甘粕正彦 乱心の曠野 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2010年10月28日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (628ページ) / ISBN・EAN: 9784101316406

感想・レビュー・書評

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  • 大杉栄・伊藤野枝夫妻を殺害し、かつ満州国建国に関わった甘粕正彦という人物について綴った一冊。

    満州に行った後は、満映という国策映画会社で理事長を勤める傍ら、裏金作りと諜報活動に奔走してたみたいで、単なる暗殺者だけではなく多面体の彼について知ることができた。

    また、今でこそ中国では偽満州国と言われ、侵略戦争の象徴みたいな見方をされてるけど、少なくともその当時は真剣に夢を追って活動してたのがよくわかった。

  • ベルナルド・ベルトリッチ監督のラスト・エンペラーで、坂本龍一氏が甘粕正彦氏を演じて彼のことを知った。関東大震災直後にアナーキストの大杉栄氏らを惨殺した彼が、その後満映の理事長になったという、飛躍過ぎる経緯を不思議に思ったが、当時は特に深掘りすることなくそして時は過ぎた。佐野慎一氏が9月22日に亡くなった。彼の死去を伝えるニュースを読み、この作品を知った。甘粕正彦氏の事を深く知るには絶好の作品だと思い読んだが、大変面白かった。
    昭和のぐちょぐちょとした暗部から、毒のように開いた花が満州に思える。虚像の国家で映画という虚像の世界を製作する組織のトップに立つ甘粕氏。甘粕氏本人も主義殺しの虚像をまとった人だった。

  • 20201015

  • 戦中の満州国において、夜の帝王として名をはせた甘粕正彦氏を追ったノンフィクション(!?)作。大杉事件で背負ったものを死の瞬間まで背負い続けたであろう甘粕氏の、奇妙な人生を多くの資料・証言をもとにくみ上げた労作。前半は窮屈な印象だったが、満州入りしてからの後半は意を決してのことか伸びやかな印象が残る。
    それにしても、甘粕正彦という人物は、輪郭が捕らえにくく、分からない人には妖怪のように見えるのであろう。実際には当時の一般人よりさらに天皇崇拝の程度の高い人だったのだろう。それゆえに、数奇な一生を歩んだということだろうか。

  • 私にとって、満州について知りたいという意識もなかったのだが、成毛氏の著作からの推薦で本書にたどり着いた。

    この間亡くなった母も満州生まれだったが、もう詳しい話を聞くことができない。

    甘粕氏に対する事前の知識もなかったので、何を期待して読み進めた訳ではないが、これを読む限りは、甘粕氏に好意的になるだろう。

    ある意味ロマン。満州をもっと知りたくなってしまう。

    [more]
    (目次)
    序章 “主義者殺し”
    第1章 幕末のDNA
    第2章 憲兵大尉の鳴咽
    第3章 鑑定書は語る
    第4章 獄中の臣民
    第5章 浴衣の会見記
    第6章 暗鬱のルーアン
    第7章 謀略人脈
    第8章 満州ひとりぼっち
    第9章 人は来りて見よ
    第10章 満映という王国
    終章 八十五年目の真実

  • 何回かに分けて読んだのは失敗だった。この本は一気読みするべき本だった。
    正直なところを言うと、甘粕正彦だけでなくその周囲も大杉栄一家を殺したことをいつまでもくよくよと悩み続けていることが意外だった。でもそれは、第二次世界大戦やスターリンや毛沢東を知っているからそう思うことであって、大正時代の感覚ではやはりえらいことだったのだろう。そしてその感覚の人がその後の大殺戮の時代を牽引したのかと思うと、そこに、著者の好きな精神の「底光り」を感じる。

  • 文武に優れ、度量が大きく、部下にも優しい甘粕像は以外だった。優秀な軍人が、上官の愚かな命令を受けて、実行し、そのために、「殺人者」として記憶されてしまう。

    甘粕の合理的な思考と時間の効率的活用及び厳守という仕事のやり方は、70年以上経った現在でも、色あせていない。

  • (*01)
    昭和史の前半を綴る上で、甘粕はキーマンとなりうる。ただ甘粕については経歴が示すように正史には現れないため、怪人性などを纏って様々に語られ(*02)ていたように思う。著者は、甘粕本人の親族を始め、彼が関係した人々の遺族にもあたり、その実像らしき像を本書に描き出すことに成功している。

    (*02)
    引用や証言は多く、これらを本書の意図や時系列にそって構成し編集することは、伝記の著作とは別の行為であるかもしれない。バイオグラフィというよりは書類の集成という点でドキュメントに近い。全く同じ史料と材料で別の甘粕像を描き出すことは、あるいは可能なのかもしれないし、読者が読む時点で、甘粕の巨魁な誘惑に巻き込まれる事なく読み込む必要があるのかもしれない。

  • 2014.09―読了
    枝葉の取材資料が過剰に過ぎる。

  • 甘粕正彦=大杉栄虐殺の実行犯とでしか
    知られていない人間だが、こうした定説を塗り替える。

  • 「甘粕正彦」より「佐野眞一」の名前で読んだ1冊です。このところ、佐野氏の仕事に関して、その手法が問題になっています。
    徹底した執拗な取材に基づく数々の労作のいくつかを読み、それによって蒙を啓かれてきた一人としてはやや落ち着かない気分ではあります。
    本書に関しては、大杉事件における甘粕、満州における甘粕を、いつものように膨大な資料と、芋づるを手繰るような取材でじわじわと浮き彫りにしていきます。なかなか魅力的な人物像が浮かび上がってきますが、その背後には底の知れない闇を感じさせます。そして、その闇を生み出したのは、やはり戦争です。

  • 大杉事件の実行犯ではなかった。ということは、私の中では本書を読む前から受け入れられていた。だからこそ何故、甘粕は満州で諜報活動に邁進したのか?に興味を持っていた。佐野氏は甘粕には満州にしか生きる道はなかったと肯定的に満州での甘粕を描いているようにすら感じられた。それは、大杉事件で無実の罪を背負ったからだと延々と書かれている。甘粕正彦が著者の言うような人物であったなら、何故あの戦争に、満州に、疑問を持たなかったのでしょうか?と問いかけたくすらなる内容に、正直、残念。

  • 大杉栄一家虐殺で有名な甘粕大尉の評伝。
    著者が丹念に集めた資料と証言から、冤罪であることはこの本でほぼ証明されています。

    冤罪といっても実行犯ではないだろうというだけで、実際に彼がどの時点で何を知ったのか知らなかったのかは、本人も、罪を擦りつけてのうのうと生き延びた連中も、口をつぐんだまま逝ってしまった今となっては、分からないままです。
    この本を読んでいると、彼一人に罪を押しつけた連中は、幼児を含む無抵抗な三人を虐殺した事実にろくに呵責を感じておらず、一方甘粕は、ただ現場にいて止められなかったというだけで呵責を感じていたのではないかと思わされます。

    天皇への敬慕と、軍隊の規律と、もしかして自分の良心とに従って、軍そのものの罪を一人で償った甘粕は、その後満州に渡り、満州建国から敗戦まで、暗躍を続けます。
    決して冷酷非情に職務を遂行し続けたわけではなくて、合間にはギャンブルにはまったり、酒を飲んで暴れたり、人間的なところも見せます。
    敗戦間際には従業員への召集令状をはねつけ、敗戦と同時に皆の帰国の手配をし、お金をあるだけ下して配り、自分は青酸カリを呷る。いさぎよいんですが、完璧すぎて、何というか、軍人というよりはむしろ武将です。

    勉強不足でこの時代についてはろくに知らず、甘粕の名もあの事件絡みでしか知らずに読みました。
    読めば読むほど時代背景も人間関係も複雑で、戦国時代よりも残った資料が多い分、いくらでも掘り下げられそうで面白いです。一方で、時代が近いために影響を受けそうな人々がまだ生きていて、誰かを守るために墓まで秘密を持っていく人が他にもいるのでしょう。
    もう少しこの時代のことを勉強してから、再度読み返したい本です。

    釈放直後のインタビューで、少し感傷的になった甘粕に対するインタビュアーの言葉が印象に残りました。
    『物事をあまり複雑に考えないでください。くよくよすることはありません』
    落ち込んだ人を慰める言葉って、昔も今も変わらないのだなあと思いました。それが何の慰めにもならないことも、分かっていても代わりの言葉が見つからないことも。

  • 甘粕…その姓がかっこいい。
    でも、坂本龍一のイメージが頭から離れません。

  • 関東大震災直後、大杉事件の首謀者として裁判にかけられ、
    以後その事件の闇を背負いつつ
    満州に渡り権力を得た甘粕正彦の生涯を追う伝記。

    満州での活動においてはあまり資料がない中、
    外堀を埋める形での執筆になったことが伺え、
    具体的な活動内容が掴めず残念だった。
    しかし多くのインタビューやエピソードから
    甘粕正彦の人となりを伺え面白い。

    一読したのちに最も印象に残っていたのは、
    やはりあの裁判で見せた甘粕正彦の涙と供述だった。

  • (欲しい!/文庫)

  • 恥ずかしながら、大杉事件も甘粕正彦という人物を知らなかったが、衝撃的な内容だった。。

  • 大杉事件の主謀者として“主義者殺し”の汚名を負い入獄。後年、満映理事長に着任後は一転、満州国の「夜の帝王」として君臨した、元憲兵大尉・甘粕正彦。趣味は「釣りと鴨撃ち、そして謀略」と公言し、現代史の暗部を彷徨した甘粕が、自死と共に葬ろうとしたものは何だったか?講談社ノンフィクション賞受賞の衝撃作に、新事実を大幅加筆。通説を大きく揺さぶる満州巨編評伝。
    序章 “主義者殺し”
    第1章 幕末のDNA
    第2章 憲兵大尉の鳴咽
    第3章 鑑定書は語る
    第4章 獄中の臣民
    第5章 浴衣の会見記
    第6章 暗鬱のルーアン
    第7章 謀略人脈
    第8章 満州ひとりぼっち
    第9章 人は来りて見よ
    第10章 満映という王国
    終章 八十五年目の真実

  • 2011年114冊目

  • 甘粕 正彦は大杉栄殺しのイメージを抱いていたが、満州に渡った後は別として、真実は軍部に利用された人物であった。時代は違うが賄賂で有名な田沼意次も同じように次の支配者、松平定信によって悪いイメージを作られた。主殺しの明智光秀も同じか。勝者からの評価がいかに真実を伝えてないかの典型だ。東京裁判で処刑された広田弘毅は気の毒だ。
    野田次期首相の東京裁判で断罪されたA級戦犯は全員が戦犯ではないとの主張に同感。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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