私小説from left to right: 日本近代文学 (新潮文庫 み 28-1)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101338125

作品紹介・あらすじ

「美苗」は12歳で渡米し滞在20年目を迎えた大学院生。アメリカにとけこめず、漱石や一葉など日本近代文学を読み耽りつ育ったが、現代の日本にも違和感を覚え帰国を躊躇い続けてきた。Toreturn or not to return.雪のある日、ニューヨークの片隅で生きる彫刻家の姉と、英語・日本語まじりの長電話が始まる。異国に生きる姉妹の孤独を浮き彫りにする、本邦初の横書きbilingual長編小説。野間文芸新人賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • これは「私」という人間について書いた小説。

    水村美苗の小説は、読み応えがある。これは横書きで、日本語と英語が混ざって書かれたものだが、だからこそ「美苗」という人物が、「私」をつづったものという形をしている。まさに「私」について書いた「小説」である。

    海外で暮らした時の、「日本」が「私」になる気持ち、そしてその違和感、孤独感がすごくよくわかる。長期間滞在すればなおのことだろう。

    そして言葉のこと。何語で書くのか。日本語でしかつむげない世界がある。でも、日本語で書く限り、英語で書くことには比べものにならないほどの力の差がある。そもそも、日本語で書けるのか。でも「美苗」が書きたいのは、日本語でしか描けない世界。でも、それは本当に日本語の中に存在するのか。英語の中には存在しないのか。片方を切り落としてしまえば、それはまったく違うものになってしまう、「美苗」ではなくなってしまう。

    「美苗」という「私」が書くのは、溝に隔てられた「日本語の中の私」と「英語の中の私」が存在する二つの「私」について書かれた小説。それが、この、英語と日本語を混ぜて、横書きで書かれている『私小説』なのではないか。

  • 中学生でアメリカにわたりそれ以来20年間アメリカに暮らす美苗と姉。日本人が外国で生きるとはどういうことかを私小説の形で書いた小説。アメリカ暮しを経験したことのある人には全く切実で悲しい物語である。長く外国に住んでいる人たちのプライドと疲れの入り交じった姿を思い出さずにはいられない。

  • 私が就職活動をしていた頃は就職難が叫ばれて久しかった。まだ学生だった私には、働いている大人はみな、安定しているように見えて羨ましかった。自分で選んだ仕事について、居場所があって、必要とされて、お金をもらえる幸せを世の大人たちはもっとしっかり噛み締めるといいと思っていた。
     本書を読むと、その頃の気持ちを切実に思い出す。不安と焦りと、自分がどこにもコミットしていけないような孤独感を。「水村美苗」とその姉が、日本にもアメリカにも居場所がないと感じ、職もなく、将来の展望も開けずにいた、その不安や孤独が読む者をものみこんでいくのだ。そういうときに私はいつも思い出す。楽しいことばかりじゃないし、落ち込むこともあるけれど、学生時代にもっと噛み締めればいいと思っていた幸せを、自分が手にしているということを。そうして、「また明日も仕事をしよう!」と思うのだ。

  • 作者≒ひきこもり留学生の美苗を主人公に据え、主観的に物語を展開。日本女流古典作品らしい美しい文体でつらつらと書き綴る。
    ただ文章1ページ1ページにシマウマの模様のように英文が紛れ込んでいるのが微妙に頭に引っかかってつらかった。どちらか一つに統一してほしい。その英文がさして美しい文章でもないので余計にがっかり。

  • 親の都合で米国に暮らすことになった姉妹。
    成年に達し、日本へ戻る選択もあるなかで、米国に留まり、
    どこにも属さない状況に、自己同一性が揺らぐ。
    米国になじめず、日本に焦がれ続けた妹だけでなく、
    うまくやりすごしてきた姉にも、歪みが生じる。

    高い壁に囲まれた袋小路に佇むような閉塞感。
    望みを失い、もはや煙さえ立たない自棄。惰性。
    傍目には、憧憬の異国生活ではあるけれど。

    朧な一条の灯り。

    *******

    だって文学などというものは、つきつめれば、今ここに見えないものへ
    あこがれる心の深さで書くものなのではないのだろうか。あこがれる心
    の深さだけなら、私は山を動かすくらい持ち合わせているように思えた。

    *******

    『私小説』の原動力。

  • うじうじしないで早く日本に帰ればいいのに、と思いながら読んだ。でも特殊な環境の下で作られた姉妹のしがらみは容易に断ち難いのだろう。
    アメリカにも日本にも違和感を感じる境遇に共感はできないが、そんな人のアイデンティティはどこに落ち着くのだろう。

  • 2009/04/06-
    天神
    ちょっと読みにくそうではある
    2009/04/18-
    返却期限が過ぎたので借り直し
    アメリカにも、日本にも帰属を見出せない姉妹の不安と諦めが露になって面白くなってくる。
    東側の話というのも親近感が沸く。
    私もあのままアメリカで大人になったらこんなことを考えるようになったのだろうか。
    やはり日本人は韓国・中国人に間違われると不快がるし、西洋人ぽく見られると喜ぶ。
    ましてや自分たちが黒人と同じ分類に見られているだなんて、夢にも思わない。
    日本というシャボン玉から分裂した小さなシャボン玉で守られて欧米社会に入る、という表現は非常に的を射ている。

  • 2004年11月の課題本

  • 文化の間で揺れ動く心。日本語なのに横書きなのです。

  • 本邦初の横書き小説。起承転結のなさがリアルで好ましい。

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著者プロフィール

水村美苗(みずむら・みなえ)
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、08年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞、12年『母の遺産―新聞小説』で大佛次郎賞を受賞。

「2022年 『日本語で書くということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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