やせれば美人 (新潮文庫 た 86-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101335520

作品紹介・あらすじ

妻が倒れた。心臓がバクバクするという。158センチ80キロ、この10年で30キロ増量、明らかに太りすぎ。ダイエットするわ、私。子供も産みたいし-病院の待合室で妻はしんみり呟いた。しかし運動は大の苦手、汗をかくのは美しくない、目が覚めたらやせていたというのが理想とのたまう。夫は、ダイエットの道を探り始めた。不可解な女性心理に寄り添った抱腹絶倒の3年間。

感想・レビュー・書評

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  • 「妻はデブである。」
    と著者の失礼千万な言葉からはじまる。
    だけどそこはノンフィクション作家・高橋秀実である。
    今まで読んだ秀実さんのノンフィクション同様、文章にはユーモアと愛情が散りばめられていて、奥さまと探るダイエット道は笑いと発見の連続であった。

    「かつて彼女は当時のアイドル歌手、小泉今日子に似ていた。怒っても笑っても、その表情が顔からこぼれるキュートな顔立ちだったのだが、今はまわりに余白が増えたせいで、表情が小さい。かつての顔が今の真ん中あたりに埋もれており、遠くから見ると、怒っているのか笑っているのか、わからないほどである。」
    ああ、そうなのよ。まさにわたしもそんなふう。ほっぺのお肉をギュッと持ち上げ、ついでに瞼もグイッと引き上げる。ほんとうの私は、このお肉に隠れてるのよ~ 笑

    「やせれば美人。」
    タイトルにもなったこの言葉は、秀実さんの奥さまの口癖である。
    同時にわたしの口癖でもあった(過去形である。今はもう美人<健康。やせたいのは健康のためである)
    さてこの「やせれば美人」の解釈としては、太っていることでカモフラージュされているが、実は美人ということであるということだろう。
    わたしはかつて自虐や言い訳として数えきれないほど使っていた。しかし、秀実さんはそんな表面的な意味としてではなく、その言葉に隠された不可解な女性心理へとたどり着く。
    それは、わたしも気づくことのなかった女性の深層心理であった。

    〈あからさまな美人は現状維持に気を揉むが、「やせれば美人」はどんなに太っても維持できる。
    むしろ太っていないと維持できない。〉

    ひゃあ、なるほど!目から鱗である。
    そこには言い訳なんて後ろめたい感情は一切ない。
    奥さまはとっくに気がついておられたのだろう。
    「彼女は誰と会ってもひるむことなく、前髪を上げ、顔の中心部を相手に見せつけ「どうだ、やせれば美人でしょ」と言わんばかり威風堂々としていた。」
    これはダンナさまである秀実さんだからこそ描ける奥さまのお姿だ。
    まさに向かうところ敵なしである。

    そんな奥さまがある日体調を崩す。
    〈妻が倒れた。心臓がバクバクするという。158センチ80キロ、この10年間で30キロ増量、明らかに太りすぎ。ダイエットするわ、私。子供も産みたいし──病院の待合室で妻はしんみり呟いた。〉
    そこで秀実さんは、ダイエットの道を探り始める。コツコツとダイエットに関する知識を増やし、論理的に突き詰めていこうとするのだけど、女性側の心理からズバっと論破しちゃうのが奥さま。
    「私は汗をかきたくないのよ」
    「努力には“美”がない」
    「そう。やせてブスだったら、救いようがない」
    「憧れる。でも、そうなりたいとは思わない。なれないからこそ憧れるのよ。だいたい私が憧れていたのは(カトリーヌ・)ドヌーヴだから」
    「太っていても美しければ、それでいい」
    「太ることより、シワがいやなのよ。シワになるくらいなら、太っていたほうがいい。内側からシワを伸ばす。それでモチモチ、ツルツルお肌を維持する」
    ……奥さまに軍配はあがる。
    数々の赤裸々な言葉。それが奥さまの魅力でもあって、もうこのままの奥さまでいいじゃないのと思ってしまうのは、「やせれば美人」の同志だからかしら。

    ダイエットを決意してから3年後。
    奥さまはダイエットに成功したのか。
    ふふふ、本当に可愛らしい奥さまである。
    そして、なんやかんや呟きながら、そんな奥さまが大好きな秀実さんである。
    結論は、仲の良いご夫婦である……ってことでいいんじゃないでしょうか 笑

  • 男性が女性のダイエットを描くと、どうしても「ばっかでーww」みたいな雰囲気になりそうなんですが、そこはさすが高橋秀実さん。女性の‘ダイエット文化’に疑問を呈しつつ、ユーモアをふんだんにまぶして、バランス感覚の良い楽しい読み物となっています。
    主役である‘妻’の濃いキャラクターが良いし、その妻への高橋さんの愛がビシバシ伝わってきて、ちょっとこそばゆい感じもします。
    でもダイエットの促進力にはならない本ですね。

  • 体型に悩んでいたときに読んだが、悩みを吹き飛ばしてくれるほどに面白かった。なんて素敵な夫婦。
    夫婦の会話に、男性と女性の、物事の見方の違い(解決思考と共感重視)が浮き彫りになる。
    ダイエットのみならず、夫婦関係の折り合いの付け方も学べるエッセイ。

  • 読む前には自分の本棚の「ダイエット・美容」のカテゴリーに入れていたけれど、読み終わってから変更した。
    ダイエット本ではなくて、夫婦愛の本だったから。毎日のようにマッサージしてくれる旦那様(著者)なんて羨ましい。嫌味ではなく「ご馳走様」。

  • 「キミよ、そのままで行け。」

    抱腹絶倒、妻と夫のダイエット奮戦記。
    身長158センチ体重が80キロに届くというこの奥さん、
    ご主人の必死のお勧めにもかかわらず、ああ言えばこう言うで
    一向に真剣にやせようという気持ちが起こらない。

    「やせれば美人」という根拠の無い確信を以ってあくまで強気、
    時には愛あればこそ恐る恐るながらも様々なダイエットを提案するご主人に攻撃的でさえある。
    それにもかかわらずこの奥さん、同性から見てもかわいい。

    女の目は辛い。
    よっぽどのことがなければ同性を心底かわいいとは思わない。
    それは女のかわいさはしばしば狙って演出されるものであることを知っているから。
    それは少しでも優秀なオスをモノにするための
    メスの生まれながらの習性というのはよく知られるところだが。

    その点この奥さんには狙ったところがない。
    しかも相手はご主人だから言ってることは額面通りの本音。
    その妙な説得力と自信に溢れたものいいには、掛け値がない。
    そのみもふたも無さが小気味良い共感を呼ぶ。
    彼女をしてかわいいと思わせる。
    まさに確信犯なのだ。

    「私は汗をかきたくないのよ」
     
    「それに、どうすればやせるかなんて、わかってる」

    「大切なのは見た目でしょう。号数なんてどうでもいいのよ。美しく見えれば」

    この自信はどこから来るのか。
    間あいだにご主人である著者の弱々なツッコミが入り、
    名言を名言たらしめている。究極はやはり


    「努力には〝美〟がない」

    ただ、これがまた微妙なところなのだが
    この共感は彼女がその体型で言えばこそということもまた真なり。
    同じことをスラリとした美人が言うのではしゃれにもならない。
    女の総スカンをくらうことは間違いない。

    デブでも良い。
    女の共感は得がたい宝。
    キミよ、そのままで行け。

  • 時々笑いをこらえながら読みました。男の人の目線で、女性のとりくむダイエットを分析すると、こうも面白おかしくなるんだなと思いました。ダイエットに成功するかどうか、最後までわからないので、ハラハラしながら一気に読みました。痩せたい人も、そうでない人も、おすすめです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「こうも面白おかしくなるんだ」
      ふ~ん、、、それは、する必要がなさそうな人も、ダイエットと称されるコトをしているから?
      (男もダイエットと言...
      「こうも面白おかしくなるんだ」
      ふ~ん、、、それは、する必要がなさそうな人も、ダイエットと称されるコトをしているから?
      (男もダイエットと言うより、身体を動かした方が良さそうな人が多勢居ると思うけど、そう言う人は、どう思っているんだろう?)
      2013/07/04
  • なんか痩せようと思わなくていい気がしてくるそんな本。 昭和39年生まれの「妻」の話なので、エピソードにジェネレーションギャップがある。同世代だったらもっと楽しめたと思う。

  • 痩せる事を目指す奥さんの為に献身的に尽くし協力しながらも彼女の言動に翻弄され続ける著者の姿、受け止め方、解釈の仕方が笑える。
    ダイエット関連商品共通の訴求方法(皆たまたま出会ってやってみたら痩せてた…)の発見とか、ダイエット方法は次から次へと色々な手法が出て来るのはそれ自体が女性に夢を与えるものだから必然とか言う販売会社幹部女性の話等、楽しく読んだ。

  • デブで怠惰なの奥さんのダイエットをサポートし続けた著者が、女性のダイエット信仰を面白おかしくルポしたエッセー。

    著者は、奥さんに敬語使ってるのは何でだろう? 奥さんはタメ口なのに。

  • なんだか微妙だなぁ…70点くらいのネタだなぁ…時折面白いんだけど…期待値が高すぎた。

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著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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