近親殺人 家族が家族を殺すとき (新潮文庫)

  • 新潮社
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  • 本 ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101325415

作品紹介・あらすじ

日本の殺人事件の半数が、家族を主とした親族間で起きている。「まじ消えてほしいわ」と罵倒し、同居していた病弱な母親を放置、餓死させた姉妹。夫の愛情を独占すると憎しみをつのらせ、我が子をマンションの高層階から突き落とした母親。人はどんな理由から最も大切な存在であった家族を殺すのか。事件が起こる家庭とそうでない家庭とでは何が違うのか。7つの事件が炙り出す、家族の真実。

感想・レビュー・書評

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  • 石井光太『近親殺人 家族が家族を殺すとき』新潮文庫。

    近親殺人をテーマにしたノンフィクション。

    7つの家族内で起きた殺人事件を通じて、日本の様々な問題と家族の在り方を浮かび上がらせる。読んでいると、7つの事件は全て心に重たくのしかかって来る。いつ誰の身にも起こり得る事件なのかも知れない。

    日本では、殺人事件の認知件数は1954年の3,081件をピークに2013年には1,000件を下回り、近年は800件から900件台で推移しているが、家族内を主とした親族間での殺人事件の件数は、ここ30年ほど400件から500件台と変わらず、割合としては5割強と高くなっていると言う。


    介護放棄。介護放棄により母親を餓死させた30代の姉妹。核家族化が進み、親の介護が難しい世の中になって来た。高齢者の介護施設も満杯で数百人の予約待ちという施設もある。経済的な理由や勤務先などの問題もあり、子供が親の面倒を看ることが難しい時代だ。それでも何かしらの手立てはあったのではないだろうか。母親と同居していながら介護放棄した姉妹の鬼畜ぶりには呆れ果てる。

    引き籠もり。精神的な障害から引き籠もりとなり、家庭内暴力を振るう息子を絞殺した元中学校教師の父親。息子に暴力を振るわれ、精神疾患に陥る妻と、結婚して近隣に引っ越し、子供を育てる娘たちを護るために父親が下した決断は間違いだったのだろうか。父親が取った行動は、殺人をほのめかし、何をするか解らない息子に対する親としての最終的な責任の取り方だったのかも知れない。

    貧困殺人。暴力的な父親から解放され、母親と2人で暮らし始めた息子。タクシー運転手の息子はタクシー会社を退職して個人タクシーを始めるが、日本に不況の嵐が吹き荒れる。追い討ちを掛けるように東日本大震災で売上は激減し、マンションや車のローンの返済もままならなくなり、消費者金融に走り、アルコールに溺れる。それでもタクシーを走らせるが、どうにもならなくなり、母親と心中を図る。日本社会が疲弊していく姿とそれに翻弄される家族の悲劇を見ているかのようだ。自分が何とか普通の暮らしを続けられているのは奇跡としか思えない。

    家族と精神疾患。両親と3人の姉妹が暮らす普通の家。長女が鬱病を発症し、手が付けられないほど暴れ始める。次女と三女が結婚して家を離れると、父親が病死。母親だけでは長女は手に負えず、北海道で暮らす次女が離婚してまで実家に戻るが、母親まで病死する。このままでは長女の娘や自分の生命も危険だと最終的な決断を下した次女。何とも痛ましい事件だ。行政や警察、医療機関は何も出来なかったのだろうか。

    老老介護。核家族化が進む中、将来的に増加する事案だろう。介護施設などの手を借りようにも、少子化で介護職員不足で満足な介護サービスを受けられなくなることが予想される。歳下の夫と歳上の妻の再婚夫婦。夫は病院事務員で妻は看護婦の似合いの夫婦だった。2人が退職後、夫が脳出血で倒れ、左半身に麻痺が残り、要介護3となる。妻は懸命に介護を行い、要介護2まで回復するが、今度は大腿骨を骨折し、要介護4となる。それでも真面目な妻は懸命に介護を行うが、鬱病を発症してしまう。やがて起きる悲劇。

    虐待殺人。5歳の息子をマンションの13階から投げ落とした若い母親。23歳歳上の夫の愛情を息子が独占するのが許せないという余りにも理不尽な理由だった。そして、彼女の驚くべき過去が明らかにされる。何とも理解し難い事件であるが、成長する過程でこうしたことがあれば、まともな人間には育たないだろう。

    加害者家族。自分の異父兄弟である妹と弟を殺害した母親との関係に苦しむ娘。家族間の殺人は加害者でもあり、被害者でもある。母親は刑務所に収監されても反省の様子は無く、どこまでも生き残った娘や家族を苦しめる。何ともやり切れない思いに娘が下した決断。


    家族にとって高齢者の介護は精神的にも経済的にも大きな負担となる。高い介護保険料を払い続けていて要介護4の認定を受けても、比較的安い特別養護老人ホームに入所出来るとは限らない。施設の空き状況と介護者の年齢や経済状態、要介護度などで総合的に判断される。安い施設は数百人待ちという場合さえある。そのため、都会の入所希望者が地方の施設に入所を申し込む場合もある。高齢者が高齢者を介護する老老介護には無理があり、時に本作に描かれたような悲劇が起こる。

    家族が家族を殺害するというのには余程の事情があるのだろう。本作には元中学校教師の父親が精神的な疾患で引き籠もりの息子を殺害した事件があったが、逆のケースを知っている。長年、引き籠もりで親のキャッシュカードで好き勝手に買物をし、それを両親に咎められて、両親を殺害したケースである。長年、両親に育てられ、両親の庇護下でなければ生活出来ないのに、挙句の果てに両親を殺害するとは何ごとだろう。

    本体価格630円
    ★★★★★

  •  これはノンフィクションなので、マジに怖い。7つの家族殺人を取り上げているのだが、実話であるだけにリアリティが半端ないので怖い。一気に読んだが、家族関係は一つ間違えると大変な地獄となる。ほんのささやかな愛情のかけ違いが、実の子を殺してしまったり、母親を餓死させたりしてしまうのだ。老老介護なんてこれからますます増えるので、このような現実に目を向けなければならないと思いました。

  • 石井光太さん、どこかで見た名前…と思っていたら過去に読んだ漫画『さんてつ 三陸鉄道 大震災の記録』で作者の吉本浩二さんと特別対談していた方だった!
    まだこの作品しか読んでいないけど、さんてつに出てきた震災ルポルタージュも読まなければ!と思う

    このノンフィクション作品、心にズシーンとくるすごく重たいものだった
    読んでいて、怒り・悲しみ・同情・困惑・嫌悪・驚き・不安等、とにかく色々な感情が心の中を渦巻いた

    近親間の殺人事件は、年間全体の殺人事件の約半数だと知ったけど この作品を読んでいると、本当に自分が当事者にならない可能性はゼロではないと思った
    病気や介護問題、不幸な生い立ちによってそういう結果にならざるを得なかった家族達…病院や施設、支援サービスなど利用できるものは存分に利用すべきだとは思うけど、それらを利用してもこういう結果になってしまった数々の家族は、その家族間だけにしかわからない事情があるのだろうし、他人があれこれ言えることではない

    加害者家族でもあり、被害者家族にもなってしまった残された家族がどうか穏やかに暮らしていけるようにと願う

  • 文庫本の帯に記載された言葉そのものの世界が描かれていました。

    「今、殺さなければ、殺される」

    本を読むまでは、遺産相続で揉めたとか、欲にまみれた人間たちの愛憎劇かと思っていましたが、全く異なります。むしろ、やるせない気持ちで一杯になりました。

    この本には7つの事例が紹介されていますが、どれも傍からは殺人とは無縁に見えるご家庭なのです。そんな一家でなぜ殺人が起きたのか。
    それらをまとめたものがこちらの本になります。
    全てを読み終えた後で、これは簡単に「わかる」とは言えないよなぁ、と思いました。
    この本に書かれていることは体験した者にしかわからない苦しみと辛さだと思いました。
    事情を知らない私たちが簡単に「ああすればよかったんじゃない?」とか口出しできることではないのです。

    著者の石井さんが事件が起きた原因を大きく2つにまとめてくださっています。簡単に抜粋します。

    ”一つ目は、事件を起こす当事者には、困難な事態を自分で解決する能力が失われているという点だ。”(抜粋)
    ”二つ目が、事件が起こる場合、ほとんどのケースで介護や育児の困難といった主な問題とは別に、その家族固有の伏線があるということだ。”(抜粋)

    特に「二つ目」を踏まえたうえで、私が今から改善しなくては!と思ったことがあります。
    「1 まじ消えてほしいわ<介護放棄>」に特に関係しているのですが、子どもとの接し方についてです。
    (ご興味ある方は本をお読みください)

    厳しさと八つ当たりを一緒にしてはいけないですね。
    人間なのでいつでも子育て本に書かれているように子供に接することはできませんが、少なくとも子供に親のイライラ(八つ当たり)をぶつけるのだけはやらないようにしようと心に誓いました。(子どもはそういうのをよく察知できる)
    今は親の方が子よりも立場が上かも知れませんが、それは健康であることが前提です。
    しかし、健康は永遠には続きません。
    自分が老いて、身体にガタがきた時に立場は逆転します。
    親の私たちが子供達の助けを必要とする日が来るかも知れないのです。
    その時に、その時にですよ。
    毎日のように八つ当たりしていた親のお世話を子どもが快く引き受けてくれますかね。
    「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものです。
    「1 まじ消えてほしいわ<介護放棄>」のような惨事が起きても不思議ではないと思うのです。

    ブクログのおすすめ本で登場したので、興味本位で読んでみましたが、想像を超えてました。
    自分にも起こる可能性があるという事を念頭にいれて生きていかねば、と思った次第です。

  • まるで事件小説を読んでいるかのような感覚に陥ったが、紛れもない事実として起こったことかと思うと、身が裂ける思いと怒りが生じる。

    小説と違うのは、当事者たちが通常の私たちが感じている秩序や理の外側で独自の負のスパイラルを作り上げているところ。介護放棄や貧困からくる殺人は環境がそうさせる部分が大きいわけであり、当事者が一人でそのような事件を起こしたとは考えられない。
    逆に言えば誰しも、その環境におかれれば同じ行動をとる可能性があるということ。

    一見、限りなく身勝手な理由で家族を殺害しているように見えても、なぜそうなったかはもっと深い闇に包まれている。

    責任を当事者のみに科すような社会では一向にこのような痛ましい事件は減らないだろう。

  • 他人事ではないと感じました。

  • 図書館
    読み始めから眉間に寄せた皺が最後の一ページまでそのままだった
    同情してしまう事件と胸糞悪くて寝られなくなる事件まで、私の心も壊れそうだった

  • 著者が実際に裁判を傍聴したり、現場に足を運んで話を聞いたりしてまとめたノンフィクション。

    日本での殺人事件の認知件数は減少しており、2013年には初めて1000件を下回り、近年は800~900件台で推移している。
    ところが親族間殺人の割合は20年ほど前までは全体の4割程度だったが、近年は5割強にまで増えているそう。

    考えさせられる内容だった。

  • 加害者はどっちなんだろう。

    本当にそうする以外の選択はなかったんだろうか
    と思えるのは俯瞰しているからで
    自分が渦中に入ってしまったら
    葛藤に勝てる余裕なく、殺めてしまうだろう。
    ただし、私の場合は相手ではなく自身なんだろう。

  • 「テレビの中の話」「自分には関係のないこと」と思われがちな殺人事件が、実は自分のすぐ側で起きていることが分かる一冊。私たちもいつ「あちら側」に行くか分からないし、誰もがそのリスクと表裏一体で暮らしていることに気付かされる。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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