源氏物語九つの変奏 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339627

作品紹介・あらすじ

時を超えて読み継がれ、日本人の美意識に深く浸透した『源氏物語』。紫式部が綴って以来千年を経た「源氏物語千年紀」に際し、当代の人気作家九人が鍾愛の章を現代語に訳す谷崎潤一郎、円地文子らの現代語訳により、幾たびも命を吹き込まれてきた永遠の古典。その新たな魅力を九人九様の斬新な解釈と流麗な文体で捉えたアンソロジー。

感想・レビュー・書評

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  • 豪華絢爛。でした。
    読んでいて幸せでめまいがする。
    江國香織、角田光代、金原ひとみ…ほか九人が書く作家ごとの渾身の「源氏物語」。光源氏の、女性たちの、魅力的なこと、憎たらしいこと、生々しいこと、したたかで、かわいそうなこと。
    角田光代さんは意外なアレンジでしたが初期作品しか読んでいない自分としてはかなり癖を残してくれつつのエンターテイメントで大好きだ。女の子の純粋無垢の裏側。
    小池昌代さんの物語ははじめてでしたがすっかり虜になりました。女の心とからだは、やわくつよい、水、に似ている。そういう美しい描写。
    「川の水よ。わたくしをたちまちのうちに、分解して、骨までをも…どうぞ、微塵も残してくれるな。」
    悲しい最後。

    江國さんの夕顔は素晴らしく可愛らしかった。

    末摘花はみなさまが言われるように天才的な可笑しさ。いるいる…?、こういう……ぷっ。

  • 9人の現代作家が9帖の「源氏物語」に挑戦しましたが、残念ながら、原作のレベルに迫るものはなく、千年はおろか数十年先に残りそうなものすらありません。ただ、「柏木」は女三の宮の目線で描かれ興味を引きました。「源氏」に挑戦するのは女性側の目線というのは有効ですね。当時の女性は言葉少なですが、感受性は現代人を凌いでいそうですから。

  • 作家さんそれぞれの解釈、視点が面白かったです。忠実な現代語訳だったり、設定が現代に置き換わっていたり、でも根底はしっかり『源氏物語』で、私が読んだことがない作家さんの文の雰囲気も味わえて、得した気分です。
    角田光代さんの「若紫」と金原ひとみさんの「葵」はなまめかしくて、女性ならではのアプローチだと思いました。
    好きなのは、簡潔な文章の中にも儚げな情景が浮かび上がる江國香織さんの「夕顔」と女三宮視点で描かれた桐野夏生さんの「柏木」です。

  • 有名作家たちによる、源氏物語の九つの巻に基づく短編集。
    源氏千年紀の記念企画なのか、顔ぶれが豪華。
    読んだことのない作家さんのものもあるが、それぞれの書き手の個性を知ることができて楽しい。
    割と原作に忠実なものもあれば、現代人に置き換えた、自由な発想によるものもある。

    江国香織さんの「夕顔」。
    原作や、これまでに出た現代語訳で読んできた巻でもある。
    夕顔は「なよやか」な人、時にそれが「なよなよしている」と訳され、どこが魅力的なのかと思ってきた。
    本作を読むと、夕顔という女性の肉付けがなされている。
    少女のような語り口。
    臆病で人が苦しそうなのを見ると悲しくなってしまう。
    夜も怖いから嫌い。男性と接するのも本当は苦手で、楽しかった思い出だけを抱いて静かに暮らしていたいと願っている。
    なるほど、こういう感じなのか、とちょっと納得。

    玉鬘を主人公とする「蛍」、女三宮を語り手とする「柏木」は、どちらも光源氏の闇がよく見える。
    桐野夏生の「柏木」では、女三宮が語り手であることにより、彼女が聡明過ぎる印象になる。
    しかし、現代ではモラハラとなってしまうような、光源氏のパターナリズムが隠しようもなく炙りだされ、肌が泡立つ。
    そん所そこらのホラー小説など太刀打ちできない怖さだ。

    小池昌代の「浮舟」は幻想的な作品で、印象深い。
    現代の、家族を持たず、孤独に生きてきた初老の女性が、どういうわけか源氏を読むことにはまる。
    彼女の夢に出てくる浮く船舟。
    それは炎に包まれながら、浮舟の物語を伝える。
    二人の男性に望まれ、どちらも選ばない道を選んだ浮舟の物語を。
    この舟は何のメタファーなんだろう。
    いろいろなことを思わされる。

  • 町田康の末摘花がおもしろかった。
    あと女三の宮視点で書かれたものを読んだのが初めてで柏木が新鮮でした。

  • 源氏物語を題材とした9つの作品を集めたアンソロジー。
    ほぼ現代語訳というものもあれば、時代はそのままに面白おかしく喜劇に仕立てたもの、舞台を現代に置き換え内容も大胆にアレンジしたものなど様々。
    タイトルに惹かれて書店で手に取ったが、江國香織が参加しているのを見てそのままレジに持っていった。彼女の筆で描かれる源氏物語はどんなものなのだろうと興味を覚えたからだ。

    以前何処かで、源氏物語では光源氏は「主役」ではなく「狂言回し」だ、という意見を見かけたことがある。光源氏の恋の冒険譚ではあるが、本当の主役は彼ではなく恋の相手となる女性達だと。
    確かに光源氏とそれぞれの女性との間に描かれる恋模様の違いは、そのまま相手となる女性の個性の違いとも言え、そう考えると個々のお話の「主役」は相手の女性と言えるのかもしれない。

    その個性豊かな女性達の中で、私にとって何を考えているか分からなかったのは夕顔だ。
    少女のようにあどけなく、男性の庇護欲をそそるような可愛い女性。そういう人物なのは分かる。ただそれは彼女の振る舞いがそう描かれているからであって、その裏にある心についてはどうにも分からず、長年もどかしい思いを抱えていた。
    そんな中、収録作の「夕顔」では、状況をあるがままに受け入れ、理屈よりも感覚を重視して生きている女性として描かれている。臆病なのに、いや臆病だからこそ、自分が置かれた状況抵抗せず、いつの間にか馴染んでしまうのだろう。
    いかにも江國香織が得意とするタイプの人物で、彼女の作品を読みなれている身としてはすんなり読み進められた。個人的には、この作品で初めて夕顔がどういう女性なのか少し理解できたように思う。「マ・シェリ」とか「チューインガム」等の一部の言葉には苦笑してしまったが、相変わらず綺麗な文章だし、手にとってよかったと思う。

    他に印象に残ったのは桐野夏生「柏木」、小池昌代「浮舟」。

  • 源氏物語を9人の作家が描いたアンソロジー。

    ほんの気まぐれで購入したんだけどすごく面白かった!

    町田康さんの「末摘花」は腹筋引きつるぐらい笑った。

    興味深かったのは桐野夏生さんの「柏木」。

    キャラ的な扱いの多い源氏を(原典がそもそもキャラ小説っぽいんだけど)ものすごく人間臭く描いていて、主人公の葛藤や人生よりも描かれた背中やため息が印象強かったです。

  • 源氏物語をまた別の視点から見られるようで、単なる現代語訳で読むより理解が深まる感じもするし、おもしろかった。源氏物語ってやっぱりおもしろいんだなー。よかったのは、江國香織の夕顔(わりに地味にオーソドックスにまとまった感じだけれど、源氏が、ものごとのよい面をさがすのに長けている、っていうのがなんだかすごくツボ。そういう感じ)、町田康の末摘花(いやー、おかしかった、笑った! なんともすばらしい! 命婦の口調とか。命婦の人柄がよくわかったような)、金原ひとみの葵の上(マタニティブルーみたいな葵、頼りない光、がまさしくそんな感じ)、桐野夏生の女三宮(はじめて女三宮のことがわかったような気がした。年とって不満やいらつきが多くなった源氏、っていうのもすごくそんな感じ)。個人的に生理的に単なる好みでイヤだったのが、角田光代の紫の上。紫の上が熱い国の売春宿にいる子ども、っていうのが、なんか悲しくて憂鬱になった。まさにそのとおりかも、って思うんだけど、イメージが壊れるというか。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「単なる現代語訳で読むより」
      源氏物語は、随分前に谷崎訳とダイジェストの田辺聖子訳を読んだのですが、近々夢枕獏の「秘帖・源氏物語 翁 OKI...
      「単なる現代語訳で読むより」
      源氏物語は、随分前に谷崎訳とダイジェストの田辺聖子訳を読んだのですが、近々夢枕獏の「秘帖・源氏物語 翁 OKINA」を読みます。ウォーミングアップ?を兼ねてコレも読みます。
      2012/08/09
    • niwatokoさん
      「源氏物語」は訳す人や翻案する人によって少しずつ違う感じになるのもおもしろいですよね。
      「源氏物語」は訳す人や翻案する人によって少しずつ違う感じになるのもおもしろいですよね。
      2012/08/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「少しずつ違う感じになる」
      光源氏をどう思っているかで、全然違いますよね。
      「少しずつ違う感じになる」
      光源氏をどう思っているかで、全然違いますよね。
      2012/08/28
  • 作者により好みが分かれます。
    私は女三の宮の話が一番しっくりきたなぁ。
    主人公が源氏だから仕方ないけど。
    原作?では、可哀想な役割ですよね。
    昔読んだ瀬戸内寂聴さん作『女人源氏物語』の女三の宮も好きだなぁ。

  • 源氏物語を学生以来、もう一度読んでみようと購入。
    9人の有名作家さんがそれぞれ個性的な文体で現代人に分かりやすく
    物語を展開している。
    大好きな作家である、金原ひとみさんの作品もあり、どの題目を書かれているのかとワクワクしながら読み進めた。
    金原さんの『葵』、町田康さんの『末摘花』、桐野夏生さんの『柏木』、
    小池昌代さんの『浮舟』が特に印象的で読みやすく感動した。

    全体的に光源氏の美しさ、深い教養、女性に対する扱い、歌のセンス、物事に対する人より一歩達観した考え方などを1冊を通してたくさん味わう事が出来る。
    源氏の代が終わり、子孫の代の話になってもどこか薄っすらと必ず源氏の存在を感じれる部分があり、それを拾いながら物語をより深く自分なりに感じながら読む楽しさもあった。

    特に『柏木』では、女三の宮が源氏に対して嫌悪感や憎しみを抱く内容が印象的だった。殆どの女が源氏には従順、愛さずにはいられない、堪らない感じだった為、正妻というポジションに居ながら真逆の感情を持つのには驚きだった。そうなってしまった理由も、紫の上や源氏の周りの女に対する劣等感、なかなか上手く源氏と関係を築けない悩ましさ、若い自分に対して抑圧してきた若い男に対する好奇心などが重なり合った結果なのだが、私も所々同感してしまう部分があり、感情移入してしまった。唯一の逃げ道だと思い、通じた柏木の気持ちが自分の肩書き目当てだった事、面白味も何もなく思い込みで夢中になってしまったと絶望する場面は哀しさと虚しさでどうしようもない気持ちになった。最終的には柏木との不義の子を授かってしまう。皇女という高貴な身分に恵まれた故の辛さ、変えられない宿命に翻弄された人生…架空の人であるが、生まれ変わったならば思い切り自分の人生を謳歌し、幸せになって欲しいと願わずにはいられなかった。

    またまだ源氏物語の一部にすぎないので、全部の巻を時間を見つけて読み直してみたい。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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