号泣する準備はできていた (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339221

感想・レビュー・書評

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  • 冷静と情熱のあいだが好きなので江國さんの作品も読んでみたが、これはあまりに情熱的な話が多く自分には合わなかった。
    文章、表現は好き。

    ・・・・メモ、フレーズ・・・

    人がいて生活がある。その気配だけで豊かだった。

    あとはただ砂漠で回り続けるスプリンクラーみたいなものなのだ。うんと豊かに。じゃんじゃん。そこら中に水滴を跳ね飛ばしながら。

    あんなに輝かしくふんだんにきりもなくあったレンアイカンジョウが、突然ぴたりとなりをひそめた。

    私の心臓はあのとき一部分はっきり死んだと思う。寂しさのあまりねじ切れて。

    脱いだ靴を逆向きにして揃える。

    ブルーグレーの絨毯と、こげ茶とオフホワイトのストライプのカーテン
    テーブルにはお湯の入った魔法瓶と紙コップ
    インスタントのお茶やコーヒーが置かれてある

    私たちは幸福だった。傍若無人で、こわいものなしだった。あるいは何かを恐れることだけを恐れた。
    私たちは、一切の策を弄さずに愛し合いたかった。また、もしいつかどちらかが気持ちを変えたら、無条件に赦して手をはなせるとしんじたかった。

    私と姉と妹は年が近いこともあり、家族にまつわる記憶におそらくぶれがない。
    ともかくすべてを、好む好まざるとにかかわらず、三人で目撃し、通過し、記憶として所有し持ち歩いている。

    私は変化にうまく対応できない。

    と、こたえた。
    それをいいとも悪いとも思ってない風情で。

    とても本当とは思えない、と思うくらい悲しい目にあった時

    呪った
    祈った

    言われても、ちゃんと正気を保っていられるように。

    ・・・・・・
    そこなう

    明るい調子でいってみたが、声は思いっきり湿っている

    殻ごと甘辛く焼いたエビだとか、カチカチににしまったサワラだとか。そんなお弁当を買ってしまうということ自体、私達が幸福なしるしだった。

    目を持たずに生きてきたのに、いきなり目を入れられて、棚の上から世界を自分で見ることになる、埃だらけの願い事のダルマみたいに。

    浮力と重力の間で

    寂しさに包囲されていた
    寂しさは夜気そのものとなって私を冷やし
    どこまでも広がっていた。現実として。

    私は赦されたことが赦せなかった。

    同じ袋に入ったドロップ
    →色や形は違っていても同じような成分でできている

  • 江國香織の短編集。同じく短編集の『つめたいよるに』を読んで面白かったので、読んでみた。どの作品もとても短く、日常の一部を切り取った感じの話。なのに、とても切れ味鋭い。

    どの作品も主人公は女性だ。浮気や不倫の複雑微妙な恋愛感情みたいなものを描いた作品が多かったように思う。他にも過去を懐かしむ・郷愁・切なさみたいなしんみりするような雰囲気を感じる。どの作品も、どこか似た匂いを感じる。

    浮気したくなった時、された時なんかが来たら、もう一度読み返してみたいなと思った。

    全部で12作品がある。その中でも、『前進、もしくは前進のように思われるもの』、『熱帯夜』が印象に残った。

    <前進、もしくは前進のように思われるもの>
    ・この話に登場する夫婦は二人とも、それなりの地位と収入を得ている。世間的には特に不自由はない。でも、どこかうまくいっていない。
    ・半年前に、魅力的な男と出会ったことを思い起こす。夫の同僚だ。何度か二人で食事をした。食事しただけだが、不貞を働いているような気になってしまう。そのことと夫への複雑な感情が交差する。
    ・この作品の主人公は、「前進、もしくは前進のように思われるもの」をしながらこれまで生きてきた。でも、それは正しかったのか?誰もがどこかで抱く迷い・郷愁が入り混じったような感情。今も厄介な問題に直面している。でも、これまでやってきたんだから今回も乗り越えられるはず。そんな話。

    <熱帯夜>
    ・秋美と千花という二人のレズビアンカップルの話。
    ・暑い夏の日に、秋美が仕事から帰り、夕食をとり、それから近くのバーへビールを飲みに行く。それだけの話なのに、互いの関係を推測できる描写が散りばめられている。読み進めるほどの二人の関係性が肉付けされていく。
    ・秋美はなぜか不満げだ。秋美が不機嫌な理由は「私たちは行き止まりにいる」からだった。そんな風に、漠然とした不安を打ち明けるのは、とても難しい。
    ・悲しさを吐露する千花も、それを受け止めて包み込む秋美も、どちらも美しい。

  • 解説:光野桃、直木賞
    前進、もしくは前進のように思われるもの◆じゃこじゃこのビスケット◆熱帯夜◆煙草配りガール◆溝◆こまつま◆洋一も来られればよかったのにね◆住宅地◆どこでもない場所◆手◆号泣する準備はできていた(直木賞)◆そこなう

  • タイトルに惹かれた。美しい描写!!

  • 江國香織中毒

  • 2018年1月11日読了。
    2018年20冊目。

  • 平凡なように見える女のひとりひとりにも、人生があって家族があって背景がある。そんな話。

  • 自信のある、背筋がピッとした女性に読んでほしい。

  • なんだか、江國さんの本は、昔なら真正面から向き合えたはずなのに、なんだかストーリー性がないようにも思えるし、興味のないモノクロの写真を美術館でただ見せられてるような感じだった。
    そんで、あー、早くおわんないかな、この美術館って思ってるような。笑

    あと、不倫とか離婚とか、そーゆーのはもういいよ笑、って感じ。

    しばらく、ものがたりは、疲れたかも

  • 大人女子向けな短篇集で、未熟なオイラには早すぎたのかもしれません。 ―― https://bookmeter.com/reviews/66673353

  • 短編集!印象的な話もあればよくわかんない話もある(笑)個人的には最後の話がすごく切ないというか悲しいというか、、、信じてたものが実はそうじゃなかった、違うものだった、ってことに気づいてしまった時ってすごくつらい、、。

  • 寝る前にひとつずつ読み進めて、この前ようやく読み終えた。
    はじめ、私はこの本を長編小説だと思っていて、短編集なことにびっくりして、短編がかなり短い部類の短編なことにもびっくりした。

    この本を読み終わったとき(細かく言うと『そこなう』を読み終わったとき)、なにか判別のできない涙が溢れそうになってしまった。
    言葉にできない悲しさ、苦しさ、さびしさ、愛しさがつらいくらいに言葉で表されている本。自分の心がつらくねじ切れそうになったとき、この本がそばにいたら、わたしはきっと明日を迎えられるだろうなって思わせてくれる。

    好きな短編は『どこでもない場所』『号泣する準備はできていた』『そこなう』。

  • ひとりひとりに人生があって。
    この人といたら最強!みたいな気持ちがあるから結婚するんだろうけど、それが続かないこともあるし、この人といたら最強!ってひとといろんなことがあって一緒にいられなくなっても、やっぱりずっと忘れられないこともあるだろうし。
    ドラマや映画になる人は一握りだけど、全員にそれぞれの物語があるのは当たり前なんだよなあ。

  • ちょっと江國香織に食傷気味かもしれない。生活の表層、上澄みをすくったような短編集。ストーリーとしてのつながりはないし、そもそも一つの短編にも起承転結はない。人と生活の綾をポンポンと書きつなげた感じの話。しかしこれが東京的な物語なんだろう。人がなすあらゆる物語は土地とつながっているはずだが、東京的なものには土地がない。というのは偏見かもしれないが、地方とのコントラストとしてそのように見える。東京は土地がないのか、コンクリートなのか。ただそのように上澄みが揺蕩いながら、それぞれの塊とぶつかりすれ違い、それ自体が物語になっていく。それもまた東京的だろう。とにかく江國はしばらくちょっといいかもしれない。


    17.7.15

  • いろんな人たちが出てくる短編集でした。ひとつひとつの作品で設定が凝っていて、登場人物の肉付けもしっかりしているので、まるで長編小説の一場面を切り取ったみたいな鮮やかさがあった。砂糖にまぶしたような甘く綺麗な言葉の中に、時折ナイフの切っ先みたいに鋭い表現が混ざっていて、何度か噛みしめて読む文章もあり、江國さんの書く文章は素敵だと思う。反面、出てくる人物は共感も感情移入もしづらい人が多く、話の根底には孤独だとか、寂寥感があり、好きと思える話がなかった。

  • ・前進、もしくは前進のように思われるもの
    ・じゃこじゃこのビスケット
    ・熱帯夜
    ・煙草配りガール
    ・溝
    ・こまつま
    ・洋一も来られればよかったのにね
    ・住宅地
    ・どこでもない場所
    ・手
    ・号泣する準備はできていた
    ・そこなう
    以上、16編。
    色々な人物の人生の断片が描かれている短編集。

    情景描写・心情描写ともに淡々と描かれてるので、自分の記憶の中の景色を重ねられて、心情を追っていくうちに話が展開していきます。

    私は絶対にこの小説の語り手の人物達みたいな人生は送らないだろうな。今まで接してきて「合わない」と感じた人の人生ってこんな感じなのかな。とか思いました。
    私にとって現実味はないけど、この小説の中の人物が現実にいてもおかしくない、というか。
    私の感覚には合わない部分には、時々我にかえって心の中でツッコミ入れつつも、読みやすかったです。

    巻末に付いてる解説は、全然解釈が違ったな。読む人によって感覚が全然違うかも。

    「こまつま」が一番好きです。次に「熱帯夜」

  • 2017年4月9日に紹介されました!

  • 江國香織の小説は一体何なのだろうかと読みながら考えていた。彼女の物語はいつも心に沁みるが、それがうまく言葉で説明できそうにない。
    プロの写真のようだとも思った。カメラで見る被写体はそこにあるものをしっかり写し出し、それは普段見慣れているはずのものだけど、より感情的で洗練され素敵でいて悲しくて同感できる。自分の中にある何かの感情や記憶が浮かび上がり沈んでいく。いつもわたしは彼女の小説でそんな体験をする。
    好きな短編は、住宅地、どこでもない場所

  • みんな凍えそうなほどに「独り」だ。ぜんぜん、幸せじゃない。怖い。

    すごくいいにおいのする広い部屋にひとりでつったっているような気分になった。

  • 短編集
    登場人物の女性たちは、みな現状は満ち足りていない中で理想(それも本当の理想かどうかは疑問を持っている)を追い求めている
    とはいえ男性目線で共感するのは難しい...

  • 江國香織さんの世界観は私にはわからないようで、物語があることは理解できるのですが、言いたいことがさっぱり伝わってこず、なんだか申し訳ない気持ちになってしまいました。

  • 読み終わった。きっと喪失感のお話だった。喪失したことがないからなのかな。どうしようほんとうに理解ができない。読み解けそうでできない。意図がわからない。その一挙一動になんの意味を持たせたいのかあるいはそうでないのか不協和音よりも酷くわかることができない。
    文体とかストーリーがわたしの好みじゃなかったとしても、理解はできるし作者の意図したいことは読み解けるつもりだし、国語も現文も勉強しなくても点数よかったから並みにはできてるんだと思うけれど、うわぁ、社会が江國香織だらけだったらわたしアスペだわ、だって手持ちのカードじゃ理解できない。

  • 前進、もしくは前進のように思われるもの / じゃこじゃこのビスケット / 熱帯夜 * / 煙草配りガール / 溝 * / こまつま / 洋一も来られればよかったのにね / 住宅地 ** / どこでもない場所 / 手 ** / 号泣する準備はできていた / そこなう

  • そこなう

  • 短編の集まり。
    特に結がはっきりしている話の方が少ない感じ。
    色々な人の、日常や感情や、モヤモヤや、やるせない気持ちが書いてあるけど、全体的に淡白。
    感動ものかと思っていたら、全然そんなんじゃなかった。

  • 【237】

  • 江國香織さんの紡ぐ言葉の柔らかさ、繊細さがとてもすき。 こころにすっと入るのに、すっとは抜けず、しばらくこころのなかをふわふわと、まわるのは、なぜだろう。

  • 2006/06

  • 2011/4

  • 江國香織の小説! という感じ。
    日常のなかを描く、江國香織の描く女たちがここにはいる。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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