夫婦茶碗 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101319315

作品紹介・あらすじ

金がない、仕事もない、うるおいすらない無為の日々を一発逆転する最後の秘策。それはメルヘン執筆。こんなわたしに人生の茶柱は立つのか?!あまりにも過激な堕落の美学に大反響を呼んだ「夫婦茶碗」。金とドラッグと女に翻弄される元パンクロッカー(愛猫家)の大逃避行「人間の屑」。すべてを失った時にこそ、新世界の福音が鳴り響く!日本文芸最強の堕天使の傑作二編。

感想・レビュー・書評

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  • 「夫婦茶碗」と「人間の屑」の2編。
    どちらも屁理屈だけはいっちょまえな無職の男が主人公。なんとなく太宰のことを思い出した。
    いざ働こうと言ってもそれはメルヘン作家だったり、小劇団主宰の役者くずれだったり、うどん・串カツ・鉄板焼のミオちゃんだったり、もうさっぱり何がなんだか。
    脈絡もなくてすべての流れも展開も意味不明で突飛なんだけれど、期待を裏切らないその突飛さを今か今かとすでに待っちゃってる自分がいる。
    初めて読む町田康さんの小説、面白かった。以前知人に「文体にすごくクセがあって読みにくいよ〜」と言われたことがあって、気になりつつも少し敬遠してたんだけど、機会があり手に取ってみたら意外と私には合ってたみたい。
    確かに独特ではあるけどリズムにさえ慣れたら小気味よくどんどん読める。全然詳しくないけど、こういうのって落語っぽいのかな。

  • 「夫婦茶碗」と「人間の屑」の2本立て。
    そういえば子供の頃の映画って2本立てだったなと思い出した。
    なのでこれは2本立てなんだと思った。
    帯に又吉の写真が載っていて、そのせいかどっちの主人公も又吉でイメージが浮かんでしまった。
    でもそれがまた合ってるな〜と思った。

    ◎夫婦茶碗
    無職。妻と二人暮らし。お金がない。食べるものにも困る。
    何か仕事をしなくちゃとは思っている。
    各家庭の茶碗洗い業はどうか、脳内で収支計算。
    塗装の仕事にありついて順調にお金もたまってきたのに辞めてしまう。

    冷蔵庫の卵の並べ替えには笑った。
    手前から使って、減ったら新しい卵を手前に補充したら、賞味期限が滅茶苦茶になってしまう!!と
    毎日必死で並べ替えてる。
    この卵賞味期限問題って皆さんどうしているのだろう?
    私はパックのまま保存して、古いものがなくなってからパックから出す。
    または出さない。並べるの面倒なんでパックから1個ずつ取って使う。賞味期限問題は起こらない。

    家庭にうるおいが欲しいと妻に訴えて、妻が言ったのが、
    「床の間の布袋様にお着替えになって無職の反対になさいませ」
    布袋様⇒置物⇒お着物 無職の反対⇒有職⇒夕食
    童話作家になることにして作品を考える。子熊のゾルバ。
    会話に俳句が出てきたり、妻に指輪とか買ってあげようとして冷蔵庫になってしまったり、百貨店のエレベーターの係の人が、
    「あっ、2階、あっ、婦人服売り場で、あっ、ございます」と言うところとか、笑ってしまう。
    引き込み線路、なぜか成人映画館のスクリーンに妻、妻が出産。
    この人は奥さんが大好きなんだなーと思いつつ、 笑ってしまう。

    ◎人間の屑
    これはもう、なんというか、テキトーに行き当たりばったりに生きるとこうなるというサンプル。
    劇団、パンクバンド、「暴力の上手そう」な男から片山が持ち逃げしたアシッドを喜んでほぼ全部食ってしまい、祖母の旅館に逃げ込んだ清十郎。
    庭に来る野良猫があまりに多くて、柄によって家系図をつくってみる。
    チーヤ、スサノオ、アニキ、などと名前を付けて眺めていた。
    旅館の従業員だった岩田、その友達の女性、小松とミオ。
    婆ぁの旅館を逃げ出し、小松のところに転がり込んで子供が出来たと知って逃げ出し、ミオのところに。ミオにも子供が出来て、一緒に実家に戻り店を開く。
    「うどん串カツ鉄板焼きのミオちゃん」それをやめてナイトクラブ「アナルインパクト」爆笑

    新幹線で出会った、孫のコー君を溺愛するじいちゃん。笑える。
    町田氏は、たまたま隣に居合わせた人を詳細に描くのがうまい。
    登場人物や物語とはカンケーないんだけど、その言動に主人公はいちいち心の中で反応する。
    これ、実をいうとワタシもそうで、つい人間ウォッチングしてしまう。よって苦笑い的に面白い。

    清十郎は、なんとかしなくちゃと思っている。働こうと思っている。
    だけど毎日同じ単純作業だと飽きてしまう。面白くないの。つまんないの。
    で、こんなんどうかなって思いついてしまう。
    面白そうなことと、ラクそうなことに行ってしまう。で、真剣に反省する。その繰り返し。
      (よく裁判とかで「被告は反省している」って
       言うけど、だからなにって私は思う。
       反省したからって、2度としないわけ
       ではないし、反省なんて何回でも出来る)
    心を入れ替えて働こうとするけど、浴びるほど酒をのんでしまい、朝5時かと思ったら夕方5時だったとかになる。本や雑誌を買って読みふけってしまう。
    ミオの娘・蝶々はかわいい。小松の娘・清子は不憫でならない。
    こんな父親でごめん、と、ビデオを撮る。気持ちはピュアなんだけど、行動がアホ過ぎて笑える。


    2作とも、うわ、ほんとクズだわ〜とか言いながら、メロンパンを食べて、
    隣で猫が腹をだして転がってるのをナデナデして、
    ケラケラ笑って読んでいるワタシは、なんなんだろうと思ったりする。
    あ、そっか、たまたま隣に座った変なヤツかのように、主人公を「なにこの人」ってまじまじと見てる感覚なのかなあ??
    面白いです。
    どっちか選ぶならば、人間の屑のほうが好き。

  • ナンセンスの真骨頂。
    心地いい口語体のリズム。
    読みつつ思わず吹き出す当意即妙の言葉。憤怒。面罵。曲折。ケチ。好色。不人情。不誠実の連なり。
    厄介で、心休まる間もない、どん底どん詰まりの八方塞がりのなかで、ひたすらもがきのたうち回る主人公に、バカだなあと思いつつも無軌道に欲望のおもむくままに生きる姿にどこか清清しさと羨望さえ感じてしまった。
    ゲラゲラ笑いながら読める一冊。

  • 久々に読んでみた。最高でした。

    酔狂の業としか思えぬ出鱈目&無駄のオンパレードなのだが、意識を失うその瞬間までおもいっきりシラフという感じがした。

    初めて読んだ頃に比べれば自分自身、社会的に見ればだいぶ全うな人間になったわけで、だけどそのはずなのに前にも増して鮮烈なのは、一体何を以て「全う」と言わしめるのかわからなくなる。

    破滅の美学、堕落の美学というけれど、それが成立するのは堕落を突き詰めたものがあまりに美しかった瞬間に、どっちが堕落と言えるのか、一瞬目が眩んで見失いそうになるからなのかもしれない。

    しかしおもろいなあ。子供、靴って。

  • 2篇収録。表題作ではないほう「人間の屑」がよかった。似ても似つかないが横道世之介を思い出した。ダークサイド版?小気味良いあかんとこの連打は痛快。

  • 「夫婦茶碗」「人間の屑」の2つの短編のうち、「夫婦茶碗」に関しては共感できる部分があまりないストーリーだった。
    だが2つ目の「人間の屑」は疾走感を感じ、また話のテンポも良くて読み進めやすかった。女性関係に振り回されたり、過去のバンドでの話でのやらかしに彼が縛られたり、波乱万丈だけど楽しそうに生きてる主人公を想像するだけでも気持ちが良かった。

  • 町田康二冊目

    町田康はその時々で詰まらんかったり泣きそうになったり苛立ったり不思議だな~でも好きですねえ言葉のセンスがもう!
    個人的には人間の屑の方が好きかな
    狂った雰囲気が混じってくるのが堪らないです

    解説にもありましたがこれが計算された一つの作品なのだから凄いよね

  • ・芸人永野が紹介していたことから手に取ってみた本。
    ・パンクバンド「INU」のボーカルとして活躍していた
    作者。
    ・夫婦茶碗、人間の屑という2部作。200ページ程の薄
    い本であるが読み応えがあった。
    ・全体を通して、作者の針小棒大に日常の小さなことを洞察する観点が面白い。またそれでいて小さなことを膨らませても本筋にしっかりつながり、その様はさながらDJのような滑らかさであると思った。

    ・2作とも堕落しきった人間が主人公であり、そこには
    自分を客観視できていない人間の面白さ、流される人間の面白さを感じられる。
    ・思わず声が出る展開や最後にはしっかりウルっとする場面もあり、なかなか良かった。
    ・この作品は情景描写があまり描かれていないが、これはこの作品だからか作者の特徴なのか、町田康氏の作品を手にしたのが初めてなので判断しかねる。ただ個人的に情景描写が美しい作品を好む傾向があるため、⭐️4つとした。

  • 「人間の屑」感想
    私も同じような生き方をすることが多いかもしれない。
    とりあえず自分が追い込まれるまで追い込まれて、割と早いうちに実際にやばい状況になる。
    実際に行動をし始めるのはやばくなってからなので、時間がない状態、つまり良さげなことが見つかり次第それをするしかないような状況が多い。
    でも、なんだかんだ清十郎は周りの人の助けを上手く借りることができているのが、私にはできないことなのでその点においてだけ彼を尊敬する。その点においてだけ。けどそれって意外とできないんだよなあ〜。

  • 「人間の屑」:本当にどうしようもない男なので基本的になんなんだ…と呆れるけれど、リズムに任せてつらつら読む中ふと男自身が我に返る瞬間が唐突に挟み込まれるのがいい。
    読者としては彼を憎みきれないのも良い。

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著者プロフィール

町田 康(まちだ・こう)
一九六二年大阪府生まれ。作家。九六年、初小説「くっすん大黒」でドゥマゴ文学賞・野間文芸新人賞を受賞。二〇〇〇年「きれぎれ」で芥川賞、〇五年『告白』で谷崎潤一郎賞など受賞多数。

「2022年 『男の愛 たびだちの詩』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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