すいかの匂い (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6960
レビュー : 580
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339160

作品紹介・あらすじ

あの夏の記憶だけ、いつまでもおなじあかるさでそこにある。つい今しがたのことみたいに-バニラアイスの木べらの味、ビニールプールのへりの感触、おはじきのたてる音、そしてすいかの匂い。無防備に出遭ってしまい、心に織りこまれてしまった事ども。おかげで困惑と痛みと自分の邪気を知り、私ひとりで、これは秘密、と思い決めた。11人の少女の、かけがえのない夏の記憶の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 高校のときの友人が読んでいたのを覚えている。10年前。「これ怖すぎ……。」と言っていた。
    その印象が強くて、ホラー小説でも前にしたかのような心境でもって読んだのだが、なるほど確かに怖かった。
    記憶のふたを開けたように、かつて自分が少女だったころのありとあらゆることをとめどなく思い出した。ここに書かれているのとそっくりなことも、そうでないことも。スイカの種をのみこんだら腹のなかでスイカの芽がでると信じ込んでいたあの頃。
    それらを今まですっかり忘れていたことが怖かった。私にも少女として過ごした夏があったのだ。不機嫌で疑り深く、好奇心ばかり強かった、夏。
    歯みがきカレンダーの緑色に塗られた蟹や、ラジオ体操のあとに食べる朝ごはん、開放された学校プールの水のきらめき、友達を待つとなりの家のお兄さんが持っていた溶けかけのアイス。思い出せる夏はそれこそたくさんある。
    江國香織さんの言葉で、私はあっというまに少女に戻ってしまったようだった。

    この中では「焼却炉」が好き。小学四年生の退屈な夏休みに、ボランティアで学校にやってきた大学生のお兄さん。無表情で歌をうたう彼とは、とても気持ちが合うという確信があったのに、どこまでもただ子供扱いされることへの苛立ちともどかしさが愛おしい。はやく大人になりたい、と願った切実さを覚えている。
    とある音楽フェスティバルで露店のアイスクリームをながめていたら、その日共に参加していた同じサークルの大学生に「食べる?」と聞かれたときの気恥ずかしさをふいに思い出した。子供扱いされているようにも、大人扱いされているようにも思えて、どう答えればいいか分からず無視してしまったこと、ごめんね。

  • まだ夏の名残があるうちに、10年以上前に読んだのを再読。
    小学生時代、少女の夏物語×11

    あとがき(川上弘美さんによる)にも似たようなことが書かれているのだけど、江國さんの書く子ども時代の物語って、不思議と「自分にもこういう記憶がある」と思わせるような…ノスタルジックというのか、自分の思い出のような気がして泣き出したくなるような感覚がある。
    旅先でのひと夏だけの出逢いとか、道沿いにある花の蜜を吸いながら歩くとか、紙せっけんを集めてたとか。
    残酷であったり、少し胸が痛くなるような切ない余韻が残るお話が多くて、きっと自分も小学生のとき、子どもだからこその残酷さがある経験をしたんだろうと思ったりした。

    夏休み、宿題に疲れてひんやりした畳の上で昼寝したこととか、友だちと自転車で走り回った夕方アイスを食べながら怖いくらいの夕陽を見たこととか、虫捕りしたり水遊びしたり、そんな夏の記憶が不意に蘇ってくる、そういう小説。

  • 良い意味で非常に感覚的というか、五感を素手で鷲掴みにされる気分になる。まだ自分の感じていること、考えていることをうまく言葉に変換できない10歳前後の子どもが身体全体で受け止めていたその感覚を思い出させてくれるというのが、この短編集の一番の魅力で、それにとりつかれると毎夏のように読み返すこととなる。
    「水の輪」では、保護され可愛がられる子どもと、そうではない子ども(やまだたろう・大きくなった子ども)を隔てるものが壊される衝撃が描かれているが、クマゼミの質量と音声でその大きさを表すあたり、秀逸。
    気持ち悪いもの、醜いもの、蓋をしたいものを、目を見開いて凝視する苦さを、遠慮なく書き上げていて、その率直さが気持ちいい。

  • 夏の読み物だなー。
    新潮文庫の夏のフェア「ワタシの一行」はかなりいい企画!と思い、どれにしよーかな、と探し始めたものの、オーソドックスなラインは既に読んだものが多くて、紹介者の方のコメントに「わかるわかる、」「なるほど」と勝手に相槌を打つ始末で。でも、江國さんのこの短編集はまだ読んだことが無くて、鈴木杏ちゃんの選んだ一行が強烈に「骨太」というのか、何というか、相変わらず、線の細い江國さんから飛び出るとは到底思えないのに江國さんらしい、かっこいいもので、「こ、これだー!」と決定しました。
    川上さんの言葉を読んで、改めて思います。江國さん、どこかで色んな人の秘密を採集しているのではありませんか。どうしてそんなに、苦みのある、誰もが隠しておきたいような、気怠い思い出をご存じなのですか。この気だるさ加減が、また夏らしく、蝉の鳴き声が煩く、うねる様な湿気と暑さのときに外出先で読むと温度がぴったり合うのですが。百面相したくなる本なので、あまり外向きでないといえば、外向きでも無いのですが。「やだ!なんで、私の厭ーなところを知っているんですか、江國さんの意地悪!」みたいな、よく分からん心境になってしまうものです。でも、この得体のしれない一方通行な秘密の共有が癖になってしまって、江國さんの短編集や随筆の中毒になってしまっているのです。まいったなあ。
    特記しておきたいのは、「水の輪」の悍ましい程聴覚に訴えてくる感覚。読んでいて、「やまだたろう」(なんてお名前ではないけれど)の「シネシネシネ」に覚えた恐怖がありありと浮かんできました。一時的にしても、彼女にとっては怪奇現象、ホラーだったはずで、私も同じくして鳥肌が立ってしまったものです。だから、触覚?肌にも訴えかけてくるものがありますね。もう一つは、一番最後の作品、「影」を始めとした、時系列が破壊された記憶の引き出し方です。別の物事を行いながら何らかの記憶を思い返す、という状況を物語として浮かび上がらせたとき、これくらい混沌としているのが正しいはずです。きれいに整えられた回想描写は長編なら必要かもしれないけれど、時と場合によってはクドイものになってしまうかもしれません。江國さんのバランス感覚は最強です。

  • 夏になると本を読みたくなる。
    そんな思いでふと手にとったこの一冊は、夏休み読書の記念すべき一冊目だ。
    爽やかで、きらきらしていて、でも、どこか切なくて影のある少女たちの夏の物語がたくさん詰まっていた。

    窓を開けてひぐらしの声を聞きながら、扇風機をまわした部屋の中で読むのにぴったりな一冊。

  • 少女の夏のお話が11話。
    1話1話は短いけど、続けて読むことが出来ない。
    余韻に浸るというか、息継ぎのような時間が必要だった。

    夏だったかは分からないけど、物語の中の少女達と同じ怖さを私は感じたことがあるはず。
    特に「あげは蝶」の少女のように、新しい(想像したこともない)選択肢が突然現れた時の衝撃と恐怖、どうしようもなく心惹かれるのに踏み出せない自分への失望をよく知っている。

    読んでいる間ずっと心地いいような息苦しいような感覚を味わった。
    江國香織さんは凄い。
    この小説と出会えてとても嬉しい。

  • 短編集。味覚、嗅覚、聴覚、視覚、触覚、どの季節よりも夏が一番五感に記憶を刻み付けやすいのかもしれない。とはいえ夏の感じかたにデジャブしても、起きる出来事は限りなくフィクションなので…真夏の夜の夢というか悪夢というか白昼夢というか…
    「すいかの匂い」が印象的(というか腐女子にとっては)。シャム双生児と家出少女。女の子なぞ触ったこともないだろうの少年の清らかさと、思春期特有の戸惑いと、しかしそれが身体を共有しているがゆえの不健全な空気にのまれそうでした。不完全な身体でも、より不完全なみのる君のほうが達観していてひろし君を振り回すの図。

  • 夏やから読んでみたかってん!
    読んでよかったです。
    なんかもやっとしたまま終わる話ばっかねんけど、それが良かった。
    だいたい自分の話ももやっとしてオチなかったりするし。江國さんと一緒にしたらいかんげんけど。
    あげは蝶が一番好きです。自殺してやる!って言って結局怖くて止めるのと近い感じがする。

  • 短編集。どのお話も衝撃的だった。
    すいかの匂いってタイトル、読む前は爽やかなイメージだったけど、読んだ後にはなんだか不気味だなあと思った。
    夏っぽさを確かに感じさせるのに、清々しくない。

    水の輪と、焼却炉が特に好き。

    川上弘美さんの解説含め、とても好きな本になった。わたしも“江國さんのひみつ”が知りたい江國さんファンです。

  • ぞわっとする、夏の思い出。

    子どもの頃の夏の欠片を、思い出す。
    夏に感じる、あの感覚が、懐かしい。

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著者プロフィール

江國 香織(えくに かおり)
1964年、東京生まれの小説家。1986年、児童文学雑誌『飛ぶ教室』に投稿した「桃子」が入選。2004年、『号泣する準備はできていた』 で、第130回直木賞を受賞。他、山本周五郎賞、中央公論文芸賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞など受賞歴多数。代表作として、映画化もされた『きらきらひかる』や『冷静と情熱のあいだ』など。女性のみずみずしい感覚を描く作家として、多くの読者を魅了している。また、小説から絵本から童話、エッセイまで幅広く活躍中。翻訳も手がけている。2019年5月2日、2年ぶりの長編小説『彼女たちの場合は』を刊行。

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