葉桜の日 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101325125

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  • ジニのパズルを読んで読むシリーズ その1 川崎特有の地理感覚

    鷺沢萠さんという、10年ほど前にその訃報を聞いて知った作家さん。

    18歳で文学界新人賞受賞。当時最年少受賞。
    上智大学の1年生でこのビジュアル、となると当時騒がれたのでしょうねぇ。

    しかし、その後取材を通して自分の父方の祖母が韓国人だと知り、そこから韓国へ留学。
    とウィキペディアに書いております。

    自分が全くそうだと知らなかった人による作品ということで、これまた他の作家とは異なる体温ではあります。幼少期の差別、ということがもちろんなかったわけで、登場人物も成功してお金持ちのお宅が多いです。

    2作品が入っております。

    葉桜の日

    「葉桜の日」の舞台のひとつは、第三京浜の川崎インターを降りて車で15分南下した、南武線の線路沿いの弁当仕出し工場。

    ここで皆さまが正しく読み解けたかが疑問であります。
    実際問題、第三京浜の川崎インターを降りて車で15分南下したら、南武線から離れて横浜方面へと進んでしまうのですよ。

    川崎特有の地理感覚というものがありまして、ここでいう「南下する」とは、川崎方面に向かうことを指します。東なんですね。

    川崎では東側のことを「南部」と呼び、西側を「北部」と言います。
    アメリカでは農業が盛んな南部、工業が発展する北部でありましたが川崎では南部が工業、ブルーカラーに対して北部がホワイトカラーなイメージであります。

    つまり、川崎インターを降りて車で15分の南武線沿いってなると武蔵中原と武蔵小杉の間
    ぐらいかなぁ、と読み解くのですがこれ読者のどれだけの人にわかるんだ。

    「川崎南部」って言い方をしているので、鷺沢さんはこのあたりを取材なりなんなりで把握したうえで書かれているんですね。

    韓国の方も多いのだけど、実際他の国の方も実は多くって、もはやナニジンだからってどうこうしてられない地区だったりするわけですが、そこで主人公ジョージは

    「僕は、ホントは誰なんだろうね?」
    という疑問を抱くことになります。
    このジョージの思いは取材の上で自分の知らないことを知ることとなった鷺沢さんの疑問そのものであったのかな。

    冒頭、志賀さんが言ってる

    人の生きていく方法や道はさまざまで、どれが最高ということはない。ただ、自分のめいっぱいに真実で生きていればいい。
    ということばは、結構わたしの胸にああ、そうだなと響いたんだけどね。
    19のジョージは、これから悩んで行けばいいんじゃないかなぁ。

    果実の舟を川に流して

    「果実の舟を川に流して」は、中華街での話。あのあたりの赤い独特なネオンを浮かべながら、読みました。

    一転、ヨコハマの人たちが織りなす、おしゃれな空気が流れる作品。

    巻末の解説を読んで確かに、22とか23歳で書かれた本には思えないなぁと、若い者らしい甘え、のようなものの排された文章を見て、思いました。

    もう一冊を読むのが楽しみになりました。

  • 「葉桜の日」「果実の舟を川に流して」の2編からなる。

    「葉桜の日」は、出生の秘密を知ることになる主人公と周囲の人が葛藤する。
    自分探しは永遠のテーマだと思うが、そばにいる人との関係や距離によって知っていくのだなぁとつくづく思った。

    在日という壁もでてくるが、これは作者本人が20歳の時に知ったという現実とシンクロしているのではないか。

    「果実の舟を川に流して」は、タイトルが秀逸だと感じた。
    バナナボートという飲み屋を舞台に社会との距離を主人公が感じてゆく。

    これを書いた作者の年齢のことは書きたくないのだが、ついつい考えてしまいながら読んでいる自分がいた。

    天才とは、儚いものである。

  • 表題作と『果実の舟を川に流して』いずれも丁寧に書き込まれている。女性が描く主人公の男の子たちは透明感がある。純で気持ちいい。

  • 桜が散る頃になると、どうしてもこの小説のことを思い出してしまう。(鷺沢 萠さんが35歳で自殺してしまって、もうこの世にいないからかもしれないけれど・・・)

    上智大学の学生だったころに「少年たちの終わらない夜」でデビュー。「帰れぬ人びと」「海の鳥・空の魚」「スタイリッシュ・キッズ」と続けて出版した後の、「葉桜の日」。これらのタイトルをみただけでも、いかに言葉のセンスのある人かわかりますでしょ?

    「葉桜の日」には、「葉桜の日」のほかに、三島賞候補になった「果実の舟を川に流して」が入っています。この2作品の共通点は"親のいない"19、20歳の少年の眼を通して、普通の日本人やらサラリーマンには縁のない世界(もしかしたら底辺といってよいのかも)が描かれていること。

    本作品以外で、泉鏡花賞受賞のほか、芥川賞候補に4度、野間文芸新人賞候補2度、なるほどの実力。

    「果実の舟を川に流して」は彼女の最高傑作という人もいるほどの作品です。

  • 「葉桜の日」と「果実の舟を川に流して」の2作を収録。どちらも決して悪くはないけれども、例えば「ウェルカム・ホーム」だとかと比べるとやはり見劣りする感は否めない。個人的には「果実の舟を川に流して」のが好きでした。あのけだるい感じの雰囲気が好き。

  • 青春小説らしいです。

  • 読始:2008,11,14
    読了:2008,11,15


    二編話が入ってるんですが共にさらっと読めてgood
    表題の「葉桜の日」のラストはちょっと涙ぐむかも
    両作品とも青春期の心の葛藤(というほど大袈裟ではないかもしれないが)、揺れ動く心情を匠に描いている
    共に「僕は本当は誰なんだろう?」と自分の存在を問うのがテーマかなぁ
    「葉桜の日」はまさにそれそのものがテーマ
    「果実の舟を川に流して」は主人公の青年もそうだがそれを取り巻く人たちの様々な人生というかを描いきそれを通して何を思うかって感じかな

    「海の鳥・空の魚」から読み始めた鷺沢恵さんの作品
    これが一番よかったと思う

    ★3.4の★3で

  • 鷺沢萠という夭折の作家のデビュー作。恐らく10代の頃の作品だと思うのだけれど、10代の女の子が書いたとは思えないほどの完成度。そして、信じられないほどの「静かな感性」。実は、彼女の作品では、この作品が一番好き。

  • “僕は、ホントは誰なんだろうね?”

著者プロフィール

鷺沢萠(1968.6.20-2004.4.11)
作家。上智大学外国語学部ロシア語科中退。1987年、「川べりの道」で文學界新人賞を当時最年少で受賞。92年「駆ける少年」で泉鏡花賞を受賞。他の著書に『少年たちの終わらない夜』『葉桜の日』『大統領のクリスマス・ツリー』『君はこの国を好きか』『過ぐる川、烟る橋』『さいはての二人』『ウェルカム・ホーム!』など。

「2018年 『帰れぬ人びと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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