きみのためのバラ (新潮文庫)

  • 新潮社 (2010年8月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784101318202

感想・レビュー・書評

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  • 読後感が良いととある本屋さんでお勧めされた、池澤夏樹先生の短編集です!
    物語の舞台は殆ど海外である為、なかなか馴染むのは大変でしたが、恋愛、孤独さ、家族関係について、普段生きてる上で必ずぶち当たる悩みについて寄り添ってくれるような物語でした。

    主人公たちのすれ違い、拗れ、過去の傷み、迷い、色んな事情を抱えながらも、前を向き、生きる姿が心に響くように丁寧にえがかれています。

    思わぬところで出会いがあり、別れも突然来るもの、良かった思い出、苦い思い出だろうとそれはそれで良いんじゃないのかと伝えてくれた様な気がします。

  • 人生の断片を切取る8編。旅する気分。
    「レシタションのはじまり」寓話。ブラジル。妻を殺した男が逃亡した村。心鎮める奇妙な呪文“ンクンレ”で,争い無き世界が広がる。※都市生活/レギャンの花嫁/連夜

  • "旅の恥はかき捨て"ということわざがある。
    旅にでた先では知っている人がいることもなく、そう長く留まるわけでもないから
    普段なら恥ずかしくてできないような言動も、旅先でなら...とばかりに
    平気でやってのけてしまった。まぁそんなことがあってもいいよね...という感じの
    私としてはポジティブに捉えたいと思うことわざだけれど
    池澤夏樹さんのこちらの表題作「きみのためのバラ」を含む8つの短編集は
    そんなイメージが心の奥から優しくやんわりと湧き出てくるようなお話でした。

    旅の道すがら、出くわした思わぬアクシデントに腹を立てた直後に
    行きずりの出会いに心慰められて。
    ほんの一瞬の巡り合わせが、かりそめの恋ともつかぬほどに心を奪われて
    いてもたってもいられずにやってしまったこと...。

    長い時をおいて、昔のことなのだけれどね....と懐かしく思い出すような語りかけが
    そこはかとなく柔らかいお話でした。

  • 池澤夏樹さんは、曖昧な感覚に、言葉で形を与えるのが本当に上手い人だと思う。そして、的確なだけでなく、その文体が、理知的な美に満ちているのが、また素敵だな、と思う。
    静かで、淡々として、こじんまりとまとまっているのだけど、決して、味気ないというわけではない。

    うまく言えないけど、一目ぼれした普段着を身につけた時に、身体にぴったりとなじんで綺麗なラインが出て、一人じんわりと満足する時のような、肌感覚に近い、しっくり感というか。

    人生で遭遇する、儚くもかけがえのない出逢いと別れをとらえた、八編からなる短編集。

    ある人は、アメリカと思しきところで、美味しい料理と会話に。
    別の人は、沖縄で、何かに取り憑かれたような、たった十日の連夜の情事に。
    またある人は、アマゾンの奥地で、激情と争いを抑える、呪文のような言葉に。
    出逢う対象も、場所も人それぞれ。

    どの話も短く、大きな展開はほとんどないのに、理知的な静けさの中に、人生や社会の真理、そして、人智を超えた不可思議さが、巧みに散りばめられています。
    何気ないのに、心に強い余韻を残す作品集です。

    毎夜、寝る前に、1話か2話を、ゆっくりと読み進めていたのですが、そんな風にして、噛みしめるような読み方をするのがお勧めな作品でした。

  • 予約ミスで足止めされた空港の空白時間、唱えると人間の攻撃欲がたちまち萎える不思議なことば、中米をさすらう若者をとらえた少女のまなざしの温もり。微かな不安と苛立ちがとめどなく広がるこの世界で、未知への憧れと、確かな絆を信じる人人だけに、奇跡の瞬間はひっそり訪れる。沖縄、バリ、ヘルシンキ、そして。深々とした読後の余韻に心を解き放ちたくなる8つの場所の物語。
    「新潮社」内容紹介より

    8つの短編集.
    もっとも心に響いたのは、タイトルになっている短編ではなく、「人生の広場」
    立ち止まって、寄り道してもいいかも、と思える.
    結局人の心を動かすのは、人なんだよ.

  • 短編集。
    表紙は青いバラですが、表題作に出てくるバラは黄色でした。

    バリ、沖縄、ブラジル、ヘルシンキ、パリ、カナダ、メキシコ…

    地球上の、いろいろな立場と状況の人たちの一幕。

  • 福永武彦に興味があったところ、その息子である作者の存在について友人が教えてくれた。短編集で、束の間に起こる出会いや別れについて綴っている。他人の人生を垣間見する感覚で読み進められてとても好みだった。最近は私生活で気持ちが疲れることが多くて、遠いところに思いを馳せるということがあまりできなくなっていたから、このタイミングでこの本を読めたのは僥倖だったかも。
    多分、この先暫くは心をすり減らして生活していくことになるんだろうし、好きなものを生活の中心に据えない選択をしたのは自分だからもう何も言うまいとは思う。人生の大体の方針はかなり前に決めてしまったから、あとは細かな身の振り方しか考えられないけど、この1ヶ月半を「人生の広場」とすべく沢山本を読みたいな。

  • 静かな秋の夜長にぴったりでした。しっとりした余韻に浸れる8つの物語です。
    特に気にいったのは『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』と『きみのためのバラ』
    『20マイル四方で唯一のコーヒー豆』は、旅の本来の意味を教えてくれるような気がしました。
    八方塞がりの心を抱えて旅にでる。この特別な日々。何も考えずにたくさんのものを見て、知って、いつの間にか気持ちはすごく楽になる。ずっといることは出来ないけれど、でも今はいいんだと思える。居心地の良い空気に、少し口が軽くなる。そうしてもう大丈夫なんだと思える自分がいる。そのために人はこうして遠くまでいくのだなと気づくのです。
    『きみのためのバラ』では、決して失ってはいけなかったはずのものが、いつの間にか零れ落ちてしまっていたような喪失感を味わいました。
    混雑した電車の中を不穏な気持ちで乗客を分けながら車両を移動する現在と、混雑する汽車の中を会いたい人のために黄色いバラを手に客車のなかを進んで行く過去。この対比に、どうしてこの世界はこんなことになってしまったのだろうとの思いが強くなります。
    混沌とした強欲と悪意に満ちた現在。もう会うことはないとわかりながら彼女にかけた「アスタ・ルエゴ またね」という言葉は、希望と喜びに溢れた過去への別れの言葉でもあったのでしょう。

  • 様々な土地への旅の中で出会った、言葉にならないものをめぐる物語が八つ。不思議な出会いは人を興奮させ、そして後に寂しさを残す。その奥には、作者の「諸言語を越えた平和への祈り」か静かに込められている。

  • 解説にもあるように、この短編集には言葉にならないものばかりが書かれている。言葉にならないものが、それでも言葉で描かれている。

    一度しかない出会いと別れが、世界の片隅で、いまもむかしも、どこかに起きていて、それが静かで瑞々しい言葉で描かれている。そしてどこか、寂しくて切ない。

    二度と会えない、たった一時の出会いの物語。
    人によってどの物語に心打たれるかは別れるところだろうな。
    個人的にはレギャンの花嫁がすき。

    読み終わって思うのは平和な世界こそ美しいということ。
    この作品が世界中の読者からきっと支持されるであろうこと。

    解説の最初の言葉にも共感したし、最後の一文にも頷いてしまった。

    「無人の森の囁きを人に聴かせるのが小説ではなかったか。」

    仰る通り。
    音のない音を人に聴かせるような、そんな静けさと穏やかさと、少しの狂気を感じる作品集。

  • 混みあった列車内に持ち主不在の鞄、テロへの恐怖、メキシコでの人待ち顔の美しい少女を想う表題作「きみのためのバラ」。 バリ島での結婚式当日に婚約者の突然の死を知らされる「レギャンの花嫁」。 ロシア人妻との離婚、愛娘と年二回の再会、不遇の男の心境が語られる「ヘルシンキ」。 人生の曲り角、パリの街並と出会いの「人生の広場」など、旅先での見知らぬ人との刹那の出会いをとおして、さまざまな人生の火花が解き放たれる、八つの場所の短編小説に酔う。

  • 8つの短編集

    とても短いものもあり、それぞれが全然違う顔をした短編集でどれも良かった。

    身近な出来事で、ありそうだ!と思うものや
    想像もつかぬ異文化の中のンクンレとレシタション

    池澤夏樹の幅の広さを感じるものだった。

  • 「寒さが空気の中にぎしぎしとひしめき合っている。棘の先端が表皮の裏で溶ける。百個、百個、百個」
    おとぎばなしを、暖炉の脇で聞いているような、耳元で囁かれているようなそんな短編集!
    ヘルシンキの寒さが想像できる文章に釘付けになった!レシタションがこの世界で蔓延したらいいのにと思った!暖炉の脇でぬくぬくと。

  • 人から勧められて久しぶりに本格的な文学作品を読んだ。
    他の方も書いているように、偶然の出会いとそこで展開される話の内容自体が、短いのに大きなインパクトを残すものとなっている。

    けれども大まかな内容(テーマ)だけが優れているのではなく、1つ1つの描写、
    例えば自然背景や時間経過の表現、主人公を「私」としたり「彼」としたりといった違い、
    それら筆者のこだわりが積み重ねられているからこそ、登場人物たちの心情や変化がより鮮烈に、印象的なものになっているのだと思う。
    文学として美しいと感じた。

  • この先の人生で何度も読み返すだろう一冊です。

    言葉、文章が美しく、舞台が世界各地なので、こちらまで旅をしているかのような気分にさせてくれます。

    読後の余韻もたっぷり。

    全て好きですが中でも、「レシタションのはじまり」「人生の広場」が今の自分に響いています。

  • 短編集
    非常に精密に描かれた作品たち

    こういうのを待っているんです

  • いわた書店より

    一つ一つ味わうような短編集
     言葉の大切さを知る 人生をただ一気に駆け抜けていくばかりでなく立ち止まる何気ない日常も大切

    世界各国で短編集
     飛行機に乗り遅れて一泊することになった時のレストランで、会った女性とのたわいもない会話

    結婚式直前に結婚相手が亡くなった友達を迎える悲しみ

    沖縄でのとりつかれたような連夜

    レシタションが世界を平和にする

    国際結婚の厳しさ 言葉の壁

    人生 ゆっくり立ち止まることも必要
     ゆっくり食事したい

    親との関係

    言葉が通じない女性への恋
     知らない人への信頼か警戒か

     

  • きみのためのバラ

    久々の池澤夏樹氏を堪能した。一つ前に読んだ「うさぎパン」がちょっとうまい作文のような作品だったので、構成、文章のうまさが余計に引き立つように感じられたのかな?と思います。

    都市生活
    手違いで飛行機に乗り損なった主人公が空港の近くのビストロで夕飯を食べる。そこで同席した女性との話のやりとり。それだけの話。でも、少しの幸福感と少しの不満がよく伝わってくる。

    レギャンの花嫁
    バリの花嫁。死者は逝ってしまったが、生者は生きなければならない。

    連夜
    やもめの女医さんと大学を出てアルバイトをしている主人公との交わり。後日談は作り話か?それとも本気か?

    レシタションのはじまり
    憎しみ、対立、報復。人が争うことをやめるきっかけがあったら?そんな大人のための寓話。

    ヘルシンキ
    ヘルシンキで交差する結婚に疲れている主人公とロシア人の妻と離婚した男。結婚を維持していくことの難しさ。

    人生の広場
    パリでの一時期の暮らし。パリの冬と春。人生の休息と、その先に待つ選択。

    20マイル四方で唯一のコーヒー豆
    カナダ北方の島々の風土、人、暮らし。突然英語しか話せなくなってしまった主人公の少年の癒しと再出発。

    きみのためのバラ
    持ち主不明の鞄があったことからテロを避けるために満員列車の中を妻に連れられて移動する主人公。その主人公の若かりし時の同じ満員列車の中を移動するメキシコでの体験の回想。同じ行為でもその目的によってなんと気持ちが異なることか。。。

    竹蔵は「きみだけのバラ」の主人公の無償の行為がとても好きです。「ヘルシンキ」で描かれている夫婦であることの難しさも少しわかる気がします。「都市生活」の主人公のちょっと感じる幸福感が好ましく思います。
    池澤氏の文章とは波長がとても合うと再確認した竹蔵でした。大人の読み物ですので、大人の方は是非どうぞ。

    竹蔵

  • 頂き物の高級なクッキー缶みたいな短編集だった。上質でとびきり美味しくて(面白くて)、次から次に食べちゃいたい(読んじゃいたい)けど、もったいない気がしてちょっとずつ食べる(読む)…みたいな。ひとつひとつの満足感が高い。ンクンレみたいな言葉が本当に存在したらいいのにね。

  • 短編集が自分自身には合わないのか、なかなか読み進めるのが大変だった…
    お気に入りは『都市生活』『レギャンの花嫁』『人生の広場』。それぞれの国の情景が頭に思い浮かび、旅行をしているような気分になれる本だった。池澤夏樹さんの本を読むのはこれが初めてだが、どことなく品のある言葉遣いや文章で、作者の人となりが少し見えるような気がした。

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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