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Amazon.co.jp ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784101340616
作品紹介・あらすじ
戦争に負けて、外交に勝った歴史がある――。敗戦後、吉田茂は口癖のようにそう語った。そして、戦後歴代2位の在任期間を誇る稀代の指導者となった。欧州や中国に赴いた外交官時代。米国との開戦阻止に動いた戦前。サンフランシスコ講和条約、バカヤロー解散……と、信念を押し通した首相時代。官僚、政治家、父親。全ての吉田茂に最も近くで接した娘が語る「ワンマン宰相」の素顔。
感想・レビュー・書評
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■はじめに
大学1回生の後期試験直前に読み始めた『小説吉田学校』〈戸川猪佐武著〉があまりに面白くて、試験勉強ほっぽり出して貪り読んでしまい、試験は惨憺たるものだったけど、55年体制だの、保守本流だの、党人政治家…といった政治用語と戦後日本の政治史・政党史の概観をおおよそ理解できた。
以降、政治家の人物評伝やオーラルヒストリーも多く読み、その日本の保守政治の源流に佇むのが吉田茂。後世、吉田茂に薫陶を受けた政治家を吉田学校出身と言われるようになり、その多くは派閥の領袖に。やがて『三角大福中』と呼ばれた5大派閥が日本の政治を動かし、首相の座をめぐってパワーゲームが展開された。まぁ、当時は中選挙区制。ひとつの選挙区に、自民党公認候補が複数名いる時代。ゆえに、与党内の主流派・反主流派のつばぜりあいが演じられ、それこそ反主流派から首相が出ることは〈擬似政権交代〉であった。現在の与党vs野党とは比べるまでもない激しさと役者揃いだった。自民党も左から右まで、さながらイデオロギーのダイバーシティ状態で、見ている分には面白かった。
■本書について
政治家 吉田茂の表の貌(かお)ではなく、家族に見せる素顔を、娘の和子さんがユーモラスに楽観的に、でも抑えるべき、重大な政治の意思決定の裏側での葛藤や緊張感はきちんと押さえられたドキュメント風なエッセイ。
ちなみに、ちなみに著者は吉田茂の三女で、孫にあたるのが元総理・麻生太郎。愛称は“ボルサリーノ”だとか、知らんけど…
■内容
①『家族というフィルターで見た吉田茂』
著者の筆は父・吉田茂をまったく『美化』するどころか、むしろ毒舌と笑いを交えて、〈わがままで、頑固で、時に冷淡〉な父の素顔を赤裸々に描く。読み進めるほどに、その『愛すべき変人』ぶりが政治家としての器に結び付いたのかも…と読み取れる。
②『政治家 吉田茂のもうひとつの姿』
重要な政治決定の裏側―サンフランシスコ講和条約や安保条約の話題が、ふとした家庭の会話から差し込まれ、『家庭回顧録を超えた重み』がある。
そこから浮かび上がるのは…
・政敵に対して見せる冷徹な計算
・GHQとの間合いを図る老獪な知性
・昭和天皇との会見に滲み出る国家観と忠誠心
そこに、さりげなく登場するのは『家庭人 吉田茂』と『国家人 吉田茂』。この同居する点が数多の政治家論とは一線を画す。
③『文学としても味わい深い』
著書の文章は、時に小説的でもあり、時に落語のようで、『政治家の家族の記録』を超えた、ひとりのユーモア溢れる女性が巨人 吉田茂という『父』を、あたかも掌で転がしながら見上げているような、不思議な距離感が本書を生み、今なお読み継がれているんだと思う。
■感想
吉田茂を描いた正攻法の伝記や、『小説吉田学校』のような切った貼ったの権力闘争劇ではなく、戦後政治史の裏面というかB面を、娘・和子さんの愛嬌と皮肉の効いた筆致で、愉しく読み了えた。
吉田茂が亡くなって58年。空から日本の現政治をどう見てるんだろう〜。
トランプ関税に対して『舐められてたまるかー』と叫んだ石破茂。方や吉田茂は、政府統計を元に『餓死者が出るから食糧輸入を!』とマッカーサーに迫った。『日本の数字はずさんだ』と責められ、こう返した。『戦前にわが国の統計が完備していたならば、あんな無謀な戦争はやらなかったろうし、もし完備していたら、勝っていたかもしれない』と、マッカーサーと互角に渡り合った吉田茂。
同じ茂でも、気概に溢れ、人間の出来というより厚みが違う…とつくづく思えた一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
麻生太郎さんの後書きも面白く。
政治はムツカシクて抵抗があるが、それを動かしている中の人が居ると思うと面白い。 -
実の娘が書いただけに、魅力たっぷり。更には語り口が上手く、非常に読ませる内容、中身も随分正直で、まるでモンゴメリの赤毛のアンでも読まされているかのような奔放さがそのままに描かれる。イギリスで酔っ払って鉄塔に登り、警官に聴取されて中国人と嘯いたり、娘より芸者の方が父と付き合うには楽しい、など書いてみたり。吉田茂だけではなく、麻生家の魅力が滲み出る一冊。
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品のある文章で綴られる吉田茂伝。講和条約とバカヤロー解散くらいしか知らなかった吉田茂の人となりが伝わる。
当時としては相当に拓けた政治家だったと感心する。
娘である著者も、当時の日本人女性像からは相当に外れている。外国で育ち、自分をしっかり持っている。よくこんな方が、九州は飯塚に嫁いで嫁稼業をやっていたものだ。文句も愚痴もほとんど書かれてはないけれど、大変なストレスだったろう。
「芝居がかっていて、なにかキザっぽい様子がどうにも好きになれない」とマッカーサーを評して父に窘められたり、サンフランシスコ講和条約にサインをした万年筆を記念にほしがったりとエピソードも並外れている。
祖父の家で二・二六事件に巻きこまれるところなどは、まさに現代史の当事者。
たしかに娘にしか書けないエッセイで、大変面白く読んだ。 -
娘の麻生和子さんの献身と努力
孫の麻生太郎さんの後書きはなかなか面白かった -
★4.3(4.03)2012年9月(初版1993年12月)発行。吉田茂元首相の娘による父の人柄を書き記した記録。これまで名前でしか知らなかったが、麻生元首相の岳父である吉田茂について麻生元首相の母が書いた書。吉田茂の岳父が牧野伸顕、そして牧野伸顕は大久保利通の次男。つまり麻生氏の曾祖父が大久保利通。なんと凄い家系だったんですね。吉田茂はもともとは外交官だったことから、娘の著者は今でいう帰国子女。子供の頃海外で暮らすとともに、当時の庶民からみたら信じられないような日々を親しみやすい文章で書き記されています。
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吉田茂の娘にして私設秘書、ファーストレディとして活躍した著者の語る戦後史。「単独講和か全面講和か」ではアメリカ側から日本語でスピーチするようオファーがあったように書かれて入るが、「白州次郎 占領を背負った男」では白州次郎らが変更させたと書かれていた。認識の違いだろうか。白州次郎の名前が出て来なくて残念。巻末に著者の長男、麻生太郎氏のエッセーも収録。
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エッセイのようで面白かった。
家族が見た吉田茂。
何より和子さんが明るくて麻生元総理にソックリ。
性格も似ているんだと思う。
二.二六で襲撃されて祖父を庇い。
明るくてイギリス式ジョークを飛ばし
好ましい人である。 -
大変良い物を読ませてもらいました。
吉田茂は漢なんだろうなぁと、強く感じました。
孫の太郎さんの後書きも、好きです。 -
吉田茂の娘として、幼少から海外を転々として暮らした和子は、麻生に嫁いでからも総理大臣となった吉田を助けてサンフランシスコ講和条約の時は、外交の舞台にともにあった。
最も近くで人間臭い吉田を知る家族にしか書けない、圧倒的なリアリティで、あの先の見えない困難な時代に吉田が一人の人間としてどのような精神的コンディションにあったのかが蘇ってくる。
しかし、牧野の孫として2.26の現場に居合わせたり、ロンドンブリッジに酔っぱらって登ったり、進駐軍が一杯の時代にジープを尻からげで乗り回したりという武勇談も、ひたすら面白い。
また、英語アタマの人の特色なのか、明快で清澄な文スタイルが心地よい。 -
巻末の麻生さんの手記にグッときました…。
゜+.゜(´っω・。`)゜+.゜ -
大久保利通のひ孫、吉田茂の娘、麻生太郎の母である著者による吉田茂に関するエッセイ集。
最初は単なる外交官だった吉田氏が、外務大臣から総理大臣になり、GHQとやり取りしながら、憲法制定、サンフランシスコ講和条約に至るまでを、娘の視点で描いている。娘といっても、早く妻を亡くした吉田氏の身の回りのことから海外随行まで、妻代わりの役割を果たしていた著者は、色々な場面での吉田氏のふるまいを覚えている。どうも、政治家向きの気質ではなかったようだが、時代の要請で政治家になったということか。
佐藤栄作や池田勇人を育てたのは、その時期の人を良く見ていた証だろう。最後の麻生太郎によるあとがきもなかなかいい。 -
2012年9月10購入
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