累犯障害者 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101338729

作品紹介・あらすじ

刑務所だけが、安住の地だった-何度も服役を繰り返す老年の下関駅放火犯。家族のほとんどが障害者だった、浅草通り魔殺人の犯人。悪びれもせず売春を繰り返す知的障害女性たち。仲間内で犯罪組織を作るろうあ者たちのコミュニティ。彼らはなぜ罪を重ねるのか?障害者による事件を取材して見えてきた、刑務所や裁判所、そして福祉が抱える問題点を鋭く追究するルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • この国の福祉って一体どうなっているんだろうか。
    健常者も障害者も(そもそもこの言い方もいかがなものか)共存して安心して暮らせるインクルーシブな社会など実現可能なのだろうか。
    一度犯罪を犯してしまった知的障害者のセーフティ・ネットが最終的に刑務所であるというのはどう考えたっておかしい。

    たまたまこの本を読んだ私は知ることができた。
    しかし多くの人は知る機会すらないだろう。
    犯罪者が障害者だと分かった途端マスコミの勢いはトーンダウンする。それは何も加害者の人権に配慮しているわけではない。その裏に潜んだこの社会の闇から逃げているだけだ。

    刑務所の受刑者の約2割が知的障害だとされている。そしてその多くの受刑者たちが出所後に再度罪を犯し入出所を繰り返す。それも生活苦で止むにやまれず犯したほんの軽微な罪で。
    読んでいて胸が苦しくなった最終章。

    --------------------------------------------------------------------
    その裁判の被告人は、中度の知的障害者だった。彼は、半年ほど前に
    刑務所からでてきたばかりである。母一人子一人の環境で育ったが、
    その母親は、一年前、彼が服役中に亡くなっていた。彼が問われている罪は、
    「住居侵入罪」だった。

    「君ね、刑務所から出てきたばかりでしょ。もう悪いことするのはよしなさいよ。」

    突然、被告人が堰を切ったように泣き声を上げだした。それに対して、検察官は大きな
    ため息をつく。一方、国選弁護人である若い弁護士は、閉口したように顔を歪めている。

    『おかーたん、おかーたん、うぉー、うぉー』
    --------------------------------------------------------------------

    この男性を裁くのが司法ですか?
    重度障害者以外は受け皿がないのが福祉ですか?
    障害者の多くは身元引受人になる人もなく任期満了で出所するのが常だ。
    暗澹たる思いになった。
    一方でこの作者の活動が実を結んでわずかながらでも変わりゆくことに期待したいと思う。

    知的障害者に焦点をあてた章の他にも、かなりの割合で聴覚障害者について取り上げている。これもまた興味深い世界だった。

  • 刑務所に入ったら、知的障害の人にたくさん出会った。なぜ、犯罪を犯して刑務所に?という個人的な疑問から、社会問題を発見していく著者の誠実な探求と、ついには法制度までも動かし変えていった、地道な活動が素晴らしい。
    国会議員まで務めて、行政の知識もあった著者ならではの活躍である。
    貧しかったり、恵まれない家庭に生まれた知的障害者(特に障害者と認定されづらい軽度やボーダーの人)は、社会からの援助も届かずに、いじめや虐待、搾取や犯罪に巻き込まれやすい。そういう人が刑務所のお世話になり、出所してもまた繰り返してしまう。ついには、刑務所が一番生きやすい場所、という人になってしまう。

    著者の進言で、刑務所にソーシャルワーカーが配置されるようになったのは2000年も過ぎてから。裁く以前に養護や支援が必要なのではという、当たり前の言葉が実現されていない日本の社会に心が痛む。

  • 知るべきことかもしれないけれど、ある意味知りたくなかったと正直に言っておきます。
    色々な問題が絡み合った混沌とした闇という気がする。それに真摯に向かいあおうとする作者の態度は立派だと思う。
    しかし、そもそも福祉そして社会からはみ出してしまう人間が一定数存在するのは仕方ないように思えた。本人がシステムの中で生きるよりも犯罪と隣り合わせでも自由でいたいと思うのならばそれを掬い上げるのは現実的に言って難しいのでは?
    なにかシステムを整えるべきだとわかるのだけれど、解決策が思いあたらない。
    とりあえず後味の悪い気持ちに陥りました。

  • ずっと積ん読してあった本。やっと読みました。

    この本は、重い。

    いま自分たちが暮らしている日本社会って、こんなにもうすく脆いものだったのか、と薄ら寒くなる。

    セーフティネットの網の目がゆるいとか、社会保障関連の話ではまぁよく出てくるし、
    福祉とか、教育とか、行政の手が行き届いていないところが実はけっこう広いことなんて、
    少しでも現場に出れば嫌というほど感じることではある。

    でも、そんな良い子的な問題意識は簡単にぶっ飛ばしてくれる。
    ぶっ飛ばした上で、さらに重く殴られるような気分。

    検察や裁判の問題点も最近比較的指摘されるようになっているけど、
    知的障害者が裁かれるやりとりは茶番のよう。
    それが当たり前に何度も繰り返されていることや、
    繰り返さざるを得ない当事者たちは何を感じているのだろうと考えると、本当に虚しくなる。

    答えようのない重い問題が毎章次々と書かれていって、
    どうしようもないような気持ちにもなるんだけど、
    救いは終章・あとがきで描かれる筆者の様々な活動。
    制度改善のために奔走し、徐々に実際の法制度改革に効果を表していることは頼もしい限り。

    多くの人に読んで欲しい一冊。

  • 会社の上司から障害者雇用担当を任されてもう10年。この本を読むたびに「行き場のなくなった障害者が唯一安心して暮らせる刑務所に戻るために何度も罪を重ねてしまうような社会」を、なんとか少しでも変えられないかと思う。
    福祉の充実とは、福祉業界に押しつけ蓋をし、見て見ぬふりをするのではなく、一人ひとりの理解と思いやりが社会に広がっていくこと。
    職場に障害者を採用しようとするとき、反対する人もいる。熱心に説いても拒絶されることもある。それでも、いつもこの本を思い出して「頑張らなくては」と思う。

  • ───知的障害のある受刑者の7割以上が刑務所への再入所者でありそのうち10回以上服役しているものが約2割を占める───
    出所後の受け皿がなく路頭に迷った末に再犯となるケースが多い、刑務所が福祉の一部を担わざるを得ない現状、後半のろうあ者達を取り巻く環境の救いの無さ…。次々と語られる知らない世界にショックを受けつつ興味深い内容だった。

    障害者の犯罪事件は大手マスコミが長い間タブー視していて報道されて来なかった=社会から無いものとされてきたという事実にハッとさせられる。
    欧米で知的障害者は人口のの2〜3%存在すると言われているのに対し日本では0.4%程度。日本人の知的障害者が極端に少ないのではなく、国に認識されている数と実態にギャップがあると言うこと…
    認識から漏れた人達は?福祉ってなんだろう?自分はなんと無知なのだということ…色々考えされられる。読んでよかった。 

  • 犯罪を繰り返す障害者
    刑務所だけが安住の地。

    実際に刑務所で障害者と関わった作者が
    語るリアルな現実。
    処遇も問題があるだろうけれど
    そもそも捜査がきちんと行われたのか
    そして満了後の受け皿の問題。

    作者が議員だった頃の活動を知らないが
    服役後のこの精力的な活動、著書
    目を逸らしがちな事を教えてくれる

  • 事件をとおして、障害者の生きる世界を学ぶことができた。
    関わることの少ない世界だからこそ、理解が難しく、距離がより遠ざかる気がしてしまう。

    軽度の知的障害者の場合、自分が障害者であること、手帳を持つことにより他の人と違うことを自分で認めてしまうことが受け入れられず支援を拒否してしまうこともある。
    申請主義が基本になる日本の福祉制度の場合、周囲からは支援が必要と思われていても、本人の意志で支援が受けられないこともある。
    だからこそなのか、犯罪を犯せば入れる刑務所の居心地が良くなってしまうのかもしれない。

  • 4.13/1235
    『殺人、売春、放火、監禁、偽装結婚……。彼らはなぜ、罪を重ねなければならなかったのか。障害者の犯罪をめぐる社会の闇に迫る。
    刑務所だけが、安住の地だった――何度も服役を繰り返す老年の下関駅放火犯。家族のほとんどが障害者だった、浅草通り魔殺人の犯人。悪びれもせず売春を繰り返す知的障害女性たち。仲間内で犯罪組織を作るろうあ者たちのコミュニティ。彼らはなぜ罪を重ねるのか? 障害者による事件を取材して見えてきた、刑務所や裁判所、そして福祉が抱える問題点を鋭く追究するルポルタージュ。』(「新潮社」サイトより)

    目次
    序章 安住の地は刑務所だった――下関駅放火事件
    第一章 レッサーパンダ帽の男――浅草・女子短大生刺殺事件
    第二章 障害者を食い物にする人々――宇都宮・誤認逮捕事件
    第三章 生きがいはセックス――売春する知的障害女性たち
    第四章 ある知的障害女性の青春――障害者を利用する偽装結婚の実態
    第五章 多重人格という檻――性的虐待が生む情緒障害者たち
    第六章 閉鎖社会の犯罪――浜松・ろうあ者不倫殺人事件
    第七章 ろうあ者暴力団――「仲間」を狙いうちする障害者たち
    終章 行き着く先はどこに――福祉・刑務所・裁判所の問題点


    出版社 ‏: ‎新潮社
    文庫 ‏: ‎327ページ

  • 「ケーキの切れない非行少年たち」の中で山本譲司さんの著書が紹介されていたので読んでみた。(紹介されていたのは「獄窓記」だけど図書館になかった…)

    知的障害者と売春についての章と、ろうあ者についての章が特に心に残った。

    フィクションでも知的障害のある女性が売春に走る話はよく見かけるが、現実社会で実際に起こっていることを実感させられた。
    婦人保護施設の存在は初めて知った。

    彼女たちを巧みに拐かし売春させるような人間は決して許されないが、当の女性側に必ずしも被害者意識があるわけじゃないというのが複雑な問題だと感じた。
    男性との性的な接触の中で存在意義を確認したり、承認欲求を満たそうとしたり、、健常者のように普通の恋愛をすることが難しい彼女らに対してそれらを一概に否定することはできないのかもしれない。

    ろうあ者の章でも初めて知ることがいくつかあった。聴覚障害がある人とない人で使う手話に違いがあること、聾学校では手話を重要視されず口話の訓練に重きが置かれていること、など。
    また自分はろうあ者は今まで耳が聞こえないだけで、読み書きは健常者と同様にできると思っていたがそうではないようだ。(もちろん全ての人がそうではないようだけど)ほとんどのろうあ者が手話で考え、手話で夢を見るらしい。言われてみればそうだけど素直に驚いた。

    「彼らの精神世界は、われわれと異なるのではないか。言語世界の有りようが違うと、感受性や倫理観さえも違ってくるのではないか。」
    著者の言葉が正にその通りだなと思った。

    実際に刑務所でよ服役経験があり、その後福祉の現場でも活動されている著者だからこそ一つ一つの言葉に重みがあった。
    身近に障害者がいる訳でもないし、福祉の仕事をしている訳でもないが、知っているのと知らないのでは違うと思うので、この本を読めてよかった。

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著者プロフィール

1962年生まれ、元衆議院議員。2000年に秘書給与詐取事件で逮捕、実刑判決を受け栃木県黒羽刑務所に服役。刑務所内での体験をもとに『獄窓記』(ポプラ社)、『累犯障害者』(新潮社)を著し、障害を持つ入所者の問題を社会に提起。NPO法人ライフサポートネットワーク理事長として現在も出所者の就労支援、講演などによる啓発に取り組む。2012年に『覚醒』(上下、光文社)で作家デビュー。近刊に『エンディングノート』(光文社)。

「2018年 『刑務所しか居場所がない人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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