はい、泳げません (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.30
  • (22)
  • (47)
  • (75)
  • (22)
  • (8)
本棚登録 : 588
感想 : 87
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101335513

作品紹介・あらすじ

超がつく水嫌い。小学生の時にプールで溺れて救急車を呼ばれた。大人になっても、海・湖・川などたくさんの水を見るだけで足がすくむ。なのに、なぜか水泳教室に通う羽目に。悩みながら、愚痴りながら、「泳げる」と「泳げない」の間を漂った2年間。混乱に次ぐ混乱、抱腹絶倒の記録。史上初、"泳げない人"が書いた水泳読本。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 4年前読んだ「弱くても勝てます」がとても面白かったので、高橋秀実さんの本はいつも読みたいと思ってた。読みたい本メモには、4年前からこの「はい、泳げません」は入っていたのだけど、なかなか出会うこともなくズルズルと今に来てしまった。タイミングですよね、本との出会いって。


    超がつく水嫌いのヒデミネさん。大人になっても、海・湖・川などたくさんの水を見るだけで足がすくんでしまう。そんなヒデミネさんが、なぜか水泳教室に通う羽目になり……
    悩みながら、愚痴りながら、「泳げる」と「泳げない」の間を漂った2年間の記録である。

    今回も面白かった。
    頭のなかでごちゃごちゃ考えながら、水泳と向き合っていたヒデミネさん。本当に悪いんだけど、そのごちゃごちゃ考えてることに笑ってしまった。
    他にも、おもいっきりツボにハマってしまった場面は何ヵ所にものぼる。笑いがとまらずヒィーヒィー、お腹が痙攣するほどだった。

    ちらっとそんな場面を紹介。
    まず最初にフッと軽めの笑いが訪れたのは、このヒデミネさんと桂コーチの会話。

    「考えてるでしょう、水の中で」
    ──はい、すごく。
    「考えちゃダメですよ。何も考えないこと。泳ぐのは歩くのと同じです。歩く時、右、左と考えます?」
    ──考えません。
    「同じように無意識で、泳ぐんです」
    ──もっと、こう、リラックスすればいいんですね。
    「それはやめて下さい」
    桂コーチ、即答。
    ──なんで、ですか?
    「リラックスして、と言われてリラックスする人はいません。だから、リラックスしようとしないで下さい」
    考えない、そしてリラックスもしない。ではどうすればよいのか?
    「それも考えないことです」
    ──……。

    ふふふ、面白くないですか?
    もう一ヶ所だけ、わたしが最初にツボにハマって笑いがとまらなかった場面をちらっ、ちらっと。
    それは生徒の浅倉さんが、泳いでいるときの息苦しさの原因について気づいた場面。

    「えっ、息って吐くの?」
    息苦しさに悩む浅倉さんが、びっくりしたように言った。
    桂コーチともども全員が驚いた。彼女は息を吐かずに、ずっと泳いでいたのである。それも立たずに。息を呑み込んでいたのだろうか。
    「なんで吐かないんですか?」
    桂コーチがたずねると、浅倉さんが毅然と答えた。
    「だって、もったいないでしょ。せっかく吸ったんだから」

    そうなのだ。
    このノンフィクションは、ヒデミネさんが考えちゃダメなのに頭でごちゃごちゃ考えてしまうことや、桂コーチとのやりとりの他に、生徒さんたちの言動がピカリと光ってるのだ。
    たぶん、私よりも若干年齢層が高いと思われる女性陣たちは、呼吸の仕方や水中での姿勢の保ち型など、独自の解釈の仕方で実践している。
    だからヒデミネさんへのアドバイスも個性的。
    彼女たちは、ヒデミネさんのようにごちゃごちゃ考えてはいない。
    桂コーチの「進化」する指導法にも、聞いているふりをして、自分にとって有益な部分だけをうまい具合に取り入れているのではないかと、わたしは密かに睨んでいる 笑
    つまり柔軟性と発想力、自分で考える力があるのだ……あ、いや、そんな大層な言い方じゃなくて、彼女たちが創意工夫しながら日常生活を送るなかで培ってきたワザ?みたいなものが、水泳にも活きてるのだ、とわたしは思ってる。
    そう、家族や近所・親戚付き合い、育児に介護、仕事、家事などなど、自分なりのやり方を見つけないと大変なのだよ 笑
    だからなのだろう、ときには桂コーチの指導法より、あ、そっかと思うときも。
    人生の先輩方の言葉がヒデミネさんにとってはピンとこなくても、わたしにはよく分かるのだ。
     
    さて、ヒデミネさんは泳げるようになったのだろうか。その先にきれいな泳ぎ方を身につけることができたのだろうか。
    笑って笑って最後は何だか感動するノンフィクション。大満足の一冊。

  • エッセイに分類するか、ルポに分類するか悩みました。
    高橋秀実さん、「道徳教室」と「からくり民主主義」が超絶面白かったので、他の代表作を検索してこれを読んでみました。私も泳げなかった人なので。
    まず、著者がいかに泳げなかったかがよくわかり、笑える。著者らしく、泳げないことを屁理屈こねまくる。それに対してコーチも屁理屈こねまくって教える。あーでもない、こーでもない、と。
    泳げない人が泳げるようになるまでを、屁理屈と哲学で描いたエッセイです。私自身、大人になるまで泳げなかったのに、あるきっかけで泳げるようになったので、興味深く読めました。「泳げない」と「泳げる」の間にはすごく深い溝がある。「泳げる」に到達することによって、人生観すら変わる。ちょっと屁理屈がしつこすぎるけど、そこは高橋秀実さんなので(笑)。

  • 映画化とあったので、てっきり小説だと思っていたらルポ。水泳を科学的かつ哲学的に分析されていて、もっと早くに出会いたかった。私は中学で水泳部に入り、泳ぎに自信がつきました。が、就職して海に行ったときに溺れかけました。テトラポット近くで渦のようにその場から脱出できなくなったのです。数メートル先には人が立っているのに、自分の場所はわずかに足が届かず、立とうとしたため少し岸から引き離される。焦りました。浮こうとして沈む感覚。これが溺れるということか。以後、テトラポット近くを泳がないようにしていました。しかし、あるとき、離岸流を経験。岸と並行に泳ぐことを意識し脱れることができましたが、体力消耗が激しかったことを覚えています。以来海で泳ぐことを避けています。水が怖いということわかります。その後、プールで子どもに泳ぎを教えることがありましたが、なかなか難しい。結局泳がせることが出来なかった。桂コーチは教える人の泳ぎを真似て泳ぎ、無理をしている部分を見つけて楽にする方法を見つける。私は泳げない原点を見ていませんでした。そういう意味で早くに出会いたかった本です。

  • 映画化されてたから小説だと思い込んで読んだのですがまさかのエッセイでした。
    この作者の思考回路や言い回しが面白すぎて
    列車で笑いを堪えるほどでした、、、。
    頭の中を見てみたいと思ってしまいました。
    最近小説ばかりですが他にも読んでみたいと思いました。
    泳ぎに対してこんなにも真摯に向き合う作者最高です。そして、理学療法的なアプローチを思わせるこんな個性的なコーチに習ってみたい、そんなふうに思わせる素敵なエッセイでした。

  • 久しぶりに文字を読んで笑った。自分が小中学生時代の、プールの授業を思い出した。とても懐かしい気持ちになった。
    泳ぎ方の説明が、「運動学」的な言いまわしになっているため、少しイメージしづらい所もあった。でも、わかるところは、思わず自分の体をクネクネ動かしながら読み進めた(笑)
    桂コーチからのアドバイスで、「水泳は上手いか下手かではなく、綺麗か醜いか」という言葉が印象に残っている。部分部分の綺麗さよりも、全体的な綺麗さ。何事も、上手さではなく、「美しいか」という視点でやることが大切だと思った。
    自分はギターを弾くが、上手さより「綺麗さ」を追及していきたい。

  • 泳げない人はこんな事を考えていたのかと驚きつつ、所々吹き出してしまった。いやあ面白かった。映画も観ようっと。

  • 映画が面白そうかな、と思ったのだけど、これは、、、。作者の頭の中を延々見せられて、なかなか進まなかった。

  • コロナ禍でマスクしてると電車内の読書での笑いはそこそこ隠れて助かる事を確認出来た程笑った。
    著者が中学時代に水泳大会リレーのアンカーに決まってしまった際、俺泳げないからと断っても、俺も私も泳げないから、との謙遜と一緒くたにかき消されそのまま本番を迎えてしまい、なんと歩ききった、とか、水泳教室でのコーチや中高年女性との気の抜けた遣り取り等から感じられる著者の人間性、はたから見ると、おいおい、だけどなんか許せてしまう人、そんなムードに溢れて楽しく読みました。
    水中から見(てしまっ)た水面の鏡の様な状態、あれは水自身の纏まろうとする特徴、表面張力に因るものとの説明は今迄意識した事なかった為新鮮でした。

  • 泳げない著者が、なぜ水が怖いのか?から始まり、紆余曲折をしながら、スイミングのコースに通い、泳げるようになるまでのエッセイ。

    コーチが色々と考えて「こうしてみましょう」と指示を出すが、混乱してしまい途中で立ち止まってしまう。
    自分も、著者が言うことろの「泳げる人」なので疑問に感じた事はなかったが、進行方向の話や、目線の話などは、なるほど確かにいきなりやってみましょうでは混乱するかも・・・と思った。

    成毛真さんが、電車では読めないほど抱腹絶倒と書いていたが、自分は泳げない人が泳ぐ過程で湧き出る疑問をなるほど、こう考えているのか。と思って読んでいたので、笑い所をほぼすべてスルーしてしまったようだ。

  • 【概略】
     「泳ぐ」などというレベルではなく、とにかく「水」が嫌いな筆者、夏になるとプールの授業が本当に嫌で、あらゆる手段を用いて授業から逃げていた。そんな筆者が大人になってから水泳教室に通うことに。「泳げない」から「泳げる」へ。そこには「泳ぐ」以上の何かがあった。

    2024年01月08日 読了
     九州遠征の最中に手に取った一冊。有隣堂書店の YouTube で紹介されていたものをリストに入れてあったのだよね。
     人情噺を聴いているような感じだったよ。前半は抱腹絶倒、後半はどことなく哲学的な風味、なんとも爽やかな読了感。
     主に飛行機の中で読んでいたのだけど、前半は声を上げて笑ってしまった。ワードチョイスが落語みたいなんだよね。「水というより、人の視線の中を泳いでいる気がした」なんてくだり、秀逸至極。また「泳ぐ」ことに対しての理屈のこね方がなんともいえない。人は嫌なもののためには、かくも細やかな言及ができるのかと感心したよ。
     そして後半、「泳ぐ」に向けてまさしくもがく展開なのだけど、これがまた深い。一般的な水泳のレッスンは、顔を水につける、とか壁に手をあてて足をバシャバシャさせるとか、そういったものを連想するかと思うし、筆者もそういったものを想定して臨んでいた。しかしながら師事した方・桂コーチの考え方はもっともっと俯瞰した感じ、身体の機能のところを意識した内容になってるのだよね。たまたま「水泳」というテーマになっているけれども、どちらかというと「武術」「武道」を感じさせるような、そんな内容なのだよね。これは桂コーチが、幼少からガチの水泳トレーニングを受けて創り上げられたスイマーという立場から、交通事故によって身体が動けなくなるという立場に変わり、そこから「身体を動かす」ということが当たり前ではなくなったところから意識して「身体を動かす」ことを習得したことに由来していると思う。実に興味深い。
     技術的な観点からも目から鱗だったなぁ。自分も日常生活の中に「泳ぐ」という事柄が入っていて。・・・といっても毎日泳いでる訳ではない。水中で歩く・泳ぐを休みながら1キロ分、こなすというもの。ラストは潜水25メートルを2セットやって終了というものなのだけど、本を読みながら早速プールで試したくなったし、桂コーチのレッスンを受けてみたいと思ってしまったからね。
     また面白いなぁと思ったのが、教える側と教わる側の言葉のすれ違い。よく教わる側は「もっと具体的に」なんて言うじゃない?たとえば「ちょっとだけ顔をあげて」の「ちょっと」はいくばくなものか?3センチなのか5センチなのか?嫌なものを習得しようとする時、人はとにかくやらなくてよい理由を探すもの、今回も筆者はとにかくこの「ちょっと」がわからないという。これはまぁ、無理もない。そしてこうも言う、「コーチは毎回、言っていることに矛盾がある。昨日は〇〇だと言ったのに今日は△△だと、昨日の話と矛盾する言い方をする」というもの。ところがコーチはコーチで考えがある。コーチ曰く「人の身体は一つとして同じものはない。色々な言い方をすることでカチッとはまることがある」という。そして筆者は「泳げる」という状態を理解することで、全てのコーチの言葉を理解するという。物事は落ち着くまでに時間がかかるのだよね。
     本書全体で桂コーチが発言している身体の動き、これは介護であったり、年配の方達が運動機能を落とさないようにするために凄く重要な気がした。どうしても年配の方達に手厚く、寄り添う介護がされがちであるが、実は自身の身体で動くということは、大事なのではないかと思ってしまう。
     問題は・・・心を鬼にしてそれを年配の方達に強いることができるか?自分の両親の将来を考えながら読み進めたよ。

全87件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高橋秀実の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×