夏の水の半魚人 (新潮文庫 ま 38-2)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101336329

作品紹介・あらすじ

魚彦。僕の変な名前は、お母さんの初恋にちなんでつけられた。写生大会で行った臨死の森で、転校生・海子の秘密を見てしまう。二人だけの秘密。夏の海の水の音。色ガラスの破片。車椅子の今田は魔法使いに会ったという。そんなの嘘だ、嘘であって欲しいと僕は思う。出処の知れない怒り、苛立ち、素晴らしい遊び、僕はこの楽園を飛び出したいのかもわからない。あの神話のような時代を。

感想・レビュー・書評

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  • 小学5年生の夏の、魚彦と海子の短い冒険。この小学生らは、現在の小学生ではない。私の二学年上だろうか。年代ははっきり書かれていないけど、ちびまる子ちゃんがアニメ化された年のお話。あざとくない懐かしさが満載で、言葉にできない部分をそのまま言葉にしない節度が好ましい。海を漏らすって表現いいなぁ。

  • 11歳、小学5年生の夏休み。「子供時代」から「思春期」へと踏み出すまさにその一瞬を見事に捉え、一分のズレもなく切り取ったものすごい感性に思わず唸ってしまいます。星の数ほど、水の粒ほどある小説の中でも特に好きな一冊。単行本も持っているのに文庫を買ってしまったくらいですから。そして単行本は単行本で酒井駒子さんの装画がかなり素敵なので、そちらも手放したくないのです。そして本棚がキャパオーバーになってしまうのです。

    前田司郎さんは基本的にいつもゆる~い感じの文章だけれど、この小説に関してはその「ゆるさ」が、一見すると稚拙さにも見えてしまいそうなその語り口が、絶妙な効果を出しているんじゃないだろうか。
    前半、魚彦が海子やほかの女子、それからこの世界そのものに抱いている感じ方は何というか言葉足らずで、ちゃんと説明されていない。遊びの場面でも「~みたいな感じになって」という展開が多くて、「流れ」や「雰囲気」で行動している感じがする。それが最終章では、魚彦ははっきりした意思を持って行動しはじめ、あの印象的なラストシーンに繋がっていく。まるでまだ意思を持っていなかった子どもに自我が芽生え、一人の人間として歩き始めた瞬間を目撃したような気分だ。その彼を雨が包み、生ぬるい海が呑み込もうとする。
    人間は元は魚から進化したのだという。オビに「少年と少女の夏の神話」とあるが、海と陸の狭間で、まだ男でも女でもなかった子供たちが「人間」になるその瞬間を描いたこれは、まさに神話と呼ぶにふさわしい。ここへ来て「半魚人」という言葉の意味も、ああ、そういうことか! と腑に落ちた。
    オビと言えば俳優の井浦新さんが、「僕は、この男と一緒に何かを残していきたい。」というコメントを寄せている。前田司郎という作家はまだあまり知られていないけれど、個人的にはもっといろんな人に知ってもらいたい。(書店員人生を懸けて)僕は、この男の小説をもっと売っていきたい。

  • たまたま手に取ったら馴染みのある地名がたくさん出てきて運命を感じました。

  • よく行ってた画廊?で個展してはった池田実穂さんが表紙絵を描いてはって、そこのオーナーさん?が私にってプレゼントしてくれはった本。 すああーーって読みました。結構好き。でも好きじゃない人も結構いそう。特に男の人とか。 これは小学生(高学年)のお話やったけど、これの高校生くらいバージョンみたいな小説があったら読みたいな。

  • 小学生時代の事を回想しようと思ってもなかなかイメージが湧かなかったり言葉に出来ない感情が多かったりするけど、小学5年生の目線で淡々と語られていて、謂れのないイラつきとか「今日足が速くなったと思った」とかメタンガスを見続ける感じとか、あーこんなんだったと懐しむ事が出来た。

    ガムを最初に食べてしまいなかなか他のお菓子に手をつけられないでいる。というアホ描写、というかアホな画が町田康っぽいなと思ったらあとがきが町田康でびっくりした。

  • 品川区五反田に住む小学五年生の魚彦。友達と誕生会を開いたりお祭りに行ったりドロケイをしたり、現代的だけど懐かしい。塾に行ったり外国人の少年がいたり少子化で人数が減っていったり、都会的だけど、懐かしい。虚構か現実かわからないような、キラキラとグチャグチャが混ざったような、小学生の感覚を切り取っている。

  • 小学五年生の少年を疑似体験した。物語を読んだというよりも。けれどそれは読書体験とはちがうもの。

  • 子どもの頃、世の中はよく分からないものばかりだった。
    でもそのよく分からなさを楽しめた。
    よく分からない遊びをやった。よく分からないものをカッコよがった。よく分からない気分に浸ったりした。
    無邪気だったから。
    大人になる前の、よく分からない僕らの夏。

  • 小学生のころのうまく説明のつかない感情の機微を、適切な言葉で描き出しているのがすごい。

  • 雰囲気を楽しむ本。
    ちょうど五反田界隈に仕事で通っていたこともあり、楽しめた。

  • おかしみのある表現が随所にあるので笑ってしまう。自分の小学生のころのことはもう思い出せないけど、今言葉で表現しようとしたら、こういう気持ちもあったかなぁと思う。

    筆者の飾り気のなくて背伸びもしない感じが好みだ。前田司郎さんは演劇でも映画でもこういう肩の力を抜いて自由に泳いでる感じがある。それだけど「自由にやってます」というような主張もあまり感じない。そういうところがいいなと思う。

  •  なんと紹介していいのか分からない不思議な話だった。YAっぽい雰囲気もあるけど、大人が子供の頃の鮮烈な記憶を、ガラスケースにぎゅっと閉じ込めた感じの、やっぱり大人のお話。

     お母さんが変。初恋の相手は養殖ハマチ。それにちなんで名づけられた息子「魚彦」が主人公。子供に初恋の相手の名前つけるってのもだいぶどうかしてると思うが、こちらは初恋の相手がそもそも人間じゃないっていうか哺乳類ですらないですからね。
     すぐおしっこをもらす転校生・海子とか、魔法使いに会ったという車椅子の友人・今田とか、海彦の周りも少し変わっている感じだけど、そういえば小学生のとき魔女の修行してる子とかいたなあ。
     子供のもつ妙に冷静な分析力とか、残酷さとか、何故なのかよくわからないけど突然キレる危うさが垣間見えて、自分たちもそうだったのかなあ、と思い返してみたけど、どう考えてもわたしが子供のときは、もっと能天気で何も考えてなかった。なんなら、時折鼻水もたらしてた。

  • 前田司郎はなんかいい作家ですよ、ほんとに。天才だし、つまらない大人度ゼロ%な人。この世のどんな小学校5年生よりも純度の高い小学校5年生なんだと思う。文章のすごさ、視点のすごさ。あのころ特有のダサい気持ちとかをなんでここまで徹底してリアルに書けるのか。恋愛でも性でもない異性の見方もいい。全体を通してすごく、生きてる、心が立ち上がってくる。すごく繊細で上品な小説だと思う。
    10〜13歳くらいってすごい面白い季節だと思う。何考えてるのか、実際に話きいてみたいって思うけどいざ話すと、なんか自分が、気持ち悪い大人のしゃべりになってしまうよ。打ち解けて話せたらすごい楽しいだろうな!

  • 冒頭の主人公の母の話部分では、瀬尾まいこさんみたいな感じと思ったけど、全然違った。
    たんたんとしているようで、そうでもなく
    小学校5年、子供でもなく大人でもなく少年でもなく
    すっごい子供だったり大人のような冷めた感じだったり
    なんとなく「生きている」と感じた。。

  • つまらん。

  • 消費税がなかったころのこと、
    もうすっかり昔のことになっちゃったなあと。

  • そうだな。
    自分が幼かったとき、「世間」はかなり矮小だったけど、大人が言うほど子供じゃないって感じてたな。とか、思い出した。

  • タイトル&ジャケに惹かれての初前田司郎作品。
    予想した内容とは違ったけれど、揺れ動く微妙なその瞬間を見事に描いている。
    とても感覚的。

  • 小5ってこんなだったなあって、懐かしく微笑みながら作品を読みました。子供のするどい感性を、子供の目線で表現しているところが新鮮。私がよく知ってる北品川が舞台ってのもいいですね。幼稚園は教会幼稚園だったのかなって想像したりして…

  • タイトルに惹かれて読みましたが面白かった。子供時代から思春期になる移り変わりが書かれた作品。毎日新しいことがあって、でもふと考え続けることが出来て、日々がつながっていることを意識し始める時代。当時は気づかなかった、あとから振り返ってようやく気づく変換点。そんなお話でした。

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著者プロフィール

1977年生まれ。劇作家、演出家、俳優、小説家。和光大学人文学部文学科在学中に劇団「五反田団」を旗揚げ。2005年『愛でもない青春でもない旅立たない』(講談社)で小説家デビュー。同作が野間文芸新人賞候補となる。2006年、『恋愛の解体と北区の滅亡』(講談社)が野間文芸新人賞、三島由紀夫賞候補、2007年、『グレート生活アドベンチャー』(新潮社)が芥川賞候補に。2008年には、戯曲「生きてるものはいないのか」で岸田國士戯曲賞受賞。同年、『誰かが手を、握っているような気がしてならない』(講談社)で三島由紀夫賞候補。『夏の水の半魚人』(扶桑社)で第22回三島賞。その他の著書に、『逆に14歳』(新潮社)などがある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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