731―石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (534ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101337517

作品紹介・あらすじ

731部隊の闇は戦後も続いていた。太平洋戦争中に生体解剖やペスト菌による非人道的な実験を行った細菌戦部隊。残虐な行為に手を染めながら、なぜ彼らは戦犯とならずに済んだのか。そこには隊長・石井四郎とGHQの驚くべき駆け引きがあった。戦後50余年を経て発見された石井の直筆ノート2冊から隠された真実を読み解く。国内外の圧倒的な取材から浮上した新しい戦後史。

感想・レビュー・書評

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  • 細菌戦における防御(ワクチン)のみならず、人体実験を経て攻撃兵器まで作成していたという731部隊。

    満州に巨大な実験施設を作り、膨大なペストノミを飼育し、実験を行なっていたわけだが、公には出来ない秘密部隊が如何にして、その承諾と資金を調達したのか。
    そこには、石井四郎という部隊長の存在が見えてくるわけだが。
    戦後、彼が戦犯として東京裁判に名を連ねることはなかった。何故だろうか、というノンフィクション。

    敵国が所持する圧倒的な力があるとしたら、それを手にしたいと思うのは人間の欲である。
    自分をアピールすることに長けた石井が、大将になるべく、無辜の民を次々と殺していくことに、一種の悪鬼を想像させる。
    そして終戦の折に、自己保身のため全てを焼き払い、自分は自宅でGHQとせせこましく交渉に転じる姿を見ると、もはや哀れでしかない。

    731部隊の存在を、知らなかった自分がいる。
    こうした所業が、ある日何気なく手に取って知るような、今尚そんな立ち位置であって良いのだろうか。
    名を残す、という言葉がある。
    石井四郎が残したものは、彼が望んだ名声よりも何倍も醜悪な結果として継がれてゆく。

  • 面白いルポルタージュとは、雑多な資料を一度自身の中で咀嚼し、重要で外せないなものだけを時系列につなぎあわせることで、内容のスリム化を図り、論点をわかりやすく読者に提供することにある。本書では、すべての手持ち資料を残さず使い切ったために、エンタメ性を犠牲にし、それ故に正確な研究取材となっている。この辺の好みは分かれそう。
    石井部隊の残党が、ミドリ十字を興し(前身の日本ブラッドバンクはGHQ主導だった)、その後の薬害エイズ問題を引き起こしたのは、人命を軽視するマッドサイエンティストの遺伝子を立派に引き継いだともいえよう。
    そして、戦争に乗じ科学の発展を隠れ蓑にした人体実験に手を染めた事実があるなら断罪されるべきだが(実際にははっきりしない)、考えてみれば、大量殺りく兵器である原爆の2度の投下、非戦闘員である民間人を狙った東京大空襲、沖縄戦における毒ガス使用など非人道的な戦闘行為を行った米国に日本人を裁く資格があったのかという点も問われるべきであろう。

    731部隊(しちさんいちぶたい)は、第二次世界大戦期の大日本帝国陸軍に存在した研究機関のひとつ。正式名称は関東軍防疫給水部本部で、731部隊の名は、その秘匿名称(通称号)である満州第七三一部隊の略。このような通称号は日本陸軍の全部隊に付与されていた。初代部隊長の石井四郎(陸軍軍医中将)にちなんで石井部隊とも呼ばれる。
    満州に拠点をおいて、防疫給水の名のとおり兵士の感染症予防や、そのための衛生的な給水体制の研究を主任務とすると同時に、細菌戦に使用する生物兵器の研究・開発機関でもあった。そのために人体実験生物兵器の実戦的使用を行っていた。 細菌戦研究機関だったとする論者の中でも、その中核的存在であったとする見方がある一方で、陸軍軍医学校を中核とし、登戸研究所等の周辺研究機関をネットワーク化した特殊兵器の研究・開発のための実験・実戦部門の一部であったという見方も存在する。
    731部隊では、生物兵器の開発や治療法の研究などの目的で、本人の同意に基づかない不当な人体実験も行われていたとする説がある。 人体実験が行われていたとする説によると、被験者とされたのは捕虜やスパイ容疑者として拘束された朝鮮人、中国人、モンゴル人、アメリカ人、ロシア人等で、「マルタ(丸太)」の隠語で呼称されていたという。その人数は、終戦後にソ連が行ったハバロフスク裁判での川島清軍医少将(731部隊第4部長)の証言によると3,000人以上とされるが、ハバロフスク裁判では石井四郎中将が無罪とされているため証言の信用性は疑問である。犠牲者の人数についてはもっと少ないとする者もあり、解剖班に関わったとする胡桃沢正邦技手は多くても700 - 800人とし、別に年に100人程度で総数1000人未満という推定もある。終戦時には、生存していた40-50人の「マルタ」が証拠隠滅のために殺害されたという。
    こうした非人道的な人体実験が行われていたとする主たる根拠は、元部隊員など関係者の証言である。例えば、元731部隊員で中国帰還者連絡会(中帰連)会員の篠塚良雄は、当時14歳の少年隊員として「防疫給水部」というところに配属され、細菌を生きている人へ移すという人体実験を行ったことを、2007年にアメリカ、イギリス、中国などの歴史番組のインタビューで答えた。篠塚は、当時若かった自分の罪を悔やんでいるとして、2007年には中国のハルピンへ行き、遺族や被害者に謝罪をしている。ただし、中帰連関係者などの証言については、撫順戦犯管理所での「教育」によって「大日本帝国による侵略行為と自己の罪悪行為」を全面的に否定(自己批判)させられた者の証言であることから、信憑性を疑問視する見方もある。また、篠塚の証言に関しては、731部隊には少年隊は存在しなかったとして疑問視する見解もある。
    人体実験に関わる部隊の活動や証言を裏付ける文献資料はほとんど確認されていない。近年になり731部隊関係の米国の公文書が機密指定解除されたため調査が行われたが、その中からは非人道的な実験が行われた記録は発見されなかった。ニューヨーク在住のノンフィクション作家である青木冨貴子によって石井四郎が終戦後に書いた手記が発見されており、それには戦後の石井の行動の克明な記録に加えて、戦時中の行動に関しても相当量が記載されていたが、その中にも非人道的な活動を明示する内容は無かった。 また、森村誠一『続・悪魔の飽食』などに「731部隊によって生体解剖される中国人の犠牲者」として紹介された写真は、『山東省動乱記念写真帖』(青島新報、1928年)に掲載された済南事件被害者の検死中の写真であり、731部隊とは無関係であった。
    (ウィキペディア)

  • 石井四郎は信念を持った強靭な人物だというイメージがあったが、そうではなかった、との結論に驚く。

  • 東2法経図・6F指定:210.75A/A53n/Ishii

  • 731部隊を追いかけたルポルタージュ。

    冒頭は、著者が千葉県の加茂へ取材へ向かったところから始まる。
    著者は執筆までに相当に取材を重ねてきた様で、千葉県での取材のほか、膨大な文献や当時のメモの解読、関係者インタビューまであらゆる手を施して当時の様子を読み解こうとしている。

    本書は、実際に足を運び、目で見て、読み解いた結果を、1つ1つパズルを埋めていく様に文章に書き起こしていく、その膨大な作業の末に出来上がったものだとよくわかる。

    どちらかというと論文テイストな構成のためか、本書にはドラマチックに誇張した展開はなく、文献や検証に基づいた内容が淡々と記されていく。
    脚色や演出が極力排除されることで、手に汗握る展開こそないが、狂気じみた感覚がじわじわと押し寄せてくる怖さがあった。

    ナチスドイツの親衛隊将校、アイヒマンと一見似ている様にも見えるが、それとはまた違う非凡さ、凡庸さの二面性を石井四郎にみることができると思う。

    正直、これまでは731部隊やGHQ占領下の日本についての知識はゼロに等しかったが、本書の内容は歴史認識を深める意味で大変な良書だったと思う。
    ただ、本文がめちゃくちゃ長いので根気は必要。

  • "うだるような暑さの今年の夏、終戦の時期に読んでみたいと思って手にした本。小説のように読者をぐいぐいと引っ張る内容で、一気に読んだ。第二次世界大戦・太平洋戦争時に満州にあった731部隊の闇の歴史をひもとく。細菌戦部隊である731部隊の部隊長石井四郎氏は戦犯とはなっていない。GHQ、アメリカとの駆け引きがあったということを、丹念な取材を積み重ねてひもといていく。参考文献も読んでみたくなった。この部隊に関する書物で有名なのが「悪魔の飽食」。この本の登場人物も書籍を残している。その人たちの本も読みたくなる。
    そして、一言だけ。戦争中には多くの人が亡くなった。戦争そのものがどういうものか、実際を知らない我々はこうした書物からその時代の空気を読み込むことしかできない。戦争という狂気が及ぼす影響の大きさを改めて感じることができた本だ。
    歴史を感じつつ、私たちは未来を築いていく。それが、先人たちへの供養となると信じている。"

  • 証拠はないけど誰もが推理できたことに対し、このたび証拠が出てきました、はあそうですか。みたいな内容。

  • NHKスペシャル「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」を見て、そういえば731部隊については「悪魔の飽食」シリーズしか読んでないなと思いあたり、探して読んだ本。

    731部隊の所業にはあまり触れず、司令官石井四郎の人となりや、特に戦後、731関係者が誰も戦犯指定されず、逃げ切ったあたりに焦点を当てている。これ一冊読んでもあまり意味はないし、無駄な寄り道や主観的な観測、物言いが多くてドキュメンタリーとしては一流とは言えないが、 NHKや森村誠一を見たり読んだりして、こいつら戦後どうなったんだろうと思った人にはそれなりの情報を提供してくれる。

    あー胸糞悪い。

  • 731部隊。第二次大戦中に帝国陸軍が満州にて展開した細菌戦部隊であります。表向きは貿易給水を目的とした研究機関ですが、その内実は生物兵器を開発する組織だといふことです。
    創設・指揮したのは陸軍の軍医であつた石井四郎。ノモンハン事件で功績を挙げ、部隊内での地位を向上させたとされる人物であります。

    本書『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』は、タイトル通り731部隊と石井四郎の謎に迫つた、青木冨貴子氏によるノンフィクション。『ライカでグッドバイ』の人ですな。
    読み始める前は、細菌戦部隊とか人体実験とか、或は人間モルモット(「マルタ」なる符牒で呼称してゐたさうです)だとか、おぞましい話が再現されるかと戦き構へてゐました。しかし著者の狙ひは、違ふところにあつたのです。

    石井四郎直筆のノートが二冊見つかつたとの連絡が入り、著者は早速石井の郷里である千葉県芝山町へ向かひます。随分興奮気味であります。ノートを手に入れた時の著者の高揚ぶりが伝はつてくるのです。
    何しろ今まで世に出なかつた石井直筆ノートですからねえ。新事実の発見や、これまでの定説を覆す記述とかがあるかも知れぬと思ふだけで、ジャーナリストとしては平静を保つのは難しいのでせう。

    二冊のノートは、1945年と1946年のもので、いづれも終戦後のものでした。内容は部隊の後始末に関する件や、いかに証拠隠滅を図るかとか、実に細かい指示が出されてゐたことが分かります。
    戦犯を逃れるための工作といふか、駆け引きの様子も窺ふことが出来ます。本来ならかかる非人道的な行為は、真先に罪に問はれるところでせう。

    GHQは、石井本人や関係者に対する尋問を繰り返すのですが、捗捗しい結果は得られません。石井の指示による偽証や黙秘に翻弄されてゐました。証言を語る条件として、戦犯としての罪は問はないとの言質を得ます。マッカーサーも、さうまでして細菌兵器のデータが欲しかつたのでせう。
    ノートの記述により、石井四郎が戦後如何なる活動をしてゐたかが判明します。経済的に困窮し、売れるものは売りつくして、親戚の生活の安定に心を砕く姿がありました。ここには、あの恐ろしい非人道的な人体実験を指揮した石井とは別の人格があります。
    逆に言ふと、平凡な小市民の中にも、環境次第でマッドサイエンティストに変貌してしまふ要素があるといふ事でせうか。
    著者の執念の取材が身を結んだ一冊と申せませう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-699.html

  • 主な特徴として「読み始めて6分で熟睡できる」
    ということが挙げられる(- -;

    いや、内容がつまらない訳ではなく、
    いつも小説ばかり読んでいる我には
    固くて重い内容が難しすぎて...(^ ^;

    ただ、あまり読みやすい本ではない気がする。
    そこここに「〜だったろう」「〜に違いない」みたいな
    作者の主観が入り込んできて...
    「ドキュメンタリー」として読むにはやや邪魔くさい(- -;

    文体も「ルポ風味」になっているが、
    テーマがテーマだし、事実だけを淡々と書いた方が
    内用がスムーズに頭に入る気がする。

    新しく「発見」された石井氏の残したノート二冊は、
    確かに貴重な資料ではあろうし、晩年の石井氏の
    「小市民っぷり」が意外で面白い(^ ^

    が、タイトルの「731」にはそぐわない気も。
    タイトルから「731部隊の悪行を詳らかにする」
    ような内容を(勝手に)期待していたが...
    この内容だと「石井 四郎 - その知られざる素顔 -」
    みたいな方がしっくりくる感じだ(^ ^;

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