国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.18
  • (283)
  • (257)
  • (120)
  • (14)
  • (5)
本棚登録 : 2024
感想 : 230
  • Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101331713

作品紹介・あらすじ

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その"断罪"の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた-。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ついに佐藤優さんのデビュー作を読みました。
    これで佐藤さんの本90冊読破!
    「どれか一冊、人に薦めるとしたら?」ときかれたら
    この本をあげます。

    〈「新聞は○さん(田中女史)の危うさについてきちんと書いているんだけれど、日本人の実質識字率は5%だから、新聞は影響力を持たない。ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく。残念ながらそういったところだね。その状況で、さてこちらはお国のために何ができるかということだが…」とある外務省幹部。〉

    私がまさにその通り!
    田中真紀子さんが小泉純一郎さんに更迭されたとき、ワイドショー見て「かわいそう。小泉さんひどい」と思ったものです。

    それと鈴木宗男さんも、ワイドショーで見ました。
    ルックスがアホの坂田さんに似ていることもあって、
    おかしな政治家なのだろうと思っていました。

    そして当時、宗男さんと同時に佐藤優さんが記者に追いかけられていました。
    たぶんテレビで何度も目にしていたのでしょう、私。
    全く記憶にありません。

    その後「拘置所からでてきた人が本をだした」というのも何かで見た気がするけど、安部譲二さんとごっちゃになっていたと思います。

    ただ、ワイドショーのおかげで記憶が断片的にあるものですから、この本を読んで「ああ!そういうことだったのか!」と。
    本当に目が開かれました。

    佐藤優さんが512日間の独房生活を送っていたのはもちろん知っていて、「でも、悪いことしたからでしょ?」という思いは消えなかったのです。
    でも「国策捜査」では、悪くなくても捕まってしまうのです!

    〈西村検事との会話。
    「これは国策捜査なんだから。あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです」
    「見事僕はそれに当たってしまったわけだ」
    「そういうこと。運が悪かったとしかいえない」〉

    同時にこんなことも。
    〈今回の国策捜査の特徴は、検察庁の三井物産と丸紅に対するダブルスタンダードに顕著に現れている。(中略)丸紅関係者は刑事責任を全く追及されていない。この辺の事情についても西村氏に率直に尋ねてみた。
    「なんで丸紅は見逃されているの」
    「僕たちも丸紅は三井から五千万円ももらってけしからんと怒っている。しかし、国策捜査だから鈴木さんと関係のある三井物産だけがやられて丸紅はおとがめなしなんだ」
    要するに三井物産は運が悪く、丸紅は運がよかったのである〉

    最後に本題から外れますが、私がたぶん他の本でも見てのでしょう、嘗て大変役に立ったと思われる文をみつけたので、いちおうコピーしておきます。

    〈情報専門家の間では「秘密情報の98%は、実は公開情報の中に埋もれている」と言われるが、それを掴む手がかりになるのは新聞を精読し、切り抜き、整理することからはじまる。情報はデータベースに入力していてもあまり意味がなく、記憶にきちんと定着させなくてはならない〉

  • ノンフィクションであり、当時の外交状況から拘留中の取り調べなど、詳細に書かれていてる。国策捜査の中で、著者が優先したことは日本の国益であり、そのためには自らを犠牲にし筋を通すところは尊敬に値する。外交官時代、日本の首相やロシアの官僚が認めた人物であったことは納得できる。

  • 「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。『国策捜査』とは歴史の転換点なんだ。という事がすごくよく分かりました。

    筆者と検事との攻防も見所です。 先日この本を読み返していました。あまりの面白さにしばらくこの本に没頭してしまいました。この本を読むとなぜ堀江貴文が現在『別荘』の中にいる理由が少しだけ分かったような気がいたしました。内容は大きく分けて2つに分けられると思います。前半部は筆者が外交官として外務省に勤務し、鈴木宗男さんとともに北方領土を日本に返還されるために文字通り東奔西走していた時期。

    後半に入る前に田中眞紀子さんとの一悶着を経て筆者が小菅の東京拘置所に収監され延べ512日間に及ぶ拘置、独房生活の末、第1審で下された判決は「懲役2年6カ月、執行猶予4年」。著者は即日控訴の手続きを取った。と言うまで。そして保釈後。と言う構成になっています。僕は前半部を読んで政治家としての鈴木宗男という人間が僕の中で変わっていくのを感じました。この記事を書いている現在、彼もまた『お勤め』の最中ですが、必ずまた表舞台に帰ってきていただけることを心から願っています。

    僕がもっともこの本の中で引き込まれたのが拘置所の中で筆者と担当検察官である西村尚芳氏との息も詰まるような攻防の場面で、筆者をして『尊敬すべき敵』と言わしめるように、怒鳴ったり、ゆすったりしないで、あくまで誠実な態度で筆者に接し、なおかつ全人格、全存在をかけて筆者と『知恵比べ』の静かな戦いを繰り広げる姿にはサスペンス小説をワンシーンを見ているかのようでした。

    詳しいことはここでは一切省きますが、それと同時に『検察官』と言う人間がどのような思考パターンを持っていて、なおかつ事件の組み立て方、そして、落としどころに持っていくまでのプロセス、と言うものがまことに詳細なまでにつづられていて、これを読んでいると、『国策操作』と言うもので個人が組織にかなわない、と言うことを知りつつ、検察に徹底的に最後まで争った堀江貴文氏が本来執行猶予付の判決になるにもかかわらず、ああして長い裁判を経て『お勤め』にはいるに至った経緯、もしくは裏の事情、と言うものが分かっただけでも、この本を読んだ価値がありました。

    今後、僕らも『もしかすると』こういったものにかからない、とは限りませんので、もしそうなったときのため、そして純粋に国家と組織と個人。その関係を見つめる、と言う点でも、きっとこの本は役に立つと確信しております。

  • 鈴木宗男氏絡みの事件で実刑判決を下された、元外交官がその顛末を書いた本。

    誰かからの指示で、国策捜査として鈴木宗男氏を逮捕することが決まり、それに捲き込まれてしまった著者。ちょっと信じがたいのだが、この本を読む限り恐らく事実だと思う。なんとも恐ろしい世界。

    北方領土の返還を実現させるべく、高い知性と熱い情熱を持って仕事をされていた著者が、このような顛末になるとはなんともやるせない気持ちになる。

    ロシア要人たちとの外交や拘置所ないでの生活など、知らない世界を知る意味でも面白い。

    面白いしためになる、誰にでも一度は読んでもらいたい素晴らしい本でした。

  • プライドは邪魔なので持たない。 
    悪かった、悪かった、運が悪かった。
    国民の雰囲気が罪を決める。

    内容は言うまでもなく面白い。こんなすごい作家が元官僚で、しかもノンキャリアだったことに日本の官僚は凄いと思ったものだが、国策捜査の恐ろしさ、検察の取り調べ、留置所の生活を冷静な視点で描いているところも斬新であったし、ロシアとの北方領土問題についてもこんなに詳しく書かれたものは読んだことが無かった。それもそうで、条約交渉は外交機密のため、下手な事を書くと国益を毀損する恐れがあるので、ほとんどの人が書く事ができないのだ。著者によると情報(インテリジェンス)関係者から許しを得て詳しく書けない部分はありながらも、かなりわかり易く書かれているのだ。
     
     「国策捜査は時代のケジメ」確かに私にも振り返ってみると得体の知れない高揚感や嫌悪感を感じたことがある(小泉政権誕生や、ホリエモン騒動など…)。              
     初めて本書を読んだ時に著者の博覧強記に驚いたが、その後の作品を読む毎に、これがヨーロッパのエリートが持っているべき教養なのかと恐れのようなものを覚えた。
     キリスト教に基づいた教養というものは、私にはピンとこないし、哲学、語学、歴史もちょっと本を読んだくらいでは身につくものではない。きっと上流階級の方たちはそのような教養を身につけているのだろうが、こんなにさり気なく教養をまぶしてくる著者は一般家庭て、団地出身である。
    本書を読み、興奮し、その後著者の本をかなり読み漁ったが底知れない知識に佐藤優さんとは凄いものだなと思い知らされた。
     

  • 例の「ムネオさんの犯罪」辺りに連座して、背任、偽計業務妨害で起訴された著者である。

    この本は、田中真紀子外相(当時;「外務省は伏魔殿発言」などで旧弊にクサビを打ち込む正義の味方に見えたっけ) vs ムネオさん戦争の裏事情や、北方領土を巡って、ソ連~ロシアとの間で水面下の交渉が進められていた頃の内幕、逮捕拘留されてからの検察官とのやりとりなどが迫真の筆致でえがかれている。

    そして、外交とはどういうものか、検察とは(あるいは国策捜査とは)どういうものかについてアウトラインを教えてくれる。さらに、小泉政権を境に日本はいったいどう変わったのか?についても理解を与えてくれる。(それがつまり、傾斜配分:格差社会の始まりと、国際間協調ではないアメリカ偏重外交の始まりである)

    たいへん感銘を受けた。

  •  

  • とにかく興味深い内容だった。
    鈴木宗男の逮捕、ムネオハウスなどと世間を騒がせていた事件の背景、実査の検察とのやり取りなどとてもリアルに書いてある。事件当時の頃を思うと私は「鈴木宗男が随分と悪い事をやったらしい。政治家の汚職事件」という風に思ってたくらいだ。この本の途中にこんな事が書いてあった「日本の実質識字率は5%だ。・・・世論はワイドショーと吊り革広告で決まる」と。そういう意味では私も字が読めない一人だったわけだ。
    当時の対露外交の実際、鈴木宗男をターゲットとして国策捜査が行われたかの考察などがとても面白い。小泉政権下、田中眞紀子が外務大臣として選ばれ、そして更迭されるあたりから現在の親米一本の外交に突き進んで行ってしまう。簡単に言うと田中眞紀子は父ゆずりの対中外交を重要視したが更迭によりそれは消える、同時に鈴木宗男の対露外交も消え、残るは対アメリカ。そして今をみれば韓国、中国、ロシアとの領土問題は解決するどころか後退している。ってことはいつまでたっても沖縄から米軍は引き上げないって事。アメリカの思惑通りだね。
    鈴木宗男をターゲットとされた「国策捜査」は一つの「時代のけじめ」の象徴として行われる。それを佐藤氏は「国際協調的愛国主義」から「排外主義的ナショナリズム」への転換と分析する。排他的ナショナリズム、とは例えば「自国民・自民族の受けた痛みは強く感じいつまでも忘れないが、他国民・他民族に対して与えた痛みについてはあまり強く感じず、またすぐに忘れてしまう」という事。さらに「より過激な主張が正しい」という法則だとの事。今起きている、韓国、中国との領土問題への両国民の反応は「排外主義的ナショナリズム」そのもののような気がする。
    佐藤氏を担当しつづけた検察官西村氏はこう言う「あなたも鈴木さんも政治犯だ。あなたや鈴木さんは2000年までの日露平和条約締結という目標のためにはどんな手段でも使っていいと考えた。もしそれが成功していれば、鈴木先生は英雄だったし、官邸入りし、あなたもおそらく鈴木さんと一緒に官邸に入っていただろう。・・・あなたが自分のことを省みずに国益のために一生懸命仕事をしてきたことはよくわかっている。しかしこれは国策捜査だ。あなたが憎くてやっているわけじゃないんだ。」
    鈴木宗男はもう少しで北方領土の問題解決というところまでこぎ着けていたのだという事や、国民から無能扱いされてた森嘉朗などは随分とロシア外交では活躍していたのだとこの本で知った。領土問題解決が実現していたら、また今の日本とは随分違う状況になっていただろうとも思う。そして領土問題の解決が終わっていないという事は、実はまだ完全に戦争が終結したわけではないのだという事を感じた。

  • スリリングだった。


    いままでに読んだノンフィクションのなかで一番かもしれない。


    著者の佐藤優の名は一度は見聞きしたことがあるだろう。鈴木宗男事件のとき、共に逮捕された外務省の情報分析官である。容疑は背任と偽計業務妨害容疑。05年に執行猶予付き有罪判決を受け、現在最高裁に上告中だ。

    文章の描写力と緻密な分析力は、キャリアによって培われたものだろう。読み手を飽きさせない。
    この一冊で外交や外務省(官僚組織)の体質、対ロシア外交と北方領土問題などの概略が理解できる。だが、一番の読みどころは検察による国策捜査の実態が克明に描かれている点である。国策捜査がなぜ行われるのか。その意味が明らかにされている。特に、第4章“「国策捜査」開始”と第5章“「時代のけじめ」としての「国策捜査」”が圧巻である。
    取調室での著者と西村検事とのやりとりは、言葉が適当でないかもしれないが、小説よりもおもしろく引っ込まれる。一気に読めてしまう。


    政治に興味がある人なら、ぜひ一読して欲しい。

  • 今や売れっ子作家となった佐藤優氏の最初の著書。
    今更ながらという感じではあるが読んでみた。
    もともと著者には関心があったがきちんと著書を読む機会がなく、シンガポールにいたときに某日系書店で一部立ち読みをしたことをきっかけに強い興味を持って読むようになった。

    この著者は右から左まであらゆるジャンルの雑誌に連載を持っていて、その主張から政治的ポジションも単純ではないため、毀誉褒貶が激しいようだ。ただ、保守的だとか進歩的だとかというような単純な思想的枠組みで外交というものが成り立たないことは読んでいてわかる。そういうものを超越したところに外交があるのだと思う。

    しかし一方で、取り調べについての記述で語られるが、ワイドショー的な議論で国策捜査が進められてしまう現実がある。特にネット上などでは好き嫌いで外交が語られてしまうことが多いが、その危険性は指摘してしすぎることはないだろう。

    著者はこの国策捜査が「ケインズ型福祉国家」から「ハイエク型新自由主義」へと移行する「時代のけじめ」として行われたと指摘しているが、これを與那覇潤式に言えば(『中国化する日本』)「江戸」から「中国」へと日本社会が移行する「時代のけじめ」であるとも言える。為政者や官僚を延々道徳的に叩くのは儒教的とも言えるし。この著者が與那覇氏の枠組みをどのように評価するのか知りたい気がする。

    ついでにもう一つ希望を言うと、これってTVドラマにしたら面白いと思う。こう思うのは一人だけじゃないだろう。

全230件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、2009年6月執行猶予付有罪確定。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『人をつくる読書術』(青春出版社)、『勉強法教養講座「情報分析とは何か」』(角川新書)、『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済新報社)、『調べる技術 書く技術』(SB新書)など、多数の著書がある。

「2022年 『世界史の分岐点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤優の作品

ツイートする
×