図書準備室 (新潮文庫 た 90-2)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101334820

作品紹介・あらすじ

なぜ30歳を過ぎても、私は働かず母の金で酒を飲んでいるのか。それはあの目に出会ってしまったから。中学の古参教師に告白させた生涯の罪を、虚無的に冷笑しつつ、不敵な価値転倒を企てる野心的表題作。
級友たちの生け贄として凄惨ないじめの標的にされた少年が、独自の「論理」を通じて生存の暗部に迫る、新潮新人賞受賞作「冷たい水の羊」を併録。
芥川賞作家、田中慎弥 のデビュー作品集が文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 「図書準備室」「冷たい水の羊」の2編入り。「冷たい水の羊」、すごすぎた。いじめられっこの主人公は「いじめられたと感じたらそれをいじめ」といういじめの定義を採用し、「自分はいじめられていない」とし、ひたすらいじめを受け続ける。いじめの内容もかなり陰惨な部類に入る。主人公はただただ自分の中の論理でいじめっこを観察し、自分の論理に逃避する。ただ一人、先生にいじめがあることを報告した水原里子という女子と心中することを計画しながら。重い。でもあの結末、主人公がいつか「死ねなかった」ではなく「死ななかった」と思える日が来るのだろうか。
    「図書準備室」は芥川賞第一作の「夜蜘蛛」にも通じるものがある、現代に第二次世界大戦はいかにして通用しているのかを描いた作品、と思う。田中慎弥さんはしっかり今の戦争を書く。

  • ◯図書準備室、冷たい水の羊ともに、まず表現の面でエンターテインメントを感じた。
    ◯図書準備室では、現在の語りと当時の行動のギャップに驚き、冷たい水の羊では、凄惨なイジメの描写に驚く。
    ◯しかし、その先に、それぞれの生きることに関する論理がある。あるのだが、なかなか読み解けず、その分心惹かれた。

  • 冷たい水の羊は10年かけただけあって表現や描写が細かかく描かれていると思った。内容が暗すぎるからか、ラストの水原からの伝言は今後少しでも希望を見出せる展開に繋がる言葉になって欲しいと思った。

  • 冷たい水の羊、図書準備室収録


    「図書準備室」は、小学校の時にいた得体の知れない先生、なんのためにあるのか分からんなんとか準備室みたいなものを題材にしているところは面白い。

    「冷たい水の羊」はいじめが題材なのか、ほかの影響もあるのかなかなか集中出来なかった。
    ストーリーもややわかりにくかった。もう一度改めて読みたい。

  • 【図書準備室】
    主人公がずっと喋っていくスタイルの文章。序盤のリズミカルな、小気味良い口調が読んでいて楽しかった。子供の頃、倒錯的な強迫観念を抱いた経験が多かれ少なかれ誰にでもあるのではないだろうか。大人になり世の中のことがわかってくるにつれ、それが無知ゆえの取るに足らない思い込みであることに気付く。しかし、大人になればまた別の強迫観念に縛られながら生きている自分がいる。人生が続く以上、この枠組みの外へは決して逃れられないのだと思った。

    【冷たい水の羊】
    自分がいじめられていると思わなければいじめは存在しない、という論理で真夫は自分を騙す。いじめを辛いと感じるような心理描写は全く出てこない、そんな真夫の強がりの論理は積まれ崩されを繰り返し先鋭化されていく。唯一の救いの可能性である水原里子の存在が真夫の積み上げた論理を揺るがす。二人で生きるという選択肢は選びようがなく、倒錯した心理は水原との心中を企てる。思えば誰もが真夫のように意識的に、または無意識的に自前の論理を拵えて生活しているのではないだろうか。その論理は自分を守るかも知れないし、殺すかもしれない。良くも悪くも自分の論理を崩してくれる存在が実は人生にとっては大切なのだ。

  • 図書準備室、冷たい水の羊、ともに集団リンチのシーンがあるが、どちらも描写がすごい。読んでいて身体のあちこちが縮むような心臓が圧迫されるような苦しさを覚えた。特に、冷たい水の羊の屋上でのシーンはあまりにも痛ましく、読んでいて貧血を起こしてしまった。
    二作とも、絶望に満ちている。ひねくれているとかいうレベルじゃない。澄みきった絶望感。

  • デビュー作と二作目/ エッセイの文章が綺麗で読みやすいから読んでみたが、これはものすごく挑戦的だ/ 図書準備室に至っては、延々独白で自分の歪みっぷりを幼女に聴かせているだけの話で、その読点を駆使して文章をつなぎ形容しまくる文体は、たとえば節が十もあるヌンチャクを紙面に並べているようで、また表現されている景色は妙に細かく、期待していたような読みやすさではなかったと言えなくもない/ 冷たい水の羊は高校卒業以来一度たりとも労働についたことのない青年が書いた最初の小説という側面を、どうあぶり出してくれるのかという意味で興味深い/ デビュー作からして途切れることのない長い接続の文章で心情ないし風景を文字列に変えている/ エンタメじゃないんならこんなものなのかと思う/ これが村上龍ならクラスメイトの少女を殺してしまうんだろう/ 作者本人がいじめられていたのかどうかは知らないが、その内面に同調できるものは多いはず/ さっと読まないと、何日もかけて読むようなことをすると気分が下がるね/

  • 2編とも主人公が気分悪い。きっと再読はなし

  • 田中慎弥「孤独論」つながり。「冷たい水の羊」のみ読了。「冷たい水の羊」が、孤独論で語られることの一端を小説で描いた、ということで手に取ったが、重苦しい気持ちに。いじめを受ける、中学生。いじめられてないと考えれば、いじめなど存在しないという論理、そうして目の前のことをやり過ごそうとするが、だんだんと共犯関係のような気もちが醸成され、最後のところへ向かおうとするところで、差し伸べられた手なのか、謎めいた伝言、そして、それでも続くことが示唆される…。ちょっと読後感が重すぎて、表題作の「図書準備室」に手が伸びず。

  • かなり独特で読みにくいが少し共感できる

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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