国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.16
  • (257)
  • (236)
  • (116)
  • (14)
  • (5)
本棚登録 : 1744
レビュー : 210
  • Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101331713

作品紹介・あらすじ

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その"断罪"の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた-。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。『国策捜査』とは歴史の転換点なんだ。という事がすごくよく分かりました。

    筆者と検事との攻防も見所です。 先日この本を読み返していました。あまりの面白さにしばらくこの本に没頭してしまいました。この本を読むとなぜ堀江貴文が現在『別荘』の中にいる理由が少しだけ分かったような気がいたしました。内容は大きく分けて2つに分けられると思います。前半部は筆者が外交官として外務省に勤務し、鈴木宗男さんとともに北方領土を日本に返還されるために文字通り東奔西走していた時期。

    後半に入る前に田中眞紀子さんとの一悶着を経て筆者が小菅の東京拘置所に収監され延べ512日間に及ぶ拘置、独房生活の末、第1審で下された判決は「懲役2年6カ月、執行猶予4年」。著者は即日控訴の手続きを取った。と言うまで。そして保釈後。と言う構成になっています。僕は前半部を読んで政治家としての鈴木宗男という人間が僕の中で変わっていくのを感じました。この記事を書いている現在、彼もまた『お勤め』の最中ですが、必ずまた表舞台に帰ってきていただけることを心から願っています。

    僕がもっともこの本の中で引き込まれたのが拘置所の中で筆者と担当検察官である西村尚芳氏との息も詰まるような攻防の場面で、筆者をして『尊敬すべき敵』と言わしめるように、怒鳴ったり、ゆすったりしないで、あくまで誠実な態度で筆者に接し、なおかつ全人格、全存在をかけて筆者と『知恵比べ』の静かな戦いを繰り広げる姿にはサスペンス小説をワンシーンを見ているかのようでした。

    詳しいことはここでは一切省きますが、それと同時に『検察官』と言う人間がどのような思考パターンを持っていて、なおかつ事件の組み立て方、そして、落としどころに持っていくまでのプロセス、と言うものがまことに詳細なまでにつづられていて、これを読んでいると、『国策操作』と言うもので個人が組織にかなわない、と言うことを知りつつ、検察に徹底的に最後まで争った堀江貴文氏が本来執行猶予付の判決になるにもかかわらず、ああして長い裁判を経て『お勤め』にはいるに至った経緯、もしくは裏の事情、と言うものが分かっただけでも、この本を読んだ価値がありました。

    今後、僕らも『もしかすると』こういったものにかからない、とは限りませんので、もしそうなったときのため、そして純粋に国家と組織と個人。その関係を見つめる、と言う点でも、きっとこの本は役に立つと確信しております。

  • 例の「ムネオさんの犯罪」辺りに連座して、背任、偽計業務妨害で起訴された著者である。

    この本は、田中真紀子外相(当時;「外務省は伏魔殿発言」などで旧弊にクサビを打ち込む正義の味方に見えたっけ) vs ムネオさん戦争の裏事情や、北方領土を巡って、ソ連~ロシアとの間で水面下の交渉が進められていた頃の内幕、逮捕拘留されてからの検察官とのやりとりなどが迫真の筆致でえがかれている。

    そして、外交とはどういうものか、検察とは(あるいは国策捜査とは)どういうものかについてアウトラインを教えてくれる。さらに、小泉政権を境に日本はいったいどう変わったのか?についても理解を与えてくれる。(それがつまり、傾斜配分:格差社会の始まりと、国際間協調ではないアメリカ偏重外交の始まりである)

    たいへん感銘を受けた。

  •  

  • とにかく興味深い内容だった。
    鈴木宗男の逮捕、ムネオハウスなどと世間を騒がせていた事件の背景、実査の検察とのやり取りなどとてもリアルに書いてある。事件当時の頃を思うと私は「鈴木宗男が随分と悪い事をやったらしい。政治家の汚職事件」という風に思ってたくらいだ。この本の途中にこんな事が書いてあった「日本の実質識字率は5%だ。・・・世論はワイドショーと吊り革広告で決まる」と。そういう意味では私も字が読めない一人だったわけだ。
    当時の対露外交の実際、鈴木宗男をターゲットとして国策捜査が行われたかの考察などがとても面白い。小泉政権下、田中眞紀子が外務大臣として選ばれ、そして更迭されるあたりから現在の親米一本の外交に突き進んで行ってしまう。簡単に言うと田中眞紀子は父ゆずりの対中外交を重要視したが更迭によりそれは消える、同時に鈴木宗男の対露外交も消え、残るは対アメリカ。そして今をみれば韓国、中国、ロシアとの領土問題は解決するどころか後退している。ってことはいつまでたっても沖縄から米軍は引き上げないって事。アメリカの思惑通りだね。
    鈴木宗男をターゲットとされた「国策捜査」は一つの「時代のけじめ」の象徴として行われる。それを佐藤氏は「国際協調的愛国主義」から「排外主義的ナショナリズム」への転換と分析する。排他的ナショナリズム、とは例えば「自国民・自民族の受けた痛みは強く感じいつまでも忘れないが、他国民・他民族に対して与えた痛みについてはあまり強く感じず、またすぐに忘れてしまう」という事。さらに「より過激な主張が正しい」という法則だとの事。今起きている、韓国、中国との領土問題への両国民の反応は「排外主義的ナショナリズム」そのもののような気がする。
    佐藤氏を担当しつづけた検察官西村氏はこう言う「あなたも鈴木さんも政治犯だ。あなたや鈴木さんは2000年までの日露平和条約締結という目標のためにはどんな手段でも使っていいと考えた。もしそれが成功していれば、鈴木先生は英雄だったし、官邸入りし、あなたもおそらく鈴木さんと一緒に官邸に入っていただろう。・・・あなたが自分のことを省みずに国益のために一生懸命仕事をしてきたことはよくわかっている。しかしこれは国策捜査だ。あなたが憎くてやっているわけじゃないんだ。」
    鈴木宗男はもう少しで北方領土の問題解決というところまでこぎ着けていたのだという事や、国民から無能扱いされてた森嘉朗などは随分とロシア外交では活躍していたのだとこの本で知った。領土問題解決が実現していたら、また今の日本とは随分違う状況になっていただろうとも思う。そして領土問題の解決が終わっていないという事は、実はまだ完全に戦争が終結したわけではないのだという事を感じた。

  • スリリングだった。


    いままでに読んだノンフィクションのなかで一番かもしれない。


    著者の佐藤優の名は一度は見聞きしたことがあるだろう。鈴木宗男事件のとき、共に逮捕された外務省の情報分析官である。容疑は背任と偽計業務妨害容疑。05年に執行猶予付き有罪判決を受け、現在最高裁に上告中だ。

    文章の描写力と緻密な分析力は、キャリアによって培われたものだろう。読み手を飽きさせない。
    この一冊で外交や外務省(官僚組織)の体質、対ロシア外交と北方領土問題などの概略が理解できる。だが、一番の読みどころは検察による国策捜査の実態が克明に描かれている点である。国策捜査がなぜ行われるのか。その意味が明らかにされている。特に、第4章“「国策捜査」開始”と第5章“「時代のけじめ」としての「国策捜査」”が圧巻である。
    取調室での著者と西村検事とのやりとりは、言葉が適当でないかもしれないが、小説よりもおもしろく引っ込まれる。一気に読めてしまう。


    政治に興味がある人なら、ぜひ一読して欲しい。

  • 今や売れっ子作家となった佐藤優氏の最初の著書。
    今更ながらという感じではあるが読んでみた。
    もともと著者には関心があったがきちんと著書を読む機会がなく、シンガポールにいたときに某日系書店で一部立ち読みをしたことをきっかけに強い興味を持って読むようになった。

    この著者は右から左まであらゆるジャンルの雑誌に連載を持っていて、その主張から政治的ポジションも単純ではないため、毀誉褒貶が激しいようだ。ただ、保守的だとか進歩的だとかというような単純な思想的枠組みで外交というものが成り立たないことは読んでいてわかる。そういうものを超越したところに外交があるのだと思う。

    しかし一方で、取り調べについての記述で語られるが、ワイドショー的な議論で国策捜査が進められてしまう現実がある。特にネット上などでは好き嫌いで外交が語られてしまうことが多いが、その危険性は指摘してしすぎることはないだろう。

    著者はこの国策捜査が「ケインズ型福祉国家」から「ハイエク型新自由主義」へと移行する「時代のけじめ」として行われたと指摘しているが、これを與那覇潤式に言えば(『中国化する日本』)「江戸」から「中国」へと日本社会が移行する「時代のけじめ」であるとも言える。為政者や官僚を延々道徳的に叩くのは儒教的とも言えるし。この著者が與那覇氏の枠組みをどのように評価するのか知りたい気がする。

    ついでにもう一つ希望を言うと、これってTVドラマにしたら面白いと思う。こう思うのは一人だけじゃないだろう。

  • この本が扱っている、いわゆるムネオ事件は僕が高校生の時の話なのですが、当時のワイドショーやネットから受けていた印象と実際に起きていたことの間に相当の開きがあるということが分かったのが一番の衝撃でした。
    この本を読むまで僕はこの事件に対して田中真紀子の「外務省は伏魔殿」発言とかムネオハウスのMADとかムルアカさんとかそういった程度の認識しか持っていなかったのです。
    書籍だけでなく新聞や総合雑誌のような活字媒体もきちんと読もうという気になったのはこの本のおかげです。

  • 鈴木宗男と佐藤優は、ロシアを見ながら、日本の国益に忠義を尽くした人達だったと、初めて知った。ヤワな裁判懺悔録とは一線を画す佐藤優の獄中録。
    拘置所での検察官との対話を通じて国策捜査を読者に教えてくれる。
    自らの困難を客観的に著述できる著者の教養本は、今後も売れるはず。

    佐藤優って、胡散臭い元外交官のオッさんでしょ?という人にはまず読んで欲しい作品である。

  • 国策捜査がどう生まれどのように行われるかが良く分かる。後半の西村検察官とのやり取りがハイライト。
    独特の風貌もあり何となく怖い人、悪い人という印象だったが一変。明晰な頭脳で国家の為に尽くした外交官であったのだろう。もちろん自身に有利なように書いている部分はあるのだろうが、それでも抜群の頭脳と豊富な知識量を持つことに疑いの余地はなく、こういう人を外交官から失ったのは明らかに国家の損失。現代の知の巨人。

    ・ナショナリズムには二つの特徴がある。第一は、「より過激な主張が正しい」という特徴で、もう一つは、「自国・自国民が他国・他民族から受けた痛みはいつまでも覚えているが、他国・他民族に対して与えた痛みは忘れてしまう」という非対称的な認識構造である。ナショナリズムが行き過ぎると国益を毀損することになる。
    ・国策捜査は時代のけじめをつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。法律はもともとある中で、その適用基準が時代によって変わってくる。特に政治家に対する国策捜査の適用基準のハードルは驚くほど下がっている。適用基準を決めるのは検察ではなく一般国民が決めている。

  • ゴーン逮捕 タイムリー

全210件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、専門職員として外務省に入省。英国の陸軍語学学校でロシア語を学び、在ロシア日本大使館に勤務。
帰国後、外務省国際情報局で主任分析官として活躍。
2013年、『国家の罠』で毎日出版文化賞を受賞。

「2019年 『世界宗教の条件とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)のその他の作品

佐藤優の作品

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする