- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101335513
感想・レビュー・書評
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4年前読んだ「弱くても勝てます」がとても面白かったので、高橋秀実さんの本はいつも読みたいと思ってた。読みたい本メモには、4年前からこの「はい、泳げません」は入っていたのだけど、なかなか出会うこともなくズルズルと今に来てしまった。タイミングですよね、本との出会いって。
超がつく水嫌いのヒデミネさん。大人になっても、海・湖・川などたくさんの水を見るだけで足がすくんでしまう。そんなヒデミネさんが、なぜか水泳教室に通う羽目になり……
悩みながら、愚痴りながら、「泳げる」と「泳げない」の間を漂った2年間の記録である。
今回も面白かった。
頭のなかでごちゃごちゃ考えながら、水泳と向き合っていたヒデミネさん。本当に悪いんだけど、そのごちゃごちゃ考えてることに笑ってしまった。
他にも、おもいっきりツボにハマってしまった場面は何ヵ所にものぼる。笑いがとまらずヒィーヒィー、お腹が痙攣するほどだった。
ちらっとそんな場面を紹介。
まず最初にフッと軽めの笑いが訪れたのは、このヒデミネさんと桂コーチの会話。
「考えてるでしょう、水の中で」
──はい、すごく。
「考えちゃダメですよ。何も考えないこと。泳ぐのは歩くのと同じです。歩く時、右、左と考えます?」
──考えません。
「同じように無意識で、泳ぐんです」
──もっと、こう、リラックスすればいいんですね。
「それはやめて下さい」
桂コーチ、即答。
──なんで、ですか?
「リラックスして、と言われてリラックスする人はいません。だから、リラックスしようとしないで下さい」
考えない、そしてリラックスもしない。ではどうすればよいのか?
「それも考えないことです」
──……。
ふふふ、面白くないですか?
もう一ヶ所だけ、わたしが最初にツボにハマって笑いがとまらなかった場面をちらっ、ちらっと。
それは生徒の浅倉さんが、泳いでいるときの息苦しさの原因について気づいた場面。
「えっ、息って吐くの?」
息苦しさに悩む浅倉さんが、びっくりしたように言った。
桂コーチともども全員が驚いた。彼女は息を吐かずに、ずっと泳いでいたのである。それも立たずに。息を呑み込んでいたのだろうか。
「なんで吐かないんですか?」
桂コーチがたずねると、浅倉さんが毅然と答えた。
「だって、もったいないでしょ。せっかく吸ったんだから」
そうなのだ。
このノンフィクションは、ヒデミネさんが考えちゃダメなのに頭でごちゃごちゃ考えてしまうことや、桂コーチとのやりとりの他に、生徒さんたちの言動がピカリと光ってるのだ。
たぶん、私よりも若干年齢層が高いと思われる女性陣たちは、呼吸の仕方や水中での姿勢の保ち型など、独自の解釈の仕方で実践している。
だからヒデミネさんへのアドバイスも個性的。
彼女たちは、ヒデミネさんのようにごちゃごちゃ考えてはいない。
桂コーチの「進化」する指導法にも、聞いているふりをして、自分にとって有益な部分だけをうまい具合に取り入れているのではないかと、わたしは密かに睨んでいる 笑
つまり柔軟性と発想力、自分で考える力があるのだ……あ、いや、そんな大層な言い方じゃなくて、彼女たちが創意工夫しながら日常生活を送るなかで培ってきたワザ?みたいなものが、水泳にも活きてるのだ、とわたしは思ってる。
そう、家族や近所・親戚付き合い、育児に介護、仕事、家事などなど、自分なりのやり方を見つけないと大変なのだよ 笑
だからなのだろう、ときには桂コーチの指導法より、あ、そっかと思うときも。
人生の先輩方の言葉がヒデミネさんにとってはピンとこなくても、わたしにはよく分かるのだ。
さて、ヒデミネさんは泳げるようになったのだろうか。その先にきれいな泳ぎ方を身につけることができたのだろうか。
笑って笑って最後は何だか感動するノンフィクション。大満足の一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
久しぶりに文字を読んで笑った。自分が小中学生時代の、プールの授業を思い出した。とても懐かしい気持ちになった。
泳ぎ方の説明が、「運動学」的な言いまわしになっているため、少しイメージしづらい所もあった。でも、わかるところは、思わず自分の体をクネクネ動かしながら読み進めた(笑)
桂コーチからのアドバイスで、「水泳は上手いか下手かではなく、綺麗か醜いか」という言葉が印象に残っている。部分部分の綺麗さよりも、全体的な綺麗さ。何事も、上手さではなく、「美しいか」という視点でやることが大切だと思った。
自分はギターを弾くが、上手さより「綺麗さ」を追及していきたい。 -
泳げない人はこんな事を考えていたのかと驚きつつ、所々吹き出してしまった。いやあ面白かった。映画も観ようっと。
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綾瀬はるかさんと長谷川博己さんが主演で映画化されているようで、表紙が2人の写真でした。作中の登場人物と2人のイメージがぴったり重なり、読んでて楽しかったです。ノンフィクションは初めて読みましたが、作者の泳ぐごとに対しての感情の波がとても面白くクスッと笑えました。なんだか泳ぎたくなってくる、一冊です。
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映画を見る前に原作をと思い読んだが、とても面白かった。自分も水泳は得意ではなく、ブールで優雅に泳いでみたいと憧れているが、この本を読むと案外できるのではないかと思ってしまう。桂コーチのアドバイスに納得し、是非これを試してみたいとも思った。ただこれがどこように映画化されたのか想像できす、まずは映画を観に行くつもり。その後、ブールに行ってみたい。きれいに泳げるようになれば、人生が変わるのではないかという淡い期待を持っている。
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書店で帯に映画化の文字があったため手に取った。
どうやらカナヅチの人の水泳の話らしい。
私自身は泳げる人側で、コロナ前は月に一度くらいのペースでプールに行き、ゆっくりクロールで1キロ泳いでいた。泳ぐことは好きで四泳法マスターした。
泳げる立場の読み手からすると、
この本を読みながら泳ぐイメージができて楽しかった。そうそう、腕は横にだよね、とか。
なぜ泳げないのか言葉にしてもらえてわかりやすかった。
コロナ中でもイメージトレーニングで泳げて楽しい。
泳げない人には同意できる本。
泳げる人には水泳の楽しさを言葉にしてもらえる本。
本自体ページ数が少ないので、サラッと1日で読めてしまいます。これから夏が来るし、オススメ。 -
スイミングスクールに通う泳げない著者によるエッセイ。
といってしまえばそれまでなのだが、この人、変である。
スクールに通う前、プールに行くが泳げないので立ち止まっている。そして普通に泳いでいる人がその著者を抜かす。
そこで「人を抜くなら『お先に』の一言くらいあるべきだ」などと言い出す(直接その場でその人に言った訳ではない。地の文だ)。
スクールで言われたことを泳ぎながら理解できて嬉しくなると、嬉しさを噛み締めるために立ち止まる。
そして「立たない!」と叱られる。
スクール仲間との雑談で、泳ぎ方よりも精神面に問題があると考える。
何故わざわざ疲れることをしなければなどと思っているときに出会った人が、水泳で疲れては城壁を登れないから駄目だなどと言ってくる。
そして日本泳法の教室に通ってみる。
他にも余計なことを考え出し、よく分からないことを考え、立ち止まる。
こんなにも余計なことをごちゃごちゃと捏ねくり回しながら泳ぐことを考える人がいるというのが面白いが、これは面白いことを書こうとして出てくるおかしみではなく、真剣さから出てくるおかしみである。
それをこう文字に起こせるというのは中々どうして能力だな。 -
これでも一応、3歳から小学校卒業までの10年間弱スイミングスクールに通っていた僕は、「泳げない」という感覚が全く分からない側として読みました。
はっきり言って、泳ぐときにこんなに何かを考えちゃいません。何をこんなに考えを巡らしているんだろう、なんてことを読みつつ何度も思いました。
だからこその発見があったり、新鮮味があったり。何よりもやっぱり高橋秀実さんの文章・考え方が大好物です。
久しぶりに市民プールに行きたいな、と。 -
ベストキッドの水泳版って感じでおもしろかった。生徒はおじさんだけど。こんな真摯な師匠に習えるのがうらやましい。
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私ちょうどこの秋から
「泳げるようになる計画」を立ててたから、
あまりにジャストタイミングで完璧にタイトル買い!
帯には
「超ド級のカナヅチが、水泳教室で大苦戦。
今年の夏の一大決心。
抱腹絶倒!!大人のチャレンジ記録」
と書いてありました(笑)
あまりにこの著者は極端だけど、
泳げない私には気持ちが痛い程わかる!!
・・・ここまで泳げないくないけど(;^_^A
こんなに「泳げない人目線」で水泳を語るなんてない!!
How to本として、これは新しいんじゃ?? -
単に泳ぐことで、これだけいろいろないいわけを考え、あまつさえ本にしてしまう人を初めて知った。無料配布の雑誌R25で、痛快なエッセイを書く筆者なればこそ…とは思うのだが。いずれにせよ、泳げる自分には書けない本だなぁと思う。逆に、新しいことを知ったり、技術を身につけることは、常に新しい発見に満ちているのだとも思う。
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めちゃくちゃ面白かった。<br />自分も全然泳げないが、水が怖い人はここまで水を恐れるのか、と勉強になった。<br />泳ぎたくないために、1つ教わることに10以上の考えをごちゃごちゃとめぐらす筆者はすごくてひどい。<br />泳ぎを教わっていながら、いちいち哲学的な話にすりかえていく手法は見事で、思索的な筆者の特質があらわれている。<br /><br /><br />☆メモ<br />・競泳と違い、普通の水泳は速さを競うものではなく、美しさを競うものらしい。<br />・人間は水棲のサル♀から進化したという説がある。それによれば、常時身重か子育てを強いられ荷重に耐えかねたメスザルが海に入り、海中では体毛が必要ないために毛が減ったとしているらしい。けどそれならラッコの体毛の説明がつかないよなー。<br />・泳ぐ時は通常の歩行と違い、頭の方向へ進む。つまり昇っていくわけで、死と近い、というへりくつ。<br />・「日常的に使う『わかりました』という表現は『理解した』ということではなく、『もう勘弁してください』という意味なのです。」言いえて妙。<br />・水恐怖症の人々には、水中から見る水面の鏡面のような美が畏怖の対象らしい。
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抱腹絶倒です(≧∇≦)
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泳げない小説家が泳ごうと思って奮闘する話です。できる人にはできない人の気持ちがわからないものですが、コーチや一緒に通っているスクールの人に理解されない様がとてもリアルです。ちょっと理屈っぽいおじさんの嘆きがとても面白いです。
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泳ぐどころかそもそも水が怖い…という人の気持ちを代弁してくれるような前半。
でも泳げないほど、泳ぐ事への憧れが募る気持ちもよくわかる。
努力を重ねて"泳げる人"になるまでの過程に笑わせてもらいました。 -
私もカナヅチ。家の前がすぐ海という環境で育ったのに海が怖い。足がつかないのが怖い。
ずっとコンプレックスだったが1年前からスイミングスクールに通い始めた。ので、とても共感して読めた。 -
爆笑です。
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日経BPオンラインの書評より。自分を見つめる視線が的確&珍妙、水の中の描写もフンフンと思わせる。あと、ちょっと、こんなコーチに教わってみたい。
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レビュー省略
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【本の内容】
超がつく水嫌い。
小学生の時にプールで溺れて救急車を呼ばれた。
大人になっても、海・湖・川などたくさんの水を見るだけで足がすくむ。
なのに、なぜか水泳教室に通う羽目に。
悩みながら、愚痴りながら、「泳げる」と「泳げない」の間を漂った2年間。
混乱に次ぐ混乱、抱腹絶倒の記録。
史上初、“泳げない人”が書いた水泳読本。
[ 目次 ]
1 水がこわくて仕方がない
2 浮いてくる私
3 水中で深呼吸
4 泳いではいけない
5 私ってきれい?
6 何のために泳ぐのか?
7 見てはならぬもの
8 愛の海
[ POP ]
「彼女にも一緒に海に潜って、自分が感じた喜びや驚きを感じて欲しい。」と語ったダイバーがいた。
しかし人間、愛情と同じくらい大事なものがある。
自分の命だ。
だから、命を脅かす恐怖からは、できるだけ離れていたいのは当然である。
なのに、著者は「今までずっと避けてきたからこそ生きてこれた」水に立ち向かう。
本書の第一章は、著者が決心するまでの経緯、次の章からは水泳教室での日々がユーモラスに綴られる。
本書が「泳げない人」「泳ぎたくない人」の視点で書かれている点が、教本として良い。
なぜならば、「呼吸しようと考えないで」「泳ごうとしないで」など、「泳げる人」なら聞き流せる内容でも、その逆の立場から見れば、全てが疑問になる。
その疑問を著者が咀嚼して文章化するので、非常にわかりやすいのだ。
ちなみに、「泳げる人」の視点は、各章の最後に「桂コーチのつぶやき」として載っている。
ある人には「当たり前」が、実はそれ以外の人にとっては「ヘンな事」になる。
そんな「個々の違いを認め合う意義」なんて、全然謳いあげてもいない事をそこはかとなく感じさせる所も、本書の忘れがたい味である。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
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