国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101331713

感想・レビュー・書評

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  • 今や売れっ子作家となった佐藤優氏の最初の著書。
    今更ながらという感じではあるが読んでみた。
    もともと著者には関心があったがきちんと著書を読む機会がなく、シンガポールにいたときに某日系書店で一部立ち読みをしたことをきっかけに強い興味を持って読むようになった。

    この著者は右から左まであらゆるジャンルの雑誌に連載を持っていて、その主張から政治的ポジションも単純ではないため、毀誉褒貶が激しいようだ。ただ、保守的だとか進歩的だとかというような単純な思想的枠組みで外交というものが成り立たないことは読んでいてわかる。そういうものを超越したところに外交があるのだと思う。

    しかし一方で、取り調べについての記述で語られるが、ワイドショー的な議論で国策捜査が進められてしまう現実がある。特にネット上などでは好き嫌いで外交が語られてしまうことが多いが、その危険性は指摘してしすぎることはないだろう。

    著者はこの国策捜査が「ケインズ型福祉国家」から「ハイエク型新自由主義」へと移行する「時代のけじめ」として行われたと指摘しているが、これを與那覇潤式に言えば(『中国化する日本』)「江戸」から「中国」へと日本社会が移行する「時代のけじめ」であるとも言える。為政者や官僚を延々道徳的に叩くのは儒教的とも言えるし。この著者が與那覇氏の枠組みをどのように評価するのか知りたい気がする。

    ついでにもう一つ希望を言うと、これってTVドラマにしたら面白いと思う。こう思うのは一人だけじゃないだろう。

  • この本が扱っている、いわゆるムネオ事件は僕が高校生の時の話なのですが、当時のワイドショーやネットから受けていた印象と実際に起きていたことの間に相当の開きがあるということが分かったのが一番の衝撃でした。
    この本を読むまで僕はこの事件に対して田中真紀子の「外務省は伏魔殿」発言とかムネオハウスのMADとかムルアカさんとかそういった程度の認識しか持っていなかったのです。
    書籍だけでなく新聞や総合雑誌のような活字媒体もきちんと読もうという気になったのはこの本のおかげです。

  • 佐藤優氏が逮捕勾留される事になった事件の回顧録。この本に初めて興味を持ったのは週刊新潮に連載されていた「頂上対決第182回」の対談相手が取り調べを行った元検事、西村尚芳氏だったからである。
    事件当時、鈴木宗男議員と田中真紀子議員と佐藤優氏がTVニュースに映りまくり、良くは分からずとも何やら大変な事件が起こっており「外務省は悪い人たちのいるところだ」みたいな印象を子供ながらに抱いていた。ので、長らくきっと事件の弁明みたいな事が書いてあるのだろうくらいにしか思ってなかったのだが「悪い人」であるはずの佐藤氏の名前をアチラコチラで頻繁に目にすると、流石にこの認識は大分違うらしいと気にはなっていた。文章を読むと俗悪さの欠片もない。凄い。ではなぜこんな凄い人が捕まったのか。またなぜ評価をくれているのか。知りたくなった。

    元外交官とは知りつつも、よもやここまで世界情勢が絡んでくるとは思わず、イスラエルの知識まで増えるとは思わなかった。事件のみならず現在を理解するうえでも大変役に立ったし、僅かな海外経験の肌感覚も記述と合致してかなり納得できた。
    事件の専門的な細部までは分からないし、伏せられていることもあって全容では無い。ただ、私の実質識字率は5%からは少し上がったと思う。今後も上げ続けていかなければ。
    「利害が激しく対立するときに、相手とソフトに話ができる人物は手強い」激しく同意。西村検事はずっと敵なのに、信用できる人。小説ならば胸熱なキャラだけど、実在する人で、20年後の対談でもそれは揺らがない。「国益」という言葉が多用されていたが、つまるところ、命がけで挑める何かがあるか。そんなものを持つ人は明治大正時代あたりで消えたと半ば本気で考えていたが、私の視野が狭窄だっただけだった。破廉恥事件ばかりに目が行くが、こんな真剣な大人たちがいてくれることに救われる想いがする。
    『自壊する帝国』もあまり時間を開けずに読むつもりだし、今後氏の著作は極力読んでいきたい。

  • フィクションかと思うほど自分の生活からかけ離れた世界だった。
    ロシアとかソ連に全然詳しくないから最初は読むのが苦しいけど、そこを乗り越えるとすごく面白いし、何より勉強になる。
    北方領土辺りの情勢を知りたい人にはいい本ではなかろうか。
    外交官って思っていたより何倍もタフで頭が良くてコミュニケーションが上手くないとやっていけないんだろうなと感じた。
    ページ以上に中身のある本。

  • 面白かった!
    この本から得られる知識は次の3つだろう。
    1. 外交のやり方(日露外交について、細かく書かれている)
    2. 国策捜査について(政治家の不正がどうやって明るみに出るのかわかる)
    3. 拘置所の生活について(著者が勾留されていた時の話を書いている

    どこも馴染みがない世界の話で、とても面白かった。
    ただし、著者の主観で書かれているので、本書の内容を全て事実として信じるのは軽率な行動だと思うが。

  • 「国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて 佐藤優著」読了。面白かった。夢中で読んだ。著者が騒がれていた頃にこの本が本屋で平積みされていた。写真付きで何か言いたそうな顔をしていた。立読みでちらりと読んだが、買わずに戻した。その時に読んでいれば、もう少し私の人生楽になったのでは?

  • 国家権力を敵にまわしたとき怖さを嫌というほど感じる。
    村木厚子さんの本を読んだ時も思った。
    逆境にたたされたときに、立ち向かうことができる強い心の武器となるのは、知識である。

  • 国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―(新潮文庫)2007/11/1

    国策捜査は「時代のけじめ」をつけるためにおこなわれる
    2019年6月22日記述

    佐藤優氏による著作。
    2007年11月1日発行。
    単行本としては2005年3月新潮社より刊行された。
    鈴木宗男氏にまつわる騒動で著者も逮捕された。
    もうかなり前のことではあるけれども、当時のニュース等を思い出す。
    当時何が起きたのか、著者の体験を元に書かれている。
    言わゆる経験者しか書き得ないものばかりで面白い。
    今でも中央官庁や政治家と絡む仕事をするなら読んでおくときっと役に立つを思う。
    一般人も東京拘置所とはどんな所か勉強になるだろう。

    また当時熱狂的に支持された小泉内閣、特に田中真紀子氏がいかに国益を毀損する存在であったか・・・
    反面教師にしなければいかない。
    また当時TVを通じて田中氏に好意的な印象を持っていた自分を恥ずかしく思った。

    印象に残った部分をあげていきたい。

    強い者の方から与えられる恩恵を受けることは構わない。
    しかし、自分より強い者に対してお願いをしてはダメだ。
    そんなことをすると内側から自分が崩れる。
    矯正収容所生活は結局のところ自分との闘いなんだよ。

    ロシア共産党守旧派の政治家たちは、日本の自民党の政治家に似ている。
    人間関係を大切にし、物事は何であれ事前に根回しする体質をもっていた。

    外務省では、語学別に「スクール」というグループがあり、「スクール」を異にすると親しくなる機会はなかなかない。
    親しくもない人間がなれなれしく話しかけてくるときには何か意図がある。

    人間には学校の成績とは別に、本質的な頭の良さ、私の造語では「地アタマ」があるということを私はソ連崩壊前後のモスクワで体験を通じ確信するようになった。

    鈴木宗男氏の魅力・・他人に対する恨みつらみの話をほとんどしないこと
    裏返して言えば、このことは他人がもつ嫉妬心に鈴木氏が鈍感であるということだ。

    公判の現状では黙秘は不利です。特に特捜事案では黙秘しない方がよいと思います。 
    事実関係をきちんと話し、否認することです。

    この事務官は経験不足なのか、自己陶酔癖があるのか、仕事に酔って興奮しているだけだ。こういう手合いはたいしたことはない。
    過去の経験則から、私は利害が激しく対立するときに相手とソフトに話ができる人物は手強いとの印象を持っている。
    その意味で、この検事の方は相当手強そうだ
    → 西村 尚芳 (にしむら ひさよし)

    指印は黒色の朱肉で押す

    日本という国の根本的な方針が、小泉政権の登場前と後では大きく変貌を遂げたというのが、私の分析である。
    歴史を振り返った時、あの時が、ターニングポイントとなったという瞬間がある。
    「小泉内閣の誕生」は日本にとってまさにそんな瞬間だったのではないだろうか。

    組織内部に異なる潮流が存在するのはよくある現象であり、これが組織を活性化する基盤となることも少なくない。
    そして同じ考えを持つ人同士がグループ、つまり派閥を作るというのもごく自然な現象である。
    派閥があれば必ず抗争が生じ、それはまた必然的に人事と結びつく。
    しかし、派閥の存在が肥大化すると、往々にして抗争自体が自己目的化しはじめることになる。
    そうした動きを組織が抑えきらず、組織の目的追求に支障を来すようになった時、組織自体の存亡にかかわる危機となるのである。

    能力がなくて、やる気があるのが、事態を紛糾させるのでいちばん悪い

    日本人の実質識字率は5%だから、新聞は影響力を持たない。
    ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく。

    国際情報屋には、猟犬型と野良猫型がある。
    猟犬型の情報屋は、ヒエラルキーの中で与えられた場所をよく守り、上司の命令を忠実に遂行する。
    全体像がわからなくても危険な仕事に邁進する。
    野良猫型は、たとえ与えられた命令でも、自分が心底納得し、自分なりの全体像を掴まないと決してリスクを引き受けない。
    独立心が強く、癖がある。
    しかし、難しい情報源に食い込んだり
    通常の分析家に描けないような構図を見て取るのも野良猫型の情報屋である。

    野良猫型だけだと組織は機能しなくなる。
    猟犬型だけでは、組織が硬直と緊縮を起こし、応用問題に対応できなくなる。
    結局、両方が必要なのである。全体として見れば、
    国際情報屋は、猟犬型9割5分、野良猫型5分くらいに分かれる。

    冷戦後存在した3つの外交潮流は一つに、すなわち「親米主義」に整理された。

    日本人の排外主義的ナショナリズムが急速に強まった。
    私が見るところ、ナショナリズムには2つの特徴がある。
    第一は「より過激な主張が正しい」という特徴で、
    もう一つは「自国・自国民が他国・他民族から受けた痛みはいつまでも覚えているが、他国・他国民に対して与えた痛みは忘れてしまう」という非対称的な認識構造である。
    ナショナリズムが行き過ぎると国益を毀損することになる。
    私には、現在の日本が危険なナショナリズム・スパイラルに入りつつあるように思える。

    ロシア人は、信頼する人にしか「お願い」をしない。

    そもそも外交の世界に純粋な人道支援など存在しない。
    どの国も人道支援の名の下で自国の国益を推進しているのである。

    日本の裁判の現状では黙秘は不利です。
    黙秘をすると裁判官の心証は「やった」ということになります。

    Ⅰ種職員は能力や性格に相当の問題がない限り大使ポストを保証されているが、
    専門職員(ノンキャリア)で大使になる人は5%程度で、しかも中小国の大使だ。
    大学で机を同じにし、能力的には
    それ程違わなくても外務省内での出世街道は大きく異なる。
    もっとも小国語の専門家として結構楽しく仕事をしている東大卒の専門職員もいるので、要はその人の価値観である。
    私は1996年から2002年まで東京大学教養学部で「ユーラシア地域変動論」という科目を教えていたので、東大生気質はそれなりにわかっている
    つもりである。ときどき「あえて外務省の専門職員になり、佐藤先生のように外交官と学者を両立させたい」という相談を受けたが
    私は「東大生に関しては、ほとんどがⅠ種職員だからあえて違う道を選ぶことは勧めない。2つの世界に足をかえていても僕みたく両方とも中途半端になるから・・・・」と答えていた。

    これは国策捜査なんだから。
    あなたが捕まった理由は簡単。
    あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。
    国策捜査は「時代のけじめ」をつけるために必要なんです。
    時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです。

    評価の基準が変わるんだ。何かハードルが下がってくるんだ。

    僕たち(検察)は適用基準を決められない。時々の一般国民の基準で適用基準は決めなくてはならない。

    冤罪なんか作らない。
    だいたい国策捜査の対象になる人は、その道の第一人者なんだ。
    ちょっとした運命の歯車が違ったんで
    塀の中に落ちただけで、歯車がきちんと噛み合っていれば、社会的成功者として称賛されていたんだ。
    そういう人たちは、世間一般の基準からするとどこかで無理をしている。
    だから揺さぶれば必ず何かでてくる。
    そこに引っかけていくのが僕たちの仕事なんだ。
    だから捕まえれば、必ず事件を仕上げる自信はある。

    ナショナリズムには、いくつかの非合理的要因がある。
    例えば、「自国、自民族の受けた痛みは強く感じ、いつまでも忘れないが、他国・他民族に対して与えた痛みについてはあまり強く感じず、またすぐに忘れてしまう」という認識の非対称的構造だ。
    またもうひとつ特筆すべきは、
    「より過激な主張が正しい」という法則である。

    国際協調を考慮し、時には自国中心のナショナリズムを抑えることが日本の国益を増進することもある。
    真に国を愛する政治家、外交官はこのことをよくわかっている。

    31房の隣人=死刑囚坂口弘

  • 佐藤優、読めば読むほど興味をそそられる。それにしても、鈴木宗男事件、そして外務省の内部事情が垣間見られて興味深い。国家捜査にひっかかって運が悪いといって済まされる問題ではないと思うが、それを受け入れる佐藤優。本当に強く、頭がいい人だと思う。そんな人が書く文章だから、惹き込まれるしおもしろい。ここに出てくる人たちのその後がとても気になる。事件の真相は、2030年に関連文書が公開されることに明らかになるとのことで、それはとても楽しみだし、それに対して佐藤優に改めて書物に纏めるなどし、改めて総括してもらいたい。

  • 遅まきながら国策捜査というものの真髄を知った。当時の政治的社会的背景から見ることにより、あの事件はなんだったのかということも、遅まきながら理解した。

著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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