- Amazon.co.jp ・本 (164ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101334813
作品紹介・あらすじ
海峡の漁村・赤間関を、コンクリの町に変えた桜井の家。昔日の繁栄は去り、一人娘の梅代は、出戻った娘と孫娘の3人で日を過ごす。半島から流れついたようにいつの間にか隣地に建った教会を憎悪しながら…。因習に満ちた共同体の崩壊を描く表題作ほか、変態する甲虫に社会化される自己への懐疑を投影した「蛹」など、ゼロ年代を牽引する若き実力作家の川端賞・三島賞同時受賞作。
感想・レビュー・書評
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芥川賞受賞のインタビューで、刺激的な悪態をついた著者を
どこまでパフォーマンスが入ってるんだろ…? なんて、
半ば、よこしまな気持ちを持って手にしたのが本書だった。
あれは、著者の気持ちの飾り気ないストレートな発露だったろう…
「不意の償い」「蛹」「切れた鎖」の3編…
川端賞・三島賞のダブル受賞という随分と評価の高い短編集だ。
小説を読む恐ろしさは、気づかずにある内面を引きずり出され、
歪によどんだありのままの様をつきつけられることにある。
どの作品からも、そうした領域に切り込んでゆこうとする、
著書の文学的に真摯な姿勢を感じた…
たとえば冒頭作「不意の償い」は、妻となった女と
はじめて関係を持ったところから語られる…
そのとき、親を火災で亡くし、女は子を宿した…
いかにもつくりものめいた話だ。ただ、作品は、
そうしたかりそめの物語には拘泥せずに、
男のねじくれた気持ちのありようを語る…
ありていに云ってしまえば、男が女と関係を持つ時、
かならずや疚しさがあるに違いない…ということ…
愛情とは、愛しながらも自らの欲情を満たすことであること…
それは、男ののっぺきならぬ性(さが)であること…
そんなことが、逡巡し、よどみ、ねじれながら、
そのまま文章になっているのがこの小説だった。
ボクには、男の偽らざる気持ちが
ありのまま描かれているように感じられたのだ。
負の意識を持たぬ作者の書くモノで心をえぐられることはない。
それをストレートに表現することが、いかに難しいかは、
なにも作家でなくとも、誰しも思うことだろう。
そんな文体のような態度が、受賞時の作者だったのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「共喰い」よりも本作の「蛹」や「切れた鎖」の方が芥川賞受賞作品らしく感じた。怒りや苛立ちの表現がうますぎてゾワゾワする。
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・不意の償い
・蛹
・切れた鎖
解説・安藤礼二
正直なところ、私には理解のできない物語でした。
~私の読書力、読解力、知識、知能…、そんなものが全て足りないのでしょう。
引き籠りと云うものを上手に現したものだなぁと、感じたぐらいが精一杯の感想です。 【蛹】
この著者の作品が、各種文芸賞を受賞している事実に、選者である既存の作家先生様たちの歪んだ何かがみえるような気がします。 -
うううーむ‥‥
難しい、、、中々理解出来ず何度も進めたり戻ったりして読み終えたが。
僕には難し過ぎてダメだった -
写文したくなる名作
やっぱり「血縁」なんやなテーマは。しかし、共喰いより断然面白い。
家族はバトンを繋いでいくけどその中身は思いや、時代で形を変えて受け継がれる。そしてそれはいかなる力でも切れないと思わせる。いくら時代がグローバリズムを称揚しても、関係なかったことにはできない。関係ないことにしようとして「関係ないやん」と思うこと自体、関係に縛られている。
著者は「切れた鎖」でその呪縛を解き放とうとしたのではなく、あえて浮き彫りにしたんだと思う。
とにかく素晴らしい作品。 -
ちょっと読みづらい文章。内面を表現するので暗いイメージがつきまとう。特に「蛹」なぞはひきこもりでの外界との葛藤であり、妙な居心地の悪さ、圧迫感がある。2020.8.7
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【蛹】
地中の蛹の意識が事細かにぎっしりと書いてある。
いろんなメタファー的な解釈が可能と言えば可能だけど、保坂和志さんが言うようにそれをやることによって小説がそれまでのものになってしまうような気がする。架空の蛹の意識のあり方をたどってそこからなにかしらの示唆とかイメージを受け取る、それが面白いしそれで充分なのではないかと思った。 -
文章がとても独特でした。
最初の話が1番好きでした。
主人公の頭の中に入り込んだ気持ちになった。
蛹と切れた鎖も面白かった。
よくわからない抽象的な感じが好きな人は好きなのかもしれない。 -
新進気鋭の作家による中編集。まだ若手なのにかなりシュールな表現力・独特の世界観。一文一文を噛み締めるようにして読みたい一冊。
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