からくり民主主義 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101335544

感想・レビュー・書評

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  • 第1章社団法人「小さい親切」運動本部による美談の全国大会「小さな親切ハガキキャンペーン」に寄せられる「心がじーんと熱くなる忘れられない親切の思い出」の内容に感じる薄ら寒さ。第2章統一教会の国際合同祝福結婚式での参加者の声、第3章世界遺産白川郷で生活する人々の声(合掌造りは不衛生で不便で止めてしまいたいのが本音)、第4章諫早湾干拓問題の実態(デモの漁民の「ホントはやりたくなか」発言)、第5章オウムの上九一色村の「戦争で一回死んで」て「口だけ勇ましい」と奥さん達に評される酪農開拓古老達のマスコミの騒ぎぶりに反したシラケぶり、第6章沖縄米軍基地問題の住民の本音(自分の土地がフェンスの中なら借地料が貰える、つまり「このままでないと困る」)、第7章若狭湾原発銀座住民、第8章横山ノック知事セクハラ事件、第9章青木ヶ原樹海地元住民は首吊りの事をぶら下がりと呼び、余りにも日常化している為神妙に振る舞う対象ではない(「この前も裏で5つ見つけちゃいました」、とぷっと吹き出す住民)、第10章車椅子バスケ。
    しっかり取材、調査された上での分析、評価も表されてますが、著者の緩いパーソナリティと、騒ぎの後遅れて取材に来た為マスコミに話足りなかった住民達の思いが相まって「実は」という本音の話を上手く引き出せていて、そっちの方が主になってます。いずれもマスコミで報じられた表の姿とは違う“実はこんなもん”という裏の一面、庶民の実相が上手く引き出されていて非常に面白い。ま、世の中こんなもんですわね。

  • 考えさせられる内容です。親本は2002年出版、各章の初出は1995年から2002年と古い本ですが、古さは問題になりません。

    序章 国民の声――クレームの愉しみ
    第1章 親切部隊――小さな親切運動
    第2章 自分で考える人びと――統一教会とマインドコントロール
    第3章 忘れがたきふるさと――世界遺産観光
    第4章 みんなのエコロジー――諫早湾干拓問題
    第5章 ガリバーの王国――上九一色村オウム反対運動
    第6章 反対の賛成なのだ――沖縄米軍基地問題
    第7章 危険な日常――若狭湾原発銀座
    第8章 アホの効用――横山ノック知事セクハラ事件
    第9章 ぶら下がり天国――富士山青木ヶ原樹海探訪
    第10章 平等なゲーム――車椅子バスケットボール
    終章 からくり民主主義――あとがきに代えて
    参考・引用文献
    解説 村上春樹

  • 困った困った。。。

    10年前の出版。統一教会やオウムなど時代を感じさせる問題の中に未解決の沖縄米軍基地問題が。テレビでは全く説明されていない軍用地の借地料をめぐる住民同士の対立や、マスコミ向けの反対運動などは村上春樹の解説にもある通り、弱ってしまう。何とかならないものか。若狭湾原発銀座問題もそうだがとてもよく調査してある。困った困った。。。

  • TVや新聞はあらかじめ作られたシナリオに沿って番組や記事を作る。
    起こってしまったことを調べる警察署よりは、悪をただすという目的意識を持って悪を探し求める検察に似ている。より強く正義感をドライビングフォースにしているだけにたちが悪い。
    いまどきマスコミを信じている人も少ないとは思うが、高橋秀美氏の本著には、マスコミや中央の政治家が、説明の難しいもの、シナリオに沿わないものをひたすら無視する様子が書かれている。

    著者の「弱くても勝てます」はひたすら開成高校の選手と監督へのインタビューが中心で軽妙な印象だった。この本でもその親切でわかりやすく親しみの持てる語り口はそのままだが、取り上げたテーマについては、実に良く勉強して臨んでいる事がわかった。ありとあらゆることを調べても、そこから無理に結論を導こうとしないところがこの著者の良いところであり、読者に好かれる所以だろう。

    沖縄米軍基地問題、若狭湾原発銀座、諫早湾干拓問題について述べた三つの章は、マスコミの報じる被害者と加害者の単純な構図がまったくのでたらめであることがはっきり書かれている。そして、国、自治体、地元住民各者各様の本音、地元住民間の微妙な対立関係などが色づけなしに紹介されている。原発賛成派や推進派にとって反対派は補助金や補償金のつり上げのために必要不可欠のもので、その功績によってとても感謝されている事や、当の反対活動家自体が自らの役割をそのように意識している事など、都合、事情、本音のオンパレードに、大人は「やっぱりそうだよなあ」と頷かざるを得ない。
    著者によれば小さな親切運動の達人曰く、「人に席を譲るためにはまず自分が座ること」なんだそうだし、富士の樹海で自殺者の死体を発見する事は、住民にとってはただただ煩わしいだけのものなんだそうである。

    普通の人は誰もがそれぞれの人たちの本音に理解をしめすことだろう。視聴者や読者はほとんどが賢い大人と言って良いから。
    しかし残念ながら普段私達は、マスコミや政治家にはすっかり舐められてしまっているのだ。タイトルの「からくり民主主義」というのは私達の社会がそういう都合、事情、本音を持った人々の集まりになっていて、マスコミや政治家、社会活動家がすぐ「みんな」をねつ造してありもしない現象をあるかのように伝える背後に、全然別のからくりがあることを表そうとしている。

  • 民主主義。「みんな」ってなんだ?どの章もおもしろおかしいだけではなく、きっちりとした取材に裏付けられた情報があるので、お得感満載。
    好きなのは第9章の「ぶら下がり天国――富士山青木ヶ原樹海探訪」。ぶらさがれる側の実情がよく分かる。だれにも迷惑のかからない自殺などないのだ。たぶん。
    著者のクジラっぽい文体、好き。

  • あとがきは必読。民=「みんな」、みんなが主になると民主だが、マスコミはどこにもいない「みんな」を作り出して、「みんな」の意見として主張する。

    自分のあたまで考えよう。

    [more]
    国民の声―クレームの愉しみ
    親切部隊―小さな親切運動
    自分で考える人びと―統一教会とマインドコントロール
    忘れがたきふるさと―世界遺産観光
    みんなのエコロジー―諌早湾干拓問題
    ガリバーの王国―上九一色村オウム反対運動
    反対の賛成なのだ―沖縄米軍基地問題
    危険な日常―若狭湾原発銀座
    アホの効用―横山ノック知事セクハラ事件
    ぶら下がり天国―富士山青木ヶ原樹海探訪
    平等なゲーム―車椅子バスケットボール
    からくり民主主義―あとがきに代えて

  • 養老孟司氏がしばしば引用していたのをきっかけに、本書を読んだ。
    結論から言うと、面白かった。
    何が面白かったかと言うと、私自身が、社会に植え付けられた「みんな」をベースにして物を考えていたことに気付かされた点だ。
    唯一の真実というものは、存在しない。事実は人の数だけ存在する。あるのは物事とその人の関係性だけで、その根本は利害関係である。
    マスコミは自身に得になるような側面を切り取って報道する。またそのマスコミを利用する人は、自身の得になるような側面を、マスコミに報道させる。
    そうやって作られた、大きな歯車のような「世論」に、自身の小さな歯車を噛み合せることで、利害関係がからみあった「からくり民主」が出来上がる。
    しかし、誰かが悪いわけではない。だって「みんな」がそう言ってるから。本音は生々しいから赤裸々には言わないけれど、「みんな」がそう思っていて、そのおかげで自分の生活が成り立っているから、何にも問題ない。
    例えば沖縄の米軍基地。これだけの年月、米軍基地と共存してきたんだから、今さら基地がなくなったら逆に困る。本土でそれを問題にしているからその本音は言えないし、反対運動があるから儲かっている。反対運動をする人も、「みんな」のために戦っている。
    また、原発の話。原発を受け入れた地域には、それぞれ事情がある。しかし、原発を受け入れたために街は潤っている。「みんな」のために原発に反対する人はいるけれど、その人のおかげで儲かっている。
    頭の良い人は「そんなの本当の民主主義ではない」と言うかもしれないが、庶民は大きな歯車を利用しながら、生きている。

  • 奥田英朗が「野球の国」で進めていたので、読んでみた。確かに、奥田英朗のエッセーににたテイスト。

    1990年代後半から、2000年代初期のルポルタージュ。統一教会を扱った「自分で考える人々」、合掌造りの白川郷の現地住民の心情を伝える「忘れがたきふるさと」、諫早湾埋め立て工事を巡る地元の対立を扱った「みんなのエコロジー」、オウム真理教のサティアンの上一色村を取材した「ガリバーの王国」、沖縄の基地問題を扱った「反対の賛成なのだ」、大飯の原発反対運動を取材した「危険な日常」等、どれもマスコミが流すするステレオタイプな安易な報道と実態とのギャップを鋭く描いている。

    マスコミの偏向報道を鵜呑みにしないことの大事さを改めて認識した。

  • 筆者が、某宗教団体や沖縄、原発、樹海などを取材して、多数の当事者の声を描く。そうすると、あれ?私たちの思っているイメージとは少し違うのではないか?という部分が顕在化してきて、結局「実際どうなんだろう」という曖昧な状態で終わる。世の中は思った以上に曖昧にできているんだな。201407

  • 沖縄の錯綜した基地問題に対してとまどっている姿、小さな親切運動に対する斜め上からの視点。どちらのスタンスも世の中に生きにくくする秘訣に違いないけど、よく分かる。
    でも「席を譲るために自分が座るべきかどうか?」は永遠の命題だな。若い奴が空けておいた席に座ってしまい、席譲らないと「自分が座っておきゃよかった」とよく思う。

  • 「民主主義」ってどこにあるんでしょうね。本当に。
    個人的には第一章のがすごく気持ち悪く感じました。なんか、失礼かもしれないけれど「地獄への道は善意で舗装されている」が浮かんでしまう。。。
    森達也さんの本が好きな人にはオススメです。この著者の他の本も読んでみよう。

  • 第8章 アホの効用ー横山ノック知事セクハラ事件が秀逸。

    他の章も考えさせられる。

    困った社会に生きている現代人の必読書。

  • 大きな問題になればなるほど、高橋のような斜に構えた視線が重要と思う。

  • 民主主義のからくりとは。 2010/05/12 「トラウマの国ニッポン」が面白かったので、以前の彼の著作を時代を遡って読んでみました。
    鳩山政権のアキレス腱となりつつある普天間問題ですが、この本が書かれる以前にも問題となっており、著者が現地の状況をルポしています。基地を巡る当時の状況も今とよく似ていて、この十数年の間、何も進歩が無かったことがよく分かります。本土のマスコミは、基地移転は沖縄県民の総意であるという認識で報道されていますが、実は全ての県民が移転に賛成しているわけではなく、移転されると借地代が入らなかったり、米兵を相手に商売ができなくなることを心配する人達も多いようです。市民は基地があるのは「当たり前」のことであって、上手く折り合いを付けてやっているのに、(本土の)マスコミが来て騒ぐのでおかしな事になってしまうそうです。県民の中にも本土の人達には判らない利害関係がありますが、それを表沙汰にせず自分達の利益に繋がるように、したたかに行動するのが沖縄の人達の知恵なのだそうです。地勢的に、中国と日本の間に挟まれた小さな島ですから、沖縄の人達にはそうやって生き延びるための交渉力のDNAがあるのかなと思いました。
    その他にも、90年代の様々な事件をルポしており、当事者の生の声を読むと、ニュースで聞いたのとはまた違った視点で、いろいろ考えさせられることがあります。
    普天間問題も含めて、90年代の事件を振り返ってみたい人におススメしたい本です。

  • 諫早湾干拓、沖縄基地問題、原発、新宗教…真面目に丁寧に取材しているのだけど、つっこむ視点におかしみが。ヨシタケシンスケのカヴァー絵がぴったりだなー。解説は村上春樹。

著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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