 資料や生存者も少なく、取材は大変だったと思うが、「前掲の○○」と言われても、はてそれは誰だったっけ?と、すぐにはピンと来ず、大変読むのに苦労した。里見甫のことを、著者は怪物と何度も呼ぶが、その怪物らしさがあまり伝わってこなかった。ただ、里見が蒋介石にも資金を調達していたとの記述、GHQによる尋問部分は興味を引いた。甘粕正彦との交流部分はほとんどなく、甘粕に関しては、別に本を書いておられるようですね。

  • 戦後日本は驚くべき復興を遂げた。その著しい成長の背後には戦前の「満州」があるのではないか。作者はたしかそのような動機を表していたように思う。その着眼にはこちらもピンとくるものがあった。完全に叩きのめされたはずの帝国が案外地下水脈として現在につながっているとしたら…。

    わかりやすい謀略史観に陥りたくはないが、戦争に負けたくらいで一国の歴史の流れが突然かわるわけではないのは確かだろう。むしろバブルがはじけて、失われた10年20年の今日にいたるまで、この国のリーダーは情けないやつばかりなのは昔からの伝統のような気がする。われわれ(日本人)はこの戦前の満州で何が起こったのか未だに知らない。それは一つにはこの恥ずべき歴史を意図的に消そうと画策した人々が多くいたからなのだろう。この本のテーマ「阿片王」の過去を掘り起こしその人となりを浮かび上がらせようという作者の意図は全く果たされなかったと見るべきだ。それでもこの本が面白いのは、簡単には全貌を表さない主人公の神秘性と、彼に迫るための手当たり次第の捜索活動の過程が終止緊張感をもってつながっているからだろう。

    里見甫がどういう人物だったのかはもはやどうでもいいと思った。それより誰もが口をつぐむ満州体験、満州建国とは何だったをこそ、これから時間をかけてでも我々は知らなければならない。現状のへたれたこの国に活を入れるためにも。

  • 20241206

  • ふむ

  • 満州の時代に関東軍の阿片売買の元締めをしていた里見甫についてのノンフィクション。

    冒頭に出てくる里見甫の秘書だった伊達という、妄想に生きるじいさんからして相当なものだが、それに匹敵する怪しい人々が沢山登場してすごく面白い。

    里見甫という表舞台には出て来なかった男が、どんな人生を歩んだのかを、生き残った関係者へのインタビューや取材で明らかにしていく。

    佐野眞一らしく暴走したり、ちょっとそのあたりはそんなに力入れなくてもいいんじゃないか、という部分に固執したりと、相変わらずの佐野節がほほえましい。

    作者の執念がひしひしと感じられ、読み物としてかなりの面白さです。

  • 社会

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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